星の息吹と宇宙猫   作:子守家守

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ディフォームド・リポート(2)

 帰郷思想というのは、DJ号では割とメジャーな思想である。

 

 主張としてはシンプルだ。あてのない宇宙の放浪は止めて、地球への帰還を目指そう、という考え方である。

 地球時代の美徳に倣い、DJ号では内心の自由が認められているし、政治思想の表明も基本的には制限されていない。地球への帰還というのも、年に数回は艦の運営議会で議題に上げられるテーマだった。毎回なんだかんだでそれが却下されるのも、もはやある種の風物詩といっていい。

 

 実際のところ、帰郷思想を持ったというだけで白眼視されることはまずない。

 統計調査では、乗組員の半数以上が人生に一度くらいはその思想を抱くものとされている。そして大抵の場合、その思想は一過性のものでしかなく、ごく短い期間で薄らいでいく傾向にあった。

 

 冷静になって考えてみればわかることだが、「地球に帰りたい」と思ったとしても、その道のりにはすでに700年の旅路が横たわっているわけで、どう頑張っても自分自身が地球の土を踏むことは不可能だというのが現実なのだ。その事実に気付くと、ほとんどの人の熱意は見事に冷める。

 もちろん、将来的な艦の運行を考えて、地道に活動を続ける人もいるし、先述の通り艦の運営議会でたびたび地球への帰還が協議事項になったりもしてはいる。逆に言えば、その程度の活動であれば問題視されることはまったくないと言っていい。

 

 問題になるのは、監査部が名指しで『帰郷派』と呼ぶような過激主義者たちだった。

 どれくらいの人数がその派閥に属していて、どの程度の勢力を持っているのか、門外漢の僕にはまったくわからない。けれど、艦の記録を遡ってみれば、そう呼ばれる人たちが起こした反社会的な活動の数々が確かに残されている。

 艦の運行権限を奪おうと仕掛けた不正アクセス、議会への襲撃、都市におけるテロ行為……、文句なしの重犯罪のオンパレードである。大事件が起きる頻度としては数十年に一度くらいのペースなのだが、それでも700年も経てば累積した事件数はかなりの数になるというものだ。

 

 正直、彼らがどういう思考に至ってそれらの犯罪に手を染めたのか、僕には想像できなかった。

 

 もしかしなくても、なにかしらの狂気に囚われた結果なのかもしれない。寄る辺ない宇宙を旅する生活において、ふとした拍子に狂ってしまう人間が少なからず存在するというのも事実だ。

 そういった人たちの間にネットワークが生まれて、いつしか徒党を組むようになったというのは、あり得ない話ではないと思う。

 

「気になるのは、篠宮さんがなにを指して『きな臭い』って言ってるのか、ってことだけど……」

 

 僕は篠宮との会話を思い出していた。交渉団の到着から二日後のことである。

 

 帰郷派と呼ばれる過激主義者たちのコミュニティに、なにが起こっているのか。

 外的な要因を考えるなら、惑星ウーサと異星人の発見が無関係ということはないだろう。人類の生存可能な惑星と意思疎通可能な知的生命体の存在が、彼らにどんな影響を及ぼしたのか。

 

 地球に帰りたい、というのが帰郷派の主張だ。

 彼らにとって、惑星ウーサは地球の代替物になり得るのか。おそらく、首を縦に振る者もいるだろう。地球そのものにこだわっているのではなく、地に足の着いた生活をしたいというタイプだ。人間の寿命では帰り着けない地球を目指すのと比べれば、現実的な妥協といえる。

 

 けれど、本当に過激な思想の持ち主は、それでも地球に焦がれるのではないかとも思う。惑星ウーサの大地が目に入らないほど狂的に地球への帰還を求めているからこそ、破滅的な活動に身を投じるのではないか、と。そういう実例を知っているわけではないから、あくまでイメージでしかないけれど……。

 

「つまり、内部分裂ってことなのかな」

 

 妥協できる者とできない者。帰郷派の中で意見が二つに分かれているのかもしれない。

 地球への帰還を諦めた者が派閥から離脱して、危険思想の勢力が弱るというのであればそれでいい。けれど、そういったケースではむしろ、綱紀粛正のために集団がより強硬手段を講じるようになるということも考えられる。篠宮や監査部が危惧しているのはそういった動きなのだろう。

 

 そして、内外への影響の大きさを考えれば、ユミツ国との交渉団は、帰郷派のターゲットとして間違いなく有力候補のひとつである。

 

「……でも、これって僕が頭を悩ます問題なのかなぁ」

 

 僕は大きく息を吐いて、座っている座席にだらりと背中を預けた。

 危険(リスク)の存在は認識できる。けれど、その輪郭があまりにも漠然としていた。個人レベルではちょっと対処法が思いつかない。武装企業の一パイロットとしては、もっと明確な目標(オブジェクト)を設定して欲しいところである。

 

「そりゃあ、話を聞いたからには警戒くらいはするけどさ……」

「ケイナイン、難しい顔してる」

 

 ぶつくさと言いながら額に皺を寄せていると、すぐ隣からユミツ語の声が飛んできた。

 横を向くと、クァニャンが前方の路面を見据えながらバイクのハンドルを握っている。以前と同じく、僕はサイドシートの座席の上だ。時速100km/hオーバーの疾走のさなか、ほんの一瞬だけこちらを見た彼女と目が合った。

 

「なんだろうね、どうも最近、肩の上に色々と荷物が増えてるような気がするんだ」

「荷物が重くて、疲れてる?」

「肉体疲労というより、たぶん、気疲れだけど」

「なんとなく、わかる」

 

 速度を緩めずバイクを走らせながら、彼女は頷いた。

 

「私も、そんな感じ。チキュウの関係の仕事が増えた。普通の軍人なら任されないような仕事も」

「仕方ないとはいえ、お互い便利に使われる立場になっちゃったものだね」

「でも、嫌ではない。ケイナインと協力するのは、楽しいよ」

「うん、まぁ……、そこは僕も同意しよう」

 

 バイクを運転するクァニャンがはにかんだ。僕は頭を掻いて視線を前方に戻す。

 少し離れたところでDJ号の交渉団を乗せた車が走っている。降下艇から降ろした科学技術の自動車とユミツ国の魔法技術の自動車だった。案内役のユミツの外交職員と共に、交渉団はそのどちらにも乗っている。ある意味、これも異星間の文化交流といえるだろう。

 

 東部基地を出発して、ユミツ国の首都へと移動しているところだった。

 

 言うまでもなく、DJ号とユミツ国との間での外交交渉を行うためのことである。

 ユミツの政治家は交渉の場として自国の首都を指定してきた。こちらのことを信用しているとも取れるし、自らのテリトリーに呼び込んでいるとも取れる。

 

 災獣の討伐という実績を鑑みれば、そうそう悪い印象は持たれていないと思いたいところだが、交渉がこじれれば孤立無援の状況に立たされることになるのも確かである。

 命懸けの交渉になる、というのも比喩ではないだろう。そういう意味では、今回の交渉団の人員も相当に覚悟が決まっているといえる。事務室の椅子を温めてばかりのお偉いさんというわけではなさそうだ。

 

「変なことにならずに、上手いこと話をまとめてくれるといいんだけどね」

「もし、交渉が決裂したら?」クァニャンがぽつりと呟く。

「うーん、どうにかして彼らを艦まで逃がすのが僕の仕事になるんだろうなぁ」

「イブキはここにいないのに?」

「痛いところを突くね、クァニャン……」

 

 今回の交渉はユミツでは非公開の秘密交渉だった。ユミツ国の一般市民に『宇宙人』の存在はいまだ公表されていない。その機密保持と安全保障の観点から、大型機動兵器(ステラ・コネクタ)を都市に持ち込まないことが、交渉を行うための条件として設定されていた。

 まぁ、そもそもの話、僕のイブキはどのみち使用不可能な状態だった。大陸亀(イア・ルコグム)との戦闘で機体はボロボロ。肩から引き抜いて武器扱いした左腕はもちろん、無茶をさせた右腕も駆動系がいかれてしまっていた。当然、両腕が使えないとなれば、まともな戦力として運用するのは無茶もいいところである。

 

 降下艇の到着と入れ替えに、僕のイブキはDJ号に戻されていた。地上から打ち上げた機体には、安藤が付き添っている。彼はそのままDJ号に戻って、機体の修理と補給物資の受け取りを終えてから再度地上に降りてくる予定となっていた。

 なので、当初の偵察チームで交渉団に同行してるのは、僕と三船の二人ということになる。彼女は彼女で交渉団のお偉いさんと一緒にユミツの自動車に同乗していた。護衛と通訳を兼ねてのことである。翻訳システムは交渉団の全員が持っているのだが、細かいニュアンスのやり取りについては、やはり実地で経験を積んだ彼女に頼るところがあるようだ。

 

「ないものねだりをしても仕方ない。機体がなくても、彼らの代わりに身体を張るのが僕らの仕事なんだから」

「任務に忠実。軍人の鑑」

「いや、僕は軍属ではないんだけど……」

「何度か説明してもらったけれど、私には同じに思える。だって、民間人なら、任務よりも自分の命を優先する」

「そういうもの? あんまり意識したことがないなぁ」

 

 どんな内容であれ、割り振られた仕事を全うするのはごく普通のことで、場合によっては自分の命よりも仕事を優先するのに、軍属かどうかはあまり関係ないと思うけれど……。

 

「……私も、交渉が上手くいくことを祈ってる」

「ユミツの人は、なにに祈るの?」

「神様か、母の樹。たぶん、大体の人はそのどちらかだと思う」

「クァニャン自身は?」

「いつもなら、神様。でも、神様も母の樹も、チキュウ人を助けてくれるかはわからない」

 

 バイクを操る彼女は、前方を見つめたまま微笑んだ。

 

「だから、私も確率に祈ってみる」

 

 サイドシートの背もたれに身体を預けた僕は、バイクを運転するクァニャンの横顔をじっと見つめてしまった。以前、そんなようなことを自分で口にした覚えがある。たぶん、確率は神様より平等だろう。少なくとも、地球人とウーサ人を区別しないであろうことは確かだ。

 

「本当、何事もなければいいのだけど……」

 

 僕はしみじみとそう呟いた。

 もし、DJ号がユミツ人と決別するような事態になれば、これから向かう先が相手のホームグラウンドであろうがなかろうが、種族として地球人が圧倒的に不利なのは間違いない。

 

 追う者と追われる者という関係に僕らがなったとき、クァニャンは最悪の追跡者になる。

 距離の概念を無視する彼女の魔法から逃げ切る方法を、僕はまったく思いつけなかった。

 

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 

 交渉団が首都に到着して、三日が経った。

 

 ユミツ国の首都、ナェゴトはコンクリート・ジャングルだった。

 コンクリートのジャングルという意味ではなく、コンクリートとジャングルが混然としてひとつの都市空間を構築しているのである。

 

 都市の基盤となっているのは、生命力に溢れる巨大な『母の樹』だろう。東部基地に茂っていたものよりもかなり大規模だった。逞しい茶色の幹と青々とした枝葉とが都市に至るところに繁茂している。その緑のベッドを土台として、コンクリートとガラスの建物が林立しており、さらにそれらを優しく包むように蔦と枝葉が建造物の外壁を覆っていた。

 

 さながら冒険映画に登場する樹海に沈んだ古代都市のような様相だったが、コンクリートの建造物の外観は真新しく、エッジの効いたデザインは地球人類の感覚でも現代的ですらあった。

 原始的な自然物と技巧的な人工物との共存。そのアンバランスさこそが、ユミツ国の建築様式の特徴のようだった。

 

 ナェゴトでの僕の仕事は、DJ号の交渉団と行動を共にして、ニコニコと笑っていることだった。

 

 一応、護衛と通訳も任されているのだけど、今のところ護衛が必要な事態には遭遇していないし、交渉団がユミツの言葉にある程度慣れてからは通訳の必要もほとんどなくなってしまった。

 そうなってくると、やや手持無沙汰を覚えてしまう。今でも護衛として重要な交渉の席には同席を求められてはいたし、交渉団がユミツの要人に挨拶回りをするときは必ず僕の名前も人数に入っているのだけど、やっていることといえば笑顔で挨拶をすることくらいだった。

 

 イブキのコックピットが恋しかった。

 やはり、僕はパイロットなのだ。対人戦闘とか要人警護は、齧ってはいるけど、本当は専門外である。任務とあれば真剣に取り組むし、命を賭けて護衛対象を守ることに異論はないのだけれど、ちょっと落ち着かない気分なのも間違いない。

 

「まぁ、しばらくは我慢することだな。君の顔は色々と便利なんだよ、京奈院」

 

 交渉の合間にふと顔を合わせた篠宮が、そんなことを言った。

 

「向こう側の連絡要員として、あのクァニャンという軍人も同席することが多いだろう? つまり、君とはそういうセット運用ということなんだ」

「確かに彼女の顔を見る機会は多いですけど……、どういう意図なんですか、それ?」

「DJ号とユミツ国が協力して災獣という脅威を排除した、という象徴(シンボル)だよ。具体的で確たる成果というものは、交渉においてなによりも雄弁だからな」

 

 渉外部の堅物を装った監査部の曲者は、皮肉気に口の端を持ち上げた。

 

「なかなか美味しい立ち位置だ。英雄(ヒーロー)になった気分はどうだ?」

「いや、全然自覚がないですし、特になんとも思いませんね」

 

 そんなの勝手にやってくれ、という気分である。本当、最近は余計な重荷が増えてばかりだ。

 パイロットとしての仕事があって、休みの時間に小説を読めれば、僕はそれだけで満足なのに。地位やら名誉だなんて、貰ったとしても使い道がわからなくて持て余すのが目に見えている。

 

「というか、クァニャンとセットになってるってことは、ユミツ側にもそういう扱いで話が通ってるってことですか?」

「ヅィヅィザ将軍とやらの差し金だ。彼が協調路線の旗頭だ。今のところは、渉外部もその流れに同調する形を取っている。もっとも、あの老人が本当に信用できるのか、確たる結論が出ているというわけではないが」

 

 そう言われて、白髭の将軍の顔を思い出す。太古の樹木のように深い皺の刻まれた彼の容貌は、さながら古いファンタジィ映画の魔法使いのようで、いかにも一筋縄ではいかない雰囲気だった。

 これまでの僕らに対する態度を見るに、それなりに好意的な立場を取ってくれているのは察せられる。しかし、それとは別に彼が政治的な判断を持っているとしてもおかしくはない。人の上に立つ才能を持つ者というのは、得てしてそういうものだろう。国家の軍権の三分の一を掌握するような傑物であれば、なおのことだ。

 

「……別に誰の意図でやっててもいいんですけど、そういう政治的な駆け引きを戦闘の現場にまでは持ち込まないで欲しいですね。ともあれ、仕事だって言うなら、ご要望通りしばらくは黙って置物になることにしますよ」

「安心しろ。災獣の排除はユミツ、いや、惑星ウーサにおける最重要問題だ。討伐の実績を持つ戦士を遊ばせておく余裕はない。機体が戻ってきたら、次の作戦がすぐにでも実施されるだろうさ」

「だといいんですけどね」

 

 篠宮は軽く手を挙げて、ふらりと去っていった。

 交渉団の面々は常にひとつにまとまって行動しているというわけではなく、各々の専門分野ごとにいくつかのグループに分かれて交渉に臨んでいる。しかしこの篠宮という男は、ふと気が付くとそのいずれからもはぐれて、ひとり姿を消していることがままあるのだった。

 彼には彼の任務があるということなのだろうが、胡散臭さという点においてはヅィヅィザ将軍に負けず劣らず、この男も相当なものだった。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 その翌日、交渉開始から四日目のことだった。

 

 その日は珍しく三船と同じグループで行動するように指示があった。昨日まではそれぞれ別のグループの交渉に同席していたのだが、そのパターンを敢えて変えたという形になる。

 会合の準備を整えて、宿泊施設内の集合場所に向かうと、待っていたのは三船の他には交渉団の代表である初老の男がひとりだけだった。代表者の男――桃瀬という名前だった――が言うには、他のメンバーが遅れているというわけではなく、DJ号側の人員はこの三人だけということになるらしい。

 

 僕と三船は思わず顔を見合わせてしまった。彼女も詳しく聞いていないようだが、どうもおかしな感じだ。三人だけとは非常に少人数だし、これでは交渉の人員より戦闘の要員が多いことになってしまう。なにか特別な事情が絡んだ交渉ということなのだろうか。

 

「ユミツ側からの要請です。今日の会談相手から、人員の指定があった、と」桃瀬はそう言った。

 

 交渉団に割り当てられた宿泊施設は、四階建てのコンクリート建築だった。ユミツの基準ではこれでも高層建築の部類に入る。ユミツ国の都市計画においては、母の樹の日照を妨げないことが非常に重要な要素になっているらしい。現に、この宿泊施設よりも高い建造物は、首都の中心に聳える中央庁と呼ばれる施設だけだった。

 

 交渉団の寝泊まりする部屋と打ち合わせのための会議室は三階に固まって割り振られていた。セキュリティの都合という話である。上下の各階にはユミツ側のセキュリティが常駐していると聞かされていた。

 廊下には階を移動するためのエレベータがあるのだが、これは地球人には使用不可能だった。どうも外部に電源があるのではなく、搭乗者の魔力を使用して駆動する仕組みなのだとか。

 となると僕たち地球人が自発的に階を移動するには、廊下の端にある階段を使うしかないわけなのだが、客人に対していたずらに階段を上り下りさせるのはユミツの文化でも失礼に当たるらしく、エレベータの駆動のための人員――つまり、魔法使いのエレベータ・ガール――が常に廊下に配置されていた。階を移動したいときは、彼女たちにエレベータの起動を頼む形になる。うがった見方をするなら、僕らの階の移動は常にユミツ側から監視されているわけだ。

 

 エレベータで宿泊施設の一階まで降りた。

 一階のエントランスで合流したユミツ側の案内役も、たったの三人だった。そのうちの二人は見知った顔で、クァニャンとマハナ中佐である。

 

 もうひとりは、異様な風体の人物だった。ゆったりとしたローブのような継ぎ目のない装束を纏っていて、頭部には目深にフードを被っている。ローブの袖と裾はかなり長く、手足の露出が一切なかった。そのうえ、顔にはのっぺりとした白い仮面をつけている。目と鼻、それから口の位置に穴が開いただけのシンプルなものだ。当然、その表情も仮面で完全に隠されている。

 

「本日の案内を務めます、受宣官のエンデータンと申します」

 

 くぐもった声は、男性か女性かも判然としなかった。エンデータンと名乗る人物は、身長こそ平均的だが、ローブに包まれた身体のシルエットは曖昧で、痩せているのか太っているのかも定かではない。

 

「大道寺宇宙開発、渉外部の桃瀬です。どうぞよろしくお願いいたします」

 

 僕らの代表である桃瀬は、動揺する素振りを微塵も見せず、ごく自然な態度でにこやかに名乗りを返した。被っている仮面の分厚さでいったら、彼も負けていないようだ。

 

「はい、桃瀬様。こちらこそよろしくお願いいたします。(わたくし)は見ての通り、しきたりにより肌を晒すことが許されぬ身の上であります。ご不快かもしれませんが、どうかご容赦くださいませ」

「お気になさらず。それが貴国の文化であるなら、我々はそれを尊重いたします。しかし、失礼ながら、受宣官とはどういった職業になるのかについては、伺ってもよろしいでしょうか?」

 

「もちろんです」とフードの下の仮面が鷹揚に頷いた。

 

「受宣官――、すなわち私の役目は、()()()から未来の断片をお預かりして、それを知るべき方へとお伝えすることです。その職務ゆえに、私の姿かたちを知った他者からの介入を防ぐため、このように自らの姿を深く隠している次第であります」

 

「……預言者?」と、桃瀬が呟いた。どうやら僕の聞き間違いではなかったようだ。

 桃瀬は僅かに眉を動かしただけでにこやかな表情を崩していなかったが、僕と三船は思わず怪訝な顔を作ってしまった。

 それに対して、ユミツ側の人員、クァニャンとマハナは特に動揺した様子もなく、表情もほとんど動かしてはいない。それはつまり、ユミツ国では『予言』の存在が常識として知られている、ということなのかもしれない。

 

「本日は、皆さまに我が国の()()()()()と面会していただきたいと思います。彼らの語る、我々の未来の断片に、どうか耳を傾けてみてください」

 

 フードに包まれた両腕を広げた白い仮面の人物のくぐもった声は、どこか神秘的で厳かな響きを帯びていた。

 

 

 

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