あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活 作:関税破産お嬢様
段取りは滅茶苦茶になったが、結果的にイルマさんの降臨は宣伝に対して好影響に終わった。
翌日には配信がネットニュースになり、生配信のアーカイブのカウンターは回り続け……
俺のuTubeチャンネルはあっさりと登録者十万人を突破。
番組を見ていてくれたらしい飲料系メーカー
明石さんからのお叱りもなかったので、あれでよかったのだろう。
当のイルマさんからは特に何も言われなかったが、生配信の二日後に『今六本木の霞というバーにいます』というメッセージだけが送られてきた。
「まぁ何でも飲みなさい」
「あ、ありがとうございます……」
オーセンティックで静かなそのバーで飲んでいる間も、特に生配信の話をされるわけでもなく……
ほぼ裸でピアノを弾くuTuberがいるという話を熱弁され、十八年とか二十一年とかラベルに書かれたウイスキーを奢ってもらった。
「だからですね、わかってますか? 女の尻には人生が出るんですよ。働き者の尻は働き者に、怠け者の尻は同じように怠けるんです」
「なるほどですね……あ、すいませーん、このスライダーバーガーっていうのください」
「逆に言えば胸は才能です、だからこそ尊く……聞いてますか?」
「聞いてますよぉ」
三回も一緒に飲めば、なんとなく扱いもわかるというもの。
彼女にとって、興味があるものとないものがバッキリ分かれているからだろうか。
俺にとってイルマさんという先輩は、そこまで付き合いが難しい相手というわけでもなかった。
「おんなっ♪ おんなっ♪ おんなぁ~♪」
「あぁ歌いだしちゃった……すいませんすいません、もう帰りますから」
ただ、興が乗って歌い出すともう駄目だ。
この人の歌は強烈すぎて、一発で
「おんなっ♪ おんなっ♪ おんなぁ~♪」
「イルマさん、さすがにお店に迷惑になりますから」
「んふふ~♪ 激モテ女のママペイで~♪」
俺はご機嫌に歌い出す彼女と一緒にタクシーに乗って、きちんと八代芸能へと送り届けた。
なんだかすっかりお世話係だなぁ……
まぁ別に、俺はいいんだけどね。
飲みといえば、黒ギャルにも誘われて飲みに行った。
烏龍の撮影終了後の打ち上げ以来に会う彼女は、大きな試合後とかでかなり痩せていた。
とはいえ、デカくてゴツくて、しかもいかついサングラスをかけた彼女はやたらと目立ち……
人通りの多い待ち合わせ場所なのに、その周りにはぽっかりとスペースができている始末。
なんとなく話しかけづらかったのだが、俺が近づくとあっちからトコトコ近づいてきた。
「おっ、おひさです!」
「何そのグラサン?」
「こないだの試合で目の周り縫ったばっかなんで」
「酒飲んでて大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫」
その言葉通り……二人で入った焼き鳥屋で、少し伸びた金髪をチョンマゲにした黒ギャルは酒をしこたま飲んだ。
「おねーさん、メガハイボール三つ、え? そうそう、三つね。透さん、何でも飲んでくださいよ! 大丈夫ですよ、ファイトマネー入ったんで」
そんな事を言いながら、彼女はバンバン度数の高そうな酒を頼んで俺に回す。
「これ凄いですよ、崎山十二年ですよ十二年。最近プレミアついてるらしいですよ」
「あ、うん……」
こないだ十八年を飲んだとは言わないが、まぁ酒は美味しい。
うちの
とはいえ、どれだけ飲んでも全然酔わないのだが……
逆にそれで歯止めが利かなくて、身体には良くないんだろうな。
「透さん、明日は早いんすか?」
「明日は学校、二限からだけど」
「おっ、じゃあ結構深い時間までいけますね」
黒ギャルは嬉しそうにそう言いながら、美味そうに焼き鳥を頬張る。
最近の戦績の話や、うちの学部よりも全然偏差値が高い出身大学の話なんかを聞きながら、彼女の行きつけだという二軒目に移動。
そっちでも値段と度数が高いお酒を勧められ、ダラダラと飲んでいると……
いつの間にか黒ギャルが酔いつぶれていた。
「あー、
「あ、そうすか?」
黒ギャルの昔のバイト先だったというこの店。
そこの壮年の店主が朗らかにそう言うので、俺は支払いを済ませて店を辞した。
一軒目は黒ギャルが払ったので、これでだいたいワリカンになるだろう。
翌日、ご機嫌伺いのようなメッセージが来たので「気にしなくていい」と返しておいた。
酔い潰れる場所をきちんと選んで潰れてくれたしな。
もし道端で潰れられたりしたら、自分と同じぐらいデカい人を背負って運ばなきゃいけないところだったけど。
そんな真夏の最中、ユリピコ二期の撮影が無事に終了。
低予算ドラマながら打ち上げはホテルの会場を借り、関係者を丸ごと集めて結構盛大に行われる事となった。
主役のユリピコのパーティが集まるうちの卓では、ちょっと日焼けしたピリカ先輩がおめかしをして隣に座っていた。
「透さんは、この先の仕事の予定とかどうですか?」
「いやー、実はスケジュールがポッカリ空いてて」
「そうなんですか、まぁこの仕事は波がありますからね」
今日はビュッフェ形式の打ち上げで、各々が好きなものと酒を取ってきて飲食している。
ピリカ先輩はシェフがその場で作ってくれるステーキとオムレツがお好きなようで、既に同じメニューで二周目に入っていた。
「せっかくですし、今日来てる関係者にも売り込んでみたらどうですか? 私の知っている人を紹介しましょうか?」
「うーん、それもいいんですけどねぇ……今持ってる仕事との兼ね合いもありそうなんで」
なんとなく今スケジュールが空いてるのも、明石さんの意図な気がするんだよなぁ。
彼女は俺がガチの素人だった時代から、マジでガンガン仕事を取ってきてくれていた営業の鉄人だ。
明石さんがその気なら、俺が大学に通えないぐらいに仕事を詰め込む事だって可能だろう。
どうもなぁ……マジで例のハリウッドの話を狙ってるんじゃないだろうかって感じがするんだよな。
そんな事を内心で考える俺の隣で、ピリカ先輩はオレンジジュースを片手に役者としての戦略を熱弁してくれていた。
「ですから、透さんなら
「あ、はい……聞いてます」
ピリカ先輩の話を聞きながら、俺もローストビーフを食べてビールを飲む。
そんな俺の眼の前に、色々な料理が盛られた皿がドンと置かれた。
「色々貰ってきたから、二人も食べて」
そう言ってくれたのは、ピリカ先輩とは反対側の隣の席に戻ってきた、主演の
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
「ピリカちゃんの真剣仕事論の話、だいぶ盛り上がってるんだね」
「
「ごめんごめん」
いつでも真剣なピリカ先輩にキッと睨まれた腰高さんは、苦笑しながら手を振る。
二年の付き合いで、主演陣はみんなだいぶ気の置けない仲になった。
特にピリカ先輩は中学生とは思えないぐらいしっかりしていて、同時に誰よりもアツく……
たまにこうして揶揄われながらも、やはり一目置かれていたのだった。
「透くんは大学出た後どうするの? 役者一筋?」
「一応そう考えてますけど……」
「結婚とかは? 考えてないの?」
俺の左で腰高さんがそう言うと、反対側からは脇にぐいっと小さな肘が押し付けられる。
「透さんは今大事な時期ですから、もうしばらくは仕事に専念してもいいんじゃないですか?」
「まぁ男の人は若いうちに子ども作らなきゃって事もないからねぇ……」
「そうですよ、透さんぐらい才能があるのならば、あえて周りに合わせる事もないと思います」
まぁ俺も法令結婚年齢まではまだ時間があるし、セクシー計画もまだまだ途中。
結婚相手に関してはゆっくり探すというのは、俺としてもそう考えていたところだった。
しかし、ちゃらんぽらんな夢を追って生きている俺とは違って……
ピリカ先輩はきっと、しっかりとした人生設計を持っているんだろうなぁ。
「もう三年ぐらいすれば、いい出会いもあるんじゃないですか?」
「え? 三年ですか?」
「そうそう、どっしり構えるが吉ですよ……」
ツンと唇を尖らせながらウンウンと頷く先輩には、一体何が見えているんだろうか。
まぁさすがに俺ももう三年ぐらいしたら、一人目の奥さんぐらいはいて欲しいけど。
なぜかニヤニヤ笑いながらピリカ先輩を見つめる腰高さんを不思議に思っていると、テーブルの向かい側に酔っ払いたちが帰ってきた。
「君ら! 酒もっと飲んだ方がいいぞ! 結構いい酒あるよ、いい酒」
「うんうん、ウイスキーも結構種類があってな……全制覇ぁ……してきたぞぉ」
どうやら魔法使いのケレン役の個性派女優の
二人はだいぶ陽気に出来上がっていた。
「透なんかはウイスキーとかどう? あんま大学生は飲まない?」
「いや、結構飲みますよ」
「このブルジョア大学生! 何飲んでんだぁ普段、お姉さんに言ってみなさい」
市村さんはケタケタ笑いながらそう言い、内海さんは持ってきた透明なグラスを飲みながらウンウン頷くばかり。
「まだ一人だとあんまり飲まないんですけど、たまに人に飲みに連れてって頂いたりって感じですかね」
「人にぃ? あっ! わかった! イルマだろ、櫛灘イルマ、こないだTbitterに上げてたよね~ん」
「同じ事務所の先輩ですから、連れて行っていただく機会がありまして……」
なんで事を話していたら、右側からスーツの太ももをつねられた。
「えっ? 何すか? ピリカ先輩」
「別に……?」
唇を尖らせたピリカ先輩はそっぽを向き、それを見ていた腰高さんは反対側で爆笑する。
なんだかよくわからない事もあるが、楽しい夜はそんな感じで更けて行ったのだった。
そして夏といえば金劉会の合宿だ。
ユリピコの撮影が終わり身体が空いたので、今年はこちらにも三泊四日丸々参加し、そっちでもしこたま酒を飲んだ。
そしてまたイルマ先輩に呼び出されては酒を飲み、大学の相撲部でもビアガーデンに行き。
なんだか楽しいばかりの夏を過ごしていたのだが……
俺が飲んでいる間にも、しっかり仕事をしていてくれた人がいた。
「透さん、井門監督から完パケが届きました。試写会を行いますが、構いませんね」
「もちろんです!」
八月の末。
『ナンバーセブン -烏龍-』の編集が完了した事が明石さんから告げられ、スポンサーや関係者を招いての試写会が行われる事になった。
いよいよ、俺のお飾りプロデューサーとしての仕事も大詰め。
俺に本当に色々な事を体験させてくれたこの映画が、ようやく人の目に触れようとしていたのだった。