あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活 作:関税破産お嬢様
お茶を入れ、隣に座りながら、どちらからともなく話を始める。
そんななんでもないシーンが、井門監督の気合のディレクションにより……
今一番輝いている女優の魅力を、切り取って封じ込めたかのような煌めきで満ちていた。
『ねえ烏龍、この任務が終わったらどうするの?』
『またどこかで悪を倒すさ』
『休みはないの?』
『休んでいるだろ? 今』
烏龍はそう言って笑い、篠崎の髪を撫でる。
言っちゃ悪いがどうでもいい会話のシーンに、なぜか緊張感が満ちていく。
何かが始まりそうな予感が、画面全体に浮かんでいるかのようだ。
『ねぇ、私たちもう会えないの?』
『会えるさ、君が望めばいつだって』
『……うそ』
ストーリーの中で、ずっとバディとして動いていた二人。
その間に芽生えた友情が、夕闇に沈んでいく窓の外を背景に、男女の情へと収束していく。
そんな上手い具合に出会う女みんなが異性愛者で、全員に惚れられるか? とも思うが、監督曰く順序が逆らしい。
出会う女みんなに惚れられる事で、烏龍というキャラクターの魅力が裏打ちされるとかなんとか。
あやかりたいね、俺も。
そんな画面の方はカメラワークがだんだん怪しくなり、顔から足へ、足から肩へ、否応なく期待感を煽られるカットばかりだ。
『ねぇ、最後なのよ?』
『最後じゃないさ』
『お互い、もう明日の昼には死んでるかも』
『死なせない』
『私の事、大事に思ってくれてるの?』
『もちろん』
『……ね、言葉だけじゃ信じられないかも』
その言葉のあとすぐに、立ち上がって近づいた二人は激しく口づけを交わした。
会話の裏に漂っていた緊張感は極限まで高まり……
そして次のシーンで爆発した。
白ギャルが脱いだのだ。
その白い背中が、尻の割れ目が、まるで芸術品のようにライティングされて浮かび上がる。
「おおぉ……」
会場中から、そんなどよめきが起きた。
煽って煽って、ついに脱ぐ。
映画の全てはアクションだというが……
たしかに井門監督の撮るスケベシーンはアクションだった。
「おおっ!」
どこからか嬉しそうな声が上がる。
スクリーンに映っているのは、ど真ん中のベッドシーン。
しかも、もうこれは……完全にヤッている。
いや、入っている。
そうとしか見えないシーンだった。
『あっ……んんっ……』
白ギャルの吐息が漏れるたび、会場の視聴者からも荒い鼻息が漏れる。
身をもって入れていない事を知っている俺ですら「もしかしたらヤッてたかも……」と思うぐらい自然に、そのシーンは撮られていた。
局部も、胸の先も、本当は何も映っていない。
だというのに、そこに
構図も息遣いも……完全に二人がヤッているようにしか思えない。
会場中のスーツの女たちが、今をときめく新進気鋭の女優の濡れ場にのめり込んでいた。
「すげぇ……」
思わずそうこぼすと、隣から肩をバンバン叩かれる。
監督も、さすがにこのシーンには大きな手応えを感じているようだ。
続くシーンは最終決戦、大爆発させるために郊外に設定された
烏龍はまずそこに行く前に路地に車を止め、武器を売っている裏の自動販売機から色々と物を買い集める。
そして作中幾度となく登場しているひばりグループの飲食店へと向かい、テイクアウトした物を食べながら敵の本拠地へと車を走らせた。
到着したのは、農地の中にそびえる巨大な工場のような建物が見える道。
そこで車から降りた烏龍が確認した腕時計の針は、八時四十分を指していた。
『UNISの隊員は正面から突入するわ』
『
『暴れるって、どうするの?』
『さっき色々と補充してきたところだ』
そう言いながら、烏龍はジャケットの内側を彼女に見せる。
そこには自動販売機から調達してきた、様々なスパイガジェットが吊るされていた。
そこから建物内に突入した後はもう、ぐっちゃぐちゃのバイオレンスだ。
銃で撃ち、シャッターで押しつぶし、工具で切断、スパイ道具の糸で釣り上げ、タバコの代わりに爆弾を咥えさせて爆発させたり、トイレの便座ごと爆殺したり。
バイオレンス表現に大切なのはフレッシュさ、という井門監督の信条通り、これまで見た事もない悪ふざけのような殺戮シーンが続く。
そして場面は、巨大なタンクが立ち並ぶ、麻薬の原料を加工する施設での……金劉会のアクション俳優たちとの格闘戦に移る。
『
銃が撃てない理由を手早く説明して、あとは本当に身体をぶつけ合ってのバチバチの肉弾戦。
「おおーっ!!」
戦いが進むにつれて、そんな歓声が一部から沸き起こる。
たぶんだけど、金劉会の関係者が座っているエリアだろう。
あの人たちが喜んでくれるのなら、この映画への協力をお願いした俺としても一安心だ。
そして画面の中では全員を叩きのめした烏龍の元に、ノートパソコンを小脇に抱えた篠崎が駆け寄ってきた。
『烏龍! この建物には証拠隠滅のための爆弾が仕掛けられているわ! タイマーは残り百二十秒! 轟製薬側から起動したみたい!』
『証拠は見つかったか?』
『やり取りを行っていたらしきパソコンを見つけてきたわ、あと金庫の中にあった記憶媒体も』
『よし、急ぐぞ!』
『篠崎から本部へ、この建物はあと数分で爆発します! みんなを外に出して!』
後ろで本部に連絡をする篠崎に先行し、烏龍はこれまでの道を全速力で逆走していく。
立ち塞がる敵はカンフーと拳銃で排除し、時には篠崎が撃ち殺し、血まみれの狭い廊下を走り抜ける。
そして外へと出てなお走り続ける二人の背後では……
さっきまでいた建物の天井から、巨大な爆発が巻き起こったのだった。
結局、烏龍たちが持ち帰った証拠を突き付けられた轟製薬は社長を含め複数の役員が逮捕、暁銀行を含めた今回のスキームに関わった企業にも捜査のメスが入り、大量の逮捕者を出す事となった。
そんなラジオニュースを背後で聞きながら、篠崎の運転するスポーツカーは東京の都心を走る。
カメラが車内を回るが、烏龍の姿はない。
そんな中、独り言のように篠崎はこう言った。
『次の仕事はベルリンなんでしょう? 本当に、パートナーはあたしでいいの?』
『言っただろう? 最後じゃないって』
そう言いながら、倒していた座席を戻す形で烏龍が現れ、篠崎の唇にキスをする。
その場面を後ろから映すカメラがどんどん引いていき……
最後は空から烏龍たちの車を映すショットで、映画は終わった。
スタッフロールが流れ始める中、会場からざわめきのような拍手が起こり始め、隣から肩を叩かれた。
横を見ると、笑み全開で歯を全部剥き出しにした井門監督が、大きく片手を上げてこちらを見ている。
パァン!
俺は劇場内に大きな音を立てて、そんな彼女とマナー違反のハイタッチを交わしたのだった。