あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活   作:関税破産お嬢様

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MV撮影と怪鳥音

「じゃあいい? いくよー……アクション!」

 

カメラが回る。

いつも仕事で目にしているシネマカメラではなく、小さく薄いスマホのカメラだが、カメラはカメラ。

アクションの声と共に意識が切り替わったような感じがして、余計な事は頭に入らなくなる。

俺は眼の前の、八代本社ビルの外にある階段の壁へ向けて走った。

五メートルはあるその壁を勢いそのままに思いっきり蹴って、その力を上に飛ぶために使う。

 

「おおーっ!」

 

ポンと上に飛んだ俺の手は壁のふちにかかり、そのまま体を引き上げてその上に登った。

この垂直壁登りはパルクールの技で『ウォールラン』というものだ。

この間の撮影の咄嗟の動きで自分の可能性に気づいた俺は、それをセールスポイントとして整理する事にした。

というわけでパルクールやアクションの技をネットで色々と仕入れ、こうして仲間に撮影を頼んでいるのだった。

 

「はいOK! 透ー、撮れたよーっ」

 

俺と同期の女子高生アイドル候補、サーダの気の抜けた声が響き、一気に意識が現実へと帰ってきた。

壁の上の階段の柵、その外側にしがみついていた体をポンと跳ねさせ、その向こうに飛ぶ。

そして階段の上から見下ろす形で、こちらにスマホを向けている女子高生たちに声をかけた。

 

「どうだったー!?」

「オッケーオッケー! バッチリバッチリー! 透ーっ! ちゃんとモズ(百舌鳥バーガー)奢れよー!」

「全部撮り終わったらなー!」

 

俺に動画を送ってくれているのだろうか、黒髪のショートカットの裾をピアスだらけの耳にかけたサーダがスマホを操作していると……

その隣にいたサーダの幼馴染である七瀬が、なんだかうずうずしたようにその場で二度三度とジャンプをした。

 

「透くーん! 七瀬もやるーっ!」

「えっ!? 大丈夫か?」

「やってみたーい!」

 

俺もこの動画撮影にあたって、昨日は一時間ぐらい練習したのだ。

いきなりぶっつけ本番でできるような事ではない。

 

「サーちゃん撮って撮って」

「あーいーよー」

 

とはいえ、まぁ七瀬のフィジカルならチャレンジしても怪我するような事はないか。

俺は動画に映らないように、ちょっと上の段へと移動した。

 

「あーい、そんじゃー、アクション!」

「いきまーす」

 

身長190cmの七瀬が軽やかな足取りで走ってくる。

そしてそのまま軽やかに壁を蹴って、普通に壁のふちに手をかけ、そのまま上に登ってきた。

嘘だろ……

 

「透くーん、できたぁ!」

「お前すげぇな!」

 

ものが違うとはこの事だ。

凄まじいセンスだと言う他ないだろう。

結局七瀬はその後俺が撮影した、高いところから地面に転がり降りる『ロール』も、障害物を華麗に乗り越える『ヴォルト』も、向かい合わせの壁を何度も蹴って上に登っていく『180』も、一度見ただけで見事にクリアしてしまった。

 

「七瀬お前凄すぎだろ」

「透も結構凄いけどさー、七瀬は昔からこうだからなー」

「えへへ」

 

こんなのを見ていると、俺のアクションなんか売りになるのか? とも思うが……

まぁ……男と女だ、競合するわけじゃなし……

とはいえもうちょっと頑張らないとなと考えながら、俺はサーダの三倍は食う七瀬に三つのハンバーガーを奢ったのだった。

 

 

 

そんな宣材を会社へ提出し、なんか出番を増やしてもらえたらしい映画の撮影に何度か呼ばれているうちに、新しい仕事が入った。

 

『なんか危なそうな仕事だけど、大丈夫かな? こないだ事故があったばっかりだし……』

 

と、上司の上司の上司である専務の叔母に電話でそう心配されながらも、直属の上司である東大卒の明石さんから「透さん、仕事です」とそっけなく紹介された仕事。

それはミュージックビデオ(MV)用映像の撮影で、貸し切りにしたビルの屋上をひたすら縦横無尽に逃げるという内容だ。

これは男として呼ばれたわけではなく、ヘッドカメラで一人称(FPS)映像を撮影をするための背の高いアクション俳優としての起用だった。

 

「あっからここへ飛んで、ちょっと組み合って相手をあのタンクの方に蹴飛ばす!」

「組み合うって……どんな感じで?」

「そこらへんはフィーリングでさぁ、見栄えある感じで……え!? やった事ないの!?」

「型決めて貰えれば、多分できるんですけど……」

「アクション得意だっていうから呼んだのにさぁ!」

 

『オシャレ 東京』で検索したら出てきそうな、全身ブランド尽くしの監督がグラサンをズラしてこちらを睨む。

とりあえずペコペコ謝るが、別に俺は格闘ができるなんて書いてないのだ。

とはいえ、そんな事を言えるわけもなく……

とりあえずその場は殴られ役の女優さんに教わりながら軽く型を作り、不満気な監督に見せてOKを貰った。

普段行っているドラマの現場より人も機材も桁違いに少ないこの現場、なんともピリピリしていて身の置き場がない感じがする。

一日拘束で交通費別の日当一万円の仕事で、俺も高級俳優になったもんだと思っていたが、空気が悪いのはどうにも辛かった。

とはいえ、どんな現場だって待ってればカチンコは鳴るもの。

朝から二回のリハを経て、昼過ぎにようやく本番撮影開始となった。

 

「一発撮りだよ、ルートちゃんと入ってる?」

「はいっ!」

「じゃあ行きます、アクション!」

 

その声と共に、ぱちんと意識が切り替わる。

この間の事故の瞬間のスローモーション状態の経験は、確実に俺の中の何かを変えた。

あの瞬間のあの状態とまではいかないが、今もカメラが回っていると思えば余計な事が頭に浮かばなくなり、思考が加速する感覚があるのだ。

まるで自分の中の何かのスイッチが切れて、その代わりとして他の何かのスイッチが入ったかのように……

今の俺は、ただ決められた動きをこなすだけの機械となっていた。

 

「オラァ!」

 

ビルの電気系統の制御盤が入ったキャビネットの前に作られた点検用の橋、その向こうから追っ手役が来るのを、橋から飛び降りて躱す。

ダクトを飛び越え、壁を駆け上がり、階段一階分を飛び降りて転がって逃げる。

そのまま同じような場所を飛んだり跳ねたりしながら走り続けた後、ついに殴り合いの演技場所である給水塔横の開けた空間に飛び降りた。

そこに走ってきた女優の右フックを顔の横に上げた肘で受け、左足で蹴りを出して相手の腹にヒット。

 

「ぐっ!」

 

すぐに相手の左足からもキックが来るので、かがんで躱しながら相手の腰を押し、態勢を崩す。

そして立ち上がった勢いで前に飛んで空中配管の基礎を掴み、振り子のようなドロップキックで相手を蹴飛ばした。

よし、バッチリできた!

ラストはビル館内への扉に飛び込んで、ひたすら非常階段を降りていくだけだ。

 

「……はいOK!!」

 

階段を駆け下りた先でインカムを付けたスタッフさんにその言葉を貰い、ヘトヘトになりながらも屋上へと戻る。

なんでもテナントの警備の関係でエレベーターは使えないらしい。

ぜえぜえ言いながら戻ってくると、屋上では笑顔の監督が待っていた。

 

「君いいね! バッチリだった! ちょっと休んだら二テイク目いける!?」

「あ、はい……もちろんです」

 

結局俺はヘトヘトになりながらも、なんだかんだと四テイク目まで走らされ……

季節はもう秋だというのに、終盤はきっちりと汗だくになったのだった。

 

 

 

アクション=格闘、というわけではないが、どうもそれぐらいは当たり前に求められるのが現場というものらしい。

とはいえ、俺に本物の格闘道場に通うような気力があるわけもない。

毎日コツコツとか、基礎からみっちりとか、俺はそういう事が本当に苦手なのだ。

 

「いいよいいよー似てるよーっ」

 

という事で、俺は手っ取り早くそういうのを身につけるために、アクション映画の格闘シーンを適当に摘んで練習する事にした。

具体的には、時々ある七瀬とのダンス練習の後に、なるべくカットの少ない映画のアクションシーンを画面に流しながらカメラで撮ってもらう事にしたのだ。

今やっているのは、七瀬にリクエストされた古いカンフー映画の真似だ。

どうも珍しい事に彼女の家にはお父さんがいるらしく、子供の頃にそのお父さんと一緒によく見ていた映画らしい。

 

「ふっ! はっ!」

 

腰を落としながら踊るような足さばきで動き、レッスン場の鏡に向かって拳や蹴りを繰り出す。

俺は元々物覚えが良くない方なのだが……

不思議な事に、カメラさえ回っていれば、一度見た動きは簡単に記憶から引き出す事ができた。

なんだかやればやるだけ引き出しが増えていく感じがあって、俺はすっかり楽しくなってしまっていた。

 

「アチョーッ!」

「テンション上がってきたね! アチョーッ!」

 

俺が高く足を上げながら怪鳥音を出すと、七瀬も真似をして足を上げる。

チラリとそっちを見るが、どう見ても七瀬の方が俺よりキレがあって上手い。

やはり、付け焼き刃では本物の天才には敵わんな。

結局ぶっ通しで四セットほど終わったところで、いい時間になってしまった。

 

「透くん! めちゃくちゃ良かったよ! ね、ね、七瀬もやりたい! 次ヌンチャク持ってくるから、別のシーンもやろっ!」

「お前も参加しちゃったらカメラはどうすんだよ」

「えーっとね、サーちゃんも呼ぶ!」

「えぇ……まぁいいけど」

 

となると、これからはカップル二人分の飯を奢る事になるのか……

まぁ、金持ち喧嘩せずと言うからな。

俺は実家が太いのだ。

この程度の交遊費、必要経費だと思う事にしておこう。

 

 

 

 

 

uTubeコメント欄

 

カクレノミコン「Master of Rackets」Official Music Video

 

@殺すぞTV 4時間前

乳首が浮きすぎだろ!!!!!

 

@mgr-bbbb45 12時間前

この人男性? ですよね? 汗でシャツ濡れまくって乳首浮いてますよ

 

@なすBi 2時間前

た、助けてくれ……ノンケになるーっ!

 

 ︿ 1件の返信

 @FGK 1時間前

 ようこそ、『男』の世界へ……

 

@彩花 8時間前

凄くいい曲でさっそく鬼リピしてます♡

 

@69sings 6時間前

おとがいいのは当然として

つかれた心に染み込んでくる歌詞も大好き、やっ

ぱカクレノミコン最高よ

いやしい気持ちはないよ

 

 ︿ 2件の返信

 @きよみ 2時間前

 ダダ漏れですわよ

 

 @ファルコン 3時間前

 もうちょっと頑張れよ

 

@msr 6時間前

男になんか興味ないはずなのにこの揺れる雄っぱいから目が離せない

 

@たまっこ 3時間前

仕事で疲れた体にカクミコが染みる、これからも末永く活動してください

 

@jps44 2時間前

2:04 腹筋バキバキすぎてエッチコンロ点火

 

 ︿ 1件の返信

 @ロードラン 1時間前

 今日はこれでいいか……

 

@今日やる秘訣 4時間

なぜかわからないけど全く曲が頭に入ってこなかった。なぜかわからないけど。

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