あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活   作:関税破産お嬢様

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天使と般若

夏真っ盛り、大学は休みで遊びも仕事もやり放題。

そんないい時期に、山形の映画村の山村(さんそん)セットにて勇者ユリピコの撮影は始まった。

 

「八代透です! よろしくお願いします!」

腰高(こしだか)聡美(さとみ)です、よろしく」

 

セットの一部であるあばら家の中で、一番最初に来てすでに勇者ユリピコの衣装に着替えていた主演の腰高さんは、髪のセットをされながら朗らかにそう言った。

このドラマは主人公パーティが女三、男一の四人組で、俺は黒一点としてモノマネ師のシュージンという役になる予定だ。

俺も身軽な盗賊風の衣装に着替え、続々到着する役者さんたちに挨拶をしていく。

剣士のサンジョ役の内海(うつみ)さんという初老の女優さんも、魔法使いのケレン役の市村(いちむら)さんという個性派女優さんも優しい人で安心した……のだが、共演者の中に一人だけ、物凄く当たりの強い人がいた。

 

「八代さんの出演作、いくつか拝見しました。この現場は荒らさないでくださいね」

「が、頑張ります……」

「プロとして、頑張るのは当然なので」

「……はい、すいません」

 

絶対零度の視線で俺を見つめる彼女は、狂言回しの天使役。

美しい金髪の地毛を持ったハーフの彼女は御年(おんとし)十四才、芸歴十四年。

俺にとっては超先輩である元ベビーモデルにして元子役、現役女優兼声優の天生(あもう)ピリカさんだった。

 

 

 

ごく一部を除き、挨拶は和やかに終わった。

そんなこんなで早速撮影に入ったわけだが、当然俺にリテイクが入らないわけがない。

開けた山林の中、主人公のユリピコにシュージンが出会う一番最初のシーンから、俺はいきなり躓いていた。

 

「俺の名はシュージン、天下一のものまね師だ」

「はいカット! 透くーん、もうちょっと自然に声出せるかな?」

「すいません!」

 

監督は穏やかな人で、何度リテイクを出しても声を荒らげるような事もないが……

日が出ているうちに撮らなければならないシーンがある以上、そんなに時間はかけられない。

ピリカ先輩は就労時間の制限だってあるのだ。

当然俺の台詞はガンガン削られ、気づけばすっかり無口なキャラだ。

敵のモノマネをするという役割は熟せるからそのシーンばかり多くなるのだが、これでは役者として呼んでもらった意味がなくなってしまう。

そんな焦りを覚えていた俺を……

休憩時間や移動のたびに、天使役のピリカ先輩の説教が襲った。

 

「八代芸能って、レッスンをやらないんですか?」

「一応受けてはいるんですけど……」

 

今も移動中のバスの最後尾に押し込められた俺は、ひたすらそういう説教をされていた。

朝から一緒に仕事をしてみてわかったが、彼女は本当に完璧主義で理想主義なのだ。

本人の仕事も完璧で、空気が一気に華やかになるような、本当に天使のような演技で……全て一発OKだった。

そんな彼女からされる的確なダメ出しだからこそ、余計に胸に来るものがあった。

そして朝からそんなピリカ先輩のマジ説教が続いているからか……

リテイクを出しまくっているにも関わらず、この現場では監督にも他の役者にも一切怒られていない。

というか腫れ物扱いで誰も絡んでこないのだ。

主演四人の中でピリカ先輩より芸歴が長いのも、初老の内海(うつみ)さんだけだからな……

 

「映画は良かったのに、もったいない……」

 

そんな事を小さくつぶやいたピリカ先輩は、なんとも言えない表情で俺を睨んだ。

俺も怒られてるだけじゃ能が無いし、恥かきついでに色々聞いてみようかな?

 

「あのぉピリカさん、俺ってどうしたら良くなると思います?」

「そんな事は自分で考えてください」

 

ダメ元で尋ねた俺をピシャリとそう突っぱねた後、彼女はプイと向こうを向いた……

そして十秒ほど経ってからゆっくりと顔を戻して、目だけはそっぽを向いたままこう続けた。

 

「……抑揚のつけかたがまだまだなんですよ、あなたは」

「ど、どう変えていったらいいですかね?」

「ああいうのは、バカバカしいぐらい大げさでいいんです」

「そ、そうなんですか?」

 

俺はピリカ先輩に言われた事をスマホにメモる。

なんせ若くして成功を収めている大先輩の言う事だ、そんじょそこらのレッスンよりも身になる事は間違いないだろう。

 

「たとえば、俺の名はシュージン! なんて時も、シュージン! にだけ力が入ってるんじゃ駄目なんです。俺の段階で波をつけないと……今ちょっとやってみたらどうなんですか?」

「あ、はいっ!」

 

ピリカ先輩の真似(コピー)をして言ってみるが、彼女は渋い顔のままだ。

 

「ボイスレコーダーとかないですか?」

「あっ、スマホが」

「今から入れてみますから、自分のと聴き比べて勉強してみてください」

「ありがとうございます!」

 

俺はボイスレコーダーに吹き込まれた彼女の台詞を、大事に大事に保存した。

 

「他にできる事とかって」

「他にですかぁ……?」

 

そして立ち上げたままのボイスレコーダーで、そのままピリカ先輩の金言を録音し始めていた。

彼女の言う事は全て筋の通った理屈で、なんだか聞いているだけで演技が上手くなりそうな気がするような、そういう強烈な説得力があった。

やはり第一線に立ち続けている人間は違う、そう思わせられるだけの含蓄があったのだ。

もちろん聞いているだけで演技が上手くなる、魔法の言葉なんてものはあるわけがなく……

俺は次の撮影場所でもリテイクを出しまくった。

だがそれでも、演技という闇の中に一筋の光を見つけたような、そういう気持ちになっていたのだった。

 

 

 

「ピリカ先輩! おはようございます!」

「お、おはようございます……」

 

そして三日後に入っていた二度目の撮影日、早めに来ていた俺は白いハイブランドのTシャツを着てやって来たピリカ先輩に駆け寄った。

初日の撮影の後、家で彼女の言葉通りに自分の台詞を逐一録音して練習してきたのだ。

 

「あの! 練習してきたんで! ちょっと見てもらっていいですか?」

「……なんで私が? はぁ……まぁ、着替えた後でなら」

 

ツンとした態度を全く崩さないピリカ先輩だが、求めれば与えてくれる優しい人でもあるのだ。

俺はまるで犬のように彼女の身支度を待った。

 

「それで、どうなりました?」

「はいっ!」

 

俺はそう返事をしてから、彼女の前で一生懸命ものまね師のシュージンを演じ……

 

「ぜんっぜん駄目です」

 

という、ヒエッヒエの言葉を受けて……

それから全員が揃って撮影が始まるまで、ピリカ先輩からみっちりとダメ出しを受けたのだった。

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