作戦開始は三日後になると決定された。
その三日間で、破損したアケソラのコックピットハッチの修理と、ミトの使用する杖の調達。それから、九十九とミトの『魔法の実験』が行われる予定となっている。それと並行して、支援部隊の現地への移動や、ターゲットとなる災獣の偵察も行われるらしい。
九十九とミト、そしてアケソラの周囲は慌ただしい雰囲気だった。様々な作業が急ピッチで進められているのが見て取れる。
ステラ・コネクタの整備は基本的に機械による作業となるのだが、整備システムのオペレータの他にも手作業で細かな調整を施している技術員が複数いるようだった。彼らは手慣れた様子で作業を進めている。今回の作戦で急に駆り出されたわけではなく、専属メンテナンスクルーとして元からアケソラの整備に携わっているメンバなのだろう。
九十九とミトの当の二人も、アケソラの格納庫の近辺で目撃されることが多かった。
だいたいいつも、互いの戦術について熱心に討論をしているようである。今のところ、紳士的で淑女的な話し合いになっているようなのだが、例の局所的な空気の重さもたびたび観測されていた。まるで達人同士の間合いの駆け引きみたいな雰囲気でもあった。
ただ、それはやはり僕の印象であって、もしかしたらこのくらいの緊張感が彼らのデフォルトなのかもしれない。なにせチャンピオンとお嬢さまなのだ。生態は謎に包まれている。
一方、僕は僕でイブキの慣らしを行っていた。
「いやぁ、ちょっと欲張って要望を出してみたら、思ったよりも良い感じの部品を回してもらえたんスよ。任務の優先度が高いと、こういうトコでも優先されるものなんスねぇ」
安藤は上機嫌だった。自分の端末を覗き込みながら、鼻歌でも歌いだしそうな雰囲気である。
深宇宙探査艦の人工都市にも経済は存在する。とはいえ、人口は僅か1万人。地球時代のグローバル経済と比べれば、規模としてはミニマムだ。一応、土台は資本主義ということになっているが、700年前のそれからは大幅に修正が加えられている。
DJ号の社会構造は、大道寺財閥を中心とした企業社会であるため、経済活動の舵取りは財閥の中心企業の重役たちが握っている。営利活動の自由が各企業に認められている一方で、企業間のパワーバランスが極端にならないよう常になんらかの調整が施されているのは周知の事実だ。
トップ層の権力が社会に対して強い影響力を保持していて、共同体の経済活動を統制しているという点では、地球時代の社会主義に近いといえるのかもしれない。
しかし、それと決定的に違うのは、仮想敵として設定できる他の勢力が存在しないことだった。
DJ号の旅路は孤独であり、深宇宙において敵対国はどこにもいない。共通の敵を外部に設定して共同体の結束を高めるというのは、社会を安定させるための常套手段であるが、大道寺財閥はその手法を取ることができなかったのである。
僕たちの共同体の団結は、深宇宙探査というミッションと、自分たちの生存という二点に依って成立している。
現役世代から子どもが生まれなくなった僕たちの社会では、宇宙探査という共通の目標が生きる意味と深く紐づいている。自身の遺伝子を後世に伝えるというもっとも身近な生きる意味を失ったからこそ、なにか大きな目標に縋っている、ともいえるかもしれない。
そして、真空の宇宙を旅するDJ号においては、艦の外はすなわち死の世界である。壁が1枚破れただけで、何百何千といった命が失われる可能性もある。ゆえに、
そういうわけで、DJ号の社会は地球時代の国家とは別の形で構成員の結束を確保している。
その影響のひとつとして、軍事力の増強という経済活動の方向性は、はっきりいって斜陽の状況にあった。
敵もいないのに軍事力を高めてもどうしようもないだろ、というわけである。
正論としか言いようがない。
ゆえに、DJ号は700年前から継続的に軍縮中である。
もちろん、一定の武力は常に備えられているし、企業間の『戦争』という形で兵器の運用も行われている。
しかし、艦の主力兵器のひとつであるステラ・コネクタにしてみても、軍事利用に用いられるだけでなく、航路啓開のような土木作業機として運用されているわけで。僕のようなパイロットにしても、武装企業に所属してはいるが、日常的には非軍事的な業務に従事しているというのが現実だった。
当然ながら、予算措置は渋い。
ステラ・コネクタの整備にしろ改修にしろ、現場の要求通りにパーツを購入できることは非常に稀である。まぁ、さすがにチャンピオンのような宣伝塔なら事情は違うのかもしれないが……。
とにかく、普段が普段なので、自分の思い通りに機体の整備を行うことができた安藤があからさまに上機嫌なのも、当然といえば当然だろう。
「で、どうっスか? 実際に乗ってみて」
「良いね。レスポンスが滑らかだ。スラスタの低出力域が今までよりセンシティブだけど」
「あー、戻します?」
「もう慣らしたから、いいよ、このままで」
パック入りのドリンクをストローで飲みながら、汗で湿った髪を掻き上げた。
新しい調整を施した機体に最初に乗るときは、どうしても神経を使う。自分の機体が想定通りの動きをしてくれないというのは、結構なストレスだ。
もっとも、調整の方針自体は好ましい。新しい機能を生やすのではなく、反応系と駆動系のブラッシュアップにフォーカスしたのは良い選択だと評価できる。僕の趣味にも合致していた。デキる後輩がいると、先輩としては嬉しいところ。
「あ、でも、あの武装は思い切ったね。いや、意図はわかるんだけどさ」
「一応、他の装備も色々考えたんスけど……、運用場面を考えると、案外、シンプルにこれがいいのかな、って」
「うん。潔いのは嫌いじゃない」
格納庫のハンガーに固定されたイブキの新しい武装を見ながら、僕は口を斜めにした。なかなか面白いチョイスだと思う。クァニャンに同乗してもらうのが前提ではあるけれど、そこがクリアされるならいっそ合理的といっていいかもしれない。
「それじゃ、今日はこの辺にしときますか」
「了解。安藤もお疲れさま」
「うっす。レポートが仕上がったら回すんで、それだけ目を通しといてください」
「わかった」と頷いて、僕は大きく伸びをした。
しばらく手元の端末を叩いていた安藤は、ふと視線を持ち上げて、格納庫の外へと向けた。東部基地の敷地には、僕たちの部隊とは別の格納庫が設置されていて、そちらではアケソラの整備が進められている。シャッタの隙間から見えたのは、コックピットハッチの修理を終えて、万全の状態を取り戻したアケソラの姿だった。
「あっちのほうは、上手くいくんスかねぇ……」
安藤がぽつりと呟く。
「上手くいくか、っていうのは、魔法の実験のこと?」
「そりゃそうっスよ。だってほら、今のところ上手くいってるのは先輩だけで、俺と三船隊長はダメだったわけだし……。いくらチャンピオンっていったって、そうそう簡単にいくもんだとは思えないっスよ」
そう言って彼は小さく鼻を鳴らした。
実際、ステラ・コネクタが魔法を使えるようになる条件というのは、まだよくわかっていない。当然ながら、安藤の言うとおり、チャンピオンという肩書が『魔法』という事象に対して有利に働くとは限らないのも事実である。
それを踏まえてなお、たぶん上手くいくのだろうな、と思えてしまうのは、僕に戦場で彼と対峙した経験があるからだ。
カタナを抜いて僕を殺そうとしたときの九十九とアケソラは、確かに人間のような生物的な存在感を纏っていた。もし、ウーサ人のいうように、『人間らしさ』が魔法と深く関わっているというのなら、彼らは十分にその条件を満たしているといえるだろう。
「まぁ、ひとまずは上手くいくことを祈っておこうよ。そうしたら、僕の負担も減るからね」
「うーん……、こういう実験を重ねていったら、そのうち魔法を使えるようになる条件もはっきりするんスかねぇ?」
端末のモニタを覗き込みながら安藤が首を捻る。
「ステラ・コネクタに乗れば魔法が使える! ってなったら、パイロットが増えたりしません?」
「簡単に増やせるものでもないし、そもそもパイロットの需要はそんなに多くないでしょ」
「いやいや、職業パイロットじゃなくて、趣味的なライセンス・ホルダっスよ。今だって教習を受ければ免許は取れるじゃないっスか」
「ああ……。確かにそうだけど、企業の所有になっていない機体なんてほとんどないからなぁ。元の数が少ないから、遊んでる機体もそうそうないし。ステラ・コネクタの個人所有ができるのなんて、それこそ財閥のトップ企業に勤めている人くらいじゃない?」
そう言って僕が肩を竦めると、「世知辛いっスねー」と安藤はわざとらしくため息を吐いた。
しかし、目の付け所は悪くない。艦の指導層は、魔法という未知の技術の解析のみならず、そこで得られた知見を社会へと還元することも当然考えているはず。
今のところ、地球人類が魔法を使えるようになる手掛かりは得られておらず、ステラ・コネクタを介してのみ魔法の運用が確認できているという状況だ。魔法という新技術に対して、ここからどのように研究開発の舵を切っていくかは、確かに気になるところではある。
「アンドウ? お仕事は終わったの? だったら、ちょっとこっちに来て欲しいのだけど!」
格納庫の隅の方から高い声が聞こえてきた。
瞬間、安藤がびくりと背筋を伸ばして直立する。彼は僕と視線を交わすと、情けない困り顔を浮かべて声の方へと小走りで駆けていった。
僕はゆっくりとその背中を追いかける。
格納庫の隅には、急造の応接スペースが築かれていた。折り畳みのテーブルと椅子を並べただけの簡素な空間だ。
そのもっとも長い椅子にクッションをたっぷりと敷き詰めて、白い髪の少女が座っていた。宇宙のように黒いドレス姿で、色素の薄い瞳を瞬かせている。
「ええと、なんスか? イグスさん」
「これよ、これ! 何度読んでも意味がわからないのよ! わかりやすく説明してちょうだい!」
安藤がおずおずと声を掛けると、『目の予言者』と呼ばれる少女は、急かすように彼を手招きした。その細い指には小型の端末が握られている。安藤の持つ業務用の端末と比べると、シンプルであっさりとした外観だ。おそらく、誰かの私物を借りているのだろう。
イグスが東部基地にやって来たのは、つい昨日のことだった。
事前に計画されたうえでの来訪である。その目的について、彼女は「自分の目で見届けること」と語っていた。つまり、自身の為した予言の『光景』が本当に現れるのか、それを確かめにやって来たというわけだ。
予言者イグスが
それは、鋼の巨人が災獣を討伐するという未来である。
まさしく今回の作戦で、その瞬間が訪れるのかもしれない、と……。
言うまでもなく、賓客である。
しかし、イグスは居心地の良い基地の客室よりも、ステラ・コネクタの格納庫のような現場にいることを好んだ。そこで彼女がなにをするのかといえば、DJ号から持ち込まれた様々な物品のスケッチである。
視覚を介して予言を行う彼女にとって、見知らぬ兵器や道具を記憶しておくことは、自分が視たものを予言という言葉に変換するためにも必須の条件なのだろう。
「えー、あー、これかぁ。ちょっと説明が難しいっていうか……」
「わかりやすくよ! 簡単に、簡潔にねっ!」
「うーん、実際に動かしながら慣れてもらった方がいいかなぁ」
けれど、今のイグスはスケッチブックをテーブルに置いて、安藤と一緒に端末のモニタを覗き込んでいる。イブキを慣らし運転に出す前は、格納庫の隅で絵筆を握る彼女の姿があったのだが、そちらは一段落ついたのだろうか。
「こんにちは、イグスさん」僕は軽く手を挙げて挨拶する。
「あら、ケイナイン。こんにちは。ずいぶんとご機嫌ね」彼女は端末から顔を上げて応えた。
「ご機嫌? そう見えますか」
「ええ。ここから見ていたけれど、あなたの巨人はそんな感じだったわよ」
ニヒヒ、とイグスは歯を見せて笑った。
他人からはそう見えていたのだろうか。僕は首を傾げる。機体の調子が良かったのは事実だ。けれど、今回施された調整は内部機構のチューニングがメインで、機体の挙動自体にはそれほど変化がないはずなのだけど……。
「イグスさんはなにをしているんですか? さっきまではまたスケッチをしてたようですけど」
「お絵描きはちょっと休憩。今はアンドウから借りたコレで遊んでるの」
白い髪の少女が楽しそうに端末を指でつつく。どうやら手元の端末は安藤のものらしい。
イグスが格納庫に足を運ぶことが多いからか、いつの間にか安藤は彼女の世話役のような立ち位置になっていた。格納庫に置かれている物品の説明だったり、触れてはいけないものを注意したりと、技術屋として彼女に声を掛ける機会が多かったということもあるだろう。
イグスはイグスで、どうやらアンドウのことが気に入ったらしく、ことあるごとに彼に声を掛けて、DJ号や地球人類のことをあれこれと聞いているようだった。
惑星ウーサに降りてきている地球人のなかでは、安藤がもっとも年齢の若い人物だった。それもあって、まだ年若い少女であるイグスと彼は良好な関係を築けているのかもしれない。
実態としては、イグスの溌溂さに安藤が振り回されているというケースがほとんどのようだが。
もちろん、貴重な予言者であるイグスは、専属の世話人をこの基地にも連れてきている。今もきちんとした身なりの従者が二人、彼女が座っている長椅子の背後に控えていた。
たぶん、彼女の護衛も兼ねているのだろう。パッと見でも屈強なユミツ人の二人組は、口を一文字に結びつつ、しかし、微笑ましいものをみるように目元を緩めてイグスを見守っていた。
「安藤、大丈夫?」
僕は一応確認する。
「あ、ハイ。渡したのは俺の私物で、ヤバいデータは入ってないっス」
彼は即座にこちらの意図を理解して頷いた。
「ならいいけど。それで、二人でなにを遊んでるの?」
「『ブレイブ・ナイトメア』っていうのよ! ケイナインは知らないの?」
「えっと……、なんだっけ?」
勇者と夢魔? 聞いたことがあるような、ないような。
イグスの口から元気よく飛び出した単語を聞いても、すぐには記憶にヒットしない。ちらりと安藤に目線を飛ばすと、彼は半笑いの表情で頭を掻いていた。
「あのぅ、前にもちょろっと言ったかもっスけど、俺が趣味でやってるカードゲームなんスよ」
「そうだっけ。それなら、なにかの機会に聞いたかもね」
僕はあまり詳しくないが、カードゲームは
確か、安藤が前に語っていたのは、山札からカードを引いて対戦相手とバトルをするという、なんとも王道的なルールのゲームだったろうか。
記憶は定かではないが、有名どころだけでも似たようなルールのタイトルが3つか4つは現在進行形で運営されていたはず。いずれも紙媒体ではなく、端末上でプレイするデジタル・ゲームだったと思う。
「面白いですか?」と、イグスに尋ねてみる。
「見ごたえはあるわね!」彼女はきっぱりとそう言った。
「人物画に怪物画、それから風景画やら静物画も。画風やタッチはそれぞれ違っていて、まったく同じものは一枚も無し。それが1万枚以上でしょう? ナェゴトの大画廊でもなかなかお目に掛かれないコレクションだわ!」
「ああ、なるほど。カードのイラストを見ていたんですね」
すとんと腑に落ちて僕は頷いた。予言者と画家を兼業しているイグスにとって、多種多様なイラストがずらりと並ぶカードゲームは、なるほど、確かに興味深い対象になるだろう。
あまり意識したことはないが、言われてみれば、カードの種類が1万枚以上もあるというのも、なかなかすごい話である。当然、複数のイラストレータに発注をしているのだろうけれど、それにしたって圧倒的な物量だ。
「テーマとか、カテゴリというのかしら? デザインの方向性だったりモチーフが統一されたグループがあるのも面白いわね。チキュウの絵画のバリエーションもなかなか侮れないわ。たまに理解できない題材もあったりするけれど、とても勉強になるわ」
「ええと、一応補足しておくと、こういうカードゲームに描かれているイラストは、地球の絵画芸術の主流というわけじゃないんですけど……」
楽しそうに端末をタップするイグスに、僕は眉を傾けながらそう説明する。
現代においては、メインカルチャーとサブカルチャーの境界は限りなく薄くなっているけれど、それでもやはり、カードゲームは
もちろんカードイラストの価値が低いとかそういうわけではないのだが、だからといってそれを地球の芸術の代表格みたいに認識されてしまうのもマズい気がする。
「いや、甘いっスよ、先輩。地球時代の伝統的な技法を取り入れた、ヒストリカル・コラボもけっこうな枚数が収録されてますからね。芸術の入門編としても十分イケるはずっスよ」
「……あのね、安藤。ただの
安藤はほんのり得意げな表情を浮かべているが、異星文明間における芸術分野の交流だなんて、
「まぁ、よっぽど偏った知識を教えたりしなければ、あとになって文句を言われることもないだろうけど……」
「そう心配しなくても大丈夫よ。アンドウの趣味が偏ってることくらい、ちょっと話せばわかることだから。私の国でもそうだけど、腕の良い技術者って揃いも揃って変に凝り性なのよねぇ」
端末を弄りながらしれっとイグスが言う。安藤は「うへぇ」と舌を出して苦い顔。
「カードゲーム、っていうの? このアソビも、うん、なかなかの強敵よね」
「あ、イラストを見るだけじゃなくて、プレイもしてみたんですね。どうでしたか?」
「目が回りそうだわ!」
イグスはニコっと笑って、くるくると目を回す仕草。
「基本のルールと個別のルールが絡まり合ってて、ちょっとした選択が例外のパターンに繋がることが多いのなんのって! たぶん、1枚1枚のカードにちゃんと説明は書いてあるんだと思うんだけど、その説明もきっちりしすぎて逆に分かりづらいまであるわ!」
「あー……、でも、慣れてくると解釈の余地がないくらいきっちりとした説明文になってるのがありがたく感じられるようになるんスよ」
「誰もが通る道っス」と悟ったような表情の安藤。
イグスは白い髪を指で梳きながら、そんな安藤を面白そうに見つめている。
「予言とは反対ね。どのカードを使うとどんな出来事が起こるのか、解釈の余地もなく決まっているっていうのは」
「気に入りませんか?」
「まさか。そこまで子どもじゃないわ。これはそういうアソビだっていうだけ。それに、未来の不確かさなら、見えない山札からカードを引くっていうだけで十分すぎるほどよ」
予言者の色素の薄い瞳が瞬きした。年相応の幼さと予言者らしい達観した気配とが入り混じった笑みだった。
僕と安藤は顔を見合わせる。彼はなんともいえない表情で頬を引き攣らせていた。普段から遊んでいるカードゲームだけど、そんな哲学的な連想なんてしたことなかった、と言わんばかりの顔だった。
「予言といえば、イグスさんは自分の視た未来のことを確かめに来たんですよね?」
「ええ、そうよ。ひとたびそれを予言として口にした以上、最後まで責任を取らないとだからね」
「鋼の巨人が災獣を討伐する光景、でしたよね。どうですか、
彼女は格納庫の高いところ見上げる。その視線の先で、イブキの頭部が虚空を見つめていた。
「うーん、シンプルな感想だけど、すっごく大きいわねぇ。こうして足元から見上げてるから、っていうのもあるんだろうけど、ちょっとどころじゃなく圧倒されちゃうわ」
「確認なんですけど、あなたが視た巨人というのは、この機体だったのですか?」
僕の問いに、イブキを見上げていたイグスは視線を地上に戻した。
白い髪の予言者は、色素の薄い瞳でじっとこちらを見つめている。年若い少女の顔には湖のような微笑みが湛えられていた。
しばらく待ってみたが、彼女は口を開く気配はない。僕は眉を傾けて、格納庫の入り口を振り返る。シャッタの向こうに、アケソラの赤いシルエットが見えた。
「それとも、あっちの機体ですか?」
「さぁ、どうだったかしら」
はぐらかすようにそう言って、彼女は自身の肩に掛かった白い髪を払いのけた。
僕は彼女の言葉を思い出す。
ナェゴトで初めて会ったとき、彼女は『鋼の巨人とあなたたち(僕とクァニャンのことだ)は、どことなく似ていたような気がした』と言っていた。それと同時に、『顔は全然似てないのに』とも。
僕とイブキ、あるいはクァニャンとイブキには、どこか似ているところがあるのだろうか。
正直なところ、わからない。少なくとも、外見はまったくの別物だ。
では、アケソラは?
こちらも外見はまったくの機械で、人間を模したはずの頭部も、細部は人間と明らかに異なっている。僕にもクァニャンにも似ていないし、チャンピオンにだって似ていない。
彼女が視たのは、イブキか、アケソラか、それとも別のステラ・コネクタなのか。
優雅な弧の形に口を結んだ彼女は沈黙を続けている。
イグスはなにをもって、機械と人間とを『似ている』と評したのだろう。
改めて考えてみると、非常に不思議な表現だ。
「解釈の余地は残しておくのよ」
『目の予言者』はウインクする。
悪戯っぽい少女の表情だった。
「私は予言者で、カードじゃないからね」