あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活 作:関税破産お嬢様
晴れて前科者となった俺だが、烏龍チームはまた仕事に呼んでくれた。
四月から五月にかけて『ナンバーナイン -
「教えた拳法が役立ったならって、婆ちゃんは喜んでたけどね」
ほぼ半年ぶりに再会した白ギャルは苦笑しながらそう言ったが、俺は恐縮するばかりだ。
後悔はしていないが、やりすぎたとも思うから。
そんな撮影の合間にも大学に通ったり、またしずえもんと一緒に暁龍の宣伝活動をしたりしていたのだが……
暁龍の撮影が終わった六月の頭あたりに、SNSを中心にひとつの動画が話題になった。
『Real Man's Back』というキャプションが入れられたその動画は、車のドライブレコーダーで撮影されていたらしい。
その中には、ロサンゼルスの飲み屋の前で強盗に襲われていた、あの日の俺たちが映っていた。
一発目の発砲の音声感知で動き出したらしいドラレコは、銃を持った強盗の右腕を逸らし、右手でその身体を吹き飛ばす俺をバッチリと捉えている。
当然、銃を使えなくして、ナイフを持った強盗に突っ込まれ、それを迎え撃つ形で撃退した場面もだ。
「なんだ、証拠はあったんじゃないか……」
ビザを失って帰ってきてからでは言っても仕方がない事だが、そう愚痴ってしまうぐらいは仕方がないだろう。
俺は動画を共有してくれたアメリカでの弁護チームの一人に、チャットでお礼を言った。
証拠を元にあっちでも色々動いてくれるらしいが、あっちの裁判は長期間かかるもの。
なので、もう過ぎた事だと……俺は一旦その動画の事は忘れる事にした。
調べてみれば車の持ち主はドラレコの自動バックアップにあった衝撃映像としてこれを投稿したらしいし、多分タイミング悪く警察の捜査と入れ違いになったのだろう。
今はロンドンで新アルバムをレコーディング中のイルマさんは気にもしていないかもしれないが、彼女の言った言葉が真実だと判明して良かったな。
そう思いながら……俺は眠った。
だが、この動画は世界中、とりわけアメリカでえらいバズりかたをし始めていた。
俺がハリウッドの役者で、この件で有罪になってビザを取り消されている事がわかると、アジアンへのヘイト問題として取り上げられ……
同時にマジのカンフー使いがいたとして、そっちの話題でも取り上げられた。
似通う刃が話題になり、配信されていたアメリカのサブスクサービスでランキング上位に入ると、更に話題は大きくなる。
そして暁龍のプロデューサーはすぐさま動いて製作委員会の承認を得て、uTubeにて『ナンバーセブン -
『Real Man's Back』というキャプションを組み込んで作られた海外向け予告編は唸りを上げて再生回数を増していき……
そんな中で、渦中の俺が出演するバンド映画『ニュー・オールディーズ』の公開が始まった。
「やってくれたな!」
と金田監督から夜中に国際電話がかかってきたぐらい、この映画はアメリカの夏休み映画市場で一歩抜きん出た売上になったらしい。
未だストライキ続行中のアメリカ、出演者の俺がちょうど話題になっていたというのはデカかったそうだ。
そして、一週間ぐらいすると俺のいたバンド『ウイスキーリベリオン』のアメリアからも電話がかかってきた。
『税理士を雇っておいたほうがいいわよ』
なんでも『ニュー・オールディーズ』のドラムシーンが話題になり、そのドラマーが所属してCDを作ったバンドとして『ウイスキーリベリオン』が話題になり始めたらしい。
アメリカのuTuberが『
せっかく作ったのにツアーもできず売れ残りまくっていた物理CDも、あっという間に売り切れ。
サブスク配信されていたアルバム曲はあまり振るわなかったが……
俺が起点となって話題になった事により、イルマ先輩の勧めで作ったシングルカットの別ミックスがラジオ局のヘビーローテーションに選ばれ、だいぶ知名度を上げたらしい。
『透は本当に幸運の神様だったわね』
そう言っていたアメリアは、サポートでドラマーを入れて大規模なツアーを行うらしい。
俺は永久にメンバーのままだと言ってくれたが、アメリカにはまだまだ行けそうにもない。
「本当に気にしないでほしい」と伝えると、アメリアは笑いながらこう言った。
『アメリカツアーが終わったら、次は日本にも行くから』
『ほんと?』
『もちろんよ!』
みんなとまた会えるなら嬉しいと、美味い飯と酒を奢る事を約束して電話を切った。
だが、ハリウッドのストライキはその直後の六月中旬に明け……
アメリアはツアーの準備をしている中での役者復帰となるわけだが、大丈夫だったんだろうか?
まぁ、色々と
俺の方は暁龍が終わってからは特に仕事も入らず、学校の友だちや役者生活でできた仲間と、食事や飲みに行ったりしながら普通の大学生をしていたのだが……
七月に入る直前の蒸し暑いある日、実家に呼び出しを受けた。
台所の机に座って、素麺を食べながら俺を待っていたのは母二人と妹の
とりあえず素麺食べちゃって、と俺の前にも大盛りの素麺が置かれ……
俺たちは久々に一家揃って、ウインナーと玉子焼きで素麺を啜った。
その途中、俺の実母である
「お兄ちゃんにね、お願いあるんだけど」
「え、何?」
「今度アンダイとテレビ暁で子供向け番組やるから、プロデューサーの仕事やってくれない?」
「え!? 俺が?」
驚きで箸ですくった素麺を取り落とした俺がそう尋ね返すと、向かいに座っていた明が俺のスネをつま先でつつく。
「だってさぁ、お
「あ、ありがとう……」
「うちもマジキュアばっかりやってないでさ、もうちょっと上の層にリーチする番組作りたいってずっと議題には上がってたんだよね。もちろん、役者として出てもらっても構わないから……っていうか、それも込みの話」
役者としても出るっていう事は、本当に烏龍と同じタイプの仕事なんだな。
上を向いて考える俺のコップに、母の
「それでね、お母さんたち透の身体が空いてるならって……」
たしかに、俺の身体は空いている。
アメリカで『伝説の男』と言われている割にやる事は全くなく、毎日学校で詰め込みまくった授業をヒーヒー言いながら受けているのだ。
実家のコネ百パーセント仕事……という事で、ちょっと悩みはしたのだが……
俺はNGなしだ、貰った仕事は受けるのだ。
「わかった! ありがとう。俺はやってみるつもりだけど……一応明石さんだけは通して」
「大丈夫、そこらへんはもう根回ししてあるって」
「え、そうなの?」
もしかして、だから最近仕事がなかったのか……
まぁ、でっかいプロジェクトの予定なんて欠片も漏らせないって事は理解できるけど、それでもちょっと不安だったんだよな。
「よし! じゃあ俺、やってみるよ!」
「ありがと~」
「ありがとね、透」
「よろしくね、お兄ちゃん」
家族にそう言われ、俺は「よろしく」と頭を下げてから素麺を啜る。
烏龍に続いてまたもや七光りで仕事を得てしまい、なんとなく世間に対して申し訳ない気持ちもあるのだが……
ともかく、どうやらまだまだ、俺の役者生活は続いていきそうだった。
キリのいいところまで更新して、一旦第一部完という形にさせて頂きます。
透くんとの二ヶ月半の旅に付き合ってくださった読者の皆様方に、心より感謝申し上げます。