あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活   作:関税破産お嬢様

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ウィッシュボーンとフューチャースターズ

みんな(・・・)が聞いている映画のストーリーはこうらしい。

魔法使いを名乗る祖母がくれた魔法の骨(ウィッシュボーン)で、六十年代にタイムスリップしたオタクの少女アシュリー。

彼女は未来で家族が死ぬきっかけとなったロックバンドの躍進を止めるため、自分の知識で歴史を変えようと決意する。

そのバンドが躍進するきっかけとなったサマーフェスティバル。

その自分のステージで客を全てかっさらう事を計画し、未来の曲で歴史を歪めていく。

そういう話だ。

だが、金田監督は普通の監督じゃない。

この通りに進む保証など、どこにもないのだ。

 

『監督が来てからまずやった事は、全ての脚本の回収ね』

『なるほど』

 

タムタムに肘をかけたケイトが、指を折りながらそう話す。

今は明日のバンド演奏シーン撮影のための練習、その休憩中だった。

しかし、脚本を回収か……

たしかに似通う刃でも脚本は配られなかったからな、金田監督らしいやり方かもしれない。

 

『当然全米脚本家組合(WGA)の抗議があって、まだ今も揉めているみたいだけど……あたしにはあたしのやり方がある! って全ての権力を握ろうとしてるみたい』

『まぁ金田監督って、そういうところがあるから……』

『前の現場ではどうだったの?』

『出番を賭けて殴り合いさせられたりしたかな』

 

俺が口の端で笑いながらそう言うと、ケイトは吹き出して笑った。

 

『それって笑える』

 

豪快に笑いながら、彼女は手のひらでシンバルをシャーンと叩いて鳴らす。

音量を絞って練習していた他の二人の視線がキッとこちらを向き、ケイトはオゥ!と肩をすくめた。

ギターのイングリッドとベースのキンバリーは、元々楽器経験者だったらしい。

だがそれでも実際バンドで合わせてみるとなると、なかなか上手くいかない事ばかり。

普通はこういうバンド映画やドラマでは、役者の動きにプロの音を当てる『当て振り』が行われるのだが……

金田監督は「バンド映画の一番大事な所で嘘ついてどうする!」とそのプランを一蹴し、役者による演奏を選んだらしい。

 

『そういえば透はドラム上手だけど、どこで学んだの? 学校のビッグバンドにいたとか?』

 

音がデカくて練習できない俺と喋るしかないケイトは、二人に睨まれてなお話を続けるつもりのようだ。

彼女は組んだ腕と顎をタムタムに乗せて、上目遣いでそう聞いた。

 

『いや、こっちに来てからだけど』

『いやいや……そういうのはいいからさ、教えてよぉ』

『いや、マジでそうなんだけど……』

 

小声でそんな事を話して、休憩時間が終わればまた練習をして。

あっという間に夜は更けていき、解散となった。

そして翌朝の最終練習を挟んで、ガレージスタジオでの練習風景と、小さなバーでのファーストライブのシーンの撮影が始まった。

 

『今日このバーにいるあんたたち! あんたたちロサンゼルスいちの幸運者よ! フューチャースターズ(あたしたち)という伝説に出会えたんだからね!』

 

アシュリー(ケイト)のその宣言と共に、俺はドラムをドパッ! と叩き、その後すぐにジャーン! とシンバルを鳴らして盛り上げる。

そしてそのまま、バンドは曲の演奏に雪崩込む。

俺のドラムにキンバリーのベースが乗っかり、イングリッドのギターが世界を広げ、ケイトの歌がその上を走っていく。

昨日散々合わせた曲だったからか、ラストまで誰一人トチる事なく()りきれた。

やり切れたのだが……

 

『全然ダメ! 特にベース! もう一回練習!』

 

どうも、まだまだ監督の求めるクオリティには達していなかったようで……

俺達のバンド演奏場面は無事、練習に差し戻しになったのだった。

そしてその撤収の最中、俺達は金田監督と助監督の間の、気になる会話を聞いてしまった。

 

(ファン)、何を焦ってる? こんな場面後回しにして、ゆっくり練習しながら他の撮影を進めればいいじゃないか! ドラマーが変わったんだぞ? 普通のバンドだって、いきなりいい演奏は無理だ』

『透は問題ない』

『そりゃああいつは問題ないさ、腕見りゃわかる。プロのドラマーなんだろ? でも他の子たちは楽器は本業じゃないんだ、そもそも私は今日のテイクだって十分な出来だったと思うぞ』

 

俺、プロじゃないんだけどな……

そう思いながらゆっくりと水を飲んでいると、どうやら俺の他のメンバーたちも同じように聞き耳を立てているようだった。

 

『まさか……あんな与太話を真に受けてるのか? もう三十年も起こってないんだ、今の時代にはあり得ない、あり得ないんだよ!』

『…………』

 

なんか、色々あるみたいだけど……

役者は役者、言われた通りにやるだけだ。

 

 

 

という事で、俺たち役者陣の、バンドを主軸に据えた新生活が始まった。

日中は撮影、夜はバンドの練習、休日は自主練習……という名目で集まりまた練習。

サビ残だのワークライフバランスだの、そんな事を言う人間はどこにもいない。

この世界、結果を出さなきゃ先はないのだ。

 

『透は本当にドラム上手いね、ブライアンの百倍上手いよ』

『そ、そうなんだ……』

 

そんな、ありがとうとも言いにくい褒め言葉を言ってくれたのは、ネイティブ・アメリカンの血を引くイングリッドだ。

幼く見える割に俺の四歳年上だという彼女は、アマチュアバンドをやっていた経験があるというだけあって、かなりギターが達者だった。

 

『透は金田監督の秘蔵っ子って聞いてるけど、あの監督マジで大丈夫?』

『え? どういう意味で?』

 

俺がそう聞くと、バスドラムの上に腰掛けた彼女は、背中越しにこちらへ目を向けた。

 

『ちゃんと完成させる気あんのかなぁって。もう聞いてるかもしれないけど……この映画、前の監督から変わった時にキャスト総入れ替えしてるからね』

『えっ? そうなの?』

『前の監督の分も含めると、この映画もう結構時間かかってるんだよね。金田監督が来てからも、もう四ヶ月経ってるし』

 

そう言いながら、彼女はギターの弦をチューニングし始める。

ビーンと鳴る高い音が、二人の間に流れた。

 

『そんでさぁ、結構撮影進めてたブライアンまでクビにしちゃうんだから……ここだけの話、みんな結構やばいんじゃないのって感じになってるんだよ』

『そっかぁ……』

『別に透がどうこうって言ってるわけじゃないよ、ただ金田監督の前の現場ってどうだったのかなって』

『凄い監督っていうイメージしかないなぁ。どんな状況でもなんとかしちゃうような、本当に凄い人だよ』

『そうなんだ』

 

演技がドヘタな俺をなんとかして使い、見事な映画にしてみせた金田監督。

あの監督が本当に考えなしで現場を引っ掻き回しているとは、どうしても思えないのだった。

そしてその考えは正しかったようで、そこから二週間も経つ頃にはバンドの練度もだいぶ上がり……

バンドとしての演奏シーンの撮影も、徐々に前に進むようになっていた。

そうなった頃には、年末はもうすぐそこ。

個人的にはやたらと暖かいこっちの冬にも慣れ、ホームシックもだいぶん収まり。

撮影の面では、もう最初からクライマックスといった感じだ。

……というのも、俺が途中参加という事もあり、他にも撮影しなければいけない場面は山ほどあるのだが。

まずは全員でのシーンを優先する、という金田監督の意向により……

俺の個別シーンは一旦全部飛ばし、逆に終盤のライブシーンから撮影していく事になっていたのだ。

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