あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活   作:関税破産お嬢様

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◯◯◯と百貨店

その日の放課後、一緒にオフィスへ行くために駐車場で会ったしずえもんは不思議そうな顔でこちらを見つめていた。

 

「どしたの透くん」

「え?」

「いや、難しそうな顔してるから」

 

そう言われて顔に触れてみるが、自分でわかるようなものでもない。

俺はピッと車の鍵を開けて、彼と一緒に中に入った。

 

「いやしずえもん……第二外国語でさぁ、ちょっと仲良くなった子に告ったらフラれてさ……」

「同級生?」

「うん」

「そりゃー無理だよ、うちの大学の同級生なんか透くんに一番向いてないって。丸の内のカフェとかでナンパしてみた方が勝率高いんじゃない?」

「え? そんなもん? てかナンパはなぁ……」 

「君の玉砕戦法なんてナンパしてるようなもんだと思うけど」

「いやいや、最低限ちゃんと互いを認識し合ってないとさ、そもそも付き合いたくならないでしょ」

「気難しいなぁ透くんは」

 

玉砕戦法と言われるとつらいが、実際問題ここは女に連絡先を聞くだけで「異性愛(そんなつもり)ないから」とキッパリ断られる世界。

俺としてはまっすぐ行こうがじっくり温めようが、最初の一歩からダメ元なのは一緒なのだ。

うちの相撲部の先輩も、玉砕戦法(ダメ元アタック)できちんと彼女作ってたしな。

そんな事を考えていると、隣の席から不意に気持ち冷ための声が聞こえた。

 

「ていうか、透くんはそんぐらいでいいわけ?」

「え?」

 

思わずそう聞き返すと、しずえもんは俺に視線を向けながらこう続ける。

 

「その第二外国語の子が悪いなんて言わないけどさぁ……前みんなで飲んだ時さ、君、八代透セクシー六ヵ年計画とかなんとか言ってなかったっけ?」

「え? あ、うん……」

「役者になったからには結婚枠全部いい女で埋めるとか言ってなかった? クラスメイトに振られて落ち込んでる場合じゃないんじゃないの?」

「…………」

 

たしかにそうだ。

俺はもしかしたら、濡れ場で絡んだ女優たちの熱に当てられて……

思いっきり性欲で動いていたかもしれない。

 

「……しずえもん、たしかに俺チ◯◯になってたかも」

「え? 何が?」

「股間で物を考えてたかもなって」

「……君、割とずっとそうじゃない?」

 

しずえもんは呆れたようにそう言うが、別に男なんてそれぐらいでいいとは思う。

ただ、(こころざし)ってやつは忘れちゃいけないよな。

俺はハンドルから片手を離し、隣のしずえもんの肩をポンポンと叩いた。

 

「ありがとう、初心を忘れてたわ」

「いや、まぁまぁまぁ、さっきはああ言ったけどさ……別に僕としては、透くんに大学で彼女ができるんなら素直におめでとうなんだけどね」

「いやいや、言ってくれて助かった」

 

俺がそう礼を言うと、しずえもんはなんとなくちょっと気まずそうな感じで窓の外を眺め……

ポンと手を打って話を切り替えた。

 

「まぁでもさ、もっと上の大学なら君もモテモテだっただろうね」

「え? そうなの?」

「東大とかだと、異性愛者があっちから告ってくるぐらいだって聞くよ。僕の高校の友達なんか、一年生のうちにそれで枠全員埋まったらしいし」

「そうなんだ……なんでだろ? 東大は肉食系が多いのかな?」

「いやいや、東大がどうこうっていうより……東京東京(ダブルとうきょう)大学レベルの学生は、この不況の中自分が生きるので精一杯って事だよ」

「なるほどなぁ、男の相手なんかしてる暇ないってわけだ」

「そういう事」

 

まぁ、就職っていうのは以前と以後で人生が変わるからな……

タイミングなんか考えて恋愛ができるか! っていう気持ちもあるが、心に余裕がないと恋愛が楽しめないっていうのも事実だ。

 

「さっきはああ言っちゃったけど、透くんもいいかげんマチアプやりなよ。いいよ、マチアプの女は。東大京大ゴロゴロで頼りがいあってさ」

「いや、俺はもうちょっと頑張るよ」

「えー? じゃあさぁ、透くんの身近なところで……役者さんとかは実際どうなの?」

「それは俺も結構真剣に考えてるんだけど、役者さんってモテるんだよなぁ……」

「やっぱそうなの?」

「なんだかんだみんな奥さんいるんだよ」

 

俺達は車内で延々とそんな話をしながら、夕方の東京をゆるゆると走ったのだった。

 

 

 

 

 

二月半ば、小道具や美術の準備もだいぶ進み、六曜(ろくよう)百貨店を使って撮影する日がやって来た。

もう少ししたら白ギャルも合流できるらしいから、そうなったら本格的に撮影開始だ。

これまでの間に、少人数で撮れるようなシーンはだいたい撮り終えた。

普通はあんまりこういう撮り方はしないらしいが、まぁこの現場は俺がプロデューサーだったりで特殊だからな。

 

「それじゃあ、そろそろ行こうか!」

「はーい!」

 

午後二十時十分、百貨店の閉店と共に上がった監督の号令で、俺達は撮影用機材の搬入を開始する。

今日撮影されるのは、彼女肝いりの烏龍の装備調達シーンだ。

店の方にも残業をしてもらう形になって申し訳ないが、使用する店舗のショーケースの中の商品を片付けてもらう。

その間に映画スタッフは大道具を運び込み、闇のディーラーっぽく見えるように店の中を整えていく。

今日は山程エキストラさんがいるから、そちらへの指示出しもあって大変な活気だ。

 

「時間ないよぉ! 三時には撮り始めるからね!」

「エレベーターの養生、物乗せるたびにちゃんと確認してよ!」

「喫煙所ってないのぉ?」

「今日びこういうとこにはないんじゃない?」

「でも案内板にはあるよ?」

 

まるで文化祭前夜の学校のような喧騒で、どんどん婦人服と用品雑貨のフロアに物が入れられていく。

今日使うのは一階部分と、このフロアのうちの四店舗だけなのだが……

それでも大量のエキストラと山のような小道具が必要なあたり、映画撮影に湯水のように金がかかる理由がちょっとわかる気がした。

監督に言わせれば、これでも後半の盛り上がりに備えてだいぶ予算を圧縮しているらしい。

 

「あ、どうも八代さん」

「あ、店長さん、ご無沙汰しております。今日はどうぞ、よろしくお願いします」

「はいはい、先に言った通り、他の階は警備かかってますからトイレは一階でお願いしますね。私十一時には帰りますから、何かあれば警備の者にお願いします」

「はいっ! ありがとうございます! 周知致します」

 

皆が忙しく走り回る中、俺はプロデューサーとしてここの店長さんに挨拶をしたり……

 

「透さん! 最終衣装合わせ!」

「はいはいすぐ行きますから!」

「透さん、米田さんがリハしたいって」

「え? それって二時からじゃなかったの?」

 

主演役者としてほうぼうに呼ばれたりと、なんだかんだ忙しく過ごしていた。

素材単体で見れば何がなんだかわからないようなものが、プロの手で整えられてどんどんセットになっていくのは面白く……

俺はどこかへ呼ばれるたびにセットの前を通るのを楽しみにしていたのだが、どうも監督はまだまだ納得いっていないようだ。

彼女は武器商人のセットの前で、腕を組みながら首を傾げていた。

 

「うーん、やっぱ……これもスタジオでやりたかったなぁ。もうちょい予算があれば……」

「えぇ? このレベルでも駄目なんですか?」

「駄目ってこたぁないけどね、駄目ってこたぁないけど……やっぱ現場合わせってのは難しいよね」

「そういうもんですか」

「実際組んでみてさぁ、ちょっと違うなってなっても時間かけて直せるわけじゃない? まぁそれやっててドツボにハマる事もあるけど」

 

そう言いながら、監督は顔の横に立てた左手に右手の側面をトントンと当てる。

何のジェスチャーかわからないけど、納得いっていない様子なのはわかった。

 

「俺はこのセット、いいと思いますけどね」

「そう?」

「ワクワク感は伝わってきますよ」

「まぁ、プロデューサーがそう言うなら、いいんだけどねぇ……」

 

監督にも色々思いはあるようだが……それでもしっかり妥協してこれで撮ってくれるというのは、やはり年の功といったところなのだろう。

世の中には自分のこだわりで制作半ばで予算を使い果たし、平然と「おかわり!」と言う監督もいるらしいからな。

俺も今は役者以外の立場を持って、この映画に関わってしまっているから……

「監督の好きにやってください」とか、無責任な事は言えない。

できるとすれば、景気のいい話ぐらいだ。

 

「監督、この映画バーンと成功させて、ツーで思いっきり豪華に撮りましょうよ!」

 

俺がそう言うと、監督はチラッとこっちを見てから、しょうがないなという感じで笑った。

 

「ツーか……二作目ね、そうだね」

「海外ロケとかやりましょうよ、海外ロケ」

「おっ、海外かぁ、海外はいいね! ドローンかなんか使ってさ、ナヴォーナ広場あたりで……」

「今回は厳しいっすけど、ド派手にカーチェイスもやりましょうよ」

「カーチェイス! いいね! そん時はまたさ、いいスポンサー捕まえてきてよ!」

 

ガラスケースに銃が並べられていくのを見ながら、俺と監督は夜中の百貨店でしばらくそんな話をしていたのだった。

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