あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活   作:関税破産お嬢様

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大人の世界と大学生

勇者ユリピコの二作目『勇者ユリピコと地獄の扉』のストーリーはこうだ。

前作『勇者ユリピコと霧の島』では天使から「世界を闊歩する魔物の親玉である魔王を倒せ」と命じられたユリピコ。

紆余曲折の大冒険の末その使命を果たし、世界中から魔物は姿を消した。

しかし二作目の舞台となる百年後、再び世界は魔物の脅威に晒されていた。

天使は寿命で死んだユリピコたち四人を復活させ、魔物が現世に現れた原因を探って旅をしていく!

……というもの。

ユリピコはごくシンプルなストーリーをコメディ調で進めていく、誰でも見れる楽しいドラマ。

そんなドラマの撮影を去年の俺は些細なNGで止めまくり、ピリカ先輩からのご指導を頂いていたわけだが……

 

「透さん、上達しましたね」

「ありがとうございます!」

 

今年の俺は去年とは違い、ニコニコ顔のピリカ先輩からそんな褒め言葉を頂いていた。

なんと今日の撮影で、俺由来のNGはとうとう一回もなし。

これが俺の自惚れでなければ、一年かけてしっかり成長できたという事だ。

 

「一期の間にもだいぶ成長していましたけど、今はなんだか一皮剥けた感がありますね」

「そうですか? ありがとうございます!」

「そういえば年末はSHINOBIにも出ていらしたようで、もう透さんもすっかりお茶の間に知られた顔になりましたね」

「いやいや、あれはある意味代打みたいなもので……」

 

夕暮れに沈む山の中、ピリカ先輩の帰りの車の準備を待つ中で始まった雑談も、いつの間にやら十分二十分と続く。

久しぶりに会うからか、話題が途切れない中……先輩はウンウンと頷きながらこんな事を言い出した。

 

「私、透さんはやはり、こちらの方が向いてると思いますよ」

「え?」

「去年の暮れに出ていらしたような恋愛ドラマもいいですが……せっかく透さんにはアクションの才能があるわけですから、まずはそちらの道を開拓していくというのはどうですか?」

 

ピリカ先輩にそう言って頂けるのはありがたいのだが……

とはいえ近々に、恋愛ドラマに出た事によって頂けたでっかい仕事もあるわけだ。

 

「いやー、個人的にはもちろん、アクションももっともっとやっていきたいんですけど。ありがたい事に恋愛ドラマの方も結構、次の仕事に繋がってまして……」

「……そうですか、まぁ透さんの芸能人生ですからね」

 

仕事は選ばないと公言しているという事もある、俺もアクションをやっている時は楽しいが……

それはそれとして、これからも明石さんがOKを出した仕事なら多分何だってやるだろう。

あ……そういえばピリカ先輩には、まだ映画の事を話してなかったな。

 

「そうだそうだ、そういえば恋愛ドラマの縁で頂いた仕事として、最近映画を作ってまして……」

「ああ、SNSに書いていたやつですか」

「あ、見て頂いてるんですね!」

「まぁ、一応? 共演もしてますし?」

 

先輩は唇を尖らせながら、ツンと上を向いてそう言った。

 

「それで、完成したらぜひ……あ、いや駄目か」

「……? なぜですか?」

「あ、いや……その映画、十八禁になる予定なのでピリカ先輩にはちょっと……」

「えっ!? じゅうはっ……!?」

 

先輩が驚いた声を上げたところで、駐車場に止まっていた白いトランスポーターのバックドアが閉まる音がした。

そちらに視線をやると、スタッフさんがこちらへと歩いてくるのが見える。

 

天生(あもう)さーん! 帰りの車の方準備できましたよー!」

「いや、ちょっと待って……透さん? 十八禁?」

「まぁまぁまぁ、盛り上がってるとこ申し訳ないですけど……早く帰らないと親御さんが心配しますから。それじゃあ八代さん、失礼しますねー」

 

ピリカ先輩はスタッフさんにズルズルと引きずられていくが、そんな中俺は俺で他の人から話しかけられていた。

相手は魔法使いケレン役の個性派女優の市村(いちむら)さん、それと剣士サンジョ役のベテラン女優の内海(うつみ)さんだった。

 

「透くん二十歳(ハタチ)なったんだって!? 飲み行こうよ飲みー、お姉さんたちがいいとこ連れてったげるからさぁ」

「え? マジすか!?」

「今期はスタートからいい感じじゃないの。神田にね、いい店があるんだよぉ。奢ったげるから、来なさい来なさい」

「えっ!? ちょ! 市村さん! 内海さん! 透さんは……大人の世界は……」

 

ピリカ先輩が何かを言いかけたままスタッフさんに連れて行かれてしまったので、とりあえず俺はそっちに向けて手を振っておいた。

例年よりも早い梅雨入りの兼ね合いもあって次の撮影は四日後だが、何かあれば電話でもなんでもしてくれるだろう。

俺はその翌日、市村さんと内海(うつみ)さん、それとユリピコの構成作家さんと一緒に老舗の蕎麦屋に行き、大人の世界を大満喫した。

そしてその休みの間に『ナンバーセブン -烏龍-』の特報映像のリリースがあったのだが……

結局、次の撮影で会ったピリカ先輩は、特に何も言ってくる事はなかったのだった。

 

 

 

 

 

ちょっと用事で明石さんに会うために、撮影の合間に久しぶりに八代へ行った六月上旬の事だ。

俺が用事を済ませ、地下に停めてあった車に戻ると……

俺の大事な中古のSUVの前に、私服の女二人が屯しているのが見えた。

しかもそのうちの一人は、俺を見るなりちょこちょこ歩いて近づいてきて……

ベン! と平手で太ももを叩いてきた。

 

「おお、久々!」

「透ぅー、なんか食わせろー」

「駄目だよサーちゃん」

 

この二人は八代芸能での俺の同期。

ソードリリーというユニットにいる、現役アイドルだった。

 

「まぁ、ファミレスでもよかったら連れてくけど?」

「イェー!」

「ごめんねー」

 

俺がピッと車の鍵を開けると、二人はそそくさと乗り込んだ。

黒髪ショートカットにピアスバチバチのサーダは俺の後ろに回り、俺より背が高い七瀬は助手席に座った。

 

「大学どう?」

「朝イチの必修ダリーッ!」

「やっぱ高校とは違うねー」

 

出会った時は高校生だった二人も、この春から大学生だ。

同い年のソードリリーのリーダーのナミも一緒の大学に行く事にしたらしく、三人ともアイドルに学業に忙しくしているらしい。

 

「今度さぁ、ゆい(サーダ)たち東京アイドルフェスタ出るんだよ! TIFだよTIF!」

「へー、凄いじゃん!」

「サマートニックも出るよ」

「めっちゃ凄いじゃん!」

 

そんな感じで後ろと隣から近況を報告されながら、八代のすぐ近くのファミレスに車を走らせ……

ファミレスではドリンクバーと料理を前に、ダラダラと駄弁る。

俺はパスタ、サーダはポテト、七瀬はミックスグリル定食と親子丼とカレーだ。

 

「そんでさぁ、ママがゆいだけじゃ一人暮らし駄目って言うんだよね」

「まぁ一人暮らしってのは色々大変だからねぇ」

「だから七瀬と一緒に大学の近くに部屋借りて、今そこから通ってるんだー」

「へぇー」

 

大学から同棲なんて、幼馴染カップルのお決まりコースじゃんか。

気が早いかもしれないけど、俺もそろそろ二人の結婚に備えて礼服の用意とかしといた方がいいのかもな。

 

「サーちゃんとは姉妹みたいなものだから」

「もう最初に会った時の事なんか覚えてないもんねー」

 

そんな仲睦まじい二人を眺めながらパスタを食べていると、七瀬が「そういえば」と話を変えた。

 

「透くんの撮ってる映画の速報見たよー、金田狂夢(くるめ)さんも出てたんだね」

「そうそう、中国拳法の繋がりでさ、出てくれたんだよねぇ」

「それだよそれー、透さぁー、水臭いんじゃないの?」

 

サーダは横からポテトで俺の顔を差すようにして、唇を尖らせながらそう言った。

 

「透が音頭取って映画撮るんならさぁ、ゆいたちも呼べよなぁー」

「えぇ? お前ら忙しいんじゃなかったの?」

「忙しくたってマネージャーがスケジュール空けるよ、映画だぞ映画ー」

 

まぁ、気持ちはわかるけど、こっちにも呼べない事情もあったのだ。

 

「普通の映画なら呼んだかもだけど、あの映画は駄目なんだよね」

「何がだよー」

「あれ十八禁になる予定だから、現役アイドルはさすがにね……」

「十八禁!?」

 

向かいの席から、七瀬のそんなデカい声が上がった。

びっくりした俺とサーダが顔を向けると、彼女はちょっと恥ずかしそうに咳払いをする。

 

「……いや十八禁っつったって、グロい方でしょ? そんぐらいならさー」

「さて、それはどうかな……?」

 

俺がニヤニヤ笑いながらそう言うと、サーダは「えっ」と声を上げた。

 

「もしかしてもしかして、あの動画の金田狂夢(くるめ)の相手って透!?」

「いやー、どうだかなぁ……」

「ちょ……透くん?」

 

そんな話をしている中、机の上に出していたスマホが震える。

 

「……あっ、ちょい電話」

「うーい」

 

七瀬が何か言いかけていたような気がしたが、俺は二人にスマホの画面の『明石さん』という名前を見せて席を立つ。

そしてファミレスから出てすぐ横の生け垣の前に移動して、マネージャーからの電話に出た。

 

「はい、八代です」

『ちょっと気になる情報が入りました。八代へ戻ってこれますか?』

「すぐそこのジョンソンにいるから大丈夫ですけど」

『ではお待ちしています』

「了解です」

 

俺は財布から五千円札を取り出しながら席に戻り、机にそれを置いた。

 

「ごめん、八代戻らなきゃいけなくなった。二人はゆっくりしてって」

「おー、頑張ってー」

「透くん……十八禁って……」

「ごめん! それもまだ情報出てないから……詳しくはまたで!」

 

二人に謝って、俺はそそくさとファミレスを出た。

スマホを見ると、時刻は十九時。

ようやく冷たくなり始めた風を浴びながら空を見上げると……

そこには呑気者の夏の月が、ようやく上がってきたところだった。

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