あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活   作:関税破産お嬢様

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ナイフと白ギャル

サーダや七瀬にハンバーガーやファミレスを奢りつつ居残り練習をし、格闘系の宣材を沢山増やした甲斐があってか、冬に入る頃にも一件アクションの仕事が来た。

ヤンキー漫画のドラマ化の仕事で、役どころは主役たちに倒されるその他大勢だ。

主役側のヤンキー高校のメンツに一人男がいるらしく、そのお相手としてのセリフ付きの大抜擢だった。

その現場で撮影現場の廃ビルの端っこに陣取り、このドラマの黒一点である俳優の一ノ瀬マコトさんと一緒に演技指導を受けていた時の事だ。

振り付け師から「とりあえずやってみて」と言われ、俺とマコトさんはゆっくりとした動きで探り探り腕や足を動かしていた。

 

「ホアーッ!」

「……ちょっとストップ! ……あんた、何系?」

「アタッ! ……え? や、八代芸能です……はい」

「じゃなくて、武術。どこの道場?」

 

自身も役者としてこのドラマに出演しながら、アクション系の振り付けの仕事も行っているというド派手中華白ギャルが訝しげに俺を睨んだ。

パンダのワッペンが貼り付けられ、クソダサ英語がプリントされたピンクに銀ラメのジャージを着た彼女は、華僑系の役者で金田(かねだ)狂夢(くるめ)という。

ちなみに年はこないだ十九歳になった俺の三個上で、名前は本名なのだそうだ。

 

「えーっと……道場とかは通ってなくて」

「独学? 映画の真似かなんか?」

 

銀のスタッズが生えまくったキャップに包まれたウェーブする黒髪の先をいじりながら、彼女は不満げにそう聞く。

まぁそうか、付け焼き刃も付け焼き刃だから……見る人が見りゃわかるよな。

俺は彼女にぺこりと頭を下げる。

 

「すんません! 映画から学びました!」

「別に怒ってるわけじゃないけど? そのまんまじゃ使えないってだけ」

 

怒ってるわけじゃないと言いつつも、その声色は全く怒っているように聞こえる。

まぁ、こういう人はこの女社会にはままいるものだ。

上下関係さえ守っていればそうこじれる事もないので、俺は別に苦手とも思っていなかった。

 

「すんません! ご指導お願いします!」

「動き自体はいいけど、こんなドラマ殴るシーンはカット割って終わりなんだから、あんたの見せ場じゃないわけ」

 

そう言われればたしかにそうだ。

なるほどそう考えると、映画の主役からラーニングした俺の格闘アクションはミスマッチだったかもしれない。

俺はエキストラ、相手を目立たせ自分は目立たない、そういう事だな。

 

「一対一ならちょっとピリっとさせた後はサクッと打たれて負ける、こういう現場はそれが基本だから」

「ありがとうございます! 勉強になります!」

「ん、あんた普段どんな現場行ってんの?」

「アクション系の、パルクールとか……」

 

ちょっと盛った。

パルクールの仕事なんて一回しかやっていないが、まぁ嘘は言っていないからいいだろう。

 

「パルクール? じゃあ結構動けんだ。バク転とかできる?」

「はいっ!」

 

俺はちょっと下がって、クルッと宙返りをした。

こういうのはパルクールの練習を始めた時に、一通り一緒に習得したのだ。

 

「それバク宙ね、ふーん、そこそこ動けんだ」

 

胸元まである黒髪の先をピッと指で弾いて、彼女は俺の前から二歩左横にズレた。

 

「マコト、横で真似して」

「あ、はーい」

 

金髪をオールバックにした今日の俺の敵役のマコトさんが、俺の前で空手っぽい構えを取る。

 

「そっち、右から踏み込んで正拳突きで胸を打つ」

「はいっ!」

 

俺はゆっくりと踏み込んでゆっくりと拳を出す、すると右斜め前のギャルがまるで本当に胸を打たれたかのように後ろへ下がった。

やっぱり本物のアクション俳優は凄い、胸を打った拳が見えるようだ。

 

「そのまま左で顔、の顎らへん。本番も当てちゃだめよ」

「はいっ!」

 

伸びた右手を引きながら左手で顎に拳を出す。

 

「そんで左の膝蹴り、服に触る程度に」

「はいっ!」

 

マコトさんのジャージに当たるぐらいでキュッと止める。

すると、マコトさんの隣で同じ姿勢をしているギャルは、大げさに腹を抑えてよろよろと後ずさる。

三歩ほどで止まって、体を戻して膝に手をつく。

 

「マコト、相手を睨みつけてこの野郎!」

「この野郎!」

「で、マコトが二歩踏み込んで右の回し蹴りを打つから、当たったら大げさに吹っ飛ぶ」

「なるほど」

 

マコトさんがゆっくり二歩踏み込んできて回し蹴りを打つので、俺はスネのあたりが腹に当たったところで後ろへ吹っ飛んでゴロゴロと転がった。

吹っ飛ぶ演技は映画にもあったから練習済みだ。

やっててよかったカンフー映画だ。

 

「ん、そんなとこかな?」

「ありがとうございます!」

「ありがとうございまーす」

 

演技をつけてくれたギャルは、なんだか満足そうに「ん」とだけ言って次の場所へと向かっていった。

 

 

 

ほどほどに練習をした後は、ロケバスで着替えがてら弁当を食べる。

男一人の現場ならトイレで着替えだが、この現場のマコトさんみたいなちゃんとした男の俳優がいるとその余録で俺もロケバスが使えるってわけだ。

 

「透、ごめんね? びっくりしたでしょ」

「えっ? 何がですか?」

狂夢(くるめ)ちゃんだよ、狂夢ちゃん。あの子いつもああいう感じでさ……」

「え? 何かありましたっけ?」

「いや物の言い方とかさ、普通あんな言い方しないじゃん、ズケズケさぁ……監督やクライアントならまだしも、役者同士だからね……」 

 

マコトさんはなんだか苦々しげにそう言うが、よく考えたら彼も白ギャルからは呼び捨てで呼ばれていた。

白ギャルはたしか二十二歳、三十代の彼よりも芸歴が長いって事は多分ないだろう。

まぁ、俺からしたら年上だし、芸歴も実力も上、何を言われても全く気にはならない相手だった。

 

「いや俺は全然気にしないんで、大丈夫です」

「あ、そう? やっぱアクションも凄いし透って体育会系?」

「いえ、中高帰宅部でした!」

「あ、そうなんだ。俺は演劇部」

「へぇーっ、そうなんですね。今思えば俺も入っとけばよかったなぁ、演劇部」

 

マコトさんは中学から演劇部でずっと演技を続けてきて、高校を出てからは劇団入り。

その後はちょくちょくテレビに出るようになって、今は結構売れてる枠に入る役者さんなのだそうだ。

ちなみにこないだ一緒の現場になった安井さんともたまに飲みに行く仲らしい。

 

「今度透も来なよ」

「いやー、行きたいんスけど……俺まだ十九で……」

「あ、そう? そういうの気にする人?」

「まぁ、一応は……」

 

俺が七光りのボンボンじゃなきゃ気にしなかったと思うが、実際はバリバリ創業者一族の一人なのだ。

その会社に寄生し、こうして分不相応な現場に送り込んでもらって甘い汁を啜っている立場である以上、間違っても余計な事で迷惑はかけられない。

マコトさんには「二十歳になったら連れてってください」とお願いをし、その後は安井さんもやっているデジタルカードゲームで対戦をしたりしながら出番を待った。

 

 

 

そしてやってきた本番の撮影は、大勢の人の息遣いと、バッキバキに照らされたライトの熱気の中で始まった。

 

「はいじゃあいきます、アクション!」

 

真っ白に照らされた階下を見下ろしながら、監督のその言葉と共に意識が切り替わる。

 

「うらぁ!」

 

そう叫びながら、廃ビルの抜けた床へ飛び込み、クルッと前転してから下の階へと降りた。

どうも白ギャルが監督に俺の事を伝えてくれたらしく、こういうアクションを増やしてもらえたのだ。

白ギャル様々だった。

 

「てめぇは……」

「鶴学の田代だな? おめぇは俺が相手だ……」

 

泥まみれの学ランを着て、顔に血の滲むメイクを施したマコトさんと相対し、俺はそうセリフを言う。

実はこれ、三テイク目だ。

監督に「ちょっと棒だよね」と怒られ、本当はもう少しあったセリフは現場で削られてしまっていた。

アクションは結構簡単に覚えられるのに……演技はカメラで撮ろうが素の実力のままなのが悲しい。

 

「こちとら急いでんだよ、どいてもらうぜ!」

 

その言葉と共に飛んでくるマコトさんの蹴りをバック転で避け、ゆっくりと首を回しながら近づいていく。

本当はここでもセリフがあったのに……まぁ、反省は終わってからにしよう。

俺は最初に決めた振り付け通り、踏み込んでワンツーを打ち、膝蹴りでマコトさんを弾き飛ばす。

テイク三までやったおかげか、今のは皮一枚で止められた。

多分観客には本当に当たっているように見えるだろう。

 

「この野郎!」

 

マコトさんが踏み込んできて「ぐわっ」と声を出しながら回し蹴りで吹き飛ぶ。

ゴロゴロ転がって、服が汚れるように砂まみれにされた地面に顔面をつけて止まる。

 

「俺の相手するにゃあ百年はええんだよ」

 

そのセリフと共に「カット! OK!」の声が響く。

俺も起き上がって、周りに「あざした! あざした!」と頭を下げる。

助監督に「お疲れ様でした」と言われて、出番終了だ。

いい仕事ができたとウキウキで顔を洗い、服を着替えて帰りかけたところで、休憩中らしき学ランを着た白ギャルに出会った。

 

「あ、お疲れ様です! 今日はありがとうございました! お先です!」

「あんた、名前何だっけ……?」

「え? 透ですけど」

「ふーん、あんたさぁ……」

「はいっ!」

「アクションはいいけど、演技駄目だね。練習しな」

「えっ……わかりました!」

 

そう言って頭を下げながらも、俺の心には「演技駄目だね」というどデカい言葉のナイフが突き刺さっていた。

マコトさん……ロケバスで白ギャルについて言ってた事……

俺、ちょっとだけわかったような気がします。

結局あまりに悔しかった俺が白ギャルの出演した映画を確認し、その才能に恐れ慄く事になるのは、少しだけ先の事だった。

 

 

 

 

 

まとめブログ

 

狐狼ズZERO 実況スレ

カンナ大暴れ

 

810:名無しさん視聴中 ID:lkKNujCPQ

やっぱカンナ(くるめ)いいよな、華あるわ

 

812:名無しさん視聴中 ID:rqyNMlmMd

髪の艶ヤバイよな

 

813:名無しさん視聴中 ID:MF8K0WNYj

スナップメイト(写真SNS)だとめちゃくちゃギャルなのもいい、どエロい

 

815:名無しさん視聴中 ID:SUam46wcR

中国人なのに日本語上手いよなー

 

816:名無しさん視聴中 ID:pHnDSKx1w

華僑の三世だろ? 日本育ちで国籍も日本だし完全に日本人だよ

 

817:名無しさん視聴中 ID:Kl4J0nv44

金田狂夢(くるめ)だけやっぱ動きのレベル違うわ

 

819:名無しさん視聴中 ID:Ts07g78Dq

元々体操の国体選手だしな、結婚したいわあたし

 

820:名無しさん視聴中 ID:9xAoGKE2Q

おっ、京八(マコト)来た

 

821:名無しさん視聴中 ID:Efc1SuTZt

京八役の人もうおじさんでしょ、さすがに学ランは……

 

822:名無しさん視聴中 ID:/xuIIRQmF

しゃーねぇべ、男の役者は層薄いから

 

823:名無しさん視聴中 ID:Wbt6YP1Em

おっ、京八とは別軸のイケメン登場

 

825:名無しさん視聴中 ID:9EnnPFhXm

おおっ! 動ける!

 

827:名無しさん視聴中 ID:zRoWl+sTV

顔は可愛いけどちょっと棒か?

 

829:名無しさん視聴中 ID:TS0reFFgD

ちょっとじゃないだろ

 

831:名無しさん視聴中 ID:5WalWOqkp

モデルさんかなんか呼んできたのかな?

 

832:名無しさん視聴中 ID:8OONxNCoX

男のモデルなんか知らんよ

 

834:名無しさん視聴中 ID:lEiT+sGmd

めっちゃ吹っ飛んでて草

 

836:名無しさん視聴中 ID:Y1XgxIJh0

京八ほんとに殴られてて痛そうだったな……

 

838:名無しさん視聴中 ID:qVG+XviXL

こいつのが痛そうだろ

 

840:名無しさん視聴中 ID:L11pXatqp

こいつ孤飯の五反田回で唐揚げ食ってた奴じゃね?

 

843:名無しさん視聴中 ID:Y1XgxIJh0

>>840 バク転しながら食ってた?

 

847:名無しさん視聴中 ID:L11pXatqp

>>843 座ってたけど美味そうに食ってたよ

 

 

 

引用元://OBAch.bb/

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