星の息吹と宇宙猫   作:子守家守

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ディフォームド・リポート(7)

 ナェゴトの地下空間は、地上のコンクリートジャングルよりもさらに複雑な迷宮だった。

 張り巡らされた通路は総じて暗く狭い。どの通路もぐねぐねと曲がりくねっていて、ひとつの方向に真っ直ぐ進むことさえ困難だ。分岐点も異様に多い。足元の傾斜は不規則で、歩いているだけで高低差があやふやになってくる。

 

 クァニャンが言うには、地下空間のこの歪さは、『母の樹』の根を避けて掘り進められたものだからなのだとか。

 ユミツの歴史でも古い時代の遺構で、現代では足を踏み入れる者も滅多にいないという話だ。もともとは当時に権力者が築いた秘密の避難路で、迷路のような複雑さは外敵の侵入に備えてのものでもあるらしい。

 

「そんな場所に入っちゃって大丈夫なの?」

「昔、軍務で調査したことがあるから」

 

 僕とクァニャンは地下通路を歩いて移動していた。さっきまでみたいに走ってはいない。

 仮面の刺客はひとまず僕らのことを見失ったようなので、余計な物音を立てて居場所を悟られないように、できるだけ静かに移動するのが得策だろうという考えである。

 

「私は『跳躍』を使えるから、地下の調査中に迷っても地上に帰還することができる。それで、この遺構のマッピングを任されたの。もう何年も前のことだけど、この辺りの道はまだ覚えてる」

 

 地下道を進みながら、クァニャンが小声で囁く。

 彼女は僕の数歩前を歩いていた。もう手首を掴まれてはいない。暗闇だが、暗視はできるので、彼女の背中はしっかり見えている。変によそ見をしなければ、迷子になることもないだろう。

 

「そうだ。その『跳躍』で安全な場所まで避難するのは?」

「それは無理」

 

 僕の口から出た思い付きを、彼女は即座に否定した。

 前を進む猫耳帽子が足を止めて、困り顔でこちらを振り向く。暗闇の中で目が合った。そう思ったけれど、彼女は魔法で暗闇を見通しているのだから、僕の眼球とは別の仕組みでこちらを見ているのかもしれない。

 

「そもそも『跳躍』は他人を運べる魔法ではないの」

 

 その言葉に、僕は思わず目を瞬かせてしまう。

 クァニャンは小さく息を吐いて、説明を続ける。

 

「瞬間的に空間を越える技術というのは、とても複雑で、扱いが難しい。だから、自分ひとりを対象とするのが精一杯。()()と一緒に跳ぼうものなら、間違いなくどこかで破綻する」

「いや、でも……」

「イブキのことね?」

「そう。災獣と戦っているとき、僕らは一緒に『跳躍』したよね」

 

 立ち止まったクァニャンは、腕を組んで難しい表情になっていた。

 僕の顔をじっと見つめて、しばらく沈黙してから、複雑な難問を説明するかのように言葉を選びながら話を続ける。

 

「正確には、あの『跳躍』は私が使ったものではないの」

「……どういうこと?」

「『跳躍』を習得しているのは私だし、魔力をどういう流れでコントロールするのか、どのタイミングで魔法を起動させるのか、それを判断したのも私なのだけど……、実際にあの『跳躍』を行使したのは、私とは別の()()なの。もし私自身が術者だったら、ケイナインはもちろん、イブキのような巨大な物体を『跳躍』させることもできないわ」

 

「君じゃないなら、誰が?」

 

 当然の疑問が口を突いた。

 クァニャンは僅かに逡巡してから、言葉を返す。

 

「イブキ」

 

 彼女の答えは、このうえなくシンプルだった。

 

「……ええと、それ、本気で言ってる?」

「私も最初は信じられなかった。でも事実、イブキに乗っているときは、あの巨人が私の魔法を使っている。つまり、『跳躍』はイブキの魔法として行使されていて、あなたと私はあくまで巨人を構成する要素の一部として、()()()()瞬間移動したということ」

 

 僕は口を開きかけて、けれど言葉が見つからなかった。

 にわかには信じがたい話だった。「なるほど」と知った顔で頷くこともできない。

 

 僕たちDJ号の乗組員は、惑星ウーサでクァニャンたちに出会うまで、魔法という技術の存在を知らなかった。当然、イブキをはじめとするSC(ステラコネクタ)の設計においても、魔法の行使などは想定されていないはずである。

 いや、そもそも、人間でもないロボットが魔法を使うということ自体、かなり突飛な話ではあるが……。

 

「せっかくだから聞きたいのだけど」とクァニャンが尋ねてくる。

 先ほどの彼女の発言を咀嚼しきれているとも言い難いが、それでも僕は「どうぞ」と彼女を促した。クァニャンは小さく頷いて、首を傾げながら問いかけてきた。

 

「イブキは、本当にただの人形なの?」

 

 それは、純粋に好奇心からの質問のようだった。邪気のない口調からは、異質なものに対する恐怖や忌避感の感情は読み取れない。視線も真っ直ぐで、僕には暗闇で光る猫の瞳のようにみえた。

 けれど一方で、彼女がわざわざそれを聞いてくるということは、ユミツ国においても()()()()()は魔法を使えないというのが常識なのだとわかる。

 もしかしたら、イブキが魔法を使ったという事実は、惑星ウーサの魔法使いたちにとって、宇宙人の存在と同じくらいイレギュラーなものなのかもしれない。

 

「『ただの』って言葉の定義によるけど……」

 

 僕は顎に指を当てて考える。

 

「前提として、イブキは軍事用に製造された兵器で、量産モデルのロボットだ。三船と安藤も同型機を使っていたのはクァニャンも知ってるだろう? 正確な数までは知らないけれど、リリースからけっこうな年数が経っているし、廃棄された機体も含めれば少なくとも百機以上は製造されているはず。そういう意味では、僕のイブキが特別な一点ものってわけじゃないのは確かだね」

 

 軍事兵器と銘打たれて武装も施されているものの、イブキの普段の任務は航路啓開と惑星探査である。実際に投入された戦闘らしい戦闘といえば、定期的に行われる武装企業間での模擬戦争くらいだろう。これまでの外宇宙探査の旅路において、明確な敵勢力というものがDJ号には存在しなかったのだから、それも仕方のないことだが。

 とはいえ、航路啓開と惑星探査だって宙間戦闘に劣らず危険な任務だし、戦闘に投入されていなくても運用していれば機体は損耗する。ユーザである武装企業が修理や買い替えを必要とするのだから、当然、製造元も同型機の製造を続けている。

 後継モデルや競合他社のロボットも既に存在するけれど、イブキという規格の製造件数が今なお増え続けているのも確かな事実なのだ。

 

「でも、それは製造数のことであって、機体の性能が平凡だって話じゃない。極論、子どものオモチャみたいな人形と比べたら、イブキを()()()()()と呼ぶことは到底できないだろうね。ハードにせよソフトにせよ、イブキに導入されている技術は当時の先端科学を用いたものだし、最初のリリースから現在に至るまで、もう何度もアップデートを繰り返している。イブキという規格そのものが、僕たち地球人類の技術の結晶のひとつであるということも間違いではないよ」

 

「……それは、人形が魔法を使えることの理由になるの?」とクァニャン。

「うーん、そもそも、魔法を使えることの条件がわからないんだけど」僕は困り顔で頬を掻く。

 

「魔法は、人間の業よ」

 

 彼女は真剣な口調で言った。

 

「人間だけが、魔法を使えるの。……少なくとも、災獣(シウジェア)が現れるまではそうだった」

 

 彼女の真っ直ぐな視線を受け止めて、僕は頷いた。

 魔法は人間の業。だとしたら、これはひょっとして、イブキがどこまで人間に近いのか、という問題なのだろうか。「イブキはただの人形なのか」というクァニャンの問いかけも、「イブキは本当は人間なのではないか」と言い換えることができるものなのかもしれない。

 

「イブキが、というか、SC(ステラコネクタ)そのものが、人間を模して造られた兵器っていうのは確かだよ。なにせ異星人に人間の姿を示すために人型兵器として設計されたって話があるくらいだからね」

 

「ただ……」と僕は首を傾げながら続ける。

 

「この場合の『人間』っていうのは、あくまで地球人類を指すものだから、魔法使い……、ウーサ人のことを想定していたってわけじゃない。だから、魔法を使うための『人間らしさ』が意図して設計に組み込まれているのかというと……、ちょっと僕にはピンと来ないかなぁ」

「ケイナインがわからないなら、誰に聞けばいい?」

「うーん、製造企業の開発部門とかに聞いてみれば、もうちょっと詳しい話がわかるかもだけど」

「そう……。わかった。ごめんなさい、余計な話だった」

 

 ほんの少し残念そうに眉を下げて、クァニャンはくるりと背を向けた。

 周囲の様子を窺いながら、僕たちは地下通路を再び歩き出す。

 

「今は、安全な場所に移動することを優先する。ケイナイン、またあとで話を聞かせて」

「そうだね。さっきのテーマは、落ち着いたら僕の方でも調べてみるよ」

「うん。お願い」

 

 地下道は緩やかな傾斜が続いている。僕はもう自分の位置情報を完全に見失っていた。

 メガネに入力されている首都ナェゴトのマップは、ドローンの空撮をベースに作成されたものだ。地下道まではカバーされていない。もはやクァニャンのガイドに頼るしかない状態だ。

 

「ところで、僕たちはどこに向かっているの?」と前を行く背中に尋ねてみる。

「私たち『東』の軍が利用している都市内の拠点」彼女は振り向かずに答えた。「ヅィヅィザ将軍のお膝元だし、信用できる仲間もいるから、そこまで辿り着ければひとまず安心できる」

 

 淡々とした彼女の言葉を聞いた僕は、少し考えてから口を開いた。

 

「でも、相手もそのくらいは予想してそうだよね。待ち伏せとかされていないかな」

「可能性はある」

 

 地下通路の壁に手のひらを置き、曲がり角の向こうを覗き込みながら、クァニャンは肯定した。

 

「地下通路に人の気配は感じられない。たぶん、追っ手はもう地上に戻っていて、地下道の出口を見張ってるのだと思う」

「その出口っていうのは、たくさんあるの?」

「それほど多くはない。それでも、ナェゴトに存在するすべての出口を見張るのは現実的ではないと思う。相手の勢力の規模がわからないから、絶対にありえないとは断言できないけれど……」

「その中からピンポイントで見張るとしたら、君の仲間がいる施設の付近の出口だろうね」

「うん。私がユミツの軍人ってことは、相手もわかっているだろうから、軍事施設の近くにあるいくつかの出口と、そこから拠点に向かう地上のルートはもう抑えられているかも」

 

 曲がり角をいくつか曲がった。周囲にはひんやりと湿った空気が漂っている。

 クァニャンは黙々と足を進めているが、時折ちらちらと後ろの僕を振り返っていた。たぶん、僕がちゃんと付いてきているのか確認しているのだろう。

 

「実際のところ、待ち伏せされてたらどうするつもり?」

「敵の人数にもよるけれど、少数なら、強行突破」

 

 暗闇の中をずんずん進みながら、クァニャンはきっぱりと言った。

 彼女もなかなかアグレッシブだ。

 

「勝算はあるの?」

「街中だから、戦闘になれば騒ぎになる。突破に手間取っても、時間はこっちの味方」

「うーん、どうかな。例の迷子の魔法といい、搦め手を使える相手みたいだから、その辺の対策も準備してそうな印象があるけど」

「……否定はできない。でも、それならどうする?」

 

 クァニャンは小さく息を吐くと、足を止めて困ったように眉を傾けた。

 頭ひとつ低い位置にある彼女の表情を見つめながら、僕は顎に指を当てて考える。

 

「そもそもさ、なんで僕が狙われてるんだろう? 相手の目的は?」

「チキュウ人との交渉を決裂させるためじゃないの? ケイナインを狙ったのは、チキュウ人の代表的な人物として知られているからだと思う」

「代表的? ええと、僕のことって、ユミツではどういう風に伝わっているワケ?」

「災獣を倒した戦士、と」

「あー、そりゃあ間違いではないけれど……」

「この惑星において、英雄といっていいほどの功績。まだ一般には公表はされていないし、知っているのは政府高官とチキュウ人との交渉に関わっている人員くらいだけど、あなたの動向を注視している人はたくさんいる」

「あのさ、災獣を倒した功績っていうなら、それって君もなんじゃないの?」

「私は軍人だから。チキュウ人とユミツの軍が協力して災獣を討伐したことは、私個人だけのことじゃなくて、『東』の軍の戦果としても宣伝されてるわ」

「つまり、ヅィヅィザ将軍あたりが君の代わりに目立ってくれていると。正直、僕としてはそっちのほうが羨ましいかも……」

 

「私も」クァニャンは頷いた。「変に注目されるのは、好きじゃないから」

「まったくもって同感だね」と僕はため息を吐いた。そういえば篠宮も似たようなことを言っていたな、と今さら思い出す。英雄(ヒーロー)扱いだなんて、疲れるだけなのに……。

 

「まぁ、僕の名前が目立ってたってことはわかったよ。だとしても、交渉を妨害するために、僕を狙うっていうのはどうなんだろう」

 

 普通に考えると、ターゲットの第一候補となるのは、交渉団の代表である桃瀬だろう。対外的にも彼は自身がリーダーであることがわかるように振舞っているし、実際の交渉の場でも中心的な立ち位置にいることが多い。間違いなく交渉団の柱石としてユミツ国の側にも伝わっているはずだ。

 

「それを差し置いて、わざわざ僕を狙うかなぁ」

「モモセのガードが固くて、手を出せなかったとか」

「それってさ、交渉団の護衛に対処するには戦力に不安があるってことでしょ? 敵がそういう自覚を持っているのなら、なおさら僕にちょっかいを出すと考えにくいと思うんだよね。ほら、僕には一応、災獣退治の英雄って肩書きがあるわけだから」

「……そうね。猛獣がいるとわかってて自分から檻に手を入れるようなものだわ」

「実際は僕も猛獣ほど狂暴じゃないけれどね」

「面白い冗談。でも、そうか。ケイナインのことは知られているけれど、イブキのことはそこまで広まっていないのかも。だって、ナェゴトには実物の巨人が来ていないから……。だから、生身のケイナインが災獣に対抗できる戦闘力を持っていると勘違いされているっていうのは、確かにあり得る話ね」

 

 目を細めて思考を巡らせながら、クァニャンはそう呟いて、不思議そうに首を傾げた。

 

「イブキのことを知っていたとしても、ケイナインが戦士なのは変わりない。それなら、戦士ではない交渉団の別のメンバーを狙った方が、襲撃の成功する可能性も高くなる」

「そうそう。やっぱり、そんな感じがするでしょ」

「でも、現実には、敵はケイナインを狙っていた」

「うん、その通りだ」

 

 宿泊施設に現れた老人の仮面の部隊を思い出す。

 彼らは統制された動きで、迷うことなく僕の部屋に攻撃を仕掛けてきた。廊下に並ぶ他の部屋には一切目もくれずに、だ。あれは明らかに僕個人をターゲットにした動きだったと思う。

 

「もしかしたら、彼らには交渉の妨害とは別の目的があったんじゃないかな」

「別の目的って?」

「たとえば、僕を殺傷すること自体が目的だったとか」

「それは目的を達成するための手段じゃないの?」

「うーん、普通ならそうなんだけど……」

 

 実はさっきからずっと考えているのだが、僕が殺されたとして(そう、相手は明らかに殺す気で魔法を撃ってきていた……)ユミツ国とDJ号(フネ)の交渉にどんな影響があるというのだろうか。

 もちろん、両者の関係が今よりも緊張したものになるのは間違いないだろうし、交渉が一時的にストップする可能性もあるだろう。

 

 けれど、襲撃がユミツの国としての総意ではないとわかれば、おそらくDJ号の指導層は交渉を継続することを選択するはずだ。

 700年の旅路の果てに掴んだ異星文明とのコンタクトを、乗組員がひとり犠牲になった程度で棒に振れるはずがない。彼らは表向きは犠牲者を悼みつつも、鷹揚にユミツ国の不手際を許すことだろう。ともすれば、これからのユミツとの交渉で優位に立てると密かに喜ぶかもしれない。

 

 一方で、ユミツ国の視点に立ってみても、今回の件はメリットは薄いように思えた。

 襲撃が上手くいっても上手くいかなくても、DJ号との関係には亀裂が入る……、とユミツの人間は考えるはず。

 災獣という前例があるのだし、異星人のことが気に入らなくて、交渉を妨害しようという勢力があったとしてもおかしくはない。ただそれでも、僕たちを『敵』にまでしてしまうのはやりすぎだというのが正常な判断だと思う。

 

 災獣という脅威を国内に抱えた状態で、別の異星人まで敵に回ってしまうだなんて、この国の住人にとっては悪夢もいいところだ。だから、交渉を妨害するにしても、もう少し軟着陸できそうな手法を取るのがベターなのではないか。

 異星人の寝室に魔法の矢をしこたまぶち込むなどという直接的な強硬手段を仕掛けるだなんて、向こう見ずにもほどがある。

 

 もっとも、どこの星のどこの国でも、過激派なんてものはこのくらい無分別で破滅的なものなのかもしれないが……。

 

「とにかく、僕を殺すことでなにが達成できるのか、って考えてみても、ピンと来ないわけだよ」

「だから、あなたを殺すこと自体が目的だと? ちょっと飛躍してると思う」

「まぁ、あくまでたとえばの話だし……。うーん、クァニャンは敵の目的についてどう思う?」

「どうも思わない。私の任務に目的は関係ない。敵がなにを考えていようと、あなたの安全を確保するのが第一だから」

 

 軍人らしい潔さでそう言い切ると、彼女は僅かに微笑んだ。その柔らかい表情に、軍人らしからぬ暖かな感情が見え隠れしている。しかし、それをなんと呼べばいいのか、正確な表現が僕には浮かばなかった。

 

「わざわざこんな話をしたのは、なにかを思いついたから?」

「え? ああ……、実は、似たようなケースにちょっと思い当たるものがあってさ」

「似たようなケース?」

「そう。非常にはっきりとした犯罪行為が起きているんだけど、その目的が実はよくわからないような事件のこと。僕自身の体験じゃなくて、DJ号の資料に残っていた過去の出来事だけど」

「事件というと、誰かが襲われたりしたってこと?」

「うん。都市内で起きた襲撃事件。ただ、普通の事件と違うのは、組織的な勢力の手によるもので、なおかつ都市の中心で人目のある中での大規模な襲撃だったということ。それは、隠蔽も後始末も考えていないあからさまな攻撃行為だった。でも、その割に犯行勢力の目的がすぐには判明しなかった……、みたいな」

 

「確かに似てるかも」とクァニャンは頷いた。「それで、その事件はどうなったの?」

 

「実行犯はすぐに捕まった。けれど、彼らに指示をしたのが誰なのかというのがしばらく判明しなくてね。まぁ、それでも最終的には黒幕の正体も含めて、事件の全貌は明らかになったのだけど」

「過去の事件、って言ったよね。その事件の真相が、今の状況にも当てはまるの?」

「確証はないけれど……、ひとつ、思いついたことはある」

 

 クァニャンの提案通り、軍の施設を目指して地上に出るというのも選択肢ではある。ただ、そのルートが絶対に安全とは言い切れない。シンプルな選択ゆえに、上手くいけば一気に危機を脱することができる一方で、敵の勢力にも動きを読まれやすいからだ。

 地下の知識ではクァニャンが有利だけど、地上の地の利は相手にある。僕らが地上に出るには、数の限られた出口を必ず通らなければならない。そこを狙われたら、非常に不利だ。ともすれば出口を崩落させて物理的にこちらを潰すことくらいは相手もしてくるかもしれない。

 魔法の矢で蜂の巣にされるか、崩落に巻き込まれて生き埋めにされるか。どちらも想像したくない結末だ。

 

 では、どうする。

 僕らのアドバンテージは、ひとまず相手が僕らのことを見失っていることだ。敵が地上への出口を見張っているとしても、相手が予想していないようなポイントの出口を使えば、待ち伏せのリスクは大きく軽減できるはず。

 

 考えるべきは、相手が思いもしないようなルートを選ぶこと。

 そういう意味では、僕の思い付きが少しは役に立つのかもしれない。

 

「クァニャン、物は相談なんだけど、今から言う場所に道案内をお願いしてもいい?」

「目的地次第だけど……、どこに行こうとしているの?」

「ちょっとね。会ってみて、可能なら協力を取り付けたい人がいるんだ」

 

 暗闇の中、彼女の耳元に口を近づけて、考えていたことを囁いた。

 僕の提案を聞いた彼女は、怪訝そうに眉を傾けたものの、「案内はできる」と頷いた。

 

 

 

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