あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活   作:関税破産お嬢様

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閑話閑話閑話閑話


『フレンチトースト』

(めい)お兄ちゃん(とおる)の事ちゃんと見ててね」

「うん」

 

そんな事を、子どもの頃にはどちらの母からもよく言われた。

普通は年上が年下の面倒を見るものなのけれど、私は別に気にしなかった。

なぜなら母が兄を危なっかしいと思う部分も、きちんと理解できていたからだ。

 

(めい)、マジキュアの時間だぞ」

「えーっ、またぁ?」

「日曜の朝はマジキュアを見るんだよ」

 

自分が普通から外れているのだという自覚は二歳ぐらいの頃から持っていたが、彼はそんな私を普通の子供扱いしたがった。

普通の子供のように髪を結い、普通の子供が見るようなアニメを見せ、普通の子供が好きそうなものを食べさせてくれた。

今となっては感謝するところではあるが、当時は結構渋々付き合っていたような気がする。

 

「マジキュアの後にライダーがあればいいのになぁ」

お兄(にぃ)がよく言うそのライダーって何?」

「ライダーはライダーだよ、もうちょっと大きくなれば(めい)もわかるよ」

 

結局大人になってもわからなかったが、思うに彼は町でヘルメットをかぶったバイク乗りか何かを見かけてヒーローか何かと勘違いしたのだと思う。

私がそんな兄の妄想(ライダー)について詳しく尋ねると、彼は「ライダーキック!」と言ってよくジャンプをして見せた。

それは、兄の子供の頃の悪癖のひとつだった。

最終的にはそれで高く飛びすぎて家の天井に激突して凹ませ、親からめちゃくちゃ怒られたことでようやく鳴りを潜めたものだ。

 

(めい)、フレンチトースト作ってやる。家庭科で習ったんだ」

「お兄、火使っちゃ駄目だよ」

「大丈夫だよ、うちIHだし」

 

たぶん母さんたちはそういう意味で言っているのではないと思うけど、兄はそういう人の言葉の隙間を突くのが得意だった。

そういう意味でも母は私に兄を見ていてねと言ったのだが……

私もまぁ、これぐらいは大丈夫だろうと思って、彼のやりたいようにやらせていた。

兄はやんちゃな一面もあったが、基本的には大人のように要領が良かった。

親が怒りそうな事をやる時はきちんと後始末もして、子供の頃から自分の好きなように過ごしていた。

また、兄が器用でほとんど失敗をする事もなかったのも、その性質を助長したのだろう。

まぁ、その分たまの失敗が大きかったから、母たちも妹の私に兄を見ているように言ったのだろうが。

 

(めい)はマジキュア見てな」

「見てらんないよ」

 

あの時はアニメなんかより、椅子に登ってフライパンを使う兄の方が心配だった。

とはいえ、今になってみればそういう心配はいらなかった。

兄は身体のバランス感覚に異常に優れていたし、私ほどではないけど……一度経験した事は二度と忘れない性質を持っていたからだ。

フレンチトーストを作った事があるというなら、きっとそれを寸分違わず再現(コピー)できたのだろう。

 

「音大きくしてー」

「十一以上に上げちゃ駄目って言われてるでしょ」

(めい)はお堅いなぁ、じゃあオレンジの瓶取って」

 

彼はフライパンの中の物をフライ返しで皿に取り上げながらそう言い、手渡したシナモンをその上にパッとふりかけた。

更にその上にスプーンで掬ったバニラアイスを乗せ、完成だ。

私と兄はテレビの中で怪人と戦うマジキュアを見ながら、外はカリカリ、中はフワフワの甘いフレンチトーストを食べた。

これはお世辞抜きに美味しく、それからの私の大好物になったものだ。

 

「料理人にでもなればよかったのに」

 

昔の事を思い出してそんな事をこぼしながら、遅い昼食がてらやって来た喫茶店のフレンチトーストを食べる。

ここのフレンチトーストも、まぁまぁの味。

思い出のあの味にはまだまだ及ばない。

家族の中では「結婚して主夫になるんじゃない?」と言われていた兄も「実家住みの男はモテない」なんて言って大学入学と共に一人暮らしを始め、今では正月ぐらいしか帰ってこない。

彼は今、牡丹(ぼたん)母さんの実家で役者をやっているから、そっちで結構忙しくしているらしい。

私も母たちも、世界中が注目する新ゲームハードの制作が大詰めで忙しすぎて、兄が出たという映画も見れていないけど……

まぁ、多分器用に熟している事だろう。

映画のためにカンフーを始めたという事だし、ネタバレは避けて詳しくは調べてないけど……

兄の出るシーンが話題になっていると聞いたから、時間ができたら見るのが楽しみだ。

多分だけど、器用な演技で主役の人たちからド派手にふっ飛ばされたりしているんだろうな。

 

「ごちそうさま」

 

さぁ、昼からもまた仕事だ。

(じゅう)を超えてからは、全ての時間があっという間。

急がないと、あっという間に世界は先に行ってしまう。

脳に糖分をチャージした私は、ビル街に一際高くそびえ立つアンダイの自社ビルへ向けて、早足で動き出したのだった。

 

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