あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活   作:関税破産お嬢様

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主人公が怒られたりするのが苦手な方はこのお話だけちょっと飛ばしてもいいかもしれませんわ


会長と不調

映画の大成功によって、俺は褒められた。

「世間で絶賛の嵐が」とか「友達から感想メッセージが」とかそういうレベルじゃなく、シンプルに会社の一番上からだ。

 

「透、ようやってくれたね」

「あざっす」

 

八代芸能の入っているビルの上層階の一室。

開けた窓から陽の光がさんさんと入ってくるその部屋には、デスクが一つしかない。

その高級木材の一枚板のデスクに座った女こそ、俺の一番上の上司。

うちの婆ちゃんにして八代芸能会長である、八代桜(やしろさくら)その人だった。

 

「やっぱり、お父さんの血かねぇ……ええ男っぷりやった」

「あざっす、あざーっす!」

 

婆ちゃんは俺に甘くて子供の頃から何でも褒めてくれたけど、こうして仕事の世界で褒められるのは格別の思いがあった。

ちなみに彼女の言っているお父さんというのは、役者と監督をやっていたうちの爺さんの事だ。

俺の親は母ちゃんと母ちゃんだからな。

 

牡丹(ぼたん)鹿子(ろくこ)さんにはあんまり甘やかしたらいかんて言われてるけど……」

 

婆ちゃんはうちの母たちの名前を上げてから、机から身を乗り出して小声で続けた。

 

「なんか()うたろか? 映画のギャラやと何も買われへんやろ」

「え? マジ? じゃあ今度車買うからさ……」

 

まぁ、映画のギャラってのは本当に結構安い。

具体的には俺は百万円貰っていないぐらいだ。

主演として呼ばれれば三百万円とか貰えるらしいが、俺は百万ないぐらいのところから会社が取って税金が引かれて……って感じで、華やかさに比べて安定とは程遠いのが役者の世界だった。

 

「車な、ええ、ええ。()うたる()うたる」

「いや車は自分で買うからさ……会社の駐車場使わせてくんない?」

「駐車場な、ええよええよ」

 

東京の駐車料金は高い、いや高すぎる。

今俺が住んでる大学近くのアパートは駐車場付きだからいいが、会社に出てくるたびに車を駐めていたらとんでもない事になるだろう。

そりゃあどこでも車が借りられるカーシェアが流行るわけだと思う。

 

「お父さんもそらぁ車が好きでな、毎年どころか三月に一回は乗り換えとったぐらいや」

「へぇ~っ」

 

婆ちゃんは爺ちゃんが大好きなので、思えば子供の頃から爺ちゃんの話ばかりされていた。

その影響があったのかどうかはわからないが、実際俺は今こうして役者をやっているわけで……

刷り込みというのも、あんまり馬鹿にできないのかもしれないな。

ともかく、婆ちゃんに褒められたついでに駐車場も貸してもらえる事になった俺は、ウキウキで社長室を出たのだった。

 

 

 

一番トップに褒められるという事は、その下にも褒められるという事。

俺は専務である叔母にも褒められていた。

 

「透、かっこよかったよ」

「ありがとう!」

 

芸能と一言に言っても、色々と部門があるわけで。

叔母の(あおい)さんはその演者(アクター)部門、つまり役者やアイドルグループの類の長だった。

他にはインターネットタレント、芸人、バンドや歌手などが部門として独立しており、うちの会社は結構なデカさを誇っているのだ。

 

「もう聞いてると思うけど、うちも出資してもう一本透で映画やらないかって話も本決まりになりそうだから、そっちも頑張ってね」

「ありがとう! 頑張ります」

 

しれっとそんな話を進めてくれている叔母はマジで敏腕で、まだまだ若い今からもう社長候補と目されているとかいないとか。

ちなみにうちの母二人は八代芸能とは関係のない会社にいて、そっちはそっちで社長と副社長をやっている。

こう見えて実は俺も社長令息なのだ。

まぁ、会社を継げる立場ってわけじゃないけどね。

 

「とにかく怪我だけはないように。透がNGなしって言って頑張るのはいいけど、ほんとに嫌な事は嫌って言っていいからね」

「あざっす!」

 

というわけで、叔母から褒められたついでに将来の大仕事の話も頂いた俺は、ウキウキで専務室を出たのだった。

 

 

 

部門の長に褒められるという事は、直属の上司にも褒められるという事……

といきたかったのだが、現実はそう甘くなかった。

俺は彼女から振られた仕事先で、関係者からの失望を買いまくっていたからだ。

 

「ダメダメダメ! 全然ダメ!」

「すいませーん!!」

 

六月、一月に撮った「似通う刃」がありえない爆速で公開され、大評判を取ってから一ヶ月後。

この月はまさに俺にとって飛躍の月……になるはずだった。

だというのに、俺はこの月に呼ばれたほとんど全ての現場で怒られていた。

恋愛ドラマの撮影のために人払いがされた道路で、三十回目のリテイクに業を煮やした監督が怒鳴る。

 

「もっとさぁ! できるよね? 似通う刃ではあんなに良かったじゃない」

「すいません……」

「すいませんじゃなくてさ! このキャラクターはそういう演技じゃないんだよ、もっと台本読み込んでよ!」

 

バシバシと台本を叩く監督に平謝りしながら、俺は金田(かねだ)(ファン)監督に打たせてもらった(・・・・・・・・)ホームランの代償を全身で味わっていたのだった。

 

映画を撮り終わった二月から五月(せんげつ)までの間は、なんなら退屈なぐらいに平穏だった。

いつものエキストラの仕事を熟したり、運転免許を取りに行ったり、暇を持て余して相撲部の皆と旅行へ行ったり。

同期(ソードリリー)やその先輩たちのレッスンにも結構参加でき、充実した日々を楽しく過ごせていたのだが……

映画が公開された途端に、振られる仕事の量と質がガラッと変わったのだ。

画面に映っていればなんでもいいような仕事ではなく、いなければ話が進まない役柄を振られるようになった。

更に言うと、求められる演技の質も全く変わった。

俺は「珍しい男役者のエキストラ」ではなく「似通う刃のヤン役の人」として呼ばれるようになったのだ。

 

「どうなってんの? 映画の演技は何だったの?」

「すいません」

 

だが結局のところ、あの役は監督による俺を想定したあて書きだったからヒットしただけで……

俺自身が凄い役者になったわけではないのだ。

自分でも最初の頃の演技を見ると「酷いな」と思うぐらいにはなったので、成長していないわけじゃないとは思う。

だが、やはりそれは演劇部の新人が二年生になった程度の成長幅でしかなく、第一線の現場において通用するようなものではないわけで……

俺は呼んでもらった先々でリテイクを出しまくり、頭を下げるだけのマシーンとなっていた。

 

 

 

こんな事になっているのも、事務所による演技のレッスンだけでふわっと芸能界を乗り切ろうとしていた俺が、身の丈に合わないヒット映画に出た事と……

俺が芸能界に入る時言った「何でもやる」という言葉に従って、ゴリゴリの営業をかけてくれた明石さんの営業力が噛み合ってしまったせいだろう。

普通、珍しい男性役者といえども、無名役者にそんなに仕事が回ってくるって事はないのだが……

叔母がマネージャーとしてつけてくれた明石さんは超有能で、俺は一年目どころか一ヶ月目から彼女にバンバン仕事を貰っていた。

それもどういうからくりか、全てオーディションなしの決まり仕事だ。

そんな彼女に「あなたは仕事のレベルが低い」と言われて「貰う仕事のレベルが高い」なんて言い訳をできるだろうか?

俺はできない……自分の努力不足を恥じ、頭を下げることしかできなかった。

 

「透さん、もう少し演技の方をどうにかできませんか? まぁまだ役者二年目ですから、しょうがないんだとは思いますけど。起用する側にはそういう事は関係ありませんからね」

「はい、すいません……」

 

演者(アクター)部門の営業部。

三つ並んだディスプレイに付箋が張りまくられた明石さんのデスクの前にて、俺はそう詰められていた。

実際彼女の言う通りだ、起用する側には俺の事情なんか関係ないのだ。

まだ二年目だからとか、あの役が特別とか、そういう言い訳は絶対に許されない、俺はプロなのだから。

 

「アクションもいいですけど、普通の演技もきちんとできなければ仕事の幅は広がらないと思うのですが、どうですか?」

「おっしゃる通りです……」

 

役者・八代透をほうぼうに売り込みまくってくれている明石さんにそう言われ、俺は役者という稼業の難しさを思い知っていた。

ただがっくりと肩を落とす俺の前で、明石さんは手に持っていた書類をめくった。

 

「さて透さん、仕事です」

「はい」

 

黒いスーツの脚を組み替えて、明石さんは手に持っていた書類を俺に手渡す。

その書類には『勇者ユリピコと霧の島』というタイトルが書かれていた。

 

「今回は単発の出演ではなく、連続ドラマに一話から最終話まで出演する仕事になります」

「そうなんですね」

 

連続ドラマに最初から最後まで関わるのは初めてだ。

ワクワクする気持ちと同時に、物凄い迷惑をかけそうだという気持ちが起こる。

だが、続く明石さんの言葉はそんな不安をすっかり払拭してくれるものだった。

 

「この仕事、金田(かねだ)(ファン)監督からの紹介です。ものまね師というキャラクターを誰に任せようか悩んでいた伊部(いべ)監督に、金田監督から透さんを紹介してくださったようです」

「そうなんだ!」

 

ものまね師、いいじゃないか。

何かを真似するのは大得意だ。

書類をめくっていくと、異世界を冒険する低予算ファンタジーコメディドラマと書かれていて、アクションのシーンもあるようだ。

すっかりこの仕事が気に入った俺は、二つ返事でこの仕事を引き受けた。

そしてその先で、停滞しはじめた俺の役者人生をすっかり変えてくれるような……

そんな凄い凄い師匠に出会う事になるのだった。

 

 

 

 

 

まとめブログ

 

アンハッピー味噌汁実況スレ

ヤンさん、日本語の演技は下手

 

551:名無しさん視聴中 ID:N3ryATeko

なんか、うまく言えないけど……ヤンさんって棒読みじゃね?

 

553:名無しさん視聴中 ID:64GcpLHF1

>>551 棒読みっていうか……なんて言ったらいいんだろ? そこまで違和感があるってわけでもないんだけどな……

 

557:名無しさん視聴中 ID:CSn79sh4Q

そんなに変か? 普通じゃね?

 

562:名無しさん視聴中 ID:0WknddYmU

周り名優に囲まれてるから……

 

567:名無しさん視聴中 ID:IzM76aG+M

八代透は狐狼ズZEROでもこんなもんだったよ

 

569:名無しさん視聴中 ID:4fIhJDaV2

全然全然、格闘家にしては演技上手い方

 

570:名無しさん視聴中 ID:MoM6drVIw

>>569 格闘家じゃないだろ

 

571:名無しさん視聴中 ID:xTPIeWMYp

まぁ中国の方だしね、まだ日本語慣れてないんだろうな

 

575:名無しさん視聴中 ID:z/MoM6drVIw

>>571 いや中国人でもないだろ

 

577:名無しさん視聴中 ID:ttNtf0SsP

演技とかよくわかんないけど顔がいいから好き

 

579:名無しさん視聴中 ID:52mbLpClI

そもそもあんだけ動ける役者をホームコメディに普通に出すのがよろしくないよ

 

584:名無しさん視聴中 ID:+cZPQ5+03

>>579 まあでも出したくなるのもわかる、似通う刃のヤンはほんとによかったもん

 

589:名無しさん視聴中 ID:LB2fTbW/Q

透くん! 役者の仕事はカンフー映画だけにして道場に戻ろう!

 

592:名無しさん視聴中 ID:6cdPfq0MZ

私この子のファンだからわかるけど、普通に下手なだけよ

 

596:名無しさん視聴中 ID:9jz4rm1of

>>592 アンチだろ

 

600:名無しさん視聴中 ID:hksRNQjJp

抑揚だろ、声の出し方が悪い。多分音消して見たら普通に見えるよ

 

601:名無しさん視聴中 ID:msurtGb4A

>>600 言われてみりゃたしかに、普通に喋ってるように見える演技じゃなくて普通に喋っちゃってるっていうのかな

 

605:名無しさん視聴中 ID:MjpG/+P/r

透、お前はカンフーに帰れ!

 

609:名無しさん視聴中 ID:LKN+06aq8

まぁ今後カンフー映画あれば絶対呼ばれる俳優だから、演技はこんなもんでいいだろ

 

614:名無しさん視聴中 ID:ocNdTyAlo

物食う演技はうまいのにな、それこそ唐揚げの頃から

 

 

 

 

引用元://OBAch.bb/

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