あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活   作:関税破産お嬢様

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フィルターとベッドシーン

俺としてはカンフーと銃を組み合わせるならなんとなくこんな感じかなと、即興でやったアクションだったのだが……

何が悪かったのか、その日から監督は何かを思い詰めたような顔をして、事務室へと閉じこもってしまった。

俺はといえば、とりあえず監督に拳銃を使ったあのアクションのSNS投稿を差し止められたので、しずえもんと一緒にスパイアクションっぽい小物を持ったアー写のような写真を投稿したりしていたのだった。

その他にも流行ってるらしいダンスを真似して投稿したり、しずえもんプロデューサーの指導の元広告戦略を行った。

広告戦略なんて言えば聞こえはいいが、ぶっちゃけ遊んでいたようなものだ。

七瀬から「見てるよー」という連絡が来たぐらいで、手応えは一切なかった。

 

「透くんの写真をよく載せてるからフォロワーは増えてるよ。さすがに『映画制作中!』の情報だけじゃ宣伝にはならないと思うけど」

「へぇ、メッセージとかも来てる?」

「来てるね、見る?」

 

逆にそう聞かれると、見たいような見たくないような。

めちゃくちゃダメ出しされてたら凹みそうだ。

俺はしずえもんが見ているスマホから目を逸らして、彼に尋ねた。

 

「ど、どんな感じ……?」

「『私の狂夢(くるめ)に近づくな!』とか『もっとエッチなとこ見せて!』とか、そういうのかな」

「うへぇ、やっぱしずえもんにお任せだわ」

「うん、こういうのは本人こそ見ないほうがいいのかもね」

 

文句もセクハラも、多分相手は軽い気持ちで言っている事だろうが、それが全部自分に向いていると思うとげんなりする。

俺はメンタルが弱いから、多分しずえもんが言う通り本当に見ないほうがいいんだろう。

 

「そういや透くん、前に出会いがどうこうって言ってたけど『会いたいです』ってメッセージとかは知りたい?」

「いや、知りたくない……そんなとこで出会うぐらいなら素直にマチアプやるわ……」

 

そりゃ中にはいい出会いもあるのかもしれないが、ネット音痴の俺にだってSNSで恋人を探すのが良くないって事はわかる。

前にSNSで出会ったファンと不倫して炎上したっていう、女お笑い芸人のニュースを見た事もあったしな。

 

「ま、その方がいいよ。他人事の僕ですらキツいメッセージ送ってくるオバサンとかいるしね」

 

ドライなしずえもんがそう言うぐらいだから、よっぽどドギツいのだろう。

ファンと簡単に繋がれるという事は、こちらからもファンの姿が見えてしまうという事でもある。

やはり俺とファンの間には、これからもしずえもんというフィルターにいてもらう事にしよう。

 

 

 

そんな平和な放課後を一週間ほど過ごした頃、ようやく監督が岩戸から出てきた。

それも片手に、大幅に書き換えられた撮影台本を持ってだ。

 

「透くん! 撮ろうか!」

 

充血した目でそう言うおばさん監督が撮りたいらしいアクションシーンは、当初のカンフースパイアクションからちょっと外れていた。

ケレン味溢れる娯楽劇から、どちらかというとリアル系に。

そして単なる凄腕スパイの活躍という設定は、どんどん込み入ったものに変更されていく……

 

「こないだ見せてくれたアレ! カンフーでいなしてトドメに銃! って感じを押していこう! (ウッズマン)もサイレンサー付けよう! そのためにバレルも切り詰めて特注仕様に!」

「なるほど……」

「敵も烏龍も特殊な防弾スーツを着てる事にするから! 遠くから撃ち合いせずに格闘戦してトドメに銃を使う感じ! だから烏龍はデカい銃は使わないの」

「な、なるほど……」

 

籠もり切りで考えてきたらしい設定を羅列する監督の指示で銃は改造され、特殊スーツや武器の調達シーンも撮られる事になった。

 

「武器調達シーンはね、いくらあってもいいんだよ! せっかく六曜(ろくよう)百貨店が使えるんだから、夜中にどっかの店舗丸ごと借りてショーケースに武器並べて撮っちゃおう!」

「いいっすね」

「スーツもさ、六曜(ろくよう)百貨店の店舗使おう! あんなデカいとこの全面協力なんか普通貰えないんだから、使い倒さなきゃもったいない!」

「い、いいっすね……」

 

まぁ、アイデアとアクションと設定でなんとかできる事なら、金もかからないしいいと思うんだけど……

しかし、絵の事を考えると敵も主人公もだいたいスーツという、ある意味めちゃくちゃ日本的な映画になってしまったな。

 

「他のスポンサーへの配慮はさ、ほら! ひばりグループの店内でバトルでしょ? ダイテンヨーの自販機の秘密機能から弾の補給でしょ? 他にも細かく入れてけばなんとかなりそうだし、時間ないから撮れるとこから撮ってこう!」

 

そう言いながら監督はチームに指示を飛ばしまくり、その翌々日から一気に撮影のスケジュールが埋まり始めた。

最初に撮影するシーンは、もちろん濡れ場。

銃もスーツもいらず、未だ合流できていない特殊メイクの人員も必要ない、一番身軽に撮れるシーンだった。

 

 

 

というわけで翌々日。

頭にドが付きそうで付かない普通の高級ホテルの一室に、撮影クルーはすし詰めになっていた。

俺以外全員女性のその中で、俺と女優は前張りを貼っただけの全裸状態だ。

前に監督と一緒の現場でやった時は「男の前張り作れる奴なんかいない」って言われたんだけど、今回はきちんと探してきてくれたらしい。

まぁ、別に俺はフルチンでもいいんだけどね。

 

「最初の濡れ場だよ! 掴みは一番大事だからね!」

 

ガンガンに暖房が入った室内で、監督は周りに激を飛ばす。

シーンとしては烏龍が冒頭で狙うとある新興企業に潜入するために、そこの幹部をコマすというものだ。

ベッドの横には高い位置にカメラ用レールが立てられ、その上にはカメラを構えた撮影がスタンバイ。

そしてその影を作らないように、照明がライトで煌々とベッドを照らす。

物理的な熱気を感じるそんな現場で、ニヤついた監督が身振りを交えながら叫んだ。

 

「じゃあいきますよン! 烏龍、女幹部と寝る、アクション!」

 

そんな身も蓋もない号令と共にカメラは回り、俺の頭の中でスイッチが切り替わった。

女優さんの首元に顔を埋めると、俺の中の心の天秤が一気に(シモ)に傾いていくのを感じる。

なんというか、これまでの役者人生で裸の女とカメラの前に立つ経験値が溜まった事で、自分の中に新しい道が開拓されたような……

そういう感覚があった。

 

「あっ……んっ……」

「…………」

 

肌も触れ合わぬのに艶やかな声を出す女優の目に、視線が吸い込まれる。

俺は微笑みながら彼女の顔の隣に腕を付き、ゆっくりと身体を下ろす。

 

「あっ……」

 

つとめて触れ合わさなかった身体を触れ合わせ、頬に朱が差した女優に体重を預ける。

互いの視線はじっと合ったまま、ただ息遣いだけが荒くなっていく。

女優の手が背中に回り、もどかしげに俺の身体を引き寄せる。

それを合図に腰を動かし始めると……

カメラが上で横滑りしながら、舐めるように俺達を撮影していく。

 

「んんっ……あっ……」

 

強く引き寄せられ、胸と胸がぶつかる。

熱い吐息が耳にかかり……開脚していた女優の足が折れ曲がっていき、俺の尻をがっちりと掴んだ。

そのまま横からシーツが引かれ、絡み合う二人の裸体が露わになっていく。

 

「はいカット!」

 

隠されていた全てが詳らかにされたところで、監督の声が響く。

俺は身体を持ち上げようとするが……下にいる女優さんの足は尻に回ったまんまだ。

 

「カットですよ?」

「…………」

 

そう尋ねても、熱っぽい視線が返ってくるだけ。

それどころか、カメラも回っていないのに首へと手が回ってきた。

 

「いいね由美ちゃん! 熱入ってるね! そのまま撮っちゃおう! 次のアングルにカメラ回して! すぐすぐすぐ!」

 

無言で俺達を見守っていた現場が、慌ただしく動き出す。

その間、俺はなんとなく居心地の悪さを感じたまま……

ただ年上の美女に抱かれていたのだった。

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