あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活   作:関税破産お嬢様

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中年と仇

映画公開初日なのに満員とは言えない映画館。

そのスクリーンに映るのは、雨のふりしきる一本の裏路地。

その場所から、この映画『似通う刃』の物語は始まった。

うらぶれた見た目の、擦り切れたミリタリージャケットを着た中年女。

傘もささずに路地の中央に仁王立ちで立つその女は、通りがかった六人連れの女たちに声をかける。

髪を金に染めたチャラそうな雰囲気の女と、それを囲むように立つ派手な女五人に語りかけるその言葉は、中国語だった。

 

『あんた、チャンさんかい?』

『あ? お前誰だ?』

 

中年女はその問いかけには答えず、ずぶ濡れのジャケットのポケットから取り出した写真を金髪の女の顔と見比べる。

 

『あんた、チャンさんだ』

『だったらどうだってんだよ』

『こいつおかしいんじゃねぇのか?』

 

六人のうちの一人が、さしていたビニール傘で中年女を小突いた。

それを見た仲間の女が、笑いながら前蹴りを出す。

 

ボギッ!

 

その脚に真上から掌底が入ると共に、骨の折れる音が響く。

カメラが引くと、ぼうっと立っていたはずの中年女は腰を低く下ろし、腹の前で両拳を向かい合わせていた。

 

『何しやがる!』

 

そう叫んだ六人連れの一人の胸に踏み込んだ中年女の肘が入り、そのまま破壊的な音と共に裏拳が顔面を襲う。

彼女は崩れ落ちる相手を気にも留めず、まるで獲物に飛びかかる四足獣のような鋭い踏み込みで次の女へ向かい、中段突きを放つ。

 

『うわっ!』

『うわあああああっ!』

 

一撃でくの字に折れて吹っ飛んだ仲間に、残りの三人は恐れをなして逃げようとする。

 

『チャンさん、逃げちゃだめだよ』

 

中年女の背中越しに、逃げる三人を映していた画面はそこで暗転。

次のシーンでは降りしきる雨の中に横たわる、チャンと呼ばれていた女の撲殺死体だけが写っていた。

 

 

 

場面が転換すると、大写しのテレビニュースにチャンの顔写真が映る。

 

【新世代IT企業の一角を担っていたサウザンドインテグレーション社。そのCEOであるユェ・チャン氏が昨晩死亡しているところを発見されました。死因は強い衝撃を受けた事による脳挫傷と見られ、当局は他殺の疑いが強いと見て捜査を……】

 

暗い部屋の中、そのニュースを見ていた眼鏡の女が吸っていたタバコの火を消した。

その向かいには、ミリタリージャケットの中年女が座っている。

 

『イーさん、よくやってくれた。あんたもここのところ仕事詰めで疲れたろう。うちの親戚が日本にいるんだ、しばらくそっちに行って休んでてくれ』

 

上役らしき女のその言葉に、中年女はにこりともせず頷いた。

 

 

 

次に映ったのは空港。

中国の空港ではなく、成田空港だ。

手荷物の一つも持たずに、中年女は空港のスクリーンのニュースを見ていた。

 

【……シュエ・イー容疑者を連続殺人犯として国際指名手配】

 

そんな言葉と共に映されていたのは中年女の顔だ。

 

『用済みって事か』

 

中国語でそう言って、中年女は上役から貰った住所のメモを破り、ゴミ箱へと捨てる。

そしてそのまま堂々と空港を出て、町へと消えた。

 

 

 

中年女は株式市場操作のためのヒットマンとして扱われ、所属していた組織に使い捨てにされたのだ。

彼女は同門の仲間を頼るべくチャイナタウンへと身を潜め、警視庁は日本に入国したこの凶悪殺人犯を追うため、日中共同で捜査を進める事にした。

そのためにインターポールから派遣されてきた中国人が俺、もといヤンという男だった。

 

「あなた、カガヤ ミキさん……ですか?」

「そう、ですが。あなたは?」

「僕はインターポールの、ヤンです」

 

いかにも主役っぽい感じだが、実際は沢山登場する人物の中の一人。

登場シーンと車の中での情報整理シーンが終われば、場面はすぐに別人の視点に移る。

 

 

 

チャイナタウンの中にある武道場。

そこに中年女(シュエ)は立っていた。

 

『スーミンさん、いますか?』

 

中国語でそう訪ねた彼女の周りを、武道家の女たちが囲んだ。

その中心にいる壮年の女の隣には、白ギャルが立っている。

 

『どういう関わりだ?』

『同郷で同門、です』

()さんはずいぶん前に破門になった』

『……連絡先、知ってますか?』

 

剣呑な雰囲気の女たちに囲まれても全く動じる様子のない中年女(シュエ)は、町中で道でも聞くような態度でそう尋ねた。

 

 

 

殺人犯の中年女(シュエ)が、犯罪組織の首魁となっていたスーミン率いる紅真会(こうしんかい)に合流する間にも警察は調査の手を進め、はぐれ刑事であるヤンとミキも動く。

その間に、中年女(シュエ)が訪ねた道場の面々も、彼女が連続殺人犯として手配されている事に気づいていく。

人々の思惑が錯綜する中、中年女(シュエ)は日本での最初の仕事に手をつける。

 

『あんた、獅堂組かい?』

「なんだこのおばさん?」

 

深夜、紅真会(こうしんかい)の敵対組織であるヤクザの組に単身顔を出した中年女(シュエ)

彼女はミリタリージャケットのポケットからバッジを取り出し、応対に出てきた下っ端の襟元へと寄せる。

そこには、手にしたものと同じバッジが光っていた。

 

『あんた、獅堂組だ』

「そのバッジうちのか? どこで拾っ……」

 

ドガッ!!

 

その音の元は、天井に突き刺さった下っ端の頭だ。

彼女の身体は突然跳ね上がり、その頭があった場所には何かを打ち上げるように突き出された中年女(シュエ)の肘があった。

 

「なんだ!」

「どうした!?」

 

大きな音を立てたからか、中年女(シュエ)が事務所の中に入っていくと、奥からどんどん人がやって来る。

そしてその全てが、一撃の元に吹き飛ばされていく。

長ドスを折り、銃撃を避け、全てを拳でねじ伏せていく。

映画的に表現されるその腕前は、まさに達人と言えた。

その芸術的なまでの暴力は動くものがいなくなるまで振るわれ続け……

やがて静かになった事務所の裏の窓から、中年女(シュエ)はまるで忍者のように隣家の屋根へと飛び移り、闇の中へと消えていったのだった。

 

 

 

その翌々日『ヤクザの事務所が襲撃され、中にいたものは皆殺し』というセンセーショナルなニュースが未だ街を席巻する中……

カラフルなチャイナタウンの一角に留められた幾台かのバイクの近くには、悲壮な顔をした若者たちが座り込んでいた。

普通の日本の若者と同じ服装をした彼女たちは、チャイナタウンに住む華僑の子女たちだ。

泣き腫らしたのか、目を真っ赤にした彼女らは俯きながら、全員が日本語で話す。

 

「ユンのお通夜、十九時からだってさ」

「ユン、なんでだよ……」

「ユンが死んでるとこ見つけたチョウの婆さんがさ、顔は綺麗なのに胸がべっこり凹んでたって言ってた。獅堂組のヤクザの何人かも同じ死に方してたらしいよ」

 

そう、彼女らの仲間のユンという少女を殺したのも、中年女(シュエ)だった。

ラフな格好をしてコンビニの袋を持った少女が、屋根から降りてきた中年女(シュエ)と鉢合わせをして胸を打たれる映像が流れる。

 

「やっぱり、獅堂組を襲った奴にやられたのかな?」

「……あたし姉貴から聞いたんだけど、獅堂組をやったのは紅真会(こうしんかい)じゃないかって。一昨日姉貴のいる道場に、日本に入ってきた中国(あっち)の殺し屋が来て、紅真会(こうしんかい)について尋ねられたらしいよ。同郷で同門なんだってさ」

「じゃあ道場の連中とも同門じゃないか」

「うん、だから道場の人たちも、その殺し屋っていうのを探してるみたい。犯罪に走る同門は放っておけないってさ」

 

そんな会話の中、一人の女が立ち上がった。

長髪の、丸く大きな目をした女だ。

 

「ユンも、その殺し屋に殺されたのかな?」

「それは……ね、メイラン? 何考えてんの?」

「……なら、私、やらなきゃ」

「え?」

「妹の仇、取らなきゃ」

 

そう言ってバイクに跨がろうとする女を、立ち上がった他の子女たちが慌てて止める。

 

「待てって! その殺し屋ってのはほんとに殺人マシーンみたいな女なんだぞ? 中国でも何十人も殺してるんだ!」

「うちのおばさんが棒術の達人なのは知ってるでしょ! 私もユンも、子どもの頃から習ってたんだから」

「そのユンがやられてるんでしょうが! だいたいそいつが犯人かどうかもわかんないんだぞ!」

「間違ってたって、どうせ悪者でしょ! ……あんたたちには関係ない、あたし一人で行くから!」

「待て待て待て! 正面から行って勝てるわけないだろ!」

「そうだよ! やるにしたって個別にやらないと!」

 

ズルズルと、その場の全員がユンの姉だというメイランに引きずられるようについていく。

 

「わかった! わかったよ! 手伝うから止まれ! 今のままじゃ無駄死にだ!」

「じゃあどうしろってのよ!」

「証拠! 証拠を集めるんだよ! そんで警察に渡す! 何も危ない事ばっかりが復讐ってわけじゃないだろ? お前まで死んだら婆さんとおばさんはどうするんだよ!!」

 

ショートカットの女が縋りつくようにしてそう言うと、メイランはちょっと困ったような顔をした。

 

「情報ならさ、商店街に監視カメラあるんじゃない? リンリンのいとこ、商工会の役員じゃん、見せてもらえるんじゃない?」

「カ、カメラっていえばさぁ! あの大豪邸の金さんも、壁に監視カメラつけてたよな? 何か写ってるかもしれないぞ」

「何でもいいからかき集めろ! 見慣れない奴が映ってりゃそいつが犯人候補だ!」

 

こうして、幼馴染を殺された彼女たちも……

紅真会(こうしんかい)に殺されたユンの姉のメイランを軸に、中年女(シュエ)を追っていく事になる。

 

 

そしてその夜、(ヤン)とミキは聞き込みのために道場を訪れていた。

ヤクザたちの死体を見たヤンは、すぐにその死因から容疑者を中年女(シュエ)に絞った。

そして他に伝手を持たぬ彼女は必ず、現地の同門であるこの道場に接触しただろうと推測したのだ。

だが中年女(シュエ)の事を尋ねた我々に、壮年の師範は無表情で首を横に振ったのだった。

 

「知りません。そんな人は見た事もない」

「本当ですか? 日本には犯人蔵匿(ぞうとく)っていう罪があって、犯罪者を隠したりすると……」

 

キツい態度でそう問い詰めようとするミキの肩を、ヤンがポンポンと叩いた。

ヤンの方を睨みつけるミキに微笑んで、俺が前に出た。

 

「犯人、天涯孤独です。武術以外に人と繋がりありません。見知らぬ土地に一人、同門を頼るのは自然な事です」

「たとえ同門とあれど、当館では犯罪者を匿うような事はしません」

「そうですか、何か思い出した事があれば……」

 

ヤンは全身のポケットから色々と物を取り出して、ようやくズボンの右ポケットから自分の名刺を探し出した。

そしてそれを差し出そうとしたところで……あっという顔をしてミキに目配せをする。

その様子を見てため息をついたミキが、スッと胸ポケットから取り出した自分の名刺を師範に渡す。

彼女は無表情のままそれを受け取り、視線を向けようともしなかった。

 

「何かわかればぜひ、こちらへ連絡を」

 

するともしないとも言わない、腹の底が知れない師範に見送られ俺達は道場を後にした。

そうして何の成果もなく車へ戻る途中で……(ヤン)とミキの前に、青竜刀を持った女が現れるのだった。

 

 

 

 

 

まとめブログ

 

 

なんでも実況B

 

カンフー映画って最近土ロー(どようロードショー)でやらなくなったよね

 

 

1:雨降れど名無し ID:UL4SSPuY+

松若映画株式会社は四日、東山電影有限公司とタッグを組み制作した日中合作映画『似通う刃』の予告編をuTubeにて配信開始した。製作総指揮には数々のカンフーアクション映画で采配を振るってきた金田(かねだ)(ファン)監督を起用。キャストはドラマ『狐狼ズZERO』にも出演し、モデルとしても活躍中の金田狂夢(くるめ)。『ディスタンス~遠い厠~』でアカデミー助演女優賞を獲得した(ワン)艾青(アイチン)が迫力の……

 

5:雨降れど名無し ID:imH9IWZBh

めちゃくちゃ面白そう! と思ったら全国で上映館二十館しかありませんわ!!

 

9:雨降れど名無し ID:A3N5SPvga

今更カンフー映画なんて誰も見ませんわ

 

11:雨降れど名無し ID:tu1uZ4XUJ

鉄山靠? っていうのかな、あれの打ち合いで負けた方が吹っ飛ぶシーンめっちゃ迫力あっていいな

 

17:雨降れど名無し ID:hwhhA9sxI

>>11 お得意のワイヤーアクションですわよ

 

25:雨降れど名無し ID:X3rlKEmiK

予告めっちゃアツいですわね! バチバチに殴り合ってて最高ですわ! 謎の殿方が車の後ろに捕まってサーフィンやるシーンとかめちゃくちゃ劇場で見たいですわ!

 

32:雨降れど名無し ID:/45eHjzIP

>>25 どうせこの手の映画は予告だけが見どころなんですわよ

 

40:雨降れど名無し ID:gCEz2/cza

ところでこの殿方はどなた? 中国の有名な役者さんかしら?

 

48:雨降れど名無し ID:h00NbZaqd

>>40 行徳ニキの映画の予告に出てた気がする

 

52:雨降れど名無し ID:gCEz2/cza

>>48 ありがとう、アクションが得意な方なんですのね

 

56:雨降れど名無し ID:yCurEGa2+

つまんなさそうな映画

 

57:雨降れど名無し ID:bnzt9IYho

カンフー映画ってこう、お婆さま方のノスタルジーを延々見せられてる感じがしますわ

 

61:雨降れど名無し ID:DpF0cAMB+

なんかめっちゃ拳法上手くない? 結構こういうの好きで月刊伝説とかずーっと購読してたり、それこそ昔はビデオとか買って見てたりしてたんだけど、なんか二人ぐらい別格で上手い奴いる気がする

 

67:雨降れど名無し ID:UM8wjkjAu

>>61 ウブな方ですわね。上手く見せるのが映画でしてよ

 

74:雨降れど名無し ID:DpF0cAMB+

>>67 いやそういうレベルじゃないっていうか……とりあえず有給取って深夜バス乗って映画見てくるわ、これは凄い映画かもしれない

 

80:雨降れど名無し ID:RFqP6t9iQ

狂夢(くるめ)ーっ!! 私ですわーっ!! 結婚してくださいましーっ!!

 

84:雨降れど名無し ID:VgwjgAJha

今の金田狂夢が出てる事にだけ価値がある映画かもな。完全に伝説になるだろあの女

 

92:雨降れど名無し ID:UMU5syyl/

か、唐揚げくん……中国人だったのか……

 

 

 

 

引用元://OBAch.bb/

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