星の息吹と宇宙猫   作:子守家守

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Foreign sentinels aegis rim(2)

朱天(アケソラ)』という名のステラ・コネクタは、不思議な来歴の機体だった。

 

 記録を遡ると、その名が最初に現れたのは、700年前のステラ・コネクタ黎明期のことである。

 データベースを信じるなら、当時のそれは新開発の人型兵器のテストベッドだったらしい。

 開発資料や撮影された古い画像も残っている。そこに記された情報からは、現行のステラ・コネクタと比べると、全体的に武骨で角張った荒削りのフォルムの機体が確認できた。

 

 アケソラの名は、以降もたびたび歴史に現れる。

 あるときは新技術を組み込んだ実験機の開発コードとして、またあるときはその時代のエースパイロットの乗機として。正確な命名規則はわからないが、総じてなにかしら『特別な機体』が、原初のステラ・コネクタの名前を受け継いできたようだった。

 

 もしかすると、開発現場におけるゲン担ぎのようなものなのかもしれない。重要な意味を持つ機体には、アケソラの名前を与える伝統がある、とか……。

 まさか、700年前のテスト機体が今も運用されているわけではないだろう。現代のチャンピオンが駆るアケソラと、過去のデータに残されたアケソラの画像とでは、当然ながらまるで機体のフォルムが違っている。同じ名前を持っていても、それぞれがまったく別の機体と考えた方が自然だ。

 

 それにどのみち、もし700年前の機体を改修しながら運用しているのだとしても、それはとっくの昔にテセウスの船になっているはずである。

 

 急造の簡素な格納庫でアケソラの赤いボディを見上げなら、僕はそんなことを考えていた。

 半年前も思ったが、スマートで洗練された機体造形だ。イブキと比べると四肢の可動域がかなり広いようにみえる。関節部のアクチュエータも珍しいタイプだった。より生物的な手足の駆動を意識しているのだろう。その分だけ操縦の難度も上がっているはずだが、そこはパイロットの技量でカバーできるという判断か。

 

「実際、面白そうな機体だよなぁ。……塗装は趣味じゃないけど」

 

 そんなことを呟きながら、アケソラの隣に並ぶ()()イブキに視線を向けた。

 DJ号での整備を終えて再び惑星ウーサに降ろされた機体は、破損した腕部の修復も終えていて、新調された外部装甲も丁寧に磨き上げられた状態だった。

 塗装は相変わらずの没個性なグレイ。背部の大型スラスタが目立つずんぐりとしたシルエットで、隣のアケソラと比べるとなんとも野暮ったい。

 

 しかし、このどこにでもいそうな量産機の面影が、僕にとっては実に親しみ深かった。

 アケソラと()()イブキ。もしどちらかを選べといわれたら、僕は迷わず後者を選ぶだろう。

 

「俺の『赤』に文句をつけるとは、いい度胸だな」

 

 不意に、頭上から低い声が降ってきた。

 声に反応して見上げると、格納庫のキャットウォークから精悍な体躯の男がワイヤを伝って下りてくるところだった。ネイビィのジャケットを羽織った明るい茶髪の男だ。薄い色のサングラスを掛けている。年齢は20代後半か30代前半くらいだろうか。自信に満ちた顔つきで、セリフに反して、どことなく愉快そうな表情を浮かべていた。

 

 彼の顔を、僕は知っていた。

 DJ号では有名人なのだ。電子雑誌で彼の特集が組まれたこともある。

 

「アケソラは赤くなけりゃ、アケソラじゃない。昔っからそうなのさ」

「だとしても、目立ち過ぎじゃありませんか?」

「目立つのはいいことだろう? 一目見たら、忘れられない思い出になるからな」

 

 アケソラのパイロット。

 泣く子も黙る、ステラ・コネクタのチャンピオンだ。

 

九十九(つくも)だ。よろしく頼む」

「はじめまして、九十九さん。京奈院です」

 

 格納庫の床に下りた彼と握手を交わす。引き締まった力強い手のひらだった。

 厳密には戦場で殺されかけたことがあるのだが、まぁ初対面といってもいい範疇だ。お互い機体に乗っていたから、あちらは僕のことを認識していないだろうし。

 サングラスの向こうで目を細めた九十九は、しばらく僕の顔を見つめてから、ふと視線を斜めに動かした。僕の肩を通り越して、待機状態のイブキの頭部を見やっている。

 

「どこかで見た顔だな」

 

 気のせいでなければ、それは明らかに僕ではなくイブキに向けた言葉だった。

 思わず僕は愛機を振り返る。整備から帰って来たばかりのイブキは、目立った傷もなく、一本角の頭部はごく一般的な量産機の面構えだ。グレイの塗装もメーカ標準のありふれたものである。

 

 不思議なもので、それでも僕には、この機体が『僕の』イブキだと認識できる。言語化は難しいが、外観のちょっとした雰囲気のようなものに、なんとなくしっくりくるものを感じるのだ。

 だけどそれは、僕とこの機体が人生の大半を一緒に過ごしてきたから感じ取れるものであって、他人が見てもそんな感覚的な差異がわかるはずもない、と思っていたのだが……。

 

「ああ、思い出した。半年くらい前に墜とし損ねたヤツだな」

 

 歴戦のチャンピオンは、いとも簡単にそう言い当てて薄く笑っていた。

 

「よくわかりますね」

 

 驚きを隠せずに僕は言う。

 

「確かに以前交戦したことはありますけれど、ほんの数分のことですよ」

「そうか? 俺からすればコイツらの顔は人間の顔よりよっぽど覚えやすいんだが。それに、墜とせなかった相手の顔は特に印象に残る。墜とした相手よりも数が少ないし、次に会ったときは真っ先に墜としにいきたいからな」

「それはまた……、当事者としては、あんまり嬉しくない覚えられ方ですね」

「そんなこといって、あんたも本当はリベンジ・チャンスを待ってるんじゃないか?」

 

 九十九は歯を見せて獰猛な笑顔を浮かべた。

 

「パイロットなんて、そんな連中ばっかりだろ」

「……まぁ、むざむざ二度も負ける気はありませんけど」

「そうこなくちゃな」

 

 僕が言うと、チャンピオンは上機嫌な様子でバンバンと肩を叩いてきた。

 加減はしてるのだろうけど、けっこう痛い。ついつい胡乱な目で彼を見てしまったが、九十九は気にした風もなく、サングラスの向こうで愉快そうに瞳を輝かせている。

 

「そういう意味では残念だな。今回はあんたと俺で敵味方ってワケじゃないのが」

「よかった。その辺はちゃんと弁えてるんですね。命令無視で殴りかかってくるわけじゃないと」

「当然。仕事はこなすさ。プロだからな」

 

 ズボンのポケットに両手を突っ込み、アケソラを背後に控えさせたチャンピオンは、自信と実績に裏打ちされた強者の表情を浮かべて、ふてぶてしい口調で言った。

 

「それで? 俺たちがぶっ倒す怪物(モンスター)ってのはどこにいるんだ」

 

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 

 数日前、次なる災獣討伐作戦がユミツ国から通達された。

 作戦目標はユミツ国南部の森林地帯を縄張りとする災獣の排除。以前と同じく、軍との共同作戦であり、『東』の軍からはクァニャンが合流することになっている。

 例によって、彼女は僕のイブキに同乗する予定である。もはやお馴染みのセット運用だ。

 

「それに加えて、こっちはチャンピオンまで投入かぁ」

 

 二階の窓から格納庫を眺めつつ、僕は呟いた。

 ユミツの東部基地の会議室でミーティングをしているところである。メンバは僕と三船隊長、クァニャンとマハナ中佐、それからDJ号から戻ってきたばかりの安藤だった。

 安藤は修理を終えた僕と三船のイブキを地上に降ろして、そのまま作戦に合流した形になる。戦力としては九十九が加わったので、彼自身はパイロットとしての任を解かれていて、これからは元々の専門分野である技術屋に専念するとのことだった。

 

「チャンピオンって、あの赤い巨人のパイロット? イブキじゃない巨人は、初めて見た」

「そうそう。機体の名前がアケソラで、本人の名前が九十九だね」

「アケソラのツクモ。なら、チャンピオンという単語は?」

「僕たちの共同体で、一番強いパイロット、っていう意味」

 

 その説明にクァニャンはぱちくりと目を瞬かせた。

 彼女は猫耳帽子のとんがりを撫でつけて、不思議そうに首を傾げる。

 

「一番強い? ケイナインよりも?」

「うーん、まぁ、一応はそういうことになってるね」

「一応?」

「ほら、いくら強いって言われてても、相性とかいろいろとあるし……」

 

「いや、お前は一度墜とされてるだろ」三船が口を挟んだ。「記録だと、半年前だったか?」

「墜とされてはいません」僕は反射的に否定する。「ちょっと死にかけただけです」

 

「似たようなものだろ」と三船は肩を竦めた。周囲の視線が心なしか生温かい。

 噂のチャンピオンは、この場にはいない。格納庫で重力下に降ろしたアケソラの調整を行っている。安藤とは別に専任の整備チームが付いてきているという話だ。さすがチャンピオンというべきか、至れり尽くせりの待遇である。

 

「ともあれ、戦力が増えるのは我々としては大歓迎だ」

 

 灰色のコートを羽織ったマハナ中佐が明るく言う。

 

「過去には確執があったのかもしれないが、今回の作戦では味方なのだろう?」

「ええ、もちろん。それに、過去に交戦記録があるといっても、所属する陣営が分かれていたというだけで、確執と呼べるほど敵対視しているわけでもありませんし」

「それは、ケイナインから見ての話?」

「僕もそうだし、相手も似たようなものだと思いますよ。命令があれば個人的な感情を持たずに引き金を引けるのが、パイロットの適性のひとつですから」

「職業的だな。実に結構なことかと」

 

 筋骨隆々としたユミツ人の中佐は、口を斜めにして頷いた。

 

「こちらからも伝えることがある。今回の作戦では、『中央』の軍からも戦力が派遣されることになっている。明日にはこの基地に到着する予定だな」

 

「『中央』から?」マハナの説明を聞いて、クァニャンが首を傾げた。

 

「そうだ。知ってのとおり、あそこは都市の防衛が主要な任務なんだが、今回の作戦には一枚噛むことになったらしい。派遣されてくるのは……、ほら、少尉も知ってるだろう? 例のお嬢様だ」

「ひょっとして、ミトのことですか?」

 

 そう問い返したクァニャンに、マハナ中佐が頷く。

 

「知り合い?」僕は彼女に尋ねる。

「向こうが私のことを覚えているかはわからないけれど……」

 

 クァニャンは複雑そうな表情を浮かべている。

 

「軍では有名人なの。最高峰の戦闘魔法使いで、『中央』のエース」

 

「軍高官の家系に生まれた稀代の天才。強くて美しいお嬢さまさ」マハナが皮肉っぽく言う。

「確かに、そういう風にも宣伝されてますね」クァニャンは肯定しつつ溜め息。

 

「つまり、士気高揚のための宣伝塔だよ。災獣討伐でこれまで成果を挙げられていなかった『中央』のイメージアップ戦略だな」

「でも、広報されている内容に誤りはない。彼女が強いのは本当のこと。ユミツの軍人の中では最強なんじゃないか、っていわれてるくらい」

 

 斜に構えた言い方のマハナに対して、クァニャンは終始真面目な口調だった。

「そっちはそっちで『最強』か……」と三船が呟いた。

 

「ということは、クァニャンよりも強い?」

 

 先ほどのお返しというわけではないが、僕がそう尋ねると彼女は露骨に渋い表情を作った。その反応だけでもなんとなく彼女と『お嬢さま』とやらの関係が察せられる。

 

「軍の模擬戦で戦ったことはある。……勝ったことはないけど」

 

 後半は蚊の鳴くような小声だった。

 相手も伊達に最強と宣伝されているわけではない、ということか。そんなことを考えながら彼女を見つめていると、彼女はその視線をどう受け取ったのか、むぅと頬を膨らませて口を尖らせた。

 

「でも、今やれば私が勝つから」

「自信があるってこと?」

「そう。ケイナインとイブキがいれば、絶対に勝てる」

「いやいや、それはさすがに反則では?」

「……前の模擬戦も3対1だったから……」

 

 余計なことを言った、とばかりにクァニャンはバツの悪い顔になってしまった。頬を赤くして口をへの字にしている。

 

「3対1でも勝てないのか。想像以上に規格外って感じだね」

 

 僕が素直な感想を口にすると、彼女はますます酸っぱい表情になった。

 前々から思っていたが、彼女もなかなか負けん気の強いタイプのようだ。

 

「あのぅ、聞いてて思い出したんスけど、ちょっといいっスか?」

 

 話を聞いていた安藤がスッと手を挙げた。会議室の面々の視線が彼に集まる。

 相変わらず他人から注目されるのに慣れないのか、安藤は頬を掻きながら上擦った声で言う。

 

「えっと、俺が宇宙に戻る前にも実験してたじゃないっスか。先輩のイブキじゃなくても、ステラ・コネクタで魔法を使えるのか、って……」

「ああ、安藤と三船のイブキにユミツの軍人に乗ってもらって、クァニャンと同じことができるのか、何度か試してみたやつのことだね」

「そう、それっス。でもそれって結局、俺と隊長の機体だと上手くいかなかったじゃないっスか。軍人さんが魔法を使おうとしてみてもコックピットの中で魔法が発動するだけで、ロボットのスケールの魔法には変化しなかったっていうか……」

 

 安藤は身振り手振りを交えながらそう説明する。

 彼の言うとおり、そういった実験はユミツの軍の協力もあって、ちょくちょくと進められていた。スケジュール的にそれほど余裕があったわけではないし、西の山脈の大陸亀(イア・ルコグム)を討伐したあとは修理のためにイブキを宇宙に戻してしまったから、そこまで本格的な実験を実施できたわけではないけれど。

 そして実際、僕のイブキとクァニャン以外では、想定された規模の魔法を扱うことはできていなかった。コックピットにユミツの魔法使いが乗り込んで魔法を使ってみても、それだけで巨大ロボットが魔法を使えるようになるわけではなかったのだ。

 

 このことについて、僕もクァニャンも上手く説明ができなかった。

 特にクァニャンは、実際に魔法を行使している本人なのだが、ロボットに魔法を使わせるという感覚を、他人に理解できるよう言語化するのに苦労しているようだった。

 おそらく、なんらかのコツのようなものがあるのだと思われるのだが、なにしろ前例もなければ実例も彼女ひとりなので、ノウハウを形にすることすら非常に難航しているのが現状である。

 

「それで、こないだちょっと違う切り口の話があったじゃないっスか。イブキが魔法を使ってるのは、ガチでイブキが魔法を使ってるんだ、って話が」

「『跳躍』はクァニャンの魔法だけど、行使してるのはイブキだった、っていう話のこと?」

 

「そう、それっス」と安藤は頷いた。

 首都ナェゴトで襲撃事件が起きたとき、街の地下通路でクァニャンが語った話のことだ。

 本来『跳躍』は自分ひとりが瞬間移動する魔法であって、使用者(クァニャン)が別の誰かを一緒に運べるようなものではない。僕と彼女が一緒に瞬間移動しているのは、本当はイブキが魔法の使用者で、その体の中の一部として二人とも巻き込まれているからなのだ、と。

 

「惑星ウーサでは、魔法っていうのは、『人間が扱う技術』なんスよね?」

「そうだ。一応、災獣も魔法を使うが、それが唯一の例外だ。歴史的にも人間でない存在が魔法を使ったという記録は残されていない」

 

 安藤の確認に対してマハナ中佐が答える。

 その返答を聞いて、安藤は頷いた。

 

「だから、もしかしたら、先輩のイブキ以外の機体が魔法を使えないのは、()()()()()()()()()()()()なんじゃないかって。俺が戻ってるとき、DJ号(フネ)でそんな意見が出たんスよ」

「……ええと、ちょっと何を言いたいのかがわからないんだけど」

 

 頭の上に疑問符を浮かべて首を捻る。三船も似たような反応だ。

 一方、クァニャンとマハナのウーサ人ふたりは、「なるほど、そこに着目したか」と言わんばかりの表情だった。微妙に僕らとリアクションがズレている。

 まさかとは思うが、ウーサ人はイブキのことを本当に巨人――巨大な人型の生命――として捉えているのだろうか。そうでなくても、生命という概念について、なにかしらの思想の違いがありそうな気配がある。

 

「正直、俺もよくわかんないんスけど」安藤は苦笑しながら続ける。「ともかく、()()()()()()()なら、先輩のイブキみたいに魔法が使えるんじゃないか、って話になって。それなら、『一番人間に近い動きをする機体』で試してみよう、ってなったみたいなんスよね」

 

「……ひょっとして、アケソラのことを言ってるの?」

 

 聞きながら、僕は無意識に頬を引き攣らせてしまった。

 

「あれは人間に近いっていうか、むしろ人間の枠を踏み越えてるタイプだと思うんだけど」

「でも、駆動方式とか制御システムはかなり人間の身体構造を意識したものっスから。人外っぽくみえるとしたら、たぶんパイロットの方が原因なんで……」

 

 それはそうかもしれない、と思わず納得してしまった。対峙したのは一度きりだが、確かに機体スペック以上にパイロットの技量で圧倒されたという感覚がある。

 特に、近距離でライフルの弾丸を斬り払うなんて離れ業が、ひどく規格外な印象を残している。あれはもう機体性能だけでどうこうできるアクションではないだろう。

 

「つまり、チャンピオンが地上に下りてきたのは、災獣の討伐作戦に参加するためだけじゃなくて、アケソラが魔法を使えるかの実験のためでもある、ということ?」

「そういうことになるっスね。九十九さんにも伝えられてるはずっス。ユミツの方には……」

「こちらはまだ把握していない。が、実験に協力するのは問題ないだろう」

 

 マハナ中佐が頷くと、安藤はホッとした様子で、「自分からは以上っス」と腰を下ろした。

 ステラ・コネクタで魔法を使う実験か……。人間に近いロボット、という概念が何を指すのかいまいち分からないが、魔法という現象の解析がそれで進むのなら、理屈は横に置いておくにしても喜ばしいことだろう。

 

「魔法を使える機体が増えたら、『英雄(ヒーロー)』もお役御免かな」

「そうなってくれれば、肩の荷が下りて嬉しいんですけどね」

 

 皮肉っぽく言った三船に、僕は肩を竦めて応えた。

 実際、誇張された肩書にこだわりはないし、パイロットの本懐とは別の余計な仕事が減るなら万々歳だ。

 

 悩ましいのは、アケソラが魔法を使えるようになるのだとしたら、次にチャンピオンが敵になったときに、僕はどうやってリベンジするべきなのか、ということだけだ。

 

 ひとりのパイロットとして、それが唯一にして最大の課題だった。

 

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 

「話は聞いている。だが、OKとは言っていない」

 

 DJ号のチャンピオン、九十九はきっぱりとそう言った。ユミツの軍事基地に設営した格納庫で、アケソラの赤いシルエットを背後に控えさせた彼は、傲岸不遜な表情を浮かべている。

 件の『魔法の実験』について、彼と予定の調整をしようとしたところだった。話を振った安藤は「え?」と九十九の態度に目を丸くしている。同行したクァニャンとマハナも不思議そうに首を傾げていた。

 

「いや、でも、そういう命令が出てるっスよね?」

「ああ。だが、通常の業務の範囲外だ。俺には拒否権がある」

「うぇ? そうなんスか?」

「普段から本来の業務――、ステラ・コネクタの操縦以外の仕事をあれこれとやらされてるからな。こう見えて普通のパイロットよりも働いてるんだよ、俺は。で、勤務時間やら休暇制度やらの調整も兼ねて、戦闘以外の付随業務についてはある程度の裁量権をもらってるんだ」

 

 ネイビィ・ジャケットの色男は、そう言ってにやりと口の端を持ち上げた。太陽光の遮られた格納庫でもサングラスを掛けているのは、おそらく僕と同じで翻訳機能の補助のためだろう。予測ではあるが、彼の眼球も戦闘以外の余計な機能は積んでいないもののはず。

 

「ええと、でも、なんで……」

「簡単だ。俺の機体のコックピットに、他人を入れるというのが気に入らん」

 

 腕を組んだ九十九が不快そうに鼻を鳴らした。

 正直、共感できる感覚である。僕も赤の他人を自分の棺桶(コックピット)に入れるのには抵抗がある。許容できるのは、メンテナンスのための技術者とか、そのくらい。

 

 クァニャンは……、そう、例外中の例外だ。

 

「じゃあ、実験の予定は全部キャンセル、ってことっスか?」

「まぁ待て。そう結論を急ぐなよ」

 

 しょんぼりとする安藤の言葉に首を振ると、九十九はサングラス越しに格納庫に集まったメンバの顔を見回した。その視線が僕のところを通ったとき、彼は愉快そうに目を細めたようにみえた。

 

「コックピットに他人を乗せるのは気に入らないが、アケソラが今よりも強くなるという話には興味がある。逆に言えば、その『魔法』とやらが、俺と機体にとってプラスになると思えなければ、その実験に付き合おうという気にはなれないな」

 

 その言い回しに、なんとなく察するものがあった。

 つまるところ、この男をその気にさせるなら、『力の証明』が必要ということなのだろう。まるで野生動物だ。ある意味、とてもチャンピオンらしい生態ではある。野生という言葉が、遠い昔に忘れ去られたものだとしても。

 

「魔法の有用性を証明してみせろ、と……」

「方法はそっちで考えてくれていい。もちろん、半端な説得をしようってんなら、俺もそれなりの対応をさせてもらうが」

 

 チャンピオンは獰猛に笑みを浮かべると、サングラスに表示されているのだろうウーサ語を用いて、ユミツ国の軍人たちに向けて言い放った。

 

「楽しい説得なら大歓迎。目が覚めるようなファンタジィを見せてくれるなら、言うことなしだ」

 

 

 

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