星の息吹と宇宙猫   作:子守家守

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猫よ、猫よ(2)

 海上の降下地点から見て西側の大陸が合流ポイントだった。

 切り立った崖の海岸線をイブキで越えると、鬱蒼とした緑の森林地帯に入る。遠くに見える山脈の麓の辺りまで、背の高い樹木がびっしりと立ち並んでいた。

 

 僕にとってはヴァーチャルでしか見たことのない光景だ。DJ号の内部にこれほど大規模な自然環境は存在しない。もちろん生活の中で植物を見かけることはあるけれど、それは宇宙艦(フネ)の環境維持のために人の手でデザインされた植生だ。それと比べれば、目の前の光景はあまりにナチュラルで、その無秩序な生命力の繁茂に圧倒されてしまう。

 

 しばらく行くと森林地帯の中にちょっとした空白があった。緑の傘の合間に青い円形のエリアがいくつか見える。どうやら小さな沼か湖があって、その周囲に樹木の生えていない空間があるようだ。森の中の複数の湖は一本の河川で繋がっていた。ずっと遠くの山麓から、後方の大海まで流れているらしい。

 

 三船と安藤はそのうちのひとつ、比較的近場にある湖畔で僕のことを待っていた。

 

「なるほど、経緯は理解した。納得もした。それはそれとして、一発殴らせてくれないか?」

 

 僕の報告を聞いた三船は、ヘルメットを脱いだ額を指で押さえながら、忌々しそうにそう言った。冗談を口にする余裕はまだあるようだ。ただし、本音が漏れたのだとしたら、かなり危うい状態とも評価できる。

 

「うーん、独断が過ぎたかなぁ。けっこうマズい感じですか?」

「そんなことは今の段階では私にもわからないよ」

 

 三船は鼻を鳴らして吐き捨てた。

 

「異星文明とのファーストコンタクトについては、700年の議論が蓄積している。しかし、その全ては机上の空論でしかない。今回の任務に関しても、ああだこうだとガイドラインを詰め込まれはしたが、最終的には現場の判断を優先して構わないと上層部の言質は取ってある」

「それなら、お咎めなしで済みそう?」

「よほど道理の通らない行動でもしない限り、あとになって問責されることはそうそうないはずだ。……現場責任者である私のところには上からネチネチと嫌味が飛んでくるだろうがな」

「それは、ええと、お疲れ様です」

「人類初の星間交流の当事者になりたいというお偉いさんは想像以上に多いものらしい。まったく、そんな願望を抱えているなら、さっさと現場に転向すればいいものを」

 

 ため息をついて、三船を顔を上に向けた。見えているのは青い空で、宇宙までは届かない。僕らに遅れてこの惑星を目指しているはずのDJ号の光は、当然どこにも見えなかった。

「どうせ殴るなら、通信越しの偉そうな顔を殴ってやりたいところだな」と不穏な呟きが耳に入ったけれど、それに対しては首を振るだけに留めて、ノーコメント。

 

「……まぁ、悪いか悪くないかで言えば、別に状況は悪くはない」

 

 視線が地上に戻る。少し離れたところに三機のイブキが膝をついた状態で待機していた。そのうちの一機、安藤の機体は今も片腕を喪失している。ビーム砲で撃ち抜かれた左肩の部分は、内部構造が剥き出しになっていて、遠目にも痛々しい印象だった。

 

「無警告の先制攻撃を仕掛けてくる巨大な生命体と、非暴力的なコミュニケーションの可能性がある我々と同サイズの生命体。どちらかを選ぶのなら、ひとまず後者に対して友好的な接触を試みるのは妥当な選択だろう」

 

 三船が目を細める。その視線の先には、件の山高帽の人物の姿があった。今はもう空を飛んではおらず、湖畔の草地に降り立ってそこからイブキを見上げている。

 僕と三船の位置からは彼女の背中とひとつ結びの菫色の髪が見えていた。その向こうに、困り顔の安藤が立っていて、異星人がイブキに近づきすぎないよう戸惑い気味のジェスチャを繰り返している。

 

 黒コートを羽織った山高帽の彼女は、安藤とそう変わらない背丈に見えた。けれど、正確には違う。彼女の足元に注意を向けると、10cmほどの厚底ブーツが頭の高さを押し上げていることに気付く。つまり、実際のところ、彼女の身長は安藤より10cm以上低いということになる。

 

「あの靴に仕掛けがあるのかと思ったんだがな」

 

 三船がぽつりと呟いた。

 僕から報告を聞いただけでなく、三船自身も山高帽の人物が機械の補助なしで飛行する姿を目にしている。あのワームとの接触地点から、僕のイブキはそこそこの低速で合流ポイントまで移動してきた。もちろん低速といっても、それは15mの巨躯と高出力スラスタを持つイブキにとっての低速であって、間違っても生身の人間が追い付ける速度ではないのだけれど。

 

 しかし、山高帽の彼女は、イブキのその速度に涼しい顔で追従してきた。

 物理的におかしいとしか言いようがない。巡航速度もそうだが、航続距離もとんでもないことになっている。あの小さな身体で、航空機並みのスピードと1,000km以上の持久力を両立させている。いったいどこからそのエネルギーを取り出しているというのだろう。

 

 合流地点に到着した僕のイブキが湖畔の空き地に下りるのに続いて、山高帽の彼女は滑らかに大地に降り立った。それを目撃した三船の顔ときたら、今までに見たことのない愉快な形相だった。あんなに目を丸くした彼女を見るのは、もしかしたら最初で最後かも、というくらいだ。……その隣で安藤がオーバなリアクションをしていたのは、まぁ、いつも通りといえばいつも通り。

 

「さしずめ魔法の靴、ですか?」僕は異星人の厚底ブーツを見つめながら口を開いた。

「いや、何度かスキャンしてみたが、特別な機構は確認できなかった。あのおかしな靴底に仕掛けがあるわけではないようだ。電磁波や不自然な温度変化といったエネルギー変化の兆候も見て取れない。解析結果からは普通の靴としか言いようがないな」

「だから、魔法の靴なのでは?」

 

 そう呟くと、三船に横目で睨まれた。

 

「魔法なんてものが、本当に存在するとでも?」

「それをなんて呼ぶのかはともかく、僕らの知る物理法則とは別の技術系統がこの惑星にあるのは確かだと思いますけど」

「人間に空を飛ばせることくらい、我々の技術でも不可能ではない。あの異星人の装備のいずれかが飛行用のユニットだとすれば、それで科学的に説明がつく」

「だったら、瞬間移動の仕組みについては?」

「……そちらは、まだこの目で見たわけではない」

 

 そうは言ったものの、三船の歯切れは悪かった。なにしろ、彼女自身が実際に見たわけではなくても、僕のイブキの観測データには目を通しているはずなのだ。映像記録と各種の数値が、山高帽の異星人の消失と再出現が現実のものであったと伝えている。にわかには信じ難い話なのは確かだが、しかし、真っ向から否定するのも難しい、といったところだろう。

 

 イブキを見上げていた山高帽が振り向いた。僕たちの会話が届いていたのかもしれない。

 菫色の髪の異星人がこちらに歩いてくる。山高帽の下の表情は、あくまで僕の勝手な印象ではあるけれど、好奇心に瞳を輝かせているようにも見えた。手に持った長い棒は、すでに光の刃を失っていて、今はただの木の棒にしか見えない状態だ。

 

「だったら、あれは魔法の杖か?」と三船の小さな呟き。彼女は右手をズボンのポケットに入れているのだが、その内側で密かに拳銃を握っていることを僕は知っていた。

 

「通信は今も監視しているな?」と低い声で尋ねられる。

「ええ。でも、見張れるのは電波とか赤外線とか、そういう類の無線通信くらいだから……」

()()を使われたらどうしようもない、と」

 

 山高帽の彼女にも仲間がいるのではないか、という疑問は、僕と三船に共通する懸念だった。

 76番惑星に異星人の社会があるのは間違いないだろう。山高帽にせよ黒コートにせよ、異星人の彼女の服装には明らかな社会性が感じられる。つまり、防寒や身体保護の機能だけでなく、共同体における()()()の効果が意図されているように思えるのだ。

 

 まだ簡単な解析の段階だが、彼女の服の素材についても多少はわかったことがある。彼女の山高帽と黒コート、それからコートの下の白シャツとでは、すべて異なる素材が用いられているようだった。どれも繊維を編み込んだものだが、その組成がそれぞれ違うのだ。そしてなおかつ、その繊維は人工的な加工を経たもののように観測されている。

 つまり、目の前の異星人が自身の服装のすべてをハンドメイドしているのでもない限り、繊維を生産した者や、それを被服に加工した者がいるということ。そういった推測も、異星人の社会の存在を示唆するものだった。

 

「組織に所属しているなら、京奈院についてくるにしても、仲間に報告のひとつくらいは入れていそうだが……」

「案外、個人の判断と単独行動を尊ぶ文化だったりして」

「それは楽観が過ぎるな」

「とはいえ、通信の痕跡を見つけられないことには、推測以上のことは言えませんし」

 

 僕らが気づけていないだけで、今まさに異星人の大群がこの地に向かっているという可能性も無きにしも非ず、というわけだ。隣に立つ三船がこめかみに指を当てて重たい息を吐いた。

 

 こちらに近づいてきていた山高帽の異星人が、三船の様子を見て首を傾げる仕草をする。その仕草に対して、地球人的な解釈で受け取っていいものなのだろうかと疑問がよぎる。外見上は身体の構造が似通っているから、基本的な感情表現には僕らとの共通項があるのかもしれないが……。

 

「えーと、どうも、こんにちは?」

「ʍɸʛʃɪ̄?」

 

 僕が肩を竦めると、目の前の異星人も同じ動作を返した。真似っ子さんだ。

 相変わらず彼女の扱う言語は理解できなかった。発音にも形容できないところがある。もしかすると発声器官に差異があるのかもしれない。もちろん、僕がこの星の言語のヒアリングに慣れていないだけなのかもしれないが。

 

 チームメイトである三船と安藤の視線は僕と異星人とに注がれていた。二人とも口を開くつもりはなさそうだ。さしあたりの交渉は僕に任せるということらしい。交渉なんて高尚なコミュニケーションができるとは限らないけれど、それは承知の上でのことだろう。

 

 幸いなことに、異星人が僕らにとって可聴域の音声を用いたコミュニケーション手段を持っていることは確かなようだ。少し考えてから、僕は自分自身を指差して、なるべくゆっくりはっきりと声を出した。

 

「僕は、京奈院」

 

 山高帽の下で異星人の目が細められる。

 僅かに考える間を置いて、彼女が口を開いた。

 

「ボカァケェヌイン?」

 

 彼女が人差し指を僕に向けてくる。(手の指は五本あった)

 惜しい感じだ。こちらの意図は伝わっているように思える。僕はもう一度自分を指差しながら、余計な部分を削ぎ落して口を開く。

 

「京奈院」

「ケィナイン。θʮʮ、ケィナイン」

 

 僕は反射的に頷いた。けれど、そのジェスチャが彼女に伝わったかどうか。

 山高帽の異星人は、僕に向けていた人差し指の向きを自身に変えて、

 

「Ʋϡɸ̴̵̷ 」

「クァ……アン?」

「Ʋ ϡ ɸ̴̵̷ 」

「クァ、ニャン?」

 

 たどたどしい僕の発声に、異星人は満足そうに頷いた。

 

「ボカァ、Ʋϡ ɸ̴̵̷ (クァニャン)

 

 山高帽の下で、嬉しそうな表情がしきりに頷いている。

「猫みたいっすね」と安藤の小さな呟き。そう感じるのは、やはり彼女の発声が地球人類のものとは違った響きを帯びているからだろう。ある意味、猫が鳴くのを聞いて、ニャンと人間の言葉に直すのと近い感覚といえるのかも。

 

「僕は、京奈院。キミは、クァニャン」

「キミァ、ケィナイン」

 

 山高帽の異星人――クァニャンの表情がはにかんだ。つられて、僕も口元が緩んでしまう。

 続けて、彼女は少し離れたところに立っている三船と安藤を順番に指差した。その意図を察して、僕も追いかけるように彼らを指差していく。

 

「三船。安藤」

「ミフネ。アンドゥ。……ʦʢʙ-z……」

 

 彼女はまたひとつ頷いてから、「ミフネ。アンドゥ。ケィナイン。Ʋϡ ɸ̴̵̷ (クァニャン)」と指差しと発声を繰り返した。

 これはつまり、クァニャンという名前が、種族の名前ではなく、個体を示すものだと言っているのだろうか。同じ地球人類である僕たち3人が別の名前を持っていることに対して、クァニャンは違和感を感じてはいないようだから、名前を付けて個体を識別するという文化が彼女にもある可能性は高いだろう。

 

「オーケィ、ちゃんと話は通じているみたい。ね、そう思いません?」

「そうだな」視線を向けると、三船が頷いた。「その調子で続けてくれ」声色は淡泊でシンプル。ことさら冷たいというわけでもなく、このくらいが彼女のデフォルトである。

 

 僕はパイロットスーツの収納から携帯用の端末を取り出した。手帳サイズの薄型で、DJ号で広く普及しているタイプだ。表面を軽く叩くと、すぐにクリアブルーの光が浮かび上がり、立体的なモデルが端末上に構築された。

 表面に凹凸のある球形のホログラムは、探査惑星76番、つまり僕たちが立っているこの星の外観を投影したものだった。淡い水色の輪郭をゆっくりと回転させるそれを目にした山高帽の異星人は、驚いたように目を見開いて、それから興味深そうに顔を近づけてきた。

 

「これは、この星だよ」

 

 僕はクァニャンに対して、ホログラムと足元の地面とを交互に指差してみせる。

 おそらく通じるだろう、という期待はあった。空を飛ぶ技術(あるいは、空を飛ぶ能力)が存在するのなら、地形の把握や地図の作成は一定以上の技術水準に達している可能性が高い。高空からの視点を持てるなら、この惑星が球形であることもおそらく既知の事実となるはずだ。

 

 クァニャンはしばらくの間ホログラムをじっと見つめていたが、やがて「ʦʢʙ-z」と小さく呟くと、空間投影された惑星モデルの一点を指差した。この星の海に浮かぶ二つの大陸、その片方の内陸部をほっそりとした指で示している。

 大雑把な位置ではあるが、それはまさしく、今僕らの立っている場所に近いポイントだった。クァニャンは僕の顔を見つめながら、地図上のそのポイントと自身の足元を交互に指差している。

 

「⟆ʚ)ɪ̪ɤʍ」

「ええと、ウーサ?」

「♪ɸ、♪ɸ、⟆ʚ)ɪ̪ɤʍ(ウーサ)

 

 今度は比較的聞き取りやすい単語だった。僕の耳が慣れてきたのかもしれない。

 山高帽のクァニャンは、ちょっと首を傾げて、惑星モデルをなぞるように指をくるっと回して、再び「⟆ʚ)ɪ̪ɤʍ」という言葉を繰り返した。なるほど、と僕は理解の意を込めて頷く。

 

 ウーサ。あるいは、ウルサ。

 それがこの星の名前なのか。

 

「ケィナイン」

 

 山高帽の下から、真っ直ぐな視線が飛んでくる。

 

「θʮʮ、ʍʙʍʙ、ʘʍʢ?」

 

 クァニャンは僕を指差すと、腕を伸ばしままくるりと身体を回転させた。彼女の指先は周囲の風景を舐めるように一周して、それからまた僕の顔へと戻ってくる。「θʮʮ、ʍʙʍʙ、ʘʍʢ?」と同じ言葉を口にして、彼女はその動作を繰り返している。世界一周の旅から帰ってきた指が僕を指し直すときに、彼女はその言葉を言っては首を傾げるのだ。

 彼女は僕に対してなにかを尋ねている。相変わらず聞き取りは上手くいかないけれど、ジェスチャの意図するところはなんとなく伝わってきた。たぶんだけれど、彼女は僕に、「どこから来たのか」と聞いているのだ。

 

 僕はパイロットスーツのグローブに包まれた指を空に向けた。

 DJ号は地球からやって来て、僕らは地球人類ではあるけれど、その問いに対してはこう答えるしかない。

 

「僕らは、宇宙から来た」

 

 クァニャンの視線が僕の指先を追いかける。

 空を見上げて、それから僕に視線を戻した彼女は、どうしてか泣き出しそうな顔をしていた。

 

 だけど、異星人も、涙を流すものなのだろうか。

 

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 

 同じ質問をクァニャンに返すことで、僕らは彼女がどこから来たのかを知ることができた。現在地の森林地帯を北に抜けた先の平野部だ。投影された惑星ホログラムの該当地点を指差したのだから、この解釈で誤りはないだろう。

 

「町でもあるのかな」とは僕の声。

「軍事的な拠点では?」と三船はシリアスな声色。

「そもそも軍人さんなんすかね、クァニャンさんて」安藤が首を捻る。

 

「彼女が戦闘の要員であることは確かだろう。殺傷力のある武器を携行して、逃げることもなくあのワームと対峙していたんだ。それも海上で。偶然通りかかった一般人とは思えん」

「僕らの考える一般人とこの惑星の常識が一致しない可能性はありますけどね。もしかしたら、誰でもあのくらいの戦闘行動はできるっていう人種なのかも」

「魔法を使って、か?」三船が目を細める。「可能性は否定できんか……」

「そこは単純にサンプル不足じゃないっすか。クァニャンさん以外の異星人に会ってみないと、どうしたって結論は出ないんじゃないかと」

 

 いずれにせよ、クァニャンの示した地点の調査は必要だろう。異星人の生態と社会を知るためには、クァニャンからの聞き取りだけでなく、より多角的な情報が必要なのは間違いない。その点についてはチームでの意見は一致していた。

 

「とはいえ、こうもあっさり自身の拠点を明かすとなると、なにか思惑がありそうなものだが」

「隠す意味がないっていう判断では? 彼女は自分の目でイブキの飛行性能を見ているんだから、そう考えてもおかしくはないでしょ」

「罠ということもある。のこのことついていったら最後、異星人に取り囲まれてそのまま虜囚に、という可能性も考えてはおくべきだろう。いいか、我々はこの星においては異物であり、異星人が我々をどう扱うのか、まだなにもわかっていないのだからな」

 

「いざというときは」僕は言葉を切って、両手の指で花を咲かせた。「こうするしかないかも」

 

 三船は険しい表情を作って、悩ましいため息を吐いた。

 イブキに備えられた自爆スイッチ。使わずに済むならそれに越したことはないのだけど。

 

「行くならお前だぞ、京奈院」

「でしょうね。安藤は機体の修理が必要で、隊長はDJ号(フネ)との通信設備の設置が最優先。機体が損傷している安藤をひとりにするわけにもいかないですし、二人はここに残って作業を進めるのがベターな選択肢だと思いますよ」

「無論、通信で随時サポートは行う。いざとなればお前の判断で離脱してくれていい。それでもリスクは避けられないだろう。例の()()()()を使われたら、イブキの速度でも逃げ切れるかどうか……。判断しようにも、あまりに情報が少なすぎる」

「任務の危険については出発前に念書も書いてますよ。むしろ、誰よりも早く異星人の生活を見れるのかもって考えると、けっこうワクワクしちゃいますね」

「たわけめ」

 

 僕が務めて明るい口調で言うと、三船の表情も僅かに緩んだ。

 

「わかった。そのプランでいこう」

「了解」

「気をつけろ。あまり異星人に対して感情を持ちすぎるなよ」

 

 彼女に背を向けて、自身のイブキの元へと向かう。

 三機の人型兵器は、森の中の湖畔でお行儀よく膝をついて待機していた。この状態でも座高は周囲の木々より僅かに高い。きっと空から見たら森から頭が生えているように見えることだろう。

 安藤は損傷した自機の足元でシステムチェックを行っていた。その後ろを通り過ぎるとき、背中に向かって声を掛ける。

 

「安藤、お土産はなにがいいかな」

「えっ?」と彼が頭を上げる。「えーっと……、異星人の技術がわかるものなら、なんでも」

「オーケィ。ほどほどに期待しておいて」

 

 困惑気味の回答に、軽く手を振って応える。パイロットとしての技能も持っているが、どちらかといえば安藤は技術畑の人間だ。そういう意味でも、三船と一緒にこの場に残った方が本領を発揮できるはず。

 

 待機状態のイブキのコックピットからはウィンチでワイヤが下りていた。当たり前だけど、地面から胸部のコックピットに乗り込むためには、こういった機構が必要になる。なにせ、地球人は空を飛べないのだから。

 

「ケィナイン!」

 

 ワイヤの足場に右足を引っかけたところで、頭の上から声が降ってきた。見上げると、太陽の眩しい光の向こうに、小さな人影。

 山高帽のクァニャンは、イブキの頭部の一本角に掴まって立っていた。一瞬、「危ない」と思ったけれど、その危惧はきっと的外れなものなのだろう。なにせ、ウーサ人は空を飛べるのだから。

 

 彼女の目には、僕らのことがどう映っているのだろうか。

 コックピットのウィンチに巻き上げられながら、僕は異星人を見上げて眉を傾けていた。

 

 

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