あべこべ貞操逆転世界で七光り役者生活   作:関税破産お嬢様

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紋付袴と金眼鏡

一月五日、八代芸能本社では関係者を集めた新年会が行われていた。

十二月から正月三日までの芸能界は、一年で一番忙しいと言ってもいい。

その苦労をねぎらうべく毎年正月明けに開かれているこの会は、もう五十年以上の歴史を持っていた。

 

「透ー、お年玉くれー」

「サーちゃん駄目だよ」

「お前らこないだデビューして稼いでるんじゃないのか?」

 

実家から支給された紋付袴に着替え、創業者一族としてソーダを片手に挨拶回りをしていた俺も、今はこうして同期たちに捕まっていた。

でっかい七瀬は礼服としての高校の学生服を着ていたが、同じ高校に通っているはずのサーダはスカジャンだ。

 

「それだよそれー、デビューしたのに月給三万とかなんだけど、ひどくないかー?」

「えっ、デビューしたてでそんなに貰ってんの? やっぱアイドルって稼げるんだなぁ」

「そうなの? 透くんはどれぐらいだった?」

「俺はデビューしたばっかの頃は月一万円とかで、今は調子良くて月五万とかだよ。撮影って変なとこに呼ばれたりするから、交通費出ないと赤字でさぁ……」

 

俺なんかエキストラばっかでコネ入社だからまだいい方だ、舞台役者みたいに交通費自費の無給稽古もないし、日給五千円とかでも次から次に仕事紹介して貰えたしな。

やっぱ芸能界ってのは最初は厳しいが、その分当たればデカい……

とでも思わなければやっていけない、夢追い人向けの稼業だ。

そもそも、七瀬たちのいるソードリリーというアイドルユニットは七人組。

稼いだ金から事務所がマージンを取り、税金分を取り、そこから七分の一されて三万円残ったと思えば……結構、いやかなり稼いでいる方だろう。

 

「夢ないなー」

「まだまだこれからだよ、俺もお前らもさ」

「透さー、さっさと出世してゆい(サーダ)たち引っ張ってくれよー」

「俺がお前らに世話になる方が先かもよ?」

「夢ねぇー」

 

サーダはそう言って持っていたコーラをグイッと飲み干し、手をひらひらと振る。

 

「夢ねぇから、食うわー」

「おお、ケーキすぐなくなるから早めにな」

「さっき三つ食った、七瀬は十個食ったけどー」

「食べてない!」

 

七瀬の怒りの言葉を背に受けたサーダは、肩をすくめてビュッフェの列へと消えていった。

残された七瀬はなんだか周りをキョロキョロと見回した後、一歩俺の方に近づいて口を開く。

 

「透くんはさぁ、今年何するの?」

「役者頑張って、大学の単位も取ってって感じかなぁ……」

「じゃあ、それ以外は?」

「まぁ、免許取るかな。車とバイクの」

「そうなんだ! いいなー。ね、ね、免許取ったらさ……」

 

なんて事を話しかけた七瀬の後ろから、漆黒のタイトスーツを着たひっつめ髪の女がぬっと顔を出す。

アイドル顔負けの美形顔に一度も笑みを浮かべた事がない彼女は明石さん。

レッスン生の面倒を見てくれていた流れで、そのまま俺のマネージャーを担当してくれている人だった。

 

「透さん、仕事です」

 

グラスも皿も持たず、書類の入ったクリアファイルだけを手にした彼女は「あけましておめでとう」とも言わずにそう言った。

 

 

 

 

 

なんでも、急ぎの上に俺指名の仕事らしい。

という事で、俺はその翌日にはさっそく現場入りしていた。

仕事内容は現在撮影中の新作映画で、なんと役付きの指名、そしてその推薦者は……

この間現場で会った華僑の家の白ギャル、金田狂夢(くるめ)……さん、だった。

 

「監督がさぁ、うちの大叔母なワケ」

「は、はぁ……」

 

明石さんも詳しくは聞いていないという仕事内容を訝しみながらも、わけもわからず向かった映画会社所有の撮影所の現場。

そこで推薦してもらったという白ギャルの楽屋へに挨拶に向かうと、彼女は膝の上に持ってきた足の爪に黒いマニキュアを塗りながら、ぽつぽつとそんな話をする。

たしかにさっき挨拶をした監督は福々しい見た目の五十がらみの中国人女性で、二十二歳の彼女の大叔母と言われれば納得できる年齢ではあった。

 

「この映画、日中共同でカンフー映画のリバイバルを図ろうっていう企画らしいんだけど。あの人、昔ながらのやり方にこだわるっていうか……秘密主義なワケ」

「は、はぁ……」

 

そういえば昔の中国映画は盗作を恐れて脚本すら配られなかったと聞く、まぁ今の日本で盗作もクソもないと思うけど……

監督がそういう人だっていうなら、合わせるしかないか。

 

「ていうか、えっ、俺カンフーやるんですか?」

「そっ、さすがに男一人も出さないってわけにもいかないけど、決まってた俳優のアクションが全く使いもんにならなかったワケ。んであたしが、前現場でそれっぽい事やってる奴見たよって言ったらすぐ決まったの」

「ありがとうございます!」

 

俺が頭を下げると、彼女はこちらを一瞥もせずにこう続けた。

 

「ただ、あんたのなんちゃって拳法じゃ使いもんになんないから、しばらく師匠についてもらうわ」

「え? 師匠?」

「そっ、うちの婆ちゃん。武術監修で今日も来てるけど、実戦もめちゃくちゃ強いの」

「お、お婆さま……?」

「飲み込み悪けりゃあんたもすぐお払い箱だから、そのつもりで」

「わかりました!」

 

なんだかわからんが、教えてくれるっていうならありがたい。

俺は白ギャルに再三礼を言って、その師匠とやらの元へと向かった。

そして……そのまましばらく、家に帰して貰える事はなかったのだった。

 

 

 

「新弟子、金老師は寝るなと言っています」

「ふぁ……ふぁい……」

 

おかしい、俺はただ映画の撮影に来ただけのはずなのに……

なぜこんなところで、永遠に馬歩をやっているのだろうか?

撮影スタジオ内に作られた武道場の一角で、俺は師匠役だという老婆に出会ってから、ぶっ通しで修行をつけられていた。

 

「新弟子、金老師はまずは腰を作れと言っています」

「はい……」

 

白ギャルの祖母だという老婆の手で姿勢を作られ、その付き人兼通訳の金縁眼鏡のお姉さんに「その姿勢のままで」と言われて早数時間。

俺はわけもわからず同じ姿勢で腰を落としたまま、緩むたびに姿勢を矯正されるという時間を過ごしていた。

 

「背中を丸めない」

「ふぁーっ……いっ!」

 

さすがに俺もヘトヘトで、眠い頭でぼんやりと答えを返すと、金縁眼鏡の姉弟子……師姐(シージエ)に腰を蹴られた。

 

「し、師姐(シージエ)……ろ、老師は何と……?」

「何も」

 

どうやら、シンプルに態度が悪いから蹴られただけらしい。

結局俺はこの後追加で三時間も同じ姿勢を取らされ、出勤してきた撮影所の人が「おはようございます」と声をかけてきたところで解放されたのだった。

 

「新弟子、金老師は食事も修行だと言っています」

「いただいてます!」

 

体にいい中華の薬膳……とかではなく、袋麺とカップスープとサラダチキンの食事を取り。

ここで今日は解散……とかではなく、しばしの休憩を許された俺は、撮影所の隅で段ボールにくるまって泥のように眠った。

そして、肩を揺すられて目を覚ました瞬間にやってきたのは、全身をくまなく襲う筋肉痛だ。

 

「う……あ、いでっ……いでででで……」

「新弟子、痛いですか?」

「あっ、師姐(シージエ)……めっ……ちゃくちゃ痛いです……」

「そうですか、では修行です」

「えっ?」

 

なんだか有無を言わせない感じでそう言われると「NGなし」で売っていきたい俺としては何も言えない。

撮影所で配られる昼食用のお弁当を三つ一気にかっこんだ後は、二リットルのお茶のペットボトルを一気飲みしてシャワー浴びてまた修行だ。

超回復? 知ったことかとばかりに昨日と同じ姿勢を取らされ、ひたすら馬歩站椿(たんとう)だ。

今日は金老師はおらず、俺と師姐(シージエ)だけだったが、少しでも緩めば蹴りが飛んできた。

まぁしかし、なんだかんだキツいとはいえ……人は慣れるものである。

昨日はわけもわからずやっていたが、やった甲斐あって姿勢もだいぶ身に付き、晩飯を食べる頃には蹴られる事もなくなっていた。

 

師姐(シージエ)、これって、新弟子はみんなこんなに厳しくやるもんなんですか?」

「……いえ?」

「えっ? そうなんですか?」

「もう映画の撮影は始まっていますし、時間がありませんから」

「あ、そうなんですね……」

「それに……」

 

綺麗な箸使いで肉団子を食べていた師姐(シージエ)は、切れ長の目をこちらに向けながらこう続けた。

 

「あなた、弱音を吐きませんでしたから。普通はもう無理とか、休憩させてくれ、とか言うものなので」

「えっ? 俺言いませんでした?」

 

言っても無駄だと思ってからは言わなかったが、最初の何回かは言ったはずだ。

 

「その時はまだまだ大丈夫そうだったので」

「あ……はい……」

 

結局、このひとのさじ加減ひとつなのね。

まぁ、自分ひとりじゃ絶対にやれない鍛錬だ、無理矢理にでもやらせてもらえてラッキーって事にしておこう。

こうして修行しているだけでも、ギャラは出ているのだ。

その道の達人にレッスンを受ける機会なんて、めったにない事だろうしな……とでも思わなきゃやってられない。

そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、金のパイピングが施された黒ジャージのポケットから飴を取り出した師姐(シージエ)は、それを口へ放り込んでからこちらを向いた。

 

「どうやらあなたは思っていたよりも筋がいい。本当は今晩も站椿(たんとう)をやらせるつもりでしたが……套路(とうろ)へ移りましょう」

「あ、ありがとうございます……それで、套路(とうろ)って何ですか?」

套路(とうろ)套路(とうろ)です」

 

そんな説明にもならない説明にちょっとビビっていたのだが、やればなるほど套路(とうろ)とは型稽古だったようだ。

飯を食って茶を飲んだ後、俺は金縁眼鏡の師姐(シージエ)に教わった套路(とうろ)という型を延々とやらされていた。

 

「震脚が弱い、もっと強く踏み込んで」

「はいっ!」

 

同じ姿勢を取っていればよかった馬歩とは違い、套路(とうろ)は覚える事が多い。

一気に教えられたいくつかの型を必死で思い出しながらギリギリ食らいついていたつもりだったが、師姐(シージエ)には結構褒められた。

 

「あなた、だいぶ物覚えがいい方ですね」

「え、そうですか?」

「流れを掴ませるつもりで見せたものだけで、形は覚えてしまいましたね」

 

彼女はそう言って眼鏡の奥で柔らかく笑いながら、俺の隣に立った。

 

「形はいいけれど、息遣いが少し違います。横で覚えなさい」

 

そう言われたので耳を澄まし、彼女の発する小さい息遣いを聞きながら、横で真似をする。

一つの套路(とうろ)が固まったと思ったら、また別の套路(とうろ)、型をこなしたら、彼女を相手役に置いて実践形式の套路(とうろ)

昨日からずっと同じ姿勢でじっとさせられていた俺にとってこの稽古はそこそこ楽しく、どんどん上手くなっていくのもわかって熱も入る。

本気で言えば休憩させてもらえるって事はわかっていたのだが……

結局このマンツーマン指導は、金老師がやって来る朝まで、休憩もなしに続いたのだった。

 

 

 

 

 

まとめブログ

 

 

【櫛灘イルマ】八代芸能総合【神寺スミレ】65

 

新人アイドル『ソードリリー』デビュー

 

23:名無しさん視聴中 ID:ZRZnD+r5A

スターレコードでチェキ会行ってきたわ、ナナって子がめちゃくちゃデカくてよかった

 

26:名無しさん視聴中 ID:I/3GU81iR

>>23 あの背高い子?

 

27:名無しさん視聴中 ID:0jQ1jse6z

>>26 そそ、二メートルぐらいありそう

 

28:名無しさん視聴中 ID:HdnolFC6D

なんでそんな身長の子がアイドルなんかに……バレー部とかバスケ部とかさぁ……

 

30:名無しさん視聴中 ID:0nHgmxKff

身長高すぎると絵でも声でも浮くからな

 

31:名無しさん視聴中 ID:Ib9gOYWka

>>30 曲聞けばわかるけど違和感ないよ

 

32:名無しさん視聴中 ID:SVO0EpbFG

八代ぐらいなると自社のアイドルだけでイベント組めるからいいよなぁ、地下アイドルとかは客入りも含めて悲惨だよ

 

35:名無しさん視聴中 ID:PeDX0wUe+

>>32 事務所入ってる子らと地下アイドルを比べるなよ

 

37:名無しさん視聴中 ID:Dq7Oi3ka5

最近はVtuberが人気でオタクもアイドル最高って感じじゃないしな、そろそろアイドルの時代も終わりじゃね?

 

39:名無しさん視聴中 ID:Q7HScwrgA

>>37 Vは現場がないからつまんないよ

 

41:名無しさん視聴中 ID:YOdVBHFau

>>37 Vの話はVのスレでやってくれ

 

43:名無しさん視聴中 ID:cKFZ8rBlH

この子たちはどんぐらい生き残れるかな……

 

 

 

 

引用元://OBAch.bb/

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