星の息吹と宇宙猫   作:子守家守

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Foreign sentinels aegis rim(5)

 作戦決行の日、クァニャンは背が高かった。

 

 軍用の黒コートを纏って、足元は頑丈そうな厚底靴。目線の高さは僕より僅かに低いくらいだけど、猫耳帽子のてっぺんは僕の頭頂部よりも高い位置。

 格納庫のウインチで引っ張りあげられた僕がイブキのコックピットハッチを開けると、遥か下方の床を蹴って彼女が飛び上がってくる。

 

「そういえば」パイロットシートに腰を下ろしながら、僕は尋ねる。「ミトさんはクァニャンのことを『厚底』って覚えてたみたいだけど、その靴ってそんなに珍しいものなの?」

 

 棺桶(コックピット)の縁に指を掛けたクァニャンが、ぴくりと眉を動かした。梅干しの種を噛んでしまったような微妙な表情だった。

 彼女はひとまず僕の問いかけには答えずに、しなやかな動きで自分のシートに滑り込む。DJ号での改修の一環として、コックピットのサブシートも以前よりしっかりしたものに変更されていた。とはいえ、メインのシートを動かすわけにはいかなかったから、サブシートが固定されているのはちょっと中途半端な位置だ。僕から見て左手側で、手を伸ばせば届きそうなくらいの場所である。

 

「そんなに珍しいわけじゃないよ」

 

 ベルトで身体を固定しながら、彼女が言う。

 

「こういう厚い底の靴には、中に紋様が刻まれているものなの」

「紋様っていうと、魔法の補助をするための回路のこと?」

「そう。刻まれているのは、たいてい『飛行』を補助する紋様で……」

 

 クァニャンは虚空を見上げながら、小さくため息。

 

「基本的に、初心者向け」

「初心者?」

「うん。『飛行』の魔法は、もちろん得意不得意はあるのだけど、多くの人が習得している一般的なものだし、紋様の補助をずっと使っているって人はほとんどいないから」

「どうして? その魔法が日常的に使われるものなら、補助があったほうが楽だったりしない?」

「靴の紋様は確かに『飛行』を補助してくれるのだけど、それはあらかじめ設定された方向に魔力を流すように促すということなの。だから、慣れてきた人が自由に飛ぼうとすると、魔力の流れに引っ掛かりがあるように感じてしまう。『飛行』について一定の技能を習得したあとは、そこが気持ち悪く感じるようになるから、厚底の靴もそこで卒業する、っていう感じ」

 

 彼女の説明を聞いて、僕は自転車の補助輪を連想した。自転車には、子どものころに乗ったことがある。最初は補助輪を使って練習していたけれど、補助輪なしで乗れるようになってしまうと、あの小さな左右の二輪がカーブのときに引っ掛かってしまってイライラした記憶がある。

 安定と自由はトレードオフなのだ。想像だけど、『飛行』における厚底靴も、自転車の補助輪と同じようなイライラを魔法使いたちに感じさせるものなのだろう。

 

「あと、シンプルに、地面を歩きにくい」

「ああ……、なるほど」

 

 実にもっともな理由を付け加えて、クァニャンは軽く肩を竦めた。

 彼女がベルトを締め終えるのを確認して、僕はコックピットハッチを閉めた。外からの光が遮断されて、代わりに内部の照明と機器のランプが灯る。モニタにはコンディションの表示。それらに目を走らせながら、出発前のチェックを進めていく。

 

「でも、クァニャンは別に『飛行』が今も苦手っていうわけじゃないんでしょ?」

「もちろん」

「だったら、その厚底靴は……」

 

 短く思考して、彼女に問いかける。

 

「『跳躍』を補助するためのもの?」

「正解」

 

 僕の推測を聞いて、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

 確かに、僕がこの星で出会った軍人で、厚底靴を履いていたのはクァニャンだけだ。けれど、彼女の飛行技術が他の軍人と比べて劣っているとは思えない。となると、あの厚底靴は別の魔法を補助しているものと考えられる。

 彼女の扱う魔法でそこまで特別なものといえば、『跳躍』を置いて他にないだろう。

 

「最初は色々な装備を試してみたのだけど、紋様で補助をするなら足元からやるのが一番しっくりきたの。それで、軍の技師にお願いして、厚底靴タイプの補助装備を作成してもらったわ」

「具体的には、その紋様でどんなところが補助されるの?」

「『跳躍』そのものというより……、うーん、()()の瞬間を助けてもらう感じ。空間を移動すると、自分がどこにいるのか混乱するし、距離に応じてかなりの衝撃も発生するから。私の『跳躍』に合わせて、移動先での速度の補正と、防御魔法の展開を手伝ってもらうの」

 

 つまり、瞬間移動(ジョウント)における慣性の問題か。

 地球と同じく、惑星ウーサも自転と公転を行っている。通常は意識されないが、僕たちは今まさに秒速数百キロで宇宙空間を移動し続けているといっていい。その途方もないスピードを感じないのは、周囲の環境も僕たちと同じように移動し続けているからだ。

 惑星は球形だ。緯度によって自転速度は異なる。その事実を無視して瞬間移動を行った場合、慣性の差で対象者ははるか彼方に吹っ飛ばされてしまうことになる……。

 

 というのが、物理の法則である。DJ号の科学技術では瞬間移動は実現されていないので、あくまで理論の話ではあるが。

 

「なるほどねぇ。そういう事情を知らない人からすると、クァニャンの靴は『飛行』にも不慣れな初心者のものに見えちゃうのか」

「うん、そういうこと。ミトとの模擬戦に参加できるのは、『東』と『西』で選抜された軍人だから、当然、厚底を履いた人なんて私以外にはいなかったよ」

「そりゃあ、ミトさんの印象にも残っただろうね。それで彼女は、君のことを『厚底さん』なんて呼んだのか」

 

 システムチェック、オールグリーン。

 フットペダルを柔らかく踏んで、イブキをゆっくりと歩かせる。格納庫のシャッタはすでに開放されている。左右の壁との間隔を測りながら、起動した機体を屋外へ。

 

 ふと隣を見ると、クァニャンは頬を膨らませてなにやら不満そうな表情。

 モニタに映った正面の景色を見ながら、彼女はぽつりと言う。

 

「『厚底さん』は、あんまり好きになれない」

「そうなの?」

「うん。未熟者って言われてる気分になる」

「未熟者」

 

 その単語をつい繰り返す。

 うっかり口元が綻んだのを彼女に見咎められた。

 

「なにかおかしい?」

「いや……、トラディショナルな言い回しだなぁ、って」

 

 たぶん、三船の語彙なのだろう。メガネの翻訳プログラムを組んだのは安藤だから、意図せずに隊長の口調が混入していてもおかしくはない。

 

「ケイナインには、なにかないの?」

「なにか、って、なにが?」

「称号とか、二つ名みたいな……」

「ないよ。そんなのは」

 

 彼女の問いに、思わず口を斜めにしてしまう。称号に二つ名。なんとも心躍る言葉ではないか。

 ステラ・コネクタのパイロットにはそういった通称を贈り合う習慣は存在しない。もし存在したとしても、かなりマイナな文化だと思う。少なくとも、僕は聞いたことがない。

 強いて言うなら、九十九のことをチャンピオンと呼ぶのがそうだろうか。しかしこれも、代替わりを前提とした一時的な肩書きだ。模擬戦争の戦果をカウントして、もっとも成績の良い者に与えられるタイトルに過ぎない。『厚底靴のクァニャン』みたいな、特定個人の通り名とは別のものだろう。

 

 地球時代、本当の戦争が行われていた時代には、軍のトップエースにはそういった通り名があったらしい。

 たぶんそれは、彼らの叩き出す戦果というものが、ただの数字ではなくて、その国に所属する人間たちにとって共有できる価値を持っていたからだろう。優秀な活躍をしたパイロットは、自国を勝利に近づけて、国民に利益を提供した英雄だったのだ。あるいは、そういった人物の活躍を賞賛することで、国家の士気を上げるという意図もあったのかもしれない。

 

 おそらく、ユミツ国でもそれは同じだろう。

 災獣との戦争が続く中で、輝かしい活躍をした軍人に二つ名を与えて宣伝するというのは、戦略的にも価値のある行為なのだ。もしかしたら、すでにクァニャンにも『厚底』以外の称号があるのかもしれない。災獣を倒したひとりなのだから、そのくらいはおかしくないだろう。

 

 けれど、DJ号では事情が違う。

 僕たちが普段従事している戦争は、企業間の模擬戦争であって、その勝敗にさほど価値はない。

 勝利と敗北は常に天秤に掛けられている。どちらか片方に傾き過ぎないように、顔の見えない誰かが均衡を保ち続けている。それが僕らの戦争で、僕らの社会だ。

 

 そんなことは、誰だって知っている。

 知っていて、それでも必要なことだとわかっているから、粛々と戦争を続けているというだけ。

 戦果はただの数字だ。戦場で敵を墜としても、賞賛されることもなければ、賞賛する意味もない。ひとりの同胞が生き残って、ひとりの同胞が死ぬ。社会の利益はプラスマイナスゼロである。

 

 そんな戦争の中で、称号やら二つ名がどうしただなんて、なんとも虚しい話ではないか。

 

「ああでも、ひとつだけあるといえばあるかな」

「ほんと? それって、なんていうの?」

 

 コントロールグリップを握りながら僕は呟く。

 猫のように好奇心を躍らせながら、クァニャンが僕の顔を覗いている。

 

「主任」

 

 僕は口の端を持ち上げながら短くそう言った。称号ではなく、役職である。

 クァニャンは目をぱちくりとさせて、それから胡乱な瞳で僕を見た。

 彼女のメガネになんと翻訳されたのかは、わからなかった。

 

「それじゃ、出発しようか」

 

 イブキが基地の舗装された地面を蹴る。

 スラスタを起動。シートに押し付けられる加速度。大地の軛から抜け出して、空へと飛び出す。

 太陽はまだ低い。空は白と青とが混じった色。

 正面、視線の先で、僅かに早く出撃したアケソラの赤い機体が朝日を反射しながら飛行していた。

 

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 

 ユミツ現地時刻で午前8時。

 目標は同国南部森林地帯。

 低空を巡航中のステラ・コネクタは、アケソラとイブキの2機のみ。

 

 少数による強襲作戦である。

 バックアップにはそれなりの人数が控えているが、災獣と戦闘を行うのは4人だけ。

 僕とクァニャン、九十九とミトである。

 

「京奈院、特撮は好きか?」

「はい? なんのことですか?」

 

 九十九から通信が入る。僕はトクサツという単語の意味が咄嗟にはわからず首を傾げた。

 しばらく思考が空転してから、ふと古い時代の映像作品のことかと思い至る。確か、地球時代の日本における伝統芸能のひとつ……、だったろうか。

 

「今、(フネ)で流行ってるんだ。トクサツ・リバイバル・ブームだな」

「へぇ、そうなんですか。あまり詳しくないんですけど、どういう作品なんです?」

「それがな、内容としてはフィクションなんだが、デジタルの映像処理じゃなくてリアルの人間が体を張って撮った映像なんだよ」

 

 通信の向こうで九十九が喉を鳴らして愉快そうに笑う。

 

物語(ストーリー)にはヒーローだったり、怪人だったり、怪獣が出てくるわけだ。そういうのを着ぐるみを着て演じたり、ヒーローをワイヤで吊って空を飛んでるように見せたり……、そうそう、それから本物の爆弾をドカーンと使って破壊シーンを演出したりとかな」

「それはまた……、なんというか、趣深い表現ですね」

 

 現代の映像作品で、現実離れした物語を画面に映し出そうとするなら、コンピュータによるデジタル処理がスタンダードだ。いや、現実に近い描写を行うにしても、なにかしら映像を加工することは必須となっている。

 というのも、DJ号では映像作品を制作するための環境が貧弱だからだ。

 地球時代のようなバリエーション豊かなロケーションは望むべくもなく、(フネ)の周囲は宇宙ばかり。都市の光景も人口1万人の居住区だけだし、そもそも商業作品に出演できるレベルの俳優すら数えるほどしか存在しない。そういった様々な不足を補うために、映像作品にデジタル処理を用いるのである。

 

 デジタル処理の発達により、ある意味、映像のリアリティは増している。加工された映像は現実から遠ざかるが、それを現実と誤認させる技術が洗練されていったのである。

 それと対比すると、九十九の語る700年以上前に製作された特撮というカテゴリの話は、現代の映像作品とは別の方向性を持っているように思えた。

 たぶん、現代の作品ほどリアリティは感じられないのだろうけれど、現実にあったことが映像として残るという意味では、現代の作品以上にリアルなものとなるのではないか。

 

「でも、どうしてそれが流行に? なにか切っ掛けでもあったんですか」

「ああ、当時かなり有名だった定番タイトルがあるんだ。その内容っていうのが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って話なんだよ」

「おやおや、それはそれは……」

 

 僕は思わず苦笑してしまった。なんというか、非常にあからさまだ。いや、このくらいわかりやすい方が宣伝戦略としては有効なのかもしれない。

 

「僕たちは謎の宇宙人ですか」

「この宇宙に生まれたなら、何星人だって宇宙人さ。そうだろう?」

「ごもっとも」

「それに、地球人類とカテゴライズされるならともかく、地球人と名乗るには俺たちは母なる星と縁が遠すぎやしないかね」

 

 とぼけるような軽い口調で九十九が言う。僕もまったくの同感である。

 700年前の遺伝子を利用しているのだから、血縁上の両親は間違いなく地球人なのだが、それでも地球の大地を一度として踏んだことのない僕らの世代が、堂々と地球人を名乗ってしまうのはかなりの違和感があった。

 もしかしたら、僕らはもう地球人ではなくてDJ人とでも名乗った方が正確なのかもしれない。とはいえ今のところ、(フネ)の公式見解としては、ワレワレハチキュウジンダ、である。

 

(わたくし)がこうして隣に座っているというのに、男二人で楽しそうでお喋りですの? ツクモ、あなたってば相変わらずレディの扱いがなってなくってよ」

 

 通信から澄ました声が聞こえてきた。『中央』軍のお嬢様こと、ミト女史だ。

 彼女は九十九のアケソラに同乗している。それはつまり、『魔法の実験』が上手くいったということ。彼女が優秀なのか、それともやはりステラ・コネクタ側になんらかの条件があるのかは、未だに不明となっているが、彼女を乗せたアケソラは確かに魔法を使用することができたのだ。

 

 僕とクァニャン以外にも魔法を使える組み合わせが見つかったということは、研究サンプルとして非常に喜ばしいことだろう。複数のサンプルから多角的な検証ができるようになれば、ステラ・コネクタに魔法を使わせるための条件もより効率的に絞り込むことができるようになるはずだ。

 

 実際、DJ号とユミツ国、双方の研究者たちはかなりテンション高めだった。九十九とミトとアケソラが見事に魔法を使いこなした瞬間なんて、目を血走らせて奇声を上げていたくらいだ。

 災獣の討伐作戦がある都合、実験はひとまず休止となっていて、今はこれまでの実験データの整理と検証に専念しているはずだが……、作戦が終わって実験を再開するときが、ちょっと怖いかも。そう感じてしまうくらいの熱量が研究者たちからは発散されていた。

 

「レディの扱いだってよ」九十九が鼻で笑う。「そんなもの、京奈院は知ってるか?」

「いやぁ、正直なところ、よくわかりませんね」

 

 昔は地球にもそういった言い回しがあったことは知っている。古い小説にも頻出する表現だ。

 だけど、現代では通用しない概念である。僕も実践したことはない、と思う。他人に優しくすることはもちろんあるけれど、女性だから優しくする、みたいな傾向は持っていない。

 たぶん、DJ号ではそれがマジョリティだろう。男性と女性で身体の構造は違っているのだから、当然その点を考慮することはある。だけど、それだけだ。社会的な暗黙の了解(マナー)としての『レディの扱い』は、もはや風化した文化様式といっていいかもしれない。

 

 言うまでもなくその原因は、男性と女性がペアになって次の世代の子どもを産むという方式が崩壊してしまっているからだろう。

 

「ケイナインは、紳士的」

 

 と、同じ棺桶(コックピット)のクァニャンからは有難いお言葉。

 隣に座る彼女を見ると、サンゾウ(地球時代の僧侶(プリースト)だ。有名な映像作品が今も残っている)のような笑顔を浮かべていた。

 

「ええと、それはどうも?」

「うん。いつもありがとう」

 

 彼女の視線が真っ直ぐで、どうにも面映ゆい。

 

「……なんだかこちらとは随分と雰囲気が違いますわね」ミトがぼそりと呟いた。

「交代はしないから」とクァニャンは牽制するように素早く言う。

「ひどいな、まるで俺が外れクジみたいじゃないか。仮にもチャンピオンだぜ、俺は」

 

 九十九がそう言いながらケラケラと笑う。

 映像通信は繋がっていないが、半眼になって彼を睨むミトの顔が見えるようだった。

 

「それで? 作り話の宇宙人はどうしてチキュウ人のことを助けてくれるのかしら?」

「さぁな。正確にはわからないんじゃないか。なにせ、そいつは基本的に言葉を喋らないんだ」

「ふぅん。声を出せない種族ということ?」

「いや、声は出せる。怪獣と戦ってるときに独特な掛け声を叫んでるし」

「ということは、その宇宙人の言語文化が未発達なのかしら」

「フツーに当時の人類よりも進んだ文明の出身だったみたいだけどな」

「……それなら、意思の疎通くらいはして欲しいものですわね。理由もわからずただ味方されるだけというのも、なかなか不気味なのでは?」

 

 九十九の語る特撮作品の設定を聞いて、ミトは口を尖らせている。

 

「お嬢様、こいつはフィクションだぜ。作り話さ。そんな真剣に考えなさんなって」

「作り話といえど、あなたたちチキュウ人の先祖が本気で作ったものなのでしょう? 彼らの想像する『謎の宇宙人』がどんな存在だったのか、とても興味深い疑問ですわ」

 

 そんな話をしている間も、イブキとアケソラはユミツ国を南下し続けている。

 低空飛行の眼下には、鬱蒼とした森林地帯が広がっていた。緑の絨毯の合間には西方の山岳地帯から流れる河川が幾筋も通っている。多種多様な植物の生い茂るこの地は、ユミツにおける木材の一大産出地であり、南の隣国との緩衝地帯でもあった。

 

 惑星ウーサに初めて降下したとき、僕らの偵察部隊も一度ここに訪れている。クァニャンと出会ったあと、三船と安藤と合流したポイントは、森林地帯の比較的北部寄りのポイントだった。

 今回はさらに南へと向かう。災獣の縄張りは、より深い森の奥地なのだ。

 

「700年前のご先祖様が『謎の宇宙人』をどう考えていたか、ね。どうせ過去のことだ。別に何だっていいだろ、そんなもの」

「あら、冷めてるのね。だったら、ツクモ、あなただったら、どんな宇宙人に設定する?」

「宇宙人が怪獣と戦う理由か? ま、しいて言うなら、単に楽しいからってだけじゃないか」

「それはあなたの戦う理由でしょう」

「そうさ、俺も宇宙人だからな」

 

 そう言って九十九は上機嫌に鼻を鳴らす。

 

「っつーかだ、そこのところはお嬢さまも似たようなものだろ?」

「あら、何をおっしゃいますの? (わたくし)は国家と国民のため、軍に身を捧げているのです。そのような戦闘狂と一緒にされては困りますわ」

 

 しばしの沈黙。

 それから、二人が同時に噴き出す音。

 

「わははは、そうだったな」

「うふふふ、そうなのですよ」

 

 確かにこちらとは雰囲気が違うな。と、通信越しの白々しい笑い声を聞いて思う。

 しかし、これはこれで彼らも仲良くやってるってことなんじゃないか、とも。

 

「ふむ、聞いた相手が悪かったようですわね。では、ケイナインはどう思います? こちらの話はちゃんと聞こえているのでしょう」

「そこで僕に振りますか」

「私も興味ある」とクァニャン。

 

 しかし、そう言われても、僕はその作品を鑑賞すらしていないわけで。『謎の宇宙人』といわれても、それがどんな姿をしているのかすらわからないのである。

 怪獣と戦う、というくらいなのだから、高度に進歩した科学技術で武装していたりするのだろうか。あるいは、ひとりではなくて多数の軍勢が宇宙船に乗ってやってくるとか? まさか、生まれ持った種族的なポテンシャルだけで肉弾戦を挑む、なんてことはないと思うけれど……。

 

 いや、でも、どうなんだろう。

 ウーサ人のような特殊技能を体得した宇宙人を想定するなら、そういうパターンもありなのか?

 

「うーん、実際のところ、当時の製作者がどういう設定を考えていたのかはわかりませんけど」

 

 考えが纏まらないまま、隣に目を向けると、こちらを見ていたクァニャンと視線がぶつかった。

 彼女はコテンと首を傾げる。小動物的な仕草だった。

 DJ号における小動物といえば、ヴァーチャルな動物園でしか見れないものだからだろうか。僕にはそれがなにか貴重で眩しいもののように思えてしまった。

 

「……、もしかしたら、その宇宙人は地球人のことが好きになったんじゃないかな」

「ふぅん? チキュウの人間のことが気に入ったから、怪獣を倒して助けてあげようと思ったってことかしら?」

「いや、まぁ、ただの想像ですけど」

 

 追及するような口調のミトに苦笑いを返して、僕は正面のモニタに視線を戻した。

 なんとなく、クァニャンの顔を見るのが気恥ずかしい気分だった。

 

「そう、ケイナイン、あなたはどうなのかしら?」

「はい? ええと……、どう、というのは、なにがですか?」

「つまり、あなたはどのくらいウーサ人が好きになったのかしら?」

 

 ウーサ人のことが好きになった? そうなのだろうか。あまり自覚はない。もちろん、彼女たちのことを嫌っているというわけではないが……。

 咄嗟に答えられず、僕は言葉に詰まってしまった。

 

 

 

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