あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活   作:関税破産お嬢様

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アーマードスマホとウッズマン

翌日の八代芸能会長室、俺はなんとなく申し訳無さそうな祖母に、三人のお婆ちゃんを紹介されていた。

 

「直接会うと裕太郎さんそっくりねぇ」

「そうねぇ、イケメンねぇー」

「透くんおばちゃんと昔会ったの覚えてるか? おっきくなったねぇ!」

 

一人はうちの婆ちゃんと同い年ぐらいの、白スーツを着たお婆ちゃん。

もう一人は紫メッシュで腰の曲がった、いかにもって感じのお婆ちゃん。

そして最後は割と若々しく見える、カジュアルな格好の日焼けした肌のお婆ちゃんだ。

全員お婆ちゃんだからアレだが、まぁ見分けはつきやすい方だと思う。

もちろん会った事を覚えてるかと言われても覚えていないが、返す言葉は「ご無沙汰しております」しかないだろう。

 

「皆さん、こちらがうちの役者の透です」

「よろしくお願いします!」

 

婆ちゃんから三人に向けて外向けの言葉でそう紹介され、逆に個別の紹介も受けた。

白スーツが俺に最初に話を持ってきてくれた、外食チェーン(レストラン)を複数展開するひばりグループの会長の牧江(まきえ)さん。

紫メッシュが全国に清涼飲料水(ジュース)やお酒を販売する飲料系メーカー、ダイテンヨーの会長だ。

日焼け婆ちゃんが私鉄を親会社に持つ六曜(ろくよう)百貨店の会長、ぶっちゃけこの中では一番の大物だ。

 

「透、こちらの皆さんは出資に当たって、ひばりグループさんと同じ条件で良いと仰られています」

「ありがとうございます!」

 

婆ちゃんが説明する事には……

この映画は元々牧江(まきえ)さんと婆ちゃんの間で始まった話だったから、他の二人も内容全部お任せの同条件でいい。

一応五金(ウージン)さんを交えて四社で製作委員会方式を取る。

でも、できる範囲で会社の宣伝もしてね、という事らしい。

当然、それらの条件に文句はない。

……というか、そういうのは会社(ばあちゃん)が決める事だから、そもそも最初からこっちには決める権利はないのだ。

文句があるとすれば知らん間にプライベートかつ思いっきり守秘義務違反な写真流出があった事だけど、まぁ犯人がわかってるから良しとしよう。

スポンサーの婆ちゃんたちとは小一時間ぐらい話をし、請われるままに記念撮影をしたりして、その後はそれぞれが俺を激励した。

 

「透くん、本当に楽しみにしてるから。もう好きなだけやっちゃって!」

「はい!」

 

白スーツの外食チェーンひばりグループ牧江さんは、拳銃を撃つ仕草をしながらそう言って俺の肩をバンバン叩き。

 

「差し入れしておくから、水分補給はしっかりね」

「ありがとうございます!」

 

紫メッシュの飲料系メーカーダイテンヨー会長は、ニコニコしながらそんな嬉しい事を言ってくれる。

 

「透くん、今度うちの本店きてよ。靴と時計はもっといいの使って、マネージャーに言っとくから! そんでさ、もしよかったらうち舞台にド派手なアクションとかやっちゃって!」

「え、いいんですか!? ありがとうございます!」

 

日焼けしてテカテカした顔の六曜(ろくよう)百貨店会長は、豪快に笑いながらそう言ってくれた。

そんななんだか気風が良すぎるスポンサーたちが、全員帰っていった後……

 

「勝手に話進めてごめんなぁ、そんで婆ちゃんこれから会議やから……」

 

と俺に小遣いを渡し、うちの祖母はそそくさとどこかへ消えていったのだった。

 

 

 

「今度きてよ」と言われたら本当に行くのが俺だ。

その翌日、俺はさっそく監督と一緒に六曜(ろくよう)百貨店の渋谷本店に訪れていた。

 

「八代様ですね、お待ちしておりました」

 

まぁ、きちんとアポイントメントを取ったからだと思うが……

昨日六曜(ろくよう)の会長に言われた言葉通り、本店の店長さんに直接アテンドをしてもらう事ができ、諸々の協力に関する確約まで頂けた。

具体的に言うと、高級な小物や服を破損しない範囲で貸してもらえる事になったのだ。

それと、営業に支障のない時間にという条件付きだが、本当に店内を撮影で使わせて貰える事にもなった。

 

「透くん君さぁ、やっぱ福の神だったりしない?」

「ないない」

 

監督が俺にそんな事を言ってきたのは、そんな六曜(ろくよう)百貨店の非常階段だった。

彼女はスマホでバシャバシャと写真を撮りまくり、完全にロケハンモードだ。

 

「しかしさぁ、ここも夜中に撮影に使うならタダでいいよって言ってくれたし、時計と靴も借りれる事になったしだいぶ予算圧縮できるね。透くん様々だ」

「こんだけスポンサー増えてもやっぱ予算厳しいですか?」

「厳しいっつったら厳しいし、潤沢っつったら潤沢だね。本来Vシネなんか一本(いちおく)どころか二千、三千とかで撮るもんだけど、うちは二億ぐらい使えるから。まぁでも、それでも邦画としては普通かちょい低いぐらいかな」

 

今回スポンサーから資金調達できたのは、だいたい三億ちょいぐらい。

そのうち二億しか使わないって事は、残りの一億は宣伝と諸経費に使われるという事だ。

 

「やっぱ宣伝ってめちゃくちゃお金かかりますね……」

「でも宣伝しないとほんとに箸にも棒にもかからないからね。ひどい映画が宣伝でそこそこ売れるって事はよくあるけど、いい映画が宣伝なしで売れるって事はほぼほぼないんだ」

 

ため息をつきながらそういう監督を見ていると……

なんか明石さんが、俺にダメ元でいいから宣伝をやれと言った理由がわかったような気がした。

今は明石さんがついてくれているから制作以外の心配をしないでいられるが、せめて俺もできる範囲で宣伝に協力しないとな。

 

 

 

という事で、俺は本部になっている貸しオフィスの一角で、しずえもんと共に宣伝のための動画を撮影していた。

撮影用のスマホにゴテゴテしたアーマーのようなものを付けた彼は、その画面を見ながらスマホと同じぐらいデカいマイクを手で調整している。

スマホはしずえもんの私物だが、他は彼が必要だというので経費で買い揃えてもらったものだ。

 

「……やっぱ雑音入るなぁ」

「しょうがないよボイラー室の横だし」

 

このオフィスはもともと丸々空いていたフロアという事で、ぶっちゃけあんまり人気のあるタイプの物件じゃない。

地下二階にあるためビルを動かす色々な機械が近くにあってうるさいし、エレベーターもエントランスからは繋がっていなかったりする。

とはいえ、期間限定ながらほとんどタダで貸してもらえているというのはやはり破格だ。

それに、直上が駐車場だから騒音を出しても問題ないのが嬉しかった。

 

「はいじゃあなんかアクションしてー」

 

スマホを構えた彼にそう言われた俺は、コンクリートむき出しの壁の前でバック宙をする。

もちろん服装は衣装のスーツだ。

 

「うーん、やっぱこれじゃあ何の映画かわかんないなぁ……」

「あ、銃持ってこよっか」

「その方がいいかも」

 

俺としずえもんは、発火する小道具銃(プロップガン)を取りに小道具さんのところへ向かう。

遊びで使ったりしたら怒られるだろうけど、プロモーションのためなら使うのも許されるだろう。

 

「おっ」

「透さん、どうしたんすか? 衣装着込んで」

 

ちょうどそこには、悪役用のゴツいプロップガンをいじっていた私服の黒ギャルがいた。

なんかいかにもなスカジャンを羽織った彼女は、金劉会側からの協力者としてこの映画に参加してくれる事になったのだ。

もちろん役者じゃないから台詞はほとんどないが、その雰囲気とガタイだけでも存在感は抜群。

なので監督によって悪役側の用心棒、無口な殺し屋役としてキャスティングされていた。

 

「いや今から宣伝動画撮ろうと思って……」

「動画っスか? 手伝いましょうか?」

「いいね、二人の方が()えるよ」

「あ、こいつしずえもんです、俺のSNS運用担当。しずえもん、こっちは金劉会の宇都宮さん」

「あ……ども、しずえもんさん」

三橋(みつはし)です、よろしく」

 

そんな挨拶が済んだところで、軽くしずえもんによるディレクションがあった。

 

「透くんは衣装だし、当てないで軽く形みたいな感じで……」

「あ、じゃあ……」

「うん」

 

俺と黒ギャルは、適当な壁の前で向かい合う。

 

「…………」

 

どちらからともなく、自然と形ができる。

俺は腰を下ろし左手を前に出し、引いた右手に銃を構える。

あれ、そういや銃ってどこで使えばいいんだ?

そんな疑問が、しずえもんが発した「アクション!」という声と共に弾けて消えた。

 

ドン!

 

震脚と共に迫る彼女の拳を、前に出した左手で掴んで流しながら引き……

 

パン!

 

そのままその肘へ、真下から銃を撃ち込む。

加速する思考の中、ウッズマンの銃口からゆっくりと火花が散り、右側面から薬莢が排出されるのが見えた。

俺はそのまま前につんのめりかけた黒ギャルの側面に背中を当て、軽くトンと押す。

このアクションはあくまで銃が主役だからな。

 

「おっ……」

 

バババン!

 

バランスを崩されてグラッと傾きかけた彼女に向けて、発砲音が三発響く。

俺は黒ギャルに背中を見せたまま、上げた左腕の脇から彼女の膝と腋と頭に三発の銃弾を撃ち込んだ……つもりだ。

まぁ、銃なんか使った事ないけど、こんなもんだろう。

 

「……あっ……はいっ! オッケー!」

 

しずえもんのその言葉と共に、入っていたスイッチが元に戻った。

黒ギャルは右手で突いたままの姿勢で、ウッズマンのスライドをいじる俺を不思議そうな顔で眺めている。

そして、そんな顔で俺を見ているのは黒ギャルだけではなかった。

 

「今のアクション、何?」

 

そう言ったまま、ポカンと口を開けた監督が……

部屋の入り口から、口以上にかっ開いた目でこちらを見ていたのだった。

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