あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活   作:関税破産お嬢様

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閑話閑話閑話閑話


『八代透@映画撮影中』

「こんなに肌を出して……大丈夫なんでしょうか?」

 

子供の頃から声優として関わってきた、毎年主人公たちが世代交代をしていく日曜朝のアニメ番組マジキュア。

その歴代主人公が集まる映画版の収録現場の休憩中に、私はSNSをチェックしながらそう独り言をこぼした。

見ているのは、役者としての後輩が始めたSNSだ。

『八代透@映画撮影中』という名前のそのアカウントは、なんというか……はしたないというか……。

 

「ピリカせーんぱい、何見てるのん?」

「あっ、雪乃(ゆきの)さん、なんでもないですから!」

「えーっ……? なになに? 八代透? 男の子じゃん、どっかで共演したの?」

「えっ!? なに(ひと)のスマホの画面見てるんですか!」

 

咄嗟に画面を隠したつもりだったが、こっちより頭一つ分背の高い雪乃さんからは丸見えだったようだ。

私はすぐにスマホの画面を消して、着ていたパーカーのお腹のポケットに仕舞う。

うちの代の次のシリーズをやったこの後輩はなんというか、デリカシーがないというか……。

だが彼女は自分のスマホで八代透を検索し、彼のSNSを見始めた。

 

「わ! 凄ぉい! 男なのにめちゃくちゃキレキレのダンスしてるじゃん。フォローしよっと」

「しなくていいですから!」

 

止めようとしても、腕を高く上げられてしまっては届かない。

全く、これだから背が高い人たちというのは……

 

「へぇー、映画とか出てるんだ。あ、ピリカ先輩ドラマで共演したんだね」

「……そうですけど」

「また色々面倒見てあげたんじゃないの? ピリカ先輩優しいんだからぁ」

「見てません!」

 

色々聞かれたから、ちょこっとアドバイスしたぐらいですし。

まぁ、プライベートで? お呼ばれしたりとかは? ちょこっとだけありましたけど?

 

「わっ、えー? 男なのにセクシー系なんだぁ、こんなタイトなスーツ着て……」

「違います! それは映画のプロモーションでやってるだけですから!」

「そうなの?」

「仕事は選ばないと言っていましたから、多分人の良さに付け込まれてそういう仕事をやらされてるんですよ」

「へぇー、ピリカ先輩、この人と仲いいんだねぇ! このこの!」

「あっ、何するんですか!?」

 

雪乃さんは上から私の頭をわしゃわしゃとかき乱した。

 

「私達のピリカ先輩が取られちゃったみたいで妬けるなぁって……あっ、プラムー! ライチー!」

「何よ」

「休憩中に役名で呼ぶなよ」

 

雪乃さんが通りがかった人たちに声をかけると、私たちのいた自販機横にまた人が集まってきた。

マジパッションである雪乃さんの同期である、マジプラムとマジライチのお二人だ。

 

「ピリカ先輩に男の弟子ができたんだよぉ、今はそっちにお熱で……私たちの事なんかもう……」

「えっ、そうなの?」

「ショック……」

「いや別にあなたたちも弟子でもなんでもないですから、事務所も違いますし」

 

この三人がマジキュアになった当時は全員売り出し中の声優で、芸歴は全員私より一年下だったのだ。

世代交代(バトンタッチ)を描くOVAで共演した時、マジキュアとしての心得みたいなのを聞かれて話したような気はするけど……別に演技指導とかはしていない。

どちらかというと、お金を貰ってきちんと演技指導をした透さんの方が弟子と言うにはふさわしいかも……

私がそんな事を考えていると、三人は雪乃さんのスマホを見ながら何やら盛り上がっていた。

 

「えっ? セクシー系じゃん! なんか男なのに色気あるっていうか……」

「でしょ? うわぁ、凄い腹筋……男の人って鍛えるとこんな感じなんだぁ」

「ピリカ先輩……一体どういう演技指導を……」

「違いますから!」

 

まぁたしかに? ちょっとピタピタのスーツを着てたり? 露出が多かったりしますが? どうも動画に入った別の男の人の声を聞く限り? 透さんが一人で撮ってるわけでもないみたいですし? よくない友達にそそのかされているのかも?

 

「ちょっと声の出し方を指導しただけです」

「そうなんだ」

「ピリカ先輩やっぱ優しいねー」

「あたしらの時も色々教えてくれたもんね」

「ちっちゃかったピリカ先輩ももう中学生だもんね、こういうのも気になるお年頃かぁ……」

 

そんな事を言いながら頭を撫でようとしてくる三人の手を防いでいると、財布を手にしたアンダイ(スポンサー)の社員さんが自販機を使いにやって来た。

 

「お疲れ様です、みなさん仲がよろしいですね」

「お疲れ様でーす」

「お疲れ様です、そうなんです!」

「お疲れ様です」

「お疲れ様です、違いますから」

 

彼女は私が子どもの頃からずっと現場を見に来てくださっている、マジキュア担当のアンダイの社員さん。

私の頃は(ひら)だったらしいけど、今はだいぶ出世していらっしゃるとか……

そんな、長い髪をポニーテールにしたアンダイのおばさまは、財布から交通系ICカードを取り出しながらニコニコこちらを見ていたが、何かを目にして「あらっ」と声を上げた。

 

「それ……」

「え? これですか?」

 

彼女が指を差したのは、透さんのダンスがリピートで流れ続けているスマホの画面だった。

 

うち(アンダイ)の御曹司じゃないですか、皆さんも見てくださってるんですね」

「え? 御曹司?」

「ええ、うちの社長の息子さんですよ。大きくなったなぁ……」

「え!? そうなの!?」

「そうなんですよー」

 

そう言いながら優しい顔で雪乃さんのスマホを眺めていたおばさまは……

あっと何かに気付いたような顔で、私たちの方を向いてこう聞いた。

 

「皆さんも何か飲まれますか? よろしければ……」

「いえいえいえ」

「っていうか、アンダイの社長の息子さんなんですか? 八代透……さんって」

「そうですよー。大学に入って役者を始めてねぇ、今は自分でスポンサー集めて映画を作ってるらしいですね。やっぱ天才兄妹(きょうだい)っていうのかなぁ……あ、何でもいいですよ?」

「いやいやいや」

 

なんだか、衝撃的な話が出てきて一気に場が混乱してしまった。

え? 透さんって八代の社長の孫で……アンダイ社長の息子でもあって?

頑張り屋で……腹筋が凄くて、背中が広くて……あれ?

なんだか、一体彼がどういう人なのか、急にわからなくなった気がした。

結局私はそれから休憩時間が終わるまで……

奢って頂いたいちごジュースのパックを飲みながら、じっと彼のSNSを眺めていたのだった。

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