あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活   作:関税破産お嬢様

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方便と爆速

俺は前世から、こうと決めたらその日のうちに動く(たち)だった。

会長室から出るとすぐ、俺はその足で専務である叔母の元を訪れた。

机の上に色々と書類を広げている彼女に、婆ちゃんから貰ったペラペラの企画書を提出する。

 

「あのぉ、会長からこういう仕事貰いまして……」

「ああ、聞いてたやつね。透、やる事にしたんだ」

「つきましては、大小ご迷惑をおかけするかと思いますが……何卒ご協力願えませんでしょうか」

「何その言い方? 会社の仕事なんだから会社が協力するのは当たり前でしょ?」

 

叔母の(あおい)は上品にクスクス笑いながらそう言い、ちょっとごめんねと電話をかけた。

 

「ちょっと来て。ん? ああそう、透」

 

それだけ言ってパタンと電話を置いた彼女は、企画書をペラッと捲る。

一枚だけの企画書、それを軽いと見るか重いと見るかは人次第だろう。

 

「透もあっという間に人気者になっちゃったね。こういうまっさらな仕事って、大御所になってもなかなか来ないよ」

「恐縮です!」

「二人の時はそんな言い方しなくていいのに」

 

そんな話をしていると部屋のドアがノックされ、叔母はそれに「どうぞ」と返す。

 

「失礼します」

 

そう言いながら入ってきたのは、黒いスーツの明石さん。

俺のマネージャー的な事をしてくれている彼女に、叔母はスッとペラペラの企画書を差し出した。

 

「どうかな」

「……何も決まっていないようなものですが、報酬次第ではいい仕事だと思います。オリジナルビデオといっても、昔のようにレンタルビデオ屋に置くわけでもありませんし」

 

叔母はそんな彼女の反応を見て、笑顔で話を続けた。

 

「これ、透が座組から作っていくって話なんだけどさ、明石も一緒にやってみない?」

「私がですか?」

「そう、こういう経験できる機会ってなかなかないし、どうかなって。こういう仕事に関わる事は今後のためにもなると思うし」

「しかし、他のアーティストのマネジメントもあるんですが……」

「別に本格的に営業から外れてってわけじゃなくてね、このプロジェクトの間だけ、ね? 今受け持ってるアーティストも、ちゃんと後で戻すから」

 

明石さんはしばらく考え込み、やがてこう返事を返した。

 

「専務がそう言われるのでしたら……」

「そう、良かった。一旦の引き継ぎについては奥田(ぶちょう)に言っておくから。手続きとか、予算配分とか、至らないところは助けてあげて。人は透が引っ張ってくると思うから」

「わかりました」

 

にこやかな叔母の言葉に、俺は一気にピリッとした。

つまりここからの座組(ざぐみ)、人を引っ張ってくるのは俺がやれという事なのだ。

どこか浮ついていた気持ちも一気に冷め、俺は現実感と世話役を手に入れて専務室を出た。

 

「…………」 

 

そして俺に巻き込まれるような形でプロジェクトに関わる事になった明石さんは……

部屋の外の廊下で立ち止まり、俺の事をじっと見た。

いつも通り感情が見えないその瞳は、まるで目に見えない何かを測っているかのようだ。

そうしてしばらく見られるがままになっていると、彼女は一歩俺の方に踏み出して口を開いた。

 

「……透さん」

「はいっ!」

「私が引き継ぎを済ませるまでの間に、最低限監督とメインキャストに当たりをつけてください。お金の交渉は私がやります」

「わかりました!」

 

明石さんはポンと俺の肩を叩いて「期待していますよ」とだけ言って立ち去ろうとした。

俺は慌てて、その背に問いを投げかける。

 

「あのっ、企画内容とかは?」

 

黒スーツの彼女は肩越しにこちらを振り返り「……任せます」とだけ言ってまた前を向く。

俺はそんな彼女の背中をしばらく見送ってから、転がりだしたプロジェクトに追いつかれないようにと、自分もまた歩き出したのだった。

 

 

 

俺はその日のうちに、貰った企画書に一言文言を追加したコピーを取り、とある人物に電話を入れた。

背後に強烈な電子音が響く中電話を受けてくれたその人は、運よく暇していたらしい。

俺は彼女に指定された喫茶店に向けて、会社の地下に停めていた車をすぐさま走らせた。

 

「……ふぅん、中国武術プロパガンダ映画ですか」

「そうなんです! (えん)あって僕に任されまして! ぜひ、金劉会にもお力添えをお願いしたく!」

 

俺がペコリと頭を下げる中……

向かいの席に座った金劉会の師姐(シージエ)は、企画書に書かれた『・エロティック ・バイオレンス ・アクション ・カンフー!(・・・・・)』という文字を指でなぞった。

ちなみに俺が書き加えたのがカンフー。

自分にとって最大の当たり作である『似通う刃』のファンと、短い役者人生の中で手に入れた金劉会とのコネを最大限に活かすためにその言葉を選んだ。

ある意味では金劉会における俺の窓口のような存在である師姐(シージエ)は、ペラ(いち)の企画書を見ながら喫茶店の名物であるカツパンを齧る。

 

「それで、内容は?」

「え?」

「どういう話か決まっていないんですか? それでは我々も考える事もできません」

「えーっと、ちょっと待ってくださいね……脚本の先生はまだ捕まえてなくて……」

「……こういうのはね、別に大枠でいいんですよ。どうせ後でいくらでも直すものですし」

 

映像制作に関わっている時間なら俺よりよっぽど長いであろう彼女がそう言うので、俺は失礼してこの場で企画を書かせて頂く事にした。

通学にも使っている鞄から筆箱を取り出し、俺は前世や今世で見た映画を必死に思い出しながらルーズリーフにシナリオを書き込む。

エロ、バイオレンス、カンフーアクション。

このうちのアクションは大得意、バイオレンスはまぁ撮り方によるだろう。

問題はエロだ。

男がエロくて問題のない役どころ、でもプロパガンダ映画という方向で助力を得るなら主人公が悪者では駄目だ。

となると……

 

『セブン烏龍(ウーロン)

 

俺はそう決めた仮タイトルの下に、でっち上げた話を軍神のマークが入ったシャープペンでざかざかと文章を書いていく。

その設定はこうだ。

主人公は世界的正義のスパイ組織の七人目のエージェント、コードネームは烏龍。

 

「ほぉ、スパイものですか」

「そうなんです!」

 

机の向こう側から覗く、金眼鏡の師姐(シージエ)の視線が気になるが……

今はとにかく、中身を書く事が大事だ。

ストーリーはこう。

美術館の特別展示からはるか昔より伝わる宝物が奪われた。

実はその宝には徳川埋蔵金の地図が隠されているのだと、その持ち主の孫娘に告げられた烏龍は彼女と共に犯人を追う。

だが犯人はただの盗人ではなく、その裏には日本ではとある外食チェーン(スポンサー)を隠れ蓑としている、国際的テロ組織の存在があったのだった……

 

「ま、いいでしょう」

 

そんな何の中身のないでっち上げの話を読んだ師姐(シージエ)はそう言って、企画書とルーズリーフを自分のハンドバッグの中に仕舞った。

彼女はそのついでとばかりに、ピッと伝票を取り上げる。

 

「あっ、払いますよ」

「勝ったので」

 

そんな事を言いながら、ジャージにスリッパ履きの彼女は料金を払って駅前繁華街の方へと消えていった。

この近くに住んでるんだろうか……?

以前も稼ぎを教えてくれると言って教えてくれなかったし、謎の多い美女だった。

用事は済んだので帰ろうと駐車場に向かって歩いていると、ポケットの中のスマホが鳴る。

取り出してみると、その画面には『明石』と表示されていた。

 

「なんかあったのかな? ……はい、八代です」

『先日出演した地球恋愛ですが、追加の出演依頼が来ました。直近の話なのでオリジナルビデオの企画には差し障りないと思いますが、一応確認しておきます』

「地球恋愛、はい! 大丈夫……」

 

と言いかけたところで、俺の頭に閃きがあった。

せっかくだから、この依頼に絡めてあのドラマの監督に話を聞いてみようか。

ピンク映画が好きだと言っていたし、本人は無理でもそういうのが得意な監督なら紹介してくれるかもしれない。

 

「……あのぉ、監督の電話番号って教えて貰えますか? ちょっと自分で交渉してみようかとおもうんですが……」

『……ああ、そういう事ですか。では仔細をメールで送ります』

 

明石さんには俺の浅い魂胆なんてお見通しのようで、特に意図を深堀りされるような事もなく……

俺はしばらくしてから届いた監督の電話番号に、駐車場に停めた車の中から電話をかけた。

 

『はい、井門(いもん)ですが……』

「不躾なお電話失礼致します、八代芸能所属の八代透と申します」

『ああーっ、透くん! マネージャーさんから直電来るって言われてたけどすぐ電話してくれたんだね』

 

どうやら明石さんは俺から電話が来ると伝えてくれたらしい。

まぁ、そうじゃなきゃ知らん番号の電話には出ないかもだしな。

 

「それでドラマの事なんですけど」

『うん! うん! 透くん! 評判いいよ! もっかい出て、もっかい!』

「出るのはいいんですけど、その代わりと言ったら変になっちゃうんですけど……ちょっとお話聞いて頂きたい事がありましてぇ……」

『うん! 何?』

「実は僕主演でピンク映画撮る企画があるんですけど、監督が決まんなくって……」

『ピンク映画!? うん! やる! うん!』

「えっ!? いいんすか!?」

 

こうして監督候補は爆速で見つかり……

俺はホクホク顔で事務所へと帰って、さっそく明石さんにその報告をした。

彼女はなんだかちょっと呆れたような顔をしていたが……

やはり、仕事の依頼に仕事の依頼で返すのは、マナー違反だったんだろうか?

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