あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活   作:関税破産お嬢様

2 / 75
レッスンと初仕事

コネ入社とはいえ、本当に最低限の実力もないのでは話にならない。

というわけで俺は毎日放課後に八代芸能本社へと通い、ほぼ同期となる中高生アイドルたちに混じって基礎レッスンを受け始めた。

 

「今日から入る透です、アイドルじゃなくて役者志望だけど基礎レッスンは一緒だから」

「よろしくお願いします、八代透です!」

 

ムキムキの女性トレーナーに紹介された俺がそう言って頭を下げると、女子中高生たちは怪訝な顔でこちらを見る。

その中の一番背の高い女の子が、おずおずと手を上げた。

 

「あのぉ、八代って……」

「会長の孫です」

「え……コネって事……?」

「コネです! 真面目にやるんでよろしく!」

 

絶句する女子高生たちに、俺はそう明るく挨拶をした。

男という社会の異物でいる事に慣れきっているから、もう今更コネ程度は隠すべき事とも思えない。

レッスン場には白けたムードが漂うが、俺は気にもとめずにレッスンに潜り込んだのだった。

 

「透、レッスン場の後ろのスピーカー音割れてるのなんとかなんない?」

「お、言っとくわ」

「透ー、コネで自販機のジュースタダにしてくれー」

「あれは業者が置いてるやつだから無理」

「じゃあジュース奢ってくれー」

「サーダがちゃんとレッスン頑張ったらいいよ」

「いつも頑張ってんだろーが」

 

レッスンに参加してから一週間もすれば、俺はほどほどに女子中高生に溶け込めていた。

最初こそある事ない事言われたものだが、俺がいれば会社との話がスムーズに進む事がわかれば話は変わる。

コネがあるならあるで、ちゃんとそういう立ち回りをすればいいのだ。

 

「透が来てからレッスン場の壁にでっかいモニターもついたし、やりやすくなったわ」

 

レッスン生のまとめ役的な存在のナミがそう言いながら汗を拭う。

大昔に作られてから設備が更新されていなかった研修生用のレッスン場は、俺が来てから急速に現代化され始めていた。

全員分なかったパイプ椅子はきちんと補充され、テープとCDしか使えなかった備え付けのコンポはスマホから直接流せる無線式に、DVDプレイヤーが繋がれた振り付け確認用のブラウン管は壁掛けのデカい液晶に。

まぁ俺が言わないでもこんぐらい更新しろよって感じだが、何の利益も生んでいない研修生用の施設だから金が出なかったんだろうな。

 

「透くん、ちょっと練習付き合って」

「あ、いいよ」

 

あと、俺がこうしてさっさと溶け込めたのは、普通の男よりも背が高い七瀬という少女がいたのも大きいかもしれない。

ブラウン色の長い髪をポニーテールにまとめた彼女の身長はなんと190cm、爆裂高身長の超モデル体型だ。

八代は古い会社だから、カリキュラムにはクラシックなダンスも含まれている。

二人一組のダンス科目で、他の子とは上手く練習できない彼女の相手役としての役割が、俺を邪魔な異物から役に立つ置物に昇格してくれたのだ。

 

「ごめんね、サーちゃんが」

「何が?」

「ジュースとかねだっちゃって」

「別にいいよ。俺はほら、大学生だしな」

 

サーちゃんこと澤田、訛ってサーダはショートカットのボーイッシュ女で、七瀬の幼馴染らしい。

なんだかいつでもダウナーで遠慮なくたかってくるサーダと七瀬は高校も一緒らしく、いつも一緒に来て一緒に帰っている。

多分二人は恋人なんだろう、馬に蹴られないようにしないとな。

 

 

 

そんなレッスン場に通い始めてから一ヶ月。

俺より先に来ている少女たちに未だ仕事が決まらない中……

俺は叔母が口を利いてくれたのか、一番最初に仕事が決まった。

 

「あめんぼあかいなあいうえお」

「あめんぼあかいなあいうえお」

「はい透、口で言うだけじゃなくちゃんと響かせる」

 

ちょうど八代のレッスン室で滑舌トレーニングをしていたところに、研修生全体の面倒を見てくれている明石という女がドアを開けて入ってきた。

キャリア志向バリバリっぽいまとめ髪にバッチリメイクの彼女は、聞いた所によると超高学歴らしい。

なんでもニセモノと名高い我が母校東京東京(ダブルとうきょう)大学ではなく、本物の東大を出ているんだとか。

そんな彼女は入ってきたドアを内側からノックして、そちらに視線を向けたトレーナーの先生に対し半ペラの書類の入ったクリアファイルをピラピラと振った。

 

「誰宛?」

 

先生にそう尋ねられると、タイトなスカートスーツに身を包んだ明石さんはちょいちょいと指で俺をさす。

ここにいるのはまだ世の中に何の露出もしていない、芸能事務所に所属しているだけの素人だ。

そんな状況で仕事が来るというのは、滅多にない事だった。

 

「えっ! 俺ですか?」

「ええっ!? 透くんもうお仕事決まったの!?」

「そっ、飯ドラマのエキストラの話。どう?」

「出ます出ます! いや悪いねアイドルの卵諸君! 一足お先!」

 

まぁ実際はその仕事の後もここに通う事になるんだろうが、女子中高生たちは俺の事を本気で羨ましがった。

周りから肩や腹を軽く殴られまくるのを「わりっ! わりっ! わりっ!」と片手チョップで詫びる。

 

「えーっ! いいなぁ!」

「ずっこいぞ透ー、コネ使っちゃってさぁ」

「コネも頭も使いようだろ?」

「ボンボンがよぉ!」

 

なんだかんだと一ヶ月も一緒にいれば結構仲良くなれるもので、みんなの反応も気安いものだ。

しかしそう考えると、中高で六年一緒だったのに一ミリも打ち解けなかった同級生たちはどんだけ俺の事が嫌いだったんだろうか……

 

「ま、ま、次は俺がお前らのコネになれるようにさぁ、大成功祈っててくれよな!」

「でっかい仕事くれー」

「言ってくれんじゃん! 頑張ってよ!」

「はいはいそこまで、別に透もデビューだけど卒業ってわけじゃないぞ。まだ基礎の『き』も終わってないんだからな」

「わかってますって」

 

だいたいの女の子は口ではズルいと言いながらも祝福ムードだが、中にはほんとに怒ってるやつもいそうだな……

まぁそもそもの話、俺は女性アイドルとは競合しないから、そこは許してほしいかな。

 

 

 

というわけで講義とレッスンを休み、始発でやってきた撮影現場。

最近にわかに人気が出てきたらしい、中年女が一人で孤独に飯を食うグルメ漫画原作ドラマの現場だ。

エキストラだから当然だが、俺は今日一日のチョイ役、台詞もないし気楽なもんだった。

 

「シーン8、アクション!」

 

監督の号令と共に、背の高い熟年女優の手によってロケ地である飯屋のドアが開かれる。

 

「はいっ! いらっしゃい! お好きな席にどうぞ」

 

店主がそう言って、主役が会釈して椅子に座る。

そこでこの店名物のデカい唐揚げを食っている俺の顔がズームするってわけだ。

この後「ほーっ、男の人も来るような店なのか」という内心の独白が入って、俺の役割は終わり。

のはずだったが……

 

「今の外の車、入った?」

「入っちゃいました……」

「はいもっかい!」

 

車通りの多い通りにある店だからか、運が悪い事にカメラを回してからマフラーを改造した車の音や救急車の音なんかが入りまくったり、急に窓の外が曇って光の加減が変わったりと、誰のせいでもないリテイクが続いた。

当然そのたびに俺は唐揚げを食べるわけで……

テイク八が終わった今、すでに二皿目の唐揚げがなくなっていた。

 

「すいません、唐揚げ追加です。まだお腹大丈夫そうですか?」

「大丈夫ですよ、唐揚げ大好きです」

 

スタッフさんは心配そうな顔でこっちを見ているが、俺は健康な十八歳の男だ。

人生で一番いくらでも食える時期というのもあって、このリテイクも全然苦にならない。

結局ちょっと長引いた出番の後、出ていた昼のお弁当もしっかり頂く。

そこにたまたま通りかかった監督に「めちゃくちゃ食うな君」と驚かれてしまった。

まぁ、女の人からしたらそう見えるんだろうけど、男ならこれぐらい普通だろう。

 

「それじゃあお先に失礼します」

「お疲れ様です」

 

朝六時から拘束だが、結局実働二時間で飯付き七千円の仕事だった。

行きも帰りも一人で電車だが、逆にそれぐらいの方が気楽でいい。

特に誰からも初演技の感想を言われる事もなかったが、ボツになる事もなかったようだ。

 

 

 

後日、夜中にやっていた番組を見たら、ちゃんと俺が映されていた。

うーん、なんだかカメラ越しの動く自分っていうのは違和感があるなぁ……

そんな事を考えていたら、スマートフォンが鳴る。

相手はレッスン仲間の七瀬だった。

 

『透くん、ちゃんと映ってたね。唐揚げ美味しそうでよかったよ』

「え、ありがとう」

『そんだけ。じゃ、おやすみ~』

 

なんとわざわざ視聴して、そのまま電話して感想をくれたらしい。

なんだか嬉しいような、面映ゆいような。

兎にも角にも、人から評価される事によって俺はようやく最初の仕事に手応えを感じられたのだった。

俺も七瀬のテレビ出演があれば、必ず同じように感想を伝えないとな。

 

 

 

 

 

 

まとめブログ

 

孤独なる飯シーズン2実況スレ

大食い男登場

 

665:名無しさん視聴中 ID:AlGbE6mCT

松原(ゆかり)ってこのドラマで一気にハネたよな

 

666:名無しさん視聴中 ID:WUZexuO8x

おばさんが飯食うだけで面白いのは発明だわ

 

667:名無しさん視聴中 ID:OYcqSrHxI

原作が名作だからな

 

670:名無しさん視聴中 ID:Z1rsLfHIN

なんか原作の九杉さんがラジオで言ってたけど、この回ワンシーンでリテイク出すぎてエグい量の飯食わされた役者いるんだってな

 

674:名無しさん視聴中 ID:9ixavnfDf

拳ぐらいある唐揚げ十個食ってその後弁当食って帰った男役者の話か

 

677:名無しさん視聴中 ID:tzz3Bgmem

草、パワーありすぎだろ

 

678:名無しさん視聴中 ID:SN6bFtTjg

男ってそんな食べるんだ

 

680:名無しさん視聴中 ID:c7gClPcym

うちが学生の頃の同級生男子はヒョロヒョロだったけどな

 

682:名無しさん視聴中 ID:ta+3Xeo4D

始まった

 

706:名無しさん視聴中 ID:82CpVYK8E

腹が、鳴った

 

706:名無しさん視聴中 ID:82CpVYK8E

腹が鳴った

 

708:名無しさん視聴中 ID:nBw+Sw1py

腹が、鳴った

 

709:名無しさん視聴中 ID:4SMqqrPcZ

腹が、鳴った……

 

712:名無しさん視聴中 ID:3AcUTZaTn

イタリアンでもない

 

716:名無しさん視聴中 ID:rD4eIcyb1

寿司は前回食ったしな

 

718:名無しさん視聴中 ID:xJXWigF5b

中華か

 

719:名無しさん視聴中 ID:s1FD4lqgQ

この店入ったことあるわ

 

720:名無しさん視聴中 ID:ko6NcYEap

雰囲気ある

 

721:名無しさん視聴中 ID:IuUjFN2Mq

食いログ評価ええやん

 

723:名無しさん視聴中 ID:PQCiS9Khb

唐揚げこれか

 

724:名無しさん視聴中 ID:Eb6I20q0x

でけえ

 

728:名無しさん視聴中 ID:2SQDG1CG/

唐揚げがデカすぎる

 

729:名無しさん視聴中 ID:qYqrF1aXx

デッ!!

 

731:名無しさん視聴中 ID:blBSgRQoM

これ九個食わせるのはパワハラだろ

 

733:名無しさん視聴中 ID:/Bx8cPCLy

これ誰?

 

735:名無しさん視聴中 ID:O/rIievMw

エキストラだろ

 

737:名無しさん視聴中 ID:HZugpG3pA

このあと弁当食ったってマ?

 

739:名無しさん視聴中 ID:W9MXmkj/K

結構可愛い顔してたわ

 

743:名無しさん視聴中 ID:N85DbYedv

着席

 

745:名無しさん視聴中 ID:EgPnFI2AO

安定のカウンター

 

 

 

引用元://OBAch.bb/

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。