Seelen wanderung~とある転生者~ 作:xurons
あとキャラ紹介にシュルトを追加し、文を加えておきました。
第二の人生へ
…朝が来た。
何の変哲も無く昇って日差しを受け、グッと伸びをし早々にベッドから降りる。これが俺の…この世界で迎える最期の朝となるのをヒシヒシと感じながら。
今…俺達の家にはとある男がいる。黒スーツに身を包み、血管が見えそうな位白い肌から尖った耳や額からツノを生やした超絶不思議な男が。だが、俺は奴の事を知っている。いや、知らない筈は無かった。
「おや、随分と遅いGood morningだね。」
「煩いな…」
奴の名はシュルト。昨日、俺と有宮を空島へ飛ばし、‘‘世界を諦める代わりに、新たな世界へ連れて行く’’…というぶっ飛んだ提案をして来た最高最強にぶっ飛んだ変人。
因みに初めて姿を見たのはホログラムでだったので細かい姿は解らなかったが、まずかなり背が高い。今はソファに腰掛けているが、それでも間違い無く日本人よりは高い身長であるあたり、恐らくヨーロッパ系の人間なのだろう。そうでなくとも蒼眼で淀みの無い英語を喋るのだから、外国人に間違いはない筈だ。
そして前記した通り耳が鋭く尖っており、額からは鬼の様な鋭く上を向いた二本角が黒髪から顔を覗かせている。
まぁ簡素に言えば、‘‘悪魔の様な姿をした長身の男’’というのが俺が奴に抱いた第一印象だ。歳は不詳感は否めないが、恐らく30〜40代だろう。
「あ、零君!おはよう!」
「お兄ちゃん遅いよ〜!」
「あぁ、悪いな。」
「フフ…」
そして、そんな奴からニヤニヤと笑みをぶつけられたが、面倒なのでスルーしてテーブルの椅子に腰掛ける。
その間にも有宮と美弥はそれぞれ朝飯のひたパンと焼きパンを頬張っており、俺もイチゴジャムが塗られたパンを手に取りサクッと齧る。
「いや〜しかし…君達には驚かされたよ。まさか知らされた翌日には意志が固まってるとはね。」
「そりゃお前に強制されたようなもんだからな。」
「フフ…それもそうだね。」
大袈裟な仕草。妙に粘ついて聞こえる言葉。その一つ一つが、コイツに‘‘普通’’という言葉は存在しない事を明確に表している。
この余裕綽々とした態度も然り、本当に人間なのだろうか?違うなら違うで納得は出来るが。
「まぁそれはいい…本当に俺達を飛ばすんだろうな?」
「もちろんだとも。僕は仮にも紳士なのでね、約束は守るよ」
「…その紳士に俺達は散々な目に遭わされたけどな。」
「フフ…そうだね。アレは少し強引だったよ」
そう全く反省の色無く返って来た言葉に、俺は内心で警戒心を強める。
今はこうして一緒にいるが、別に気を許した訳じゃない。奴が手紙で伝えてきた言葉を未だに馬鹿馬鹿しいと思う俺がいるし、何よりコイツから信じられる要素が感じられないから。
だが、シュルトはそんな俺の内心を読んだ様にクスクス笑い、
「フフッ、そう警戒しないでよ。僕は君らみたいな純粋な青少年・青少女には優しいんだよ?」
「…それは私達が決める事よ。貴方に言われる筋合いは無いわ。」
「おやおや…随分と嫌われたものだねぇ…」
相手を確実に逆撫でする態度で語るシュルト。俺と美弥は顔を顰めるに留まった––それでも美弥は結構イラっとした様子だが––が、有宮は明らかに嫌悪の色を示している。やはり、まだ昨日の出来事が心にあるのだろう。
しかし、同時にこのヘラヘラ野郎がそんな事を気にする筈も無い訳で。
「まぁ良いさ。君らが僕を嫌おうとも、別段興味は無いしね。それより…そろそろ本題に入ろうか。」
「…あぁ。」
「「…(コクッ)」」
そしてそんなヘラヘラ野郎による最悪で最強にふざけた話の幕が今、切って落とされた。奴はすっくと立ち上がると、何も無い空中に突如ウィンドウ(MMORPGゲームにおいてステータスなどを表記するアレ)を出現させた。
そこには広大な空に浮かぶ巨城が映し出され、その内部と思われる雄大な自然風景が写っている。
「君達がこれから飛んで貰う世界は…ソードアート・オンラインと呼ばれる巨大な浮遊城を舞台とした世界だ。」
「ソードアート・オンライン…?剣を使うゲームか何かか?」
「お、鋭いね。そう、このソードアート・オンライン…通称:SAOと呼ばれる世界は、千を超える数の武器一つで戦うRPGゲームだ。」
時は2022年。
人類は遂に…完全なる仮想空間を実現した。
ヘルメット型のゲーム機:ナーヴギアを被り、現実世界から意識を切り離して仮想空間へ旅立ち、己の五感を駆使して自分自身でアバターを動かして戦う…というゲーマーにとっては夢の様なゲーム。
そんなSAOは当然、RPG系に心酔したコアゲーマーはもちろん、好奇心で惹かれた者など、述べ1万人がナーヴギアとソフトを手にし、あっという間にソフトは完売した。
そして日付は10月31日。1万人の内特別当選者––βテスターと呼ぶ––1000人によるβテストを踏まえたSAOは、遂に正式サービス開始したという。
…だが、それは同時に、長い長い悪夢の始まりだった。ログインした1万人のプレイヤーの誰一人として、ログアウトが…現実世界に戻る事が出来ない。そして…
「…SAOを創り上げた制作ディレクターであり、GMでもある茅場 晶彦は宣言した。『プレイヤーによる自発ログアウトは不可能であり、もしもルールを破れば…ナーヴギアが君達の脳を焼き切って殺す』…ってね。」
「なっ…こ、殺す⁉︎」
「…そんな…たかがゲームでしょ?な、何でそんな事…」
「その辺は君達が身を持って知れば良いよ。SAOが…ソードアート・オンラインがどんな世界なのかをね。」
そう長々と恐ろしい全貌を語ったシュルトだが、その表情は依然不敵な笑みを崩さずにいた。その姿は人の命を何とも思わない殺人鬼にも、正反対に善良な仏の様にも見えた。だが、それは一瞬の内に真剣そのものの表情に変わる。
「…さて、もう一度だけ聞くよ。君達は…本当に‘‘第二の生’’を受けたいかい?」
第二の生。
それはもう一度、文字通り最初から新たな人生を初めるという意味。当然、それは生命を冒涜する行為だし、誰しもが一度は夢みるであろう‘‘来世’’への片道切符。
その選択肢が今、俺達の眼前にぶら下がっている。決して届く事は叶わない鼻先の人参などではなく、右か左か。その道どちらかを選び進むに等しく決まる。
その意を低い声で俺達に求めたシュルトも、これは決して遊びなどではない。そう理解している筈だ。
現在(いま)を捨て、未来(さき)を選ぶ覚悟があるかどうかの心の底からの選択を。
…本当に長く、永遠にも思える時を…ほんの僅かな数秒の沈黙の後、俺は…俺達は、はっきりと告げた。
「…あぁ。もう、この世界に未練は無い。」
「…私も、もう迷わない。SAOの世界に行く事をね。」
「ちょっと不安だけど…もう大丈夫。私もSAOに行く!」
全員が全員、はっきりとYesの意を示した。現世を捨て、次の来世に進む覚悟を…命をかけたデスゲームへの片道切符を握る事を、今。
対し、シュルトはその黄色の眼を閉じ…再び数秒前の不敵な笑みを浮かべた。
「…OK。今から君達を、SAO…ソードアート・オンラインの世界へ飛ばすよ。あ、容姿・名前はそのまま引き継ぐけど、文句はあるかい?」
「いや、それが良い。」
「うん。来世とはいえ、一生に一度の名前だもん。」
奏魔 零。
今までは何も感じなかった…それこそ只の‘‘俺’’という人格を表す文字の欄列としか考えた事はなかったが、やはり俺自身、気に入っているんだなと嫌でも自覚する。
すると、美弥が あ!と突然叫び、
「住んでる場所は?まさかこの場所のままとか…?」
「いや、君達兄妹は埼玉県の南部…そこに住む、桐ヶ谷家という一家の隣に住む住人という設定だよ。名前はそのまま奏魔。有宮君は、奏魔家の向かいに住む有宮家の娘だ。」
「なるほどな。じゃあそろそろ…」
「あぁ。…あ、その前に、君達にはある‘‘キーワード’’を教えておこう。」
「「「キーワード…?」」」
そう疑問符を浮かべる俺達に、シュルトが教えたのは……言うならば、魔法の呪文の様であり、絶望への引き返せない一方通行の言葉。が、今は敢えて伏せておこう。
そしてシュルトは俺達から一歩後退すると、人差し指をぴんと立て、
「uno…dos…tres!」
ウノ・ドス・トレス。スペイン語で123を意味する言葉を、滑らかな奴の口が吐き出した瞬間、ザッ!というライトが点灯した時の様な音を立てながら足元に黒と白の魔法陣が出現した。まぁ今更慌てふためくような驚きは無いが。
「いよいよだな…!」
「うぅ…緊張してきたなぁ…!」
「大丈夫。頑張ろう、零君!美弥!」
「あぁ!」「うん!」
「それでは君達に、時の加護があらん事を…Au・revoir!」
また会いましょう。そう意味するフランス語を最後に…俺と有宮、美弥の姿は光となってこの世から永久に消滅した。
「フフ…楽しみにしているよ零君。君があの世界でどんな日々を過ごすのかをね…」
そして、誰もいなくなった家の中で一人…シュルトのクスクスとした笑い声だけが反響していた……