あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活 作:関税破産お嬢様
次の収録から、俺は買ったばかりの中古車で誰よりも早く現場に着くようになった。
ベテラン天才アクターに教えを請えるかもしれないせっかくの機会だ、そう思えばコツコツやるのが苦手な俺でも早起きぐらいはできた。
まぁ、一番足を引っ張っている俺が主演より後に来るのはどうかな……と思ったってところも正直あったけど。
「あれっ、透くん早いね」
「おはざます!」
駐車場に駐めた車の中でご飯を食べていると、スタッフさんたちと一緒の車に乗ってきたらしい主演の
この人も名前の割にたいがい腰の低い人だ。
主演だからといって威張らず、最初に来て最後の方までいるタイプ。
逆に言うと、そういう人だから主演の座が掴めたのかもしれないな。
「今日も
「そのつもりです!」
「そうなんだ。若いなぁ、私も負けてられないなぁ」
腰高さんはそう言いながら車から折りたたみの机とパラソルを下ろし、駐車場にパーソナルスペースを作った。
そして私物のキャリーケースからキャンプ用品っぽいバーナーを取り出し、机の上に並べはじめる。
「それって何ですか?」
「コーヒー淹れるんだよ、透くんも飲む?」
「えっ? いいんすか? ありがとうございます!」
「いいよー」
気楽な調子でそう言って、腰高さんはコーヒーの粉を入れた銀のポットを火にかけた。
「なんか本格的ですね」
「パーコレーターは手軽な方だよ」
手軽っていったって、こんなポットを山に持ってくるのは趣味人しかいないんじゃないだろうか?
「砂糖いる?」
「はいっ!」
紙コップに入れてもらったコーヒーに砂糖をダブルで入れ、手を温めてから口をつける。
夏とはいえ山の朝の空気はひんやりと冷たいもの、そこで飲む温かいコーヒーは美味かった。
「美味しいです!」
「そっか、薄くなかった?」
「あんまわかんないっすね」
「まぁ大学生はあんまり飲まないか」
美形すぎて演技の時はちょっと怖く見える時もある腰高さんは、今はなんだか幼く見えるような笑みを浮かべてそう言った。
その後は彼女のパラソルにお邪魔して、演技の事や監督の話を聞いたりと楽しく過ごさせて頂いたのだった。
まだまだ集合時間の前だが、だんだん現場に人が揃っていく喧騒の中……
車のリアを開けて日よけを作って台本を読み直していると、最近聞き慣れたハイトーンの声が響いた。
「今日は何時から来てたんですか?」
声がした方を向くと、デニムのジャンパースカートを着たピリカ先輩が、なぜかあらぬ方向を向きながら立っていた。
「あっ、おはようございます!」
「……おはようございます」
俺が来てから一時間以上経っているとはいえ、まだ集合時間には時間がある。
足の都合でかなり早めになっちゃったのかな? と思いながら、読んでいた台本を閉じる。
ピリカ先輩はちょっともじもじした後、車の陰に入ってきた。
「練習はしてきたんですか?」
「え? ……はい! してきました!」
「ちょっ……とだけ時間があるから、今なら見てあげても……いい……かも?」
ピリカ先輩は、相変わらずそっぽを向いたままそう言った。
なんか含みがある様子だけど、練習を見てもらえるのなら願ったり叶ったりだ。
「いいんですか!? おねがいします!」
「ちょっとだけですよ」
彼女はそんな事を言ってから、口を尖らせながらウンウン頷いている。
あれも何かの演技修行の一つなんだろうか?
ピリカ先輩の隣に立って真似してみると、それを見て顔を赤くした彼女に腹を叩かれた。
ちなみに演技を見てもらった後も、同じように顔を赤くした彼女にダメ出しをされたのだった。