あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活   作:関税破産お嬢様

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包囲と暴走

戦いが終わり、倒れた白ギャルへ「ありがとう」と礼を言ったヤンに、武道家の一人がスマートフォンを手渡す。

手渡してくれた女性にも礼を言い、急に始まったシリアスな戦いに慄いた顔のミキのアップを映して画面が変わった。

 

次に映ったのは警視庁。

伊藤率いるシュエ・イー対策部は、緊急ブリーフィングを行っていた。

その傍らには、ノートパソコンを操作する華僑の子女の姿もある。

 

加賀屋(ミキ)組が紹介してくれた協力者により、シュエ・イーの車にGPSを仕掛ける事ができた。この情報はシュエ・イーの乗る車のもので間違いがない! その点についてはすでにオービス(カメラ)を利用し、確認が取れている」

 

そう説明する伊藤の後ろにはスクリーンがあり、そこに表示されたマップの中では矢印がゆっくりと動いていた。

 

「これより我らは検問を張ってこの車を止め、総力を上げて犯人を確保する! 相手は銃を持った暴力団を一人で壊滅させられる人間だ、いざとなれば発砲を躊躇するな! 冬眠明けの熊のようなものだと思え!」

 

その場にいる全員は、固唾を飲んでその言葉を聞いている。

 

「総員、装備を整えて出発せよ! 今晩必ず奴を捕まえるぞ!!」

 

伊藤の言葉と共に総員立ち上がり、装備ロッカーにて防弾ヘルメットや特殊な防具、防護盾(ライオットシールド)などを装備する映像が流れる。

(ランヤード)のついた短いオートマチック拳銃にも弾が込められ、スライドを引いてチャンバーチェックが行われた。

フル装備の署員たちが続々とワゴン車に乗り込んでいく中、視点は白いイギリス車の中に移る。

空がオレンジに染まりかける中、ミキの運転する車は高速道路をひた走っていた。

 

「はい、はいっ! 羽田空港に近づいたところを確保ですね! わかりました、合流します!」

「……羽田空港、違うと思います。多分横浜ですね」

「横浜?」

「はい、たぶん。飛行機でなく、船で逃げますね」

 

地図の表示されたスマートフォンの画面を見ながら、ヤンはのんびりとそう返す。

画面に東京から横浜あたりの地図が表示され、三つの点が光る。

一つは東京と横浜の間の川崎にいるシュエ・イーの車、一つは高速道路を走るミキの車、一つはシュエ・イーの車を止めて捕まえる予定の羽田空港近くの地点だ。

 

「何か警戒してるのか、色んなところ行ったり来たりしてますけど……ゆっくり横浜の方近づいてると思ってました」

「でも船で逃げる気なら、川崎からでもいいんじゃないですか?」

「たぶん、横浜。中国人多いから、悪い伝手も多いはずです」

「それって、中国人が言う事かしら?」

「中国人だから、ですよ。中国人多い、いい人も悪い人も多いです」

 

西日で真っ赤に染まる車内、二人の視線が一瞬触れ合った。

二人はどちらからともなく笑い合い、一気に朗らかな雰囲気が画面を包んだ。

 

「ミキさん、おまんじゅう食べます? 晩ごはん食べてる時間、なさそうだから」

「……そうですね」

 

そう言って、ヤンが車の後部座席にあったビニール袋から大判焼きのパックを取り出すと、ミキはそれを片手で取って食べた。

 

「ヤンさん、いつも甘いもの食べてますね」

「僕お酒が駄目なので、甘いもの大好きです。日本のおまんじゅう、美味しいものいっぱいですね」

 

言いながら、ヤンも笑顔で大判焼きを口に入れた。

 

「とにかく、さっさと対策部のみんなと合流しましょう! いくらヤンさんが達人だからって、一人で犯罪者と戦う必要はないんですから」

「……達人違う、ただの警察です」

 

そんなヤンの否定の言葉をかき消すように……

ミキの踏んだアクセルで、エンジンの回る音が響いた。

 

 

 

本部で指揮を執る伊藤、指示を受けながら地図上のシュエ・イーの車を緩やかに包囲していく隊員たち。

その車に並んで、ミキの白いイギリス車も走っていた。

誰かの拳銃がコッキングされるカットと共に、場面は切り替わる。

夜の道路を走るシュエ・イーの車。

その車内を道路の電灯が照らすたび、無表情な彼女の顔と散乱したペットボトルや弁当のガラが映る。

彼女は急ぐ様子でもなく、あくまで安全に車を走らせていく。

その傍らにあるダッフルバッグの中には、昼間にはなかった……鈍く光る銀色のものが入っていた。

 

「チッ……」

 

彼女は舌打ちと共にブレーキを踏んだ。

先の方で道路が渋滞しはじめたのだ。

トロトロと動いていた車がやがてゆっくりと止まり、アイドリングの音だけが響く。

その瞬間、両脇のワゴン車の扉が開いた。

そこから飛び出してきたフル装備の警察を見た途端、彼女は思い切りアクセルを踏む。

しかし、前の車は逆にバックをしてきて車に激突する。

 

「確保ーっ!!」

 

そして前の車からも警官が降りてくる。

いつの間にか、彼女は周りを警察車両に囲まれていたのだ。

 

「動くな!」

 

運転席のドアから拳銃を突き付け、警官の一人はそう叫ぶ。

だが、そんな彼女の頭を、横から何かが襲った。

 

バシャン!

 

とフロントガラスを割って、ドアの外の警官を襲ったのは銀色の棒。

長さ五十センチほどのパイプを継ぎ手とワイヤーで繋いで作られたそれは、手製の三節棍だった。

 

パン!

 

乾いた発砲音が響く寸前に、彼女はギアをバックに入れて席に沈み込んでいた。

猛然とバックした車は後ろにいた警察車両に当たって止まるが、その運転席にシュエ・イーはいなかった。

彼女はすでに割れたフロントガラスから車外へと脱出し、防護盾(ライオットシールド)を構えた警官のヘルメットを三節棍で砕いていたのだ。

警官も銃で応戦するが、シュエ・イーはその弾丸を三節棍で弾くという絶技を見せる。

そして防護盾を避けるように回り込んでくる三節棍に、十人はいたはずの警察官全てが何もできないまま叩きのめされ地に伏せた。

そしてそのまま警察官が落とした拳銃を拾おうとしたシュエ・イーの頭を、鋭い蹴りが襲う。

 

「フッ!」

 

当たる寸前にそれを躱した彼女は、蹴りの飛んできた方向に三節棍を構える。

そこには、ジャケットを脱ぎ捨ててカンフー服になったヤンが立っていた。

いつもの笑みを消した憂いを帯びた顔で、ヤンが開いた左手に右手をつける抱拳礼をすると、シュエ・イーも抱拳礼を返す。

 

『あんた、同門か?』

 

彼女の問いに、ヤンは構えで答えた。

 

『あんた、同門だ』

 

懐かしいものでも見るかのように微笑んでそう言いながら、彼女は三節棍を振るう。

鉄の棒が三本繋がっただけのそれは、まるで生き物のようにヤンを襲う。

だが、ヤンは飛んでくるそれの側面を足の裏で跳ね上げて躱す。

 

『若いな』

 

そんな言葉と共にドン! と震脚が鳴り、武器を手放して踏み込んだ彼女の拳がヤンに迫る。

だがヤンはそれを崩し、肘を打つ……が同じように受けられる。

脚で蹴れば腹に突きが返り、拳で突けば極めて投げようとする。

まるで演武のように、互いの手を確認するかのような攻防が数回続き、シュエ・イーは驚いたような顔で尋ねた。

 

『お前、師は?』

『……ユン・イー』

『どうりで……不肖の妹の弟子か。……ならば遠慮はいらんな』

 

ドン!

 

笑みを浮かべたシュエ・イーの弾けるような震脚と共に、さっきまでの技が小手調べだったとでも言うかのような鋭さの肘が飛ぶ。

 

ドン!!

 

……だが、後から鳴った震脚と共に放たれたヤンの肘が、先に彼女の胸に入っていた。

 

『馬鹿……な……』

『我が師の苦悩、ここに晴らす』

 

苦悶の表情でヨロヨロと後ずさった彼女の身体に、ヤンの背中が密着する。

 

ドン!!!

 

ひときわ大きいその震脚が鳴った時、シュエ・イーはまるで車に撥ね飛ばされたかのように吹っ飛んでいた。

真横に吹き飛ばされた彼女は自らの運転してきた車のボンネットにより打ち上げられ、更に数メートル先に腹ばいに落ち……動かなくなった。

ヤンの足元のアスファルトはひび割れていて、彼が脚を上げると、ポロポロと破片がこぼれた。

そんな彼の元に、色褪せたジャケットを持ったミキがやって来る。

 

「ヤンさん!」

「…………ミキさん」

 

先ほどまでの真剣な表情が嘘だったかのように、ヤンにいつもの笑顔が戻る。

 

「救急車、必要です……いち、に……あー、いっぱい?」

 

ヤンが周りに倒れている警察官を指差して数えながらそう言い、次に吹っ飛んでいったシュエ・イーを指さそうとした時、彼の表情が驚愕に染まった。

同時に、スキール音が鳴る。

渋滞で止まっていたスポーツカーが猛然と走り出し、ヤンたちの方に向かってきたのだ。

そしてその運転席には、血まみれのシュエ・イーが乗っていたのだった。

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