あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活   作:関税破産お嬢様

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初台詞と居残り練習

俺はそれからも、ちょくちょくエキストラとしてほうぼうの現場に呼ばれるようになった。

呼ばれた先で聞いたのだが、なんでも男の役者は少ないから、エキストラもいつも同じメンツになりがちなのだそうだ。

まぁ男ってのは分母も少ないし、女に比べりゃ需要も少ないからな。

とはいえ、一人や二人は男を出さなきゃいけない事情のある現場というのも意外と多い。

というわけでありがたい事に、事務所によれば今のところは男であるというだけでそこそこ仕事はあるらしい。

もちろん、めちゃくちゃ金になる仕事というわけではないけど……

まぁ俺としては、コツコツ出続けて、どっかでハネればいいと考えている。

最悪ハネなくても、俺はまだまだ若い、限界を感じたらまた別の道を探せばいいんだ。

その時は、元役者uTuberとかもいいかもな。

 

 

というわけで、今日も今日とて仕事だ。

今日の役はミステリードラマの死体役。

どうしようもないクズとして殺された男の役だが、死ぬ前の場面も撮るらしいからなんと台詞付きだ。

 

「『これだから高卒の女は……』……こうっすか監督?」

「そうそう! そういう感じの下卑た笑み! 君いいね? やってた?」

 

何をやってたのかは知らないが、俺は監督に演技指導でゲスっぷりを褒められていた。

ロケ地の路地裏で服の中に血糊を仕込み、準備はバッチリだ。

 

「じゃあ本番もよろしく! 雨来そうだし、一発で決めたいね」

「了解です!」

 

カメラに映る以上にライトアップされた夜の繁華街の路地裏、被害者役の俺と犯人役の女は二人で対峙する。

足元の黒いアスファルトは汚れで白く濁り、スタッフが配置したゴミも落ちていて、これからここに倒れ込むのかと思うとちょっと躊躇しそうな気持ちになる。

でも、それをやるのが俺の役割なのだ。

俺はNGなしの何でもアリ、そういう役者だ。

毎日レッスンで言われた事以上の努力をする気のない俺は、それぐらいの売り方じゃなきゃ上には上がれないだろう。

 

「じゃあいくよ……朋美、康夫の開き直りに激昂し胸を刺して殺害! アクション!」

 

監督の言葉と共に、俺に相対する女優が動き出す。

その手には光り物、見た目は本物だが中身は古式ゆかしい引っ込みナイフだ。

 

「なんで女ってのはこう気が利かないかねぇ? 普通男がああまで言ったらもう終わりだろ?」

「『飽きた』って一言だけで終わりなんて、納得できるわけないじゃない! あんたの家行ったら……別の女いるし……」

「お前と違って俺はモテるんだよ、お前は金払いが良かったから付き合ってただけ。だから仕事辞めたお前には価値ないの」

「そうよ……お金よ……返してよ……私のお金……」

「お前の? 二人のだろ? 共有財産って知らないのか? これだから高卒の女は……」

「っ……うるさいっ!!」

 

その言葉と共に、女優が突っ込んできて俺ごと壁にぶつかる。

鍔に仕込まれたマグネットでナイフは俺の腹にくっつき、ぶつかった衝撃で血糊は破れ、冷たい感触が下腹部に広がった。

 

「……お……ま……何?」

「返せ! 返してよ!! あたしの時間! どれだけあんたに尽くしたと思って……」

 

そう言いながら女優はナイフで何度も突いている体で、何も持っていない手で俺の腹を殴る。

最後に深く突き刺す動作をして女優が離れたところで、俺は膝の力を抜き……壁にそってずり落ちる。

 

「女の恨み、思い知った!?」

「ま……びょ……い……」

 

病院と言い終えぬまま、俺は腰を落とし、呆然とした顔のままゴミの中に倒れ込む。

そしてその上に、天から大きな雨粒が降り注ぐ。

ざあざあ降る雨によってアスファルトの汚れが浮き、濁った水が地面につけた顔に沿って流れていく中、俺はカットが出るまで微動だにせず目を見開き続けた。

そしてリハーサルより倍ぐらい長い時間を経て、ようやく監督のカットの声が出たのだった。

監督にいい死にっぷりとお褒めの言葉を頂き、ドブ臭い身体のままタクシーで帰宅。

この日は我ながらいい仕事をしたなと考えながら、ぐっすりと眠れた。

 

 

 

 

 

一度ぐらいいい仕事をしたから何が変わるというわけでもないのだが、それでも俺はすっかり役者稼業が楽しくなっていた。

いやいやする仕事よりは、楽しくできる仕事の方がいいに決まっている。

知り合いも増え、複数回仕事をする監督さんもでき、きっかけとなった静流(しずえもん)からも「頑張ってんじゃん」と褒められた。

まぁ目標に向かって進めているのかというと、まだまだ何の金にもなっていないからそういうわけでもないんだけど。

 

「はい腹から声出すーっ……透!」

「はぁい!」

 

もちろん、八代のレッスンもまだまだ受けている。

俺は他の役者とは違って劇団とか通ってないから、技術向上は本当にこのレッスンだけが頼りだ。

忙しくなってきたら別に出なくてもいいと叔母には言われていたが、多分自主練なんてできる人間じゃないし……

こないだの台詞を貰えた仕事も、テレビで見るとなんとも拙い感じだったから、まだまだ卒業は遠いだろう。

 

「はい今日ここまで!」

「……ありがとうございましたーっ!」

 

そんなレッスンが終わった後、同期の高身長女子である七瀬が俺のところにやって来た。

 

「透くーん、ダンスのお相手して」

「いーよ」

 

彼女は百八十センチある俺よりも背が高い。

うちのレッスンのカリキュラムには二人一組でやるクラシックなダンスが入っているのだが、俺が仕事で休むと彼女はその練習ができないという状態だった。

本当は身長差があってもダンスはできるらしいんだが、そこを埋める技術はまだ彼女にはないからな。

 

「七瀬ー、ゆいたち先帰るから」

「んーっ、サーちゃんお疲れ様ーっ」

「透、鍵締め頼むぞ」

「あっ、はーい」

 

時間はもう八時、女子中高生たちと先生は引き上げるらしい。

女子高生である七瀬と俺を二人にしてもいいのかという感じにはなるが……

まぁそこは、俺ではなく七瀬が信用されているのだろう。

何が、と言えばそのフィジカルがだ。

彼女は身長だけでなく肉体能力も凄まじい。

アイドルなんか辞めてスポーツ選手になれば、多分すぐにでも結果が残せるに違いない天才だった。

俺も体が動かない方ではないとは思っているが、まぁそれでもこんな不良大学生なんかものの相手ではないわけだ。

 

「なんか新しいステップ習った?」

「習ってないよー」

 

そんな話をしながら、彼女のすべらかな手を取って軽くステップを踏む。

足元のサイズの大きなトレーニングシューズは以前見た時よりもかかとがすり減っていて、彼女の努力が見えるようだった。

 

「七瀬は頑張ってるな」

「へっ!?」

「七瀬に限らずだけど、アイドル志望の奴らは凄いよ。毎日放課後こうして頑張って、土日も朝から来てるだろ?」

 

それは俺の中には絶対にないひたむきさだった。

 

「透くんだって……」

「んなこたぁないよ、俺は流れに乗ってるだけ」

 

俺は根のない浮き草だ。

思えば前世から、俺の人生で何かに踏ん張れた事など一度もない。

いつだって楽そうな道を選んで、そこの周りでできそうな役割を熟すだけ。

こうして七瀬たちのような頑張る若人の中に身を置いて、身にしみてわかったが……

今思えば、前世はもちろん今世の中高時代にモテなかった事なんて、当たり前の事だったのだろう。

みんな必死に将来を掴もうとしてる中、文字通り一人だけフラフラ浮き草のように浮いてたんだからな。

 

「でもでも、透くんはテレビ出てるよ?」

「お前だってそのうち出るさ。俺より沢山出る、それも脇役(エキストラ)じゃなく、主役としてだ」

「なんで?」

 

このなんで? はなぜそんな事を言い切れるのかという問いだろう。

まぁ、これに関しては俺の願いでもある。

頑張ってる奴が報われてほしいと思うのは、当然の事だからな。

 

「お前は毎日頑張ってるからな。そのまま行けば、きっとそうなる」

 

本当に眩しいばかりだ、

俺みたいに楽する事しか考えなくなったら終わりだ。

そんな事を考えながら七瀬に合わせて動いていると、ステップを踏んでいた彼女の足がピタリと止まった。

そして、大型犬のような彼女のくりくりとした目が、俺の方をじっと見つめていた。

 

「七瀬、頑張ってる?」

「ああ、眩しいよ」

「キラキラしてるって事?」

「ああ、キラキラだ」

 

俺は少し上を見上げながら、心からの言葉をそう返した。

 

「透くんはそう思ってくれるんだ」

「誰だってそう思うよ」

「そんな事ないよ、七瀬、おっきぃから」

 

女の世界じゃ背が小さい方がモテるっていうからな。

七瀬も背が高い事で、何か言われるような事もあったんだろう。

 

「大丈夫だよ。今は俺と七瀬しか知らないだけ。みんなすぐに、お前の凄さに気づくさ」

「……うん」

 

俺はゆっくりとステップを確認しながら、無言の彼女と一緒に動いていく。

音楽もなしに一通りの確認を終えた頃、七瀬はまた口を開いた。

 

「透くん」

「ん?」

「ありがとね……」

「ん」

 

別に礼を言われるような事ではないけど、まぁ若いうちは悩みがちだしな。

俺だって人生二周目じゃなかったら、きっと余計な事で色々と悩んでいたに違いない。

 

「じゃ、やるか」

「うん」

 

ステップの確認を終えた俺達は、スマホで課題曲をかけながら二度三度と同じダンスを踊る。

誰かに披露するダンスじゃなく、ダンスというものに慣れるためのダンス。

それでも誰かと一緒に踊ればそれなりに一体感は感じられ、なかなか楽しいものだ。

彼女もそう思ってくれているのか、視線が合う瞳はどこか楽しげだった。

 

「……お、そろそろ九時だぞ、帰らないと」

「えぇーっ? もうそんな時間? あーっ、帰ったら明日も学校かぁ……」

「俺だって学校だよ」

「透くん、ちゃんと学校行ってるの?」

「親のスネかじって学校行かせて貰ってるからな、そりゃ行くさ」

 

学費を出してもらえるというのも、当たり前じゃないのだ。

親に頼まれて渋々大学に行く奴もいれば、自分で大学に行く金を稼ぐのに何年も遠回りをする奴もいる。

幸いうちの親は金持ちだけど、それでも金の価値が変わるわけじゃない。

俺も前世ではさんざん金に苦労した記憶があるしな、ちゃんと通って、ちゃんと遊ばなきゃ申し訳ないってもんだろう。

 

「なんか大人みたいな事言ってるぅ」

「大人だからなぁ、だから鍵も預けて貰えんの。ほら、早く出た出た」

 

俺はレッスン室の鍵を指に引っ掛けて、クルクル回しながら彼女を急かす。

ちゃんと時間通りに練習を終えて、ちゃんと帰らせると信じて貰ってるから鍵を託してくれてるのだ。

だというのに、俺はなぜか更衣室の外で待ち構えていた七瀬に「なんか奢ってー」と言われ、ハンバーガーを食べて帰る事になったのだった。

 

 

 

 

まとめブログ

 

 

ダブ東テレ総合スレ

 

西京焼穂の事件簿334

 

225:名無しさん視聴中 ID:6lVJG3fqa

こんな男がモテてるのに、私って……

 

228:名無しさん視聴中 ID:95bKMPwUd

男イラネ

 

229:名無しさん視聴中 ID:EpBWHVQCB

すみません。男性でも払うんですか? 離婚するんですけど……?

 

230:名無しさん視聴中 ID:By1HYh4LV

伝説の192

 

232:名無しさん視聴中 ID:WmUFOBgTH

あんま上手くないな

 

235:名無しさん視聴中 ID:8dnFZtyge

こいつ唐揚げくんじゃない?

 

238:名無しさん視聴中 ID:HTeXdSYgN

>>235 誰だよ

 

240:名無しさん視聴中 ID:jtnKcMYH0

結構可愛いし、実際マチアプにいたら当たりだと思って金つぎ込む奴いそう

 

 

 

 

引用元://OBAch.bb/

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