あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活 作:関税破産お嬢様
その翌々日、俺は監督がカットをザクッと繋げたプレビュー動画のようなものを確認していた。
場面は百貨店で撮った、装備調達シーンのものだ。
もちろん単なる役者ならそんな確認はしないが、今の俺はプロデューサーだ。
別に俺が確認したからどうこうってわけでもないのだが、進捗を確認するのも仕事のうちだった。
俺は動画編集ソフトの映された画面を見ながら、キーボードのスペースバーを押して動画を再生する。
「いらっしゃいませ」
百貨店の入り口で店員にそう言われたカジュアル服の
その店員も、店内にひしめく客たちも、全てエキストラだ。
この間までは自分も同じようにエキストラをしていた事を考えると、ずいぶん遠いところまで来たなぁという気がする。
画面の中の烏龍は百貨店内の
「いらっしゃいませ」
「これを」
愛想よく笑顔を浮かべる受付嬢に、烏龍がカウンターの上に指で差し出したのは峰から貰った名刺だ。
受付嬢は何も言わずに受け取り、ICカードリーダーにその名刺をかざした。
「……お待ちしておりました、ミスター烏龍。どうぞこちらへ」
彼女は笑顔のままに、受付の奥のスペースへと烏龍を案内した。
そして切り替わった次のカットに映ったのは、店の
二機の非常用エレベーターが並ぶその場所で、受付嬢は一枚のカードキーを取り出し、エレベーターの横の機械に読み込ませた。
すると、すぐにエレベーターの扉が開くが……
その内部は薄暗い青色の照明に照らされていて、『T』と書かれた階数ボタンだけが黄色く光っていた。
「ごゆっくりお買い物をお楽しみくださいませ」
受付嬢のお辞儀と共にドアが閉まり、エレベーターは自動で動き始める。
そしてチンと音を立ててドアが開くと……
そこは色とりどりのネオンに照らされたブラックマーケットだった。
「烏龍様、お待ちしておりました」
闇の中からそう声をかけてきたのは、さっきの受付嬢と同じ格好をした女。
烏龍は彼女に
古いパソコンのパーツを詰め込んだ籠が積み上げてある店があったり、割と小綺麗な立ち飲み居酒屋があったり。
これは実際はフロアを暗くして店舗の前に色々なセットを組んだだけなのだが、やはり映像になるとあんまり違和感はない。
なんというか、奥行きがあるというか……このいかにも怪しげな店舗たちの中に、まさか普通の婦人服店があるとは思えない出来だった。
ここからCGで更に処理をするとの事だから、きっと違和感は更に小さくなっていくのだろう。
「こちら、ご指定の
「私は何も言っていないけれど……?」
「紹介状に、銃砲店とスーツ店をご案内するようにと……」
「なるほど、ありがとう」
画面の中の烏龍は合点がいった感じの顔をしてるけど、ここちょっとわかりにくいよな。
ダサいけど、下で見せたあの名刺が紹介状だっていうカットシーンとか入れたほうがいいんじゃないかな?
俺は一応、その事をメモしておいた。
画面の中では、受付嬢がなんだかエレガントな雰囲気の銃砲店を手で差している。
まるで老舗のカフェのようなその店の扉を開くと、中には大量の銃器が収められたガラスケースが並んでいた。
そのケースの向こうにいるのは、燕尾服を身に纏い、片眼鏡をかけた気難しそうな女だ。
「いらっしゃいませ。当店のご利用は初めてで?」
「ああ」
「ではこれからいくつかご質問をさせて頂きますが……どうか気を悪くなさらないでください」
「もちろん」
女は手元にメモ帳を用意して、上目遣いで烏龍に視線を向ける。
「お求めは?」
「拳銃を」
俺が答えると、彼女は手元のメモ帳に何かを書きつけ、次の質問をした。
「ご使用シーンは?」
「実戦で」
「スタイルは?」
「中国武術を」
そう言ったところで、彼女はちらりとこちらを見た。
「何か外せない仕様などはございますか?」
「シンプルで低反動なものを」
「なるほど」
烏龍の言葉に女が頷き、メモ帳を手に奥へと引っ込んでいく。
そしてカットが変わると、ケースに敷かれた布の上に何丁かの拳銃が置かれていた。
警察が持っていそうな回転拳銃から見た事もないヘンテコな銃まで、全部監督の趣味だ。
女はそのうちから、黒い自動拳銃を取って烏龍に手渡す。
「FNファイブセブン、5.7mm弾を使用。拡張マガジンもございます」
烏龍は拳銃を両手で構え、握りを確かめた……が、表情は固い。
すぐにケースの上に銃を戻し、女の顔を見た。
「5.7mmはまだ反動が大きい。他のものは?」
烏龍がそう言うと、女は少し考えてから次の拳銃を手渡す。
今度の拳銃は、まるで
「ブローニング バックマーク、二十二口径。小径のため威力はありませんが、反動も抑えられています」
烏龍はまた拳銃を構え、照星を覗き込んだ。
今度はさっきよりも表情が柔らかい……気がする。
他の人にもきちんと伝わっていればいいが……
「いいね、
サイレンサーというのは、銃の発砲音を小さくする装置だ。
映画なんかでは暗殺者がそれをつけて無音で人を撃ち殺すが、実際にはサイレンサーをつけたところでどのみち爆音らしい。
とにかく烏龍がそう尋ねると、女は「バックマーク用はありませんが……サイレンサー付きでしたら」とバックヤードに引っ込んだ。
そして、なんだか年季の入った革張りのケースを持って戻って来る。
それを開けると、中には銃身の切り詰められた黒い銃と、十センチほどの長さのサイレンサーが入っていた。
「コルトウッズマン、二十二口径。ショートバレルのカスタム品です」
烏龍はそれを手にとってマガジンの状態を確かめ、軽くコッキングしてから右手だけで構えた。
そのまま左手を前に出し、右手を脇へ引き絞ってマガジンの底を胸に当てる。
拳銃は最初からそのために作られたかのように、ぴったりと構えの中に収まった。
「これを」
烏龍は歯を見せてそう言い、すぐさま場面は次のスーツ店に切り替わる。
木目調の家具に囲まれた落ち着いた空間の中、初老の女性がメジャーで烏龍の身体を測っている。
もちろん上半身は裸だ、監督曰くサービスシーンらしい。
そんなサービス中の烏龍の前の机には、様々な布見本が置かれている。
「当店の防弾繊維は特注品です。7.62ミリ、NATO弾まででしたら、五十センチからの至近弾でも防ぎ切ります」
「凄い性能じゃないか」
監督に教えてもらったのだが、NATO弾っていうのはライフルの弾らしい。
ライフルの弾っていうのは、本来重たくて分厚いセラミックのプレートじゃないと防げないらしいが……
この映画では特殊繊維で防げる事になっている。
「昨今はごく普通の暴力団員の方でも
「素晴らしいね」
そんな防弾女郎たちの中にわざわざ豆鉄砲持って飛び出ていくっていうのはどうなんだ? って思うんだけど、監督にはちゃんと勝算があるらしい。
画面の中の初老の女性はまるで内緒話をするかのように手を口にやり、俺に向かってこう言った。
「ですが、当店のジャケットを着ていても、至近距離での直撃弾にはお気をつけを……」
「……何を?」
「経験上、当たりどころが悪ければ拳銃弾でも骨が折れますので」
そりゃそうだ。
それを聞いた烏龍も、画面の中でなんとも言えない顔をしていたのだった。