あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活 作:関税破産お嬢様
今日も今日とて、スタジオやロケ先で撮影が終われば確認業務。
俺は書類仕事を終わらせるために帰ってきた拠点のオフィスで、動画が表示されたパソコンを眺めていた。
えーっと、このシーンはなんだったけか……
烏龍が踏み込んだT&Sが秘密裏に運用していたサーバー施設、そこで独自に運営していた
その調査を
「さてさて、どうかな……」
缶コーヒーを飲みながらスペースバーを押すと、動画は動き始める。
深夜の銀行本社、暗闇のオフィスに忍び込んだスーツ姿の烏龍。
置かれていたノートパソコンの電源ボタンを押すと、広く使われているOSではなく撮影用にカスタマイズされたらしいOSが立ち上がり……
数秒後に『Password?』と表示された画面が出た。
烏龍は手にはめていた白手袋を外し、指サックのようなものがついた人差し指でパソコンの指紋認証に触れる。
カットインで、その直前にハニートラップに落とした女から指紋を採取しているシーンが差し込まれた。
オフィスにカットが戻るとパソコンのロックは解除され、デスクトップ画面が表示される。
「いい子だ」
尻ポケから取り出したスマホのケーブルをパソコンに差し、画面を操作してハッキングを開始する。
スマホには
「……巡回か」
そう言った烏龍が耳をすませる演技をすると、巡回中の警備員のカットインが入る。
お婆さんの警備員はコツコツと靴を鳴らして廊下を歩き、懐中電灯を手に烏龍のいるオフィスに向かっていく。
「烏龍はこそ泥じゃなくて優雅なスパイだから!」という監督の言葉通り、烏龍はあんまりこそこそ忍ばない。
彼は逃げる様子もなく座ったまま、ポケットからボールペンを取り出した。
そして頭上に掲げ、その腹のあたりにあるスイッチを操作すると……
『ペンからステルススクリーンが出ます』という文言の書かれた画面が現れた。
ここに後でCGで追加するって事ね。
「失礼しまーす」
警備員はそう言いながら部屋に入ってきて、端から順に回っていく。
お婆さんの警備員がゆっくり歩く真横で、烏龍はステルススクリーンに隠れて座ったままだ。
まぁこういうのはリアルじゃあないんだろうけど、監督的にはこれぐらい荒唐無稽な方がいいらしい。
「…………」
巡回を終えたらしい警備員が何も言わずに部屋から出ると、その後ろには仕事を終えた烏龍が立っていた。
そのまま全く気づかれる事なくお婆さんの後をついて非常階段まで進み……
上に行く彼女に小さく手を振って、烏龍は悠々と階段を降りた。
ビデオはここで終わった。
うん、いいんじゃないかな。
なんとなくだけど、予告編で使われそうな感じの、わかりやすくていいシーンだ。
俺は夜中でも動きっぱなしの共有チャットにそのフィードバックを書き込み、パソコンを閉じた。
明日も撮影だから、体調管理のためにも帰って寝ないといけない。
あくびをしながら車へと向かうが、オフィスではまだまだ人が働いているようだ。
制作はまさに佳境といったところで、夜中だというのに電ドラの音が響いていたり、電話の呼び出し音が鳴っていたり、適当なところで毛布をかぶって寝ている人がいたり……
映画製作なんてのは、マジでやる気と体力がないとできない仕事だなと思う。
と、そんな他人事のような事を考えかけたところで、ふと自分のプロデューサーとしての立場を思い出した。
役者として
こんな事でモチベーションが上がるとは思わないが……と、そう思いながら……
俺は車に差し掛けたキーを戻して、差し入れを買い込むために近くのコンビニへと向かったのだった。
この映画における俺の濡れ場は四回。
そのうち一回目は、犯罪組織『エスクワイア』のフロント企業である、
烏龍はこの濡れ場の後、謎の仮想通貨『OSCA』の情報と『
二回目は、そのT&Sにダミー会社を通して資金を融資していた『暁銀行』のベテラン行員。
烏龍はこの濡れ場の後、暁銀行がT&Sと同じ形で融資をした『
三回目は、T&Sと同じ形でダミー会社を通した暁銀行の融資で立ち上がった会社『小陽海運』の支店長。
烏龍はこの濡れ場の後『轟製薬』が全てのバックにいて、資金洗浄のために製薬工場で作った麻薬をエスクワイアに捌かせ、
こう書くとなかなかややこしいが……
とにかく調べてみたら悪の組織の黒幕は巨大企業でしたっていう、よくある話なのだ。
「ていうか、事件をほぼ全てハニートラップで解決してますけど……烏龍ってスパイっていうより竿師ですよね?」
「おっ、透くん古い言葉知ってるねぇ」
監督は笑いながら、ホテルの一室で四回目の濡れ場の
今日行われる四回目の濡れ場は、そんな捜査を通して親密な仲になった
監督はこれまでの濡れ場も楽しそうに撮っていたが、今日は特別楽しそうで、もうずっと目がキラキラしている。
この人は本当に、濡れ場を撮っている時が一番イキイキしているな。
「しかしなぁ、金田
「でもまぁ、
「そこはね、しょうがないよね。事務所の判断だし……最初は濡れ場自体やめてくれって言ってたけど、なんとかソフトなものならって交渉できたんだよ」
台本を持った彼女が親指でクイクイと差す先には、白ギャルの事務所の強面のおばさん社員が難しい顔で腕を組んで仁王立ちしていた。
「ま、でもさ……見えるからエロいってもんじゃないんだよね、見えないからこそエロい時もあるんだよ」
「そういうもんですか?」
「そうそう、そこは腕だね、腕。でも色っぽい表情ってのはやっぱ欲しいからさ……透くん、そこんとこしっかり頼むよ?」
「そりゃあ僕自身の事は頑張りますけど……」
白ギャルの演技までどうこうできるとは思わない。
そんな不安が顔に出ていたのか、監督は俺の背中を叩いてこう続けた。
「大丈夫大丈夫! 君は君が思ってる以上に烏龍だよ」
「えぇ? どういう事っすか?」
「竿師の才能があるって事」
そう言ってから、監督はあっという顔をして腕でバツを作った。
「いけね、今のナシで。セクハラになりかねないね」
「いやいや、バリバリのセクハラですよ」
「ナシナシ!」
俺たちはそんな話をしながら顔を見合わせて笑い、白ギャルの到着を待った。
そして初濡れ場で緊張したのか、撮影用下着を着て顔を真っ赤にした白ギャルは……
俺が何かするまでもなく、十分に色っぽかったのだった。