Seelen wanderung~とある転生者~   作:xurons

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翡翠の街

 

 

 

 

センスとは、個人が持つ生まれながらの才能の事だ。そして人間は、必ず短所と長所があり、間を取り持つのが才能。

これは人が生まれた時点から持ち合わせているものであり、例え醜い程の短所があろうと、めげずに根拠良く磨けば強く光る事も強い長所なのだ。

そして天才と秀才との違いは、誰しもが併せ持つ一長一短の差を‘‘センス’’か‘‘努力’’で埋める事の違いにある。

私はまだ、自分にとっての‘‘光るもの’’は見つけられてはいないし、そこまで深く真剣に考えた事も無かった。だから、

 

「ふっ!はっ!」

 

午後の5時を回り、薄暗くなり始めた数十m上空で彼が…サスケ君が、数時間前に初ログインした初心者とは思えない動きで随意飛行(肩甲骨の感覚での飛行方)をしている事は、私にとって天才以外の何者でもない。

そうでなければ、知り合いの様にコントローラーを使っての飛行から練習をする筈であって、

 

「はぁ…「どうした?」わっ⁉︎び、びっくりさせないでよ!」

 

「理不尽な奴だな…」

 

仮にも羽の使い方に慣れている私が、いきなり隣に音も無く降り立つ彼にびっくりする事は仕方ない。そう仕方ない事。

決して彼がリアルの知り合いに似ているとか、そんな筈は無い筈。

 

「(気のせい気のせい…)で、もう飛行は慣れた?」

 

「まぁな。お前の言い方が良かったんだ」

 

「そ、そんなこと無いよ」

 

只、MMO歴がそこまで長くない私でも、彼が私を超える経験を積んだ実力の持ち者である事は分かる。

そして今力を十分に引き出せていないのは、単にまだ始めたてでALOに慣れていないからなのか、それともまだ力を隠している未知数さからなのか…底を読ませないその飄々としたその態度からして、恐らく後者だろう。

 

「さて、ここから街は近いか?」

 

「え?ま、まぁ…でもどうして?」

 

話は変わるが、今私と彼がいるのはシルフ領の街《スイルベーン》の南西に位置する草原で、見渡す限り360度広大に緑が広がる大地。

そしてここは同時にシルフが所有するの領地の一角であり、同族及び知り合いにシルフの者がいれば安全な地帯と言えるし、何よりMobの出現が無いこの地は、他種族で謎の多い彼の実力を測る措置にはこれ以上無い場所と思えたから。

 

「知り合いがいる筈なんだ。今日ログインしたばかりのな」

 

「へぇ…リアルでの知り合いなの?」

 

「あぁ。種族までは解らないが…可能性として考えられるのがシルフだからな」

 

が、彼が言った言葉を聞き、それは改めて正解だったと思え、同時に不安がまた一つ募る。

それは‘‘彼の身の安全’’。スイルベーンはシルフ領…文字通りシルフ族の長を名乗るプレイヤーが統括する地帯であり、同じ事はどの領にも言える。

が、もう一つ、各領地には‘‘他種族に領名を冠する種族を攻撃する事は出来ない’’という絶対ルールが存在する。

つまり、今私と彼がシルフ領へ入ったとしても、他種族である彼はひょっとすると街の人々に攻撃されるが可能性がシステム上付き纏ってしまう。

そうなれば私は兎も角、彼や彼の知り合いも危険になるかもしれない。その知り合いが彼の予想通りシルフならば話は変わるけれど。

 

「そういう訳だ。お前はどうする?」

 

「私は…」

 

けど、それ以上に…何か面白くない。普段自分にべったりな同級生を相手にしている所為なのか、彼の言葉の節々に『興味が無い』という意志がはっきり伝わってくる。

別に寂しがり屋でも構ってちゃんでも無いのに、何故か素直に言葉が出せなくて、この湧き上がる‘‘ナニカ’’を抑え、只首を縦に振る事しか出来ない。

 

「行くぞ、リーファ」

 

「う、うん」

 

ふわり。と羽を生やし、彼と私は飛翔する。リアルでは本来あり得ない動きだからか、顔を叩き左右へ吹き抜けていく風は心地良く新鮮で、肌に深く浸透する。

‘‘ゲームなんだから所詮偽物’’。そう少し前までは思っていた。だから兄と疎遠になってしまったのだと気づけたし、SAO被害者となった兄を『どれだけ返して』と叫んだかも、涙を流したかも、今となっては無くしたくない記憶の一つ。

兄が、兄の親友が、心友がそこまで興味を抱いた世界とは一体何なんだろう?ポツリと落ちた疑問の雨は、やがて次々に私の心を潤していき、気づけば私も立派にゲーマーになっていた。お兄ちゃんが大好きだった世界が、偽物だと疑わず毛嫌いしていた世界が、振り返れば好奇心の尽きない夢の場所になっていたんだ。

 

「…ふふっ」

 

「…どうした?」

 

「あ、うぅん…ちょっと懐かしい事思い出してね」

 

「…そうか」

 

だから、何処までも飛んでいこう。だって、空はこんなにも青く晴れ渡っているんだから。

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

シルフ領の首都《スイルベーン》。ALOの中心たる中枢地区《アルン》から南西に位置し、風情のある高層建築物が乱立するこの街には、9つの妖精の中でも一際長く尖った耳と翡翠色の瞳が特徴シルフ族こと風妖精が中心に支配している美しい街。

戦いに煩い傾向があり、敵対関係にある火妖精【サラマンダー】と、基本平和主義に交友関係を築き仲が良い猫妖精【ケットシー】の領地に左右から挟まれている為か、街の内部にはシルフを8の割合に1:1といった感じに両種族のプレイヤーを見かけ、比較的穏便な雰囲気の街構図が出来上がっている…のだが。

 

「……」

 

(うぅ…すっごい見られてる…)

 

そうでないのが約一名。それが今リーファの隣を歩く【インプ】の少年…サスケである。

数分前…飛行練習を切り上げこの街に到着した二人は、彼の言う友人を探しにやって来たのだが…何にしても淡い緑光の街で紫と黒の暗色系で締めた彼は色合い的に浮きまくり、言わずもがな他プレイヤーからの視線が痛い。

が、それに気づいているのか無視しているのか、サスケは無言で知らない筈の街をどんどん先に先に歩いて行くので、

 

「ま、待ってよ!」

 

元々ある男女の歩行ペースの差から置いて行かれるのは最早必然で、一応声をかける度に止まってはくれる。が、

 

「あぁ…悪い」

 

視線だけ振り向き、悪気無しのこの一言を発するのみで、特に会話を交わそうとしないまま再び歩き出す。先程からこれの繰り返しだ。

 

(はぁ…何か上手くいかないなぁ)

 

そんな素毛無い彼の態度に、リーファはすっかり飲まれて強く言う事が出来ず、内心溜息をまた一つ吐く。彼といると、何処か強く言えない自分がいて、それを自覚している自分もいるのが解ってしまうから。

まるで小学生時代、一つ上の兄と兄の親友に頼ってばかりで甘んじていた時の様な…ついつい頼ってしまう感覚。すると、

 

「お・兄・ちゃ〜ん!」

 

「ぐはっ⁈」

 

「さ、サスケ君⁉︎」

 

いきなり彼の背後から黒い物体…元いプレイヤーがアクセル全開で突っ込んで来て、不意を突かれた彼は受け止められずそのまま前のめりに吹っ飛び、覆い被さる形になった。

 

「もーうっ!探したよ〜♪」

 

「や、やめろ美弥!どけ!」

 

「む〜!だから美弥じゃな「…マヤ?」ひぃっ⁉︎」

 

「…何で彼を押し倒してるのかな?」

 

「ち、違うよ⁉︎ほ、ほらお兄ちゃん!」

 

「…お前の所為だろうが」

 

で、サスケ君をお兄ちゃん呼びする女の子がデレるわ、それに黒い笑みを浮かべる見た感じ歳上の女性が登場するわで最早しっちゃかめっちゃか。無論入り込む隙も無い。

けど本気でやり合っている訳じゃなくて、深く知り合った仲って事が良く分かるじゃれ合い。

その内彼にべったりくっ付く黒髪の少女はマヤといい、

 

「あ、あの〜…サスケ君?その人達は…」

 

「やっぱり気になる〜?じゃ「黙れ」ふむぐぐ⁉︎」

 

「コイツらは俺の知り合いだ。で、待ってたのは…」

 

「あ、初めまして。レイナっていいます」

 

隣に立つ白髪の女性はレイナというらしい。どちらもタイプは違うが凄まじい洋風美人で、しかも随分と動きが手慣れている。彼も含め、この一行は何とも謎が多いとリーファは思った。

 

「は、はいリーファっていいます。その…失礼ですがレイナさん」

 

「なんですか?」

 

「その…ふ、二人は…」

 

が、一つ確信もある。彼もそうだが、歳は17〜18辺りで、アバターとはいえ三人が年齢を偽る様には見えない。

恐らくリアルと同じか、もしくは少し手を加えた程度の容姿なのだろう。

アバターの容姿がランダムに決まるALOにおいて、彼等の様なタイプはかなり珍しい。それに、これ程精度の高い再現度から見て、もしかして彼等はあのゲームから…

 

「あ、あの!「悪い、リーファ」っえ?」

 

「俺はそろそろ戻る。リアルで用事があるんでな」

 

が、それを聞こうとしたのをさり気なく遮られ、

 

「後は任せた。レイナ」

 

「うん」

 

「え…あ、ちょっ!」

 

声をかけた時には、彼はログアウトの光に包まれ消えた後だった。

無論、この後マヤさんが色々諸々駄々を捏ね、それをレイナさんが無言の圧力で静めた事は言うまてもない。

 

 


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