あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活   作:関税破産お嬢様

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ハリウッドとラップスター

車で戻ってきた八代芸能。

十九時すぎだというのに全く人が減らない営業部で、机の上にコーヒーの紙カップを積み上げた明石さんは長い足を組んだまま俺を迎えた。

 

「透さん、以前話を進めると言っていた、金田監督を起用した映画の件ですが……」

「あ、はい……」

 

そういえばそんなのあったな。

似通う刃のロングラン上映をしている頃に、俺主演で金田(かねだ)(ファン)監督作をと八代芸能が勢い勇んで進めていた企画だ。

監督の方もやる気とかで、専務である叔母の(あおい)さんからも「多分あると思うから」と言われていたもの。

 

「その映画ですが、ちょっとわからない状態になっています」

「え?」

「金田監督は今ハリウッドで、とある映画のメガホンを取っています。元々海外でも作品が評価されている方でしたから、不祥事で降板したマリア・ヴェゼル監督の代打として抜擢されたそうで……もしその話がそのまま上手くいけば、今後八代の予算規模で仕事をお願いするのは難しくなるでしょう」

「あーっ……じゃあ、しょうがないですね……」

 

なるほど、ハリウッド監督ルートに乗ったってわけだ。

そりゃあっちで成功したら日本の映画なんか撮ってくれないだろう、予算の桁が二つ違うからな。

日本人が数億円の資金繰りに頭を悩ませている間に、あっちでは金を湯水のように使う何百億円規模の映画が、年何本も撮られているのだ。

まさに、日本とはスケールが違う。

映画作りの本場とも言える環境が、ハリウッドという場所だった。

 

「ただ、あちらも順風満帆とはいっていないようで……金田監督のエージェントから、それとなく透さんのスケジュール確認が来ました」

「え? なんでですか?」

「わかりませんが、パスポートを用意しておいてください。もし何か話があれば、すぐに受けようと思っています」

「わっ……かりましたぁ……」

「それで透さん、プロフィールに書いてありましたが、英語はできますね?」

「まぁ、日常会話ぐらいなら。親に『それだけは』って英語の個別レッスンを受けさせられてたので」

「ならOKです」

 

明石さんの話はそれだけだったらしい。

俺は次に来る時に高校の修学旅行の時に取ったパスポートを持ってくる事を約束して、今度こそ八代を出たのだった。

 

 

 

来るかわからない仕事より、大事なのは今の仕事。

という事で、俺は一旦明石さんの話は忘れ、山形でユリピコのグラサン監督の下、モノマネをしながらコメディ修行をしたりしていたのだが……

もちろんしずえもんのプロデュースの下で、SNS戦略の方も行っていた。

烏龍の撮影中に撮った写真なんかを小出しにしたりもしているが、コツコツ更新してバズを狙うのがいいとプロデューサーが言うので、それに従ってこまめに撮影もしている。

今日の撮影場所は大学が終わってから出てきた、繁華街のカラオケボックスだった。

 

「透くん、時代はラップだよ」

「ラップって、俺らが中学ぐらいの頃からずっと流行ってない?」

「透くん、君は知らないかもしれないけど、世の中ってのはダンスとラップでできてるんだよ」

「そんなもん?」

 

それもだいぶ偏った世間だと思うが……

しずえもんは映画の経費で買った一眼レフと、クソゴツいマイクを準備しながら自信満々で頷いている。

まぁ俺としてはウケが取れるなら何でもいいんだけど。

 

「お二人、コーラでよかったっすか?」

「おービッグ、ありがとう」

「ありがとね」

 

三人分のコーラを持って部屋に入ってきたのは、うちのなんちゃって相撲部の一年生。

名字を巨大(こだい)という彼は、皆からビッグマンと呼ばれていた。

ちなみに背格好は中肉中背で、傍から見れば俺の方が全然ビッグマンだが……あだ名ってのはそういうものだからな。

 

「じゃあビッグ歌って歌って」

「なんか緊張するっすねー」

 

中学生の頃からラップばっかり聞いてきたというビッグマンは今日の俺の教師役、ラップの先生だ。

 

「あんま上手くないっすけど……」

「それでもいいから頼むよ。透くん、動画じゃよくわかんないって言うからさぁ」

「しゃーないじゃん、動画って平面でしょ?」

 

そんな事を話している間にビッグマンが入れた曲は流れ始め、本当にあんまり上手くないラップを三曲、四曲と聞いていく。

連続で歌ううちに熱が入ったのか、ビッグのテンションはどんどん上がり、ラストらへんはだいぶ呂律が怪しかった気もする。

まぁでも、だいたいわかったかな。

 

「じゃあ俺もやってみようかな」

「おー、カメラ回すね」

「それ、なんか本格的っすよねー、uTube(動画サービス)っすか?」

「それもいずれはやらなきゃなーとは思ってるんだけどねぇ」

 

二人が喋っている間に曲を入れ、ソファとローテーブルの間に立ってビッグの真似をして歌う。

聴いた時は歌えるわけないなと思っていた高速ラップも、お手本から学べば案外歌えるものだ。

だが、カメラのモニターを覗くしずえもんの顔は渋いもの。

 

「透くんさぁ……ビッグの歌い方まで真似しなくていいから」

「えぇ? しょうがなくない?」

「俺ってあんな感じなんスか?」

「そっくりだよ、またモノマネ上手くなってるね」

「そりゃあ最近、ずっと仕事でやってるからな」

 

ユリピコで俺が演じるシュージンというキャラクターは、そのものズバリでものまね師という役割だった。

ボツになるものまで含めて色んな人の色んな仕草をモノマネしまくっていたからか、もう最近は本人より本人っぽいと言われるぐらいだ。

 

「まぁ叩き台はできたわけだからさ、原曲聴いてそっちに寄せてみてよ」

「そんな器用な事できるかなぁ……」

「君より器用な人って見た事ないけどね」

 

それから俺はしずえもんたちが歌っている間ずっと廊下で自習をして、なんとか予約を入れていた三時間の間に三曲分の録画を終わらせたのだった。

ちなみに、上げた動画の評判はそこそこで……リプライ欄には「上手い!」という意見と「選曲がちょっと古い」という意見が入り乱れていた……そうだ。

正直「世の中はダンスとラップでできてるんじゃなかったのかよ!」とツッコミを入れたくなるところだったが……

まぁ仮にしずえもんの言葉が正しかったとしたら、今回はラップだけやったからそこそこで終わったってとこなんだろう。

あんまり言ってると、次は踊りながらラップをやらされそうだしな。

とはいえ、しずえもんにはまだまだ腹案があったようで……

俺は三日後の大学の食堂で、食事もそこそこにスマホをいじるしずえもんにこう言われていた。

 

「透くん、勝負は予告編が出てからだよ。その時はuTubeチャンネルを作って生配信だね」

「えー、俺喋りは自信ないよ?」

「大丈夫大丈夫。事前に質問を募集して、それに答えていく形にするから」

 

クイッと眼鏡を上げながらそう言うしずえもんには、きちんと勝算があるようだ。

彼はスマホに表示した俺のTbitter(つぶやきサービス)の画面をこちらに向けながら、胸を張ってこう続けた。

 

「もうTbitterには十万人もフォロワーがいるわけだから、いい感じにフォロワーを飽きさせずにコツコツ数字を伸ばしていければ、映画発売の頃には割とちゃんとした宣伝垢になると思う」

「ぶっちゃけ十万人ってどんなもん?」

「一般人からしたらめちゃくちゃ多いけど、有名人の中では少ないかな」

「かぁー、やっぱ難しいなぁ……」

 

しずえもんは「コツコツだよ、コツコツ」と言いながら、Tbitterにいつ撮ったのかもわからない俺のスナップ写真を投稿している。

俺はそんな彼を見つめながら、何の肉だかわからない生協のジンギスカン弁当を食べていたのだが……

この時の俺は……このTbitterが原因で、予想もしなかった相手との縁が繋がるという事を未だ知らなかったのだった。

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