あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活 作:関税破産お嬢様
結局しずえもんは一週間ほどアメリカを堪能して、山ほどお土産を買って帰っていった。
その間にスタジオの様子を撮影したり、俺と一緒に久々の生放送をしたり。
俺も久しぶりに友達と遊べて、だいぶリフレッシュできた気持ちだった。
撮影の方も、新しく掴んだコツのおかげでNGの回数が飛躍的に減り、どんどん先に進んでいる。
『タクロー! 自主練習でロックドラムを叩く! アクション!』
そんなシーンで「上手すぎる! もっと下手に叩け!」とNGを食らったりはしたが、ここ一週間で目立ったNGは本当にそれぐらい。
過労で痩せていた金田監督も、いつの間にか元の福々しい姿に戻った。
『いいぞ! どんどんタクローになってる! お前は完璧だ! コピー忍者!』
『あざっす!』
タクローはスウィッシャーの元で
スウィッシャーの教える苦しく辛いジャズとは違う、自由で楽しいアシュリーのフューチャーミュージック。
自分が登れなかったジャズドラマーとしての高みへ至って欲しいという、父から託された夢に背く事への葛藤。
その全てを演技と、ドラムの音で表現する。
『土曜日は絶対に外せないわ! レコード会社の人間が見に来るっていう話を掴んだの! その心を掴んでデビューできれば、私たちは一気に上に行ける!』
ガレージのスタジオの中、木箱の玉座の上に立ってアシュリーがそう言えば……
『土曜日はコンクールの主奏者のオーディションを行う! 私はチャンスをふいにする者が一番嫌いだ! どんなに自信がなかろうが、絶対に参加しろ! 親が死んでも! ケツから血が出てもだ! 欠席者はうちのコースにはいらない、クビだ! 金儲けのためにロックでも演って一生過ごせ!』
学校の合奏室の中、指揮棒という
死に物狂いで、殴られて泣きべそをかきながら練習してきたジャズドラム。
手から血を流し、夜中に毛布を被って練習してまで食らいついてきた、父の夢。
普通は、会って何ヶ月も経っていないアシュリーなんて、選べるわけがない。
だがタクローは、その二択でアシュリーを選ぶ。
詳細に描けば描くほど、納得感のない行動だ。
だがそれを、観客に納得させるだけの空気を、感情を、行動を……
俺が変身したタクローという少年は、見事に演じきってくれたのだった。
そして二月の半ば。
俺の撮影シーンは、全て終了となった。
『カット! OK! ……撮影、完全終了!!』
『イエーィ!!』
『フーッ!』
『アメイジーン!!』
『コピー忍者! 最高!!』
終了時の撮影現場ではそんなアメリカンな歓声が飛び交い、その日は頼めるだけのケータリングを頼んでの宴会となった。
もちろん、撮影が終わったからと言って役者の仕事は終わらない。
映画の公開前から公開後まで、しっかりとプロモーションの仕事があるのだ。
とはいえ今はスト中という事もあって、プロモーション活動も禁じられている。
なのでそちらはこの映画の情報が色々解禁され、更にストが終わってから徐々に関わっていく仕事となるだろう。
ともあれ一応撮影自体は終わったという事で、明石さんから「日本へ帰って来るか?」とも聞かれたが……
『ナンバーナイン -
今から無理して日本に帰ったって、俺にできる事はないだろう。
大学の問題も一応あるにはあるが……まぁこないだしずえもんと色々話して、俺もある程度諦めはつけた。
それに、たとえ日本で喫緊の用事があったとしても……今すぐには帰国できない事情というのが、アメリカ側にまだいくつかあったのだった。
「ストがいつ終わるかはわからない。でも悪いがアメリカにはいてくれ」
まず、ストが明けた瞬間動く気満々の監督に、直々にそう言われた事。
彼女の組んでいるスケジュールは、はっきり言って今のところはだいぶ出たとこ任せのものだ。
まずスポンサーは、この映画を夏休み期間向けに公開したい。
今は二月だが、素材も揃っているし、金田監督の編集作業は普通の監督よりもかなり早い。
映画の納品自体は、おそらく大丈夫なのだろう。
だが、納品したからと言ってそれで終わりなわけじゃない。
「予定では七月に上映が始まる。ストライキが終わった瞬間プロモーションに動きたい」
そう監督が言った通り、映画にはプロモーションというものがある。
上映が予定通りの時期に行われるとすればだが……
ぶっちゃけこれは今すぐ
現代の映画というのは、とにかく内容よりもプロモーションが大事。
烏龍もそうだったが、プロモーション費が制作費を超す事なんて全然珍しくないのだ。
当然プロモーション期間も長くなり、映画公開前から数ヶ月を費やすのも普通の事。
そこの予定が白紙のままというのは、だいぶ計画として破綻しているのだが……
まぁ、それに関しては今判明したって話じゃなく、ストライキの時点でわかっていた事。
それでも俺は、金田監督に賭けると決めたのだ。
と、そういうわけで、俺はいつでも状況に即応できるようにこちらへ残る事になったわけだ。
そして、それに加えてもう一つの理由もある。
それは今やっているバンド活動の方でも、レコーディングが始まるスケジュールだった事。
さすがにそんな状況で「本業が一区切りついたから帰ります」なんて事はできるわけがない。
という事で、俺は生活の面倒を映画の予算で見てもらいながら、アメリカでの暮らしを続行する事になったのだった。
『スネア』
レコーディングスタジオの録音ブースの中、ヘッドホンから外にいるクインの声が聞こえる。
俺はそれに応えて、カァン! とスネアを叩く。
『スネア』
またクインから指示が出て、俺はもう一度スネアを叩く。
今度は外からクインが入ってきて、スネアのチューニングを少し変えて出ていく。
何をいじっているのかはわからないが、彼女は曲ごとにこうした微調整を行っていた。
俺たちバンドの三人は何がなんだかわからないまま彼女の指示に従い、NGを連発しながら毎日スタジオの営業時間をほぼ全部使って曲を録っていく。
ストライキのせいでマジでみんな暇しているのか、メンバーとの共通の友人になったケイトたちもよく差し入れを持って遊びに来た。
『こうして見てると映像撮影よりはだいぶ神経質な現場ね』
シャーロットは飲み物を買いに行き、アメリアとクインはブースの中で調整中。
俺と金髪のケイトは、待機場所になっているソファで
『映像だって監督によるだろ?』
『たしかに、透は私たちが抜けてから金田監督にだいぶ絞られてたみたいだけど……手応えはどんな感じ?』
『そりゃもう、バッチリ』
アメリカに四ヶ月もいると、俺もだいぶ彼女ら流に喋るようになった。
謙遜はしないのだ。
いい仕事をしたと思ったら、自信満々にそう言う、それが大事だ。
『じゃあ完成品も期待していいのかな?』
『
『いいじゃない! それぐらいじゃなきゃいい映画にならないわ!』
とは言うものの……金田監督が予定通りに俺の出番を増やしまくっていたのなら、普通に怒られそうな気もする。
俺が音楽学校でもがきまくる場面って、多分元々一分あったかなかったかぐらいの尺だったろうし。
『そういえば透はこのレコーディングが終わったらどうするの?』
『アメリアがツアーに出たいって言ってるから、それに行って……もしその間にストが明けたらすぐ帰ってきてって感じかな』
『帰って来る気があってよかったわ。あなたいい役者なのに、このままバンドマンになりそうだったんだもの』
『いやいや……
と、言いながらも……俺はちょっとだけ不安になった。
なんか最近は二人の口から本業の話を一切聞かなくなったんだけど、ストが明けたらさすがに役者に戻るよな?
前は演技論の話とか現場の愚痴とかそこそこ言ってたのに……
最近は口を開けばクラウドファンディングでTシャツを作ろうとか、あのバンドと対バンしたいとか、あのギターが欲しいとか、バンド関係の話ばかり。
どんどん
さすがに俺も、今の映画が一段落ついたら日本に帰るぞ。
なーんて、ちょっと不安になるぐらい楽しいバンド活動をやっている間に……また日本から身内がやって来た。
今度は俺の様子を見に来てくれたわけでもない。
遊びに来てくれたわけでもない。
自分の仕事のために、ロサンゼルスへとやって来た人だった。
「ホットチキンの有名な店があるらしいですね、お酒をご馳走してあげるから一緒にいらっしゃい」
「……あ、はい……」
昼の最中に『今どこにいますか?』と連絡してきて、レコーディングスタジオにタクシーで乗り付けるなりそんな事を言いだしたのは……
今ワールド・ツアーで世界中を飛び回っている、俺の事務所の先輩の