あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活 作:関税破産お嬢様
スタジオでヒントを掴んだ、その翌日。
俺は昨日と同じ音楽学校の合奏室のスタジオで、スウィッシャーに睨みつけられながらドラムを叩いていた。
『昨夜お前の親父のプレイを見たぞ! 男というだけでバンドに雇われている情けないドラマーのプレイをだ! お前もそうやって生きるのか!? リーダーの◯◯◯を舐めて残業代を貰うか!?』
『違います!』
『声が小さい!!』
『違います!!』
『じゃあなぜお前はこの程度も叩けない!』
昨日と全く同じ台詞、同じ流れの演技で……
唯一、俺の心だけが昨日とは違っていた。
人としての心もプライドも、全て音楽に捧げろとばかりにこちらを睨む狂人スウィッシャー。
それに対して、俺も「いつでも殺してやるぞ」とばかりに視線に殺気を込めて睨み返す。
互いの視線が交錯し、スウィッシャーの額からつうっと汗が落ちる。
『カット!』
監督のその言葉と共に、俺の身体からは一気に熱が引いていく。
ふぅーっという大きなため息が、ハーマンさんから漏れた。
それに合わせて、俺もふうっと息を吐き出す。
我ながら、結構いい殺気が出てたんじゃないだろうか?
そう思いながら、監督を見ると……ビデオをチェックしていた監督は渋い顔でこちらへ怒鳴った。
『駄目!! 行き過ぎ!』
「えっ」
『タクローはお前じゃない! もっともっと弱い! 立場でも喧嘩でもスウィッシャーには勝てない! こんな自信満々な殺気は駄目! もっと破れかぶれな殺気を送れ!』
「えぇ~っ……」
監督からのそんなダメ出しを横で聞いていたハーマンさんは、笑いながら俺の肩を叩いた。
『たしかにさっきの殺気にはビビったよ、銃を持ってないのが不安だったぐらいさ』
はっはっはと快活に笑いながらそう言う彼女に、すんませんと頭を下げて謝り。
俺はしばらく調整の時間を貰ったあと、また撮影に戻った。
どうもまだまだ、タクローという役への理解とチューニングが足りないようだ。
結局その後も行ったり戻ったりしながら、追加で四回撮り直した末のテイクでようやくOKが出た。
だが、その頃には……俺にもだいぶ、タクローという人間が理解できていたのだった。
そんな
その下旬の日曜日の事だ。
大学のテストが終わったらしいしずえもんが、大量の菓子やレトルトパックといった支援物資を持って
どうやら彼は、有給が溜まりすぎたらしい嫁さんとの旅行のついでに、俺の様子を見に来てくれたようだ。
彼の旅費は、うちの叔母が経費として決済してくれたそうだが……
はたしてその嫁さんの方はどうだったんだろうか?
「大学のみんなも心配してたよ。映画の撮影も止まってるのに、何やってんだろうねって」
「言えないんだからしょうがないじゃん……」
「ていうか君、秋学期の単位全部落としたから、大学五年生決定なんじゃないの?」
そんな話をしながら、カメラを組み立てるしずえもん。
どうやら彼は、こっちで俺のSNSやuTubeチャンネル用の素材を撮りまくっていくつもりのようだ。
「学校は、来年フル単できればなんとか……」
「無理でしょ」
「無理なんだよなぁ……」
そもそもが、もともと役者の仕事でろくに授業に出れていないのだ。
四年になったら、俺の周りの男たちもみんな婚活で忙しくなるだろう。
友達の助けもなく、自分一人でフル単なんてのは……
元がちゃらんぽらんな俺には、夢のまた夢の話だった。
「まぁ、諦めなよ。
「まぁ……烏龍も蹴っちゃったから、日本戻ったら暇だろうし。頑張ってなんとか四年で……」
「本気で言ってる? 明石さんは君に仕事させる気満々だと思うよ。あ、あと烏龍に関する話は、こっちで台本作らせてもらったから。日本でも主役交代にちょっとピリついてる人いたし」
「え? そうなの?
「オタクっていうのはさぁ、オリジナルキャストにこだわるもんなんだよ」
そんな事を話していたらカメラの用意ができたようで、俺はしずえもんからの質問という形で、カメラに向かって近況報告をした。
今撮影している部分については、だいぶスト破りスレスレなため話せないが、その点も含めてしずえもんに話すべき事を決めてもらった。
去年からアメリカで演技の仕事を頑張っていた事。
キリがいいところまで頑張ったら、ちゃんと日本へと帰るつもりな事。
ストライキで仕事がないため、実は今はバンド活動を頑張っている事。
そのバンドのCDが近々発売される事など、話し疲れするぐらい話した。
そしてこの日は日曜日、ちょうど夜にはうちのバンドのライブがあるという事で……
しずえもんとその付き添いである奥さんを連れて、俺がよく通っている大味なピザ屋で飯を食ってから、タクシーでライブハウスへと向かったのだった。
『この二人、ゲストで』
先についていた
ゲストリストというのは、出演者が招待したタダで入れる客のリストの事だ。
うちのバンドのゲストリストには、既に三人の名前が書かれていた。
それは映画の現場で同じバンドだった、ケイトとキンバリーとイングリッド。
彼女たちは結構見に来てくれているのだが、ぶっちゃけみんなストで仕事がなくてマジで暇なのだ。
アメリアは俺がゲストリストを書いている間に、ライブハウスのスタッフから
『日本の友達?』
『そうそう、彼はしずえもん。その隣りにいるのが彼の奥さん』
『OK! ヘイ! シズエモン! よろしく!』
「あ、僕? どうも
「私も三橋です」
『シズエモンのワイフ! よろしく!』
アメリアと二人は握手をし、なんだか微妙な笑顔でお互い顔を見合わせてから俺の方を見た。
『二人はなんて?』
『よろしくって』
「というか透くん、君英語ペラペラなんだね?」
「英会話だけはって、親に言われて子供の頃からやってたから」
「上級っぽいなぁ……」
まぁぶっちゃけ、俺だって受験のリスニング試験以外で役立つ時が来るなんて思ってなかったけど。
「せっかくだから動画撮っていい?」
『アメリア、彼は俺のカメラマンなんだけど、ビデオ回していいかって?』
『透の? まぁいいけど、後で動画貰える?』
『OK!』
そんなやり取りをしずえもんに伝えると、彼は鞄から巨大な一眼レフとコッペパンみたいなマイク、そして特殊警棒のような一脚を取り出す。
『ワオ! 本格的!』
「なんて?」
「本格的だって」
「センキュー」
「ベースが来たらリハーサルだから、そこで音量調節したらいいよ」
そう言いながら、俺も持ってきたスティックケースからスティックを出す。
「……それで、君らって出番いつ?」
「
「え? そうなんだ」
前にチョロっとネットの記事になったのが良かったのか、俺が加入したライブ以降うちのバンドはあんまり集客に苦労した覚えがなく……
アメリア曰く昇り調子、シャーロット曰くフィーバータイム。
とうとう今日のライブでは一番大事なトリを任され、さっきライブハウスの人が言っていたのだが……
普段はあんまり振るわないネットでのチケット予約も、今日はもう二百件を超えているとか。
そんな話をしずえもんに聞かせると、彼は呆れたような顔をしてこう言った。
「透くんさぁ、
「んなわけないじゃん、たまたまだよ」
「こないだ烏龍続編の会議で井門監督が言ってたよ、今回は福の神の透がいないから上手くいくかわかんないよって」
「それはさぁ、井門監督の冗談だよ。烏龍の福の神は金田さんだよ」
『透がフクノカミ?』
『あー、なんて言うのかなぁ……幸運の女神みたいな? 彼の冗談だよ』
『たしかに透は幸運の神様かもね! このバンド三年もやってるけど……ここのライブハウスなんて、
なんだか興奮した様子でそう捲し立てるアメリアは、なぜか
そして後日uTubeに投稿された動画では、日本人だけがその部分に食いついて面白がっていたのだった。
uTube動画
The Whiskey Rebellion (Live From Velvet Groove)
概要
The Whiskey Rebellion performing at Velvet Groove, Los Angeles in US.
uTubeAIによる解説
アメリカのロサンゼルスにあるベルベット・グルーヴで演奏するザ・ウィスキー・リベリオン
そのコメント欄
uTubeAIによる翻訳
@Whisperwood 1日前
最高のオリエンタルドラマーを擁した、ハリウッドで今一番イケてる若いバンド
︿ 1件の返信
@CloudDrifter 1日前
このババアみたいなコメントがなけりゃ一番クールかもな
@RiverHaze 1日前
ハリウッド住みで、年始からこのバンドを追いかけてるけどマジでライブのたびにワープするように進化していってる
@EchoChambered 1日前
CD出すって言ってるね、楽しみだな
︿ 2件の返信
@GhostlyRealm 1日前
︿
@SynthWaveRider 1日前
元Rusted Haloのクイン・メイフィールドとスタジオで肩組んで写真撮ってたから、彼女が関わってるんじゃない?
@SolsticeTunes 1日前
前の動画見てたけど、このドラマー入ってからの伸びやばいな
@ワオワオワ 8時間前
唐揚げくんのこと福の神って言ってる! 12:12
︿ 4件の返信
@ゲス 8時間前
12:12:00 ほらよ
︿
@ワオワオワ 7時間前
ありがとう!
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@古着で結婚式 7時間前
バンドの中でも大事にされてるみたいでよかった
︿
@ゆすぐちゃん 7時間前
どっちが透の彼女かな?
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@DigitalBloom 3時間前
FUKUNOKAMIって何?
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@ワオワオワ 1時間前
福の神イズベリーラッキー