ユミツ国の首都ナェゴトで、災獣討伐の記念式典が開催されることになった。
開催日は南部森林地帯の戦闘から1週間後の予定で、どうやら作戦の開始前から決められていたスケジュールのようだった。その時点では、まだ討伐が成功するかどうかもわかっていなかったはずなのに、なんとも気の早い話である。
「そういうの、捕らぬ狸の皮算用って言いません?」と僕が口を斜めにすると、
「成功した以上は、用意周到って評価されるだけだな」と九十九が身も蓋もないことを言った。
ナェゴトでの記念式典には、DJ号サイドの代表人物のひとりとして、九十九が参加する予定になっている。ユミツ国の一般人に地球人類の存在が公表されるのも、このタイミングだ。言うまでもなく、彼は災獣を倒した英雄として大々的に担ぎ上げられることになるだろう。
九十九のパートナとして、ミトも式典の主役になる予定である。彼女はもともと『中央』の有名人で、軍の広告塔だった。ユミツでは非常にネームバリューがある。災獣の討伐と異星人との接触という歴史的偉業のダブルパンチと併せて、凄まじい宣伝効果が発生すると予想されていた。
「そもそも生きた狸っていうのが、もうどこにもいないだろ」
「地球にならいるんじゃないですか?」
「進化も絶滅もしていなければ、そうかもな」
「そうなる前に遺伝情報の保存くらいはしてそうですけれど」
「どっちみち、生きている狸が存在しないなら、捕れぬ狸の皮算用ってのが正しいんじゃないか」
「それってどういう意味になるんです?」
「狸の皮はどうやったって手に入らないし、宇宙ではなんの役にも立たない」
「つまり、考えるだけ無駄なこと、と……」
などと、内容のない会話を最後に交わして、僕は九十九と別行動になった。
幸いなことに、僕は式典への参加を命令されていなかった。ああいったイベントで他人に注目されるというのが、僕にはどうにもぞっとしない。九十九のように場慣れしている人が矢面に立ってくれるというなら、諸手を挙げてお任せしたいのが本音である。
式典の主催者――、DJ号とユミツ国の指導者層の思惑としては、参加者を絞ることでイレギュラーな事態を抑制しようということなのだろう。
僕は以前、首都で襲撃事件に巻き込まれたことがあったから、それも不参加を決定させる一因になったのかもしれない。事件はすでに解決しているが、ユミツの一部勢力と僕の間にはそれなりの因縁が生じてしまっている。その線から余計なトラブルに繋がる危険性を排除しておきたい、というわけだ。
「じゃあ、しばらくは待機ですか?」
災獣の討伐後、記念式典のスケジュールを説明されたときに、僕は三船隊長にそう尋ねた。
「待機は待機だが」いつものむすっとした表情で三船は言う。「一度、帰艦だな」
「帰還っていうと、DJ号に?」
「他に帰る場所があるのか?」
「いや……、まぁ、そうですよね」
変なことを言ってしまった、という自覚はあった。
三船はじっと僕の顔を見つめている。詰るような視線ではないのが、せめてもの救いか。
なんとなく気まずくて、僕は目を逸らした。胡乱なものを見たかのように、三船が鼻を鳴らす。
「
「わかりました」
「以降は会社の指示に従うように。なにもなさそうなら、今のうちに休暇の消化でもしておくことだな」
………
……
…
「というわけで、僕は
「うん」
惑星ウーサに降りてきている交渉団の一部メンバも、記念式典のための追加人員と交代でDJ号に戻ることになっている。僕はその便に同乗させてもらうことになっていた。
帰還用のトランスポータに向かう前に、僕はクァニャンと会っていた。
東部基地に設置されたイブキの格納庫だった。時刻は夜。討伐作戦の報告やらで、僕も彼女も日中はなかなか時間が取れなかったからだ。
通常の勤務時間はすでに過ぎていて、格納庫はいつもよりがらんとしている。安藤を含めて、機体の整備班も今は姿が見えなかった。
メインの照明は落ちていて、格納庫の片隅にある休憩スペースにだけ照明が灯っている。どこまでも続くような真っ暗闇に、ぽつんと浮いたほのかな明るさの中で、僕は彼女と向き合っていた。
「えっと、だからなんだってわけでもないんだけど、一応、予定の共有ってことで……」
「うん」
今日のクァニャンは『厚底』を履いていない。僕よりも頭ひとつ小さな身長だ。休憩スペースのソファにちょこんと腰掛けて、向かいのソファに座る僕の顔を見つめている。
身長差の都合、やや上目遣いになった彼女は、こてんと首を傾げた。後ろでひとつ結びにした菫色の髪が、小動物の尻尾のように可愛らしく揺れている。
「それだけ?」
「それだけ、っていうか……」僕も彼女に倣って首を傾げる。「うーん、もっと話すことがあるような気がして、わざわざ時間を取って来てもらったんだけど……、よく考えてみると、状況の報告としてはそれだけだね」
「そう?」
クァニャンの言葉は基本的に短い。だいたいいつも通りである。
だというのに、なにか催促されているような気分になってしまうのは、僕自身なにか言葉が足りていないのではないかと感じているからだ。
そう……、こんなただの業務報告ではなくて、もうちょっと気の利いたことを言った方がいいのではないか。そんな考えがふと頭に浮かんだ。
それは特別なことではなくて、対人コミュニケーションの基本的なやり取りだ。だけど、困ったことに、そうとわかっていても、言葉が出てこない。頭の中が混線している気がした。どうにも今日の僕はメモリが不足しているらしい。
「帰っても、また戻ってくる?」
「え? ああ、うん、たぶん。
彼女に言われてから、そうならない可能性もあるにはあるのか、と思い至った。つまり、DJ号に帰ったら、そのまま艦と宇宙での仕事に戻るというパターンだ。
おそらく、その可能性は低いだろう。自分でいうのもなんだけど、僕には地上で働かせるだけの価値があるはず。災獣との戦闘経験を持っていることや、クァニャンを含めたユミツの軍人と面識があることは、それなり以上のアドバンテージだと思う。
それらを宇宙で腐らせてしまうのは、艦全体としても、あるいは僕の所属する企業としても、損失といっていいはずだ。
けれど、理屈としてはそうだとわかるにしても、もう地上に下りてこない未来を想像して、背筋が一瞬寒くなったのも事実である。
「戻って来るよ」確かめるように僕は言った。
「うん」彼女は小さく頷く。
「ケイナイン」
「うん?」
「あなたが帰るなら、私も一緒に行ってみたい」
「行ってみたい、って……、僕らの
「そう。ディージェイゴウに、行ってみたい」
クァニャンは猫のような好奇心で目を輝かせていた。
心なしか帽子の両耳もピンとしているようにみえる。
彼女のその言葉に、驚きはしなかった。そういう要望はあるのだろうな、とだいぶ前から想像はしていたからだ。異星人の宇宙船に乗ってみたい。なんともシンプルな欲求ではないか。
同様の要望は、ユミツ国の政府機関からも出されていると聞いていた。DJ号の交渉団はすでに何度もユミツ国を訪れているが、その逆はまだ実現していないのだ。これから両勢力の間で正式に国交を樹立するというのであれば、彼らがDJ号への来訪を求めるのも正当な要求といえるだろう。
「あれ、でも、記念式典は?」
「私も参加は命令されていないよ」
「そうなの? 意外だな……」
「今回はミトが主役だから。参加するならしてもいいって言われたけど、あんまり興味ないかな」
休憩スペースのテーブル越しに、僕はクァニャンの顔をじっと観察した。彼女は澄ました表情で微笑んでいる。
式典に興味がない、という彼女の気持ちはわからなくもない。僕だって似たようなものだ。社会的な意義はあるのだろうけれど、この手のイベントにはあまり関心が湧いてこないのである。
だけど、本当にそれだけだろうか。彼女は軍人で、災獣討伐に実際に功績があるのだから、主役じゃなくてもひとまずは参加を要請されるのが普通のような気がする。
ひょっとすると、僕に引っ付いてDJ号に乗り込もうというのが、彼女の任務なのかもしれない。
僕が式典に不参加になって、
「いや、なんにせよ、僕には判断できないな」
そこまで考えてから、僕は眉をハの字にして
ウーサ人をDJ号の艦内に招待する。そんな一大イベントを一介のパイロットが決めていいわけがない。その訪問が史上初の異星人の乗艦ともなれば、なおのことである。
おそらく、ウーサ人を
警備の手筈や安全面での様々な確認、人工の空気が循環している密閉された宇宙都市に異星人を呼び込むことのリスク評価、歓待のための計画と案内役の人員選定……、考えなければならないことは山ほどある。準備だけでも膨大な時間と労力が必要とされることは、容易に想像できた。
「一応、そういう希望があったって話くらいはしてみるけどさ……」
「うん。たぶんそうだろうって思ったから、もうミフネにもお願いしてあるよ」
「え? あ、そうなんだ。……うーん、僕はなにも聞いてないんだけど」
「ケイナインには判断できないことだから、じゃない?」
「……、ぐうの音も出ないね」
クァニャンから三船隊長にそういう話があったとして、隊長から僕に伝えるべきことが特にないというのは、それはそう。そもそも隊長クラスにだって判断がつかないような要求なのだから、三船にしたって「こういう要求がありました」とさらに上司へ話を投げることしかできないだろう。
そんなもの、わざわざ僕に言うことでもない。それはわかるのだけど、なにか釈然としないものを感じるのは、なぜだろうか。
………
……
…
惑星ウーサの地上から飛び立った
巨大な深宇宙探査艦には複数の宇宙港が存在するのだが、僕らが入港したのはその中でも特に小さな規模の施設だった。宇宙港というより、宇宙口といったほうが正確かもしれない。そのキャパシティは非常に限られていて、小型の船舶が一隻でも入港したら、それだけで施設の限界値に達するレベルである。
宇宙港は無骨な構造で、飾り気のない金属の柱が無愛想に並び立っている。地面も壁も薄っすらと汚れていて、ひっかき傷やへこみが残っているのも見て取れる。年季の入った工場のような雰囲気だった。壁際にはラッシングワイヤで固定された荷物が無造作に並べられている。
この雑然とした雰囲気が、どこか懐かしかった。
DJ号の宇宙港は、どこの港でもたいていこんな感じだ。交通のハブというよりは、作業用の出動拠点という趣きが強い。
「今、急ピッチで新しい港を整備しているらしいですよ」
トランスポータの窓から宇宙港の光景を眺めていると、同じ便で
「新しい港、ですか?」
「そうなんです。外交用というか、歓迎用というか……。とにかく、新しくて、綺麗で、スタイリッシュな港なんだとか」
「ああ……。ウーサ人を迎え入れるための港というわけですね」
意を得たり、と笑みを深くする交渉団の男性に、僕は「なるほど」と頷いた。
僕の知る限り、
どんなデザインになるのだろう、と想像してみる。
たぶんだけど、700年前の地球の空港あたりを踏襲したものになるのではないか。なにしろ、他勢力の外交使節を迎え入れるというイベントが、その頃を最後に途絶してしまっているからだ。
新しいものを作る、といいつつ、デザイン的には懐古に走るというのであれば、なかなか皮肉がきいているようにも思えた。
「まぁ、僕らにとっても目新しくはあるか」
どうせ地球時代の建造物なんて、誰も本物を見たことはないわけだし……。
小さく息を吐いて、僕は客席から立ち上がった。
トランスポータの乗降口には、気密したチューブが接続されている。その中をくぐって、タラップを降りる。チューブはその先も続いていて、小さな港を真っ直ぐに横断している。
聞いていた通りの隔離措置だった。この後、惑星ウーサからの帰還者たちは、揃って最先端の洗浄装置に放り込まれることになるという話だ。検疫も行われることになっている。DJ号の内部に本当の意味で帰還できるのは、それらがすべて済んでからになる。
「必要な措置とはいえ、多少は退屈かな……」
小さく呟いた言葉に、応える声はない。
僕の隣にクァニャンはいなかった。
残念ながら、彼女がDJ号を訪れるための許可は、僕の出発時点では下りることがなかった。
個人的には、可能性は五分五分だと考えていた。
DJ号の首脳部がユミツ国の外交使節を招待する準備を進めているのは確かだと思うが、それがぶっつけ本番になるとは限らないだろう。正式な招待の前に、少人数、あるいは個人のウーサ人をテストモデルとしてDJ号に招くということは十分に考えられた。
僕の贔屓目かもしれないが、クァニャンはそのテストモデルとしてちょうど良い人物だと思う。DJ号側の事情にある程度の理解があり、地位や階級が高すぎるということもなく、それなりに融通の利くポジションだ。
だから、彼女からああいう申し出があれば、もしかしたらそのままDJ号への搭乗を許可されることもあるのではないか、と思ったのだが……。世の中そうそう上手くいくわけではないらしい。
「ま、駄目だったものは駄目でしょうがないか」
椅子に座りっぱなしで硬くなった身体をほぐしながら、チューブの通路を歩いていく。採光のためにビニルの窓があるから、外の様子は見ることができた。小さな宇宙港を出ると、そこは市街地の外れのようで、チューブはすぐ近くの白い大きな建物の裏手へと続いていた。
トランスポータが宇宙港に入った時点で、メガネのリンケージはすでに確立していた。チューブの中を歩いている間に、ナビゲーションのアップデートも完了する。
最新のマップを参照すると、どうやら目の前の白い建物は病院で、周辺の
立ち入り制限の指定が始まったのは、ちょうど僕たち偵察部隊が惑星ウーサに降下したころのことだった。おそらく、ウーサ人との遭遇報告を聞いてすぐに、医療上の調査拠点として指定を受けたのだろう。
その予想に違わず、白い病院の中は、地上からの帰還者を洗浄する先端機器や、検疫のための設備がみっちりと詰め込まれていた。
気分は製造ラインに乗せられた工場部品だった。一方通行のベルトコンベアに乗せられて、規格化された除染処置を受けていく。ひとつ終われば、また次へ。隔離された部屋で行われる各種の処置は、手を変え品を変え延々と続いていて、なかなか終わりが見えてこない。
ちょっと神経質すぎるようにも思えるが、僅かな汚染が致命的な感染拡大に繋がりかねないのが宇宙都市なので、文句を言うわけにもいかなかった。それに、これでも最初期の除染処置よりは簡略化されているのだとか。桃瀬たち第一次交渉団が帰還したときは、すべての処置の完了まで倍近い時間が掛かっていたのだという。
幸いなことに、除染処置を受けている間も、ネットワークは繋がっていた。
退屈しのぎに艦内のニュースにアクセスしてみると、やはりというべきか、惑星ウーサ関連のヘッドラインがトップに表示された。専用のトピックスでまとめられていて、かなりの本数の記事が累積している。
最新のニュースでは、ステラ・コネクタのチャンピオンである九十九が地上に下りたことが頻繁に取り沙汰されていた。有識者(なんの有識者なのだろう?)が、その行動の意図について、
『……。ユミツ国との交渉を取り仕切る大道寺宇宙開発株式会社渉外部は、チャンピオン・九十九の派遣について、交渉団の安全保障とユミツ国との軍事的交流のためのものであり、ユミツ国への武力行使の意図はないと改めて表明した。交渉団の実務担当者である桃瀬氏は、ユミツ国との外交交渉は大きな対立を生むことなく進展していて、両国の友好的な関係は、正式な外交条約の締結という形で近くお伝えすることができるだろう、と発言しており……』
表示したニュースを読み終えると、僕は眉を斜めに傾けた。
発表自体は間違ったことを言っていないのだが、まぁまぁ茶番である。おそらく、質問している有識者というのも、
こういう適度な話題を演出して、それに対して小さな解決や進展があったと一般市民に思わせることで、本当の意味での情報公開を遅らせても違和感を持たれないようにするわけである。
実際のところどの程度の情報がすでに周知されているのか、ニュースを遡って調べてみた。
惑星ウーサとユミツ国の名称はだいぶ前に公開されていた。
ウーサ人が地球人類と類似した姿をしていることも早い段階で知らされていたが、実際にその姿が公開されたのは、桃瀬率いる交渉団が地上で撮影した映像記録が初出だった。該当する記事には多数のコメントが付与されている。記事にぶら下がったコメントスペースでなぜか閲覧者の
僕の名前も記事になっていた。といっても、最初の偵察部隊の一員として名前が書かれていたくらいだ。どちらかといえば、僕よりも隊長である三船がフォーカスされている傾向にある。
地球人類とウーサ人のファースト・コンタクトは、地上に降下した僕たち偵察部隊がユミツ国の軍人と遭遇した、という形で記事になっていた。あまり詳しいシチュエーションは書かれていないようで、クァニャンの名前が書かれた記事も見つからなかった。
他には、惑星ウーサの地理や自然、ユミツ国の文化を紹介する記事が目立つ。
一方で、記事の流し読みを続けているうちに、大道寺財閥が意図的に公開を控えている情報があることにもすぐ気が付いた。
「魔法のこと、まだ非公開のままなのか……」
そう呟いて、ニュースの並んだメガネを掛け直す。
災獣のことは公開されていた。現地に棲息する危険生物という扱いだ。九十九が言っていたように、宇宙人が怪獣を退治するという地球時代の映像作品も確かに流行している様子である。
ただ、災獣という巨大な怪獣が存在することは知らされていても、その由来についてはまだ詳しく公開されてはいないらしい。つまり、『災獣は宇宙からやって来た』という情報は、一般の
おそらくだが、ウーサ人という異星文明だけでも手一杯のところに、それとは別の宇宙生命体も存在していたという爆弾まで投下するのは、さすがにリスキィだと判断されたのだろう。
実際、監査部の篠宮がなにやら動いているようだったし、社会の動揺につけこんでなにかを画策している勢力が存在するようだ。それが『帰郷派』なのか、それ以外の過激思想の集団なのかはわからないが、減らせるリスクは減らしておきたいと指導部は考えているはずである。
そして、それ以上の爆弾になりかねないのが、魔法の存在である。
公開されている情報では、『惑星ウーサには、我々の科学技術とは別の技術体系が存在する可能性がある』と、非常にマイルドなことだけが書かれていた。
嘘が書かれているわけではないのだが、これだけを読むのなら、『別の技術体系』というのは、歴史的な背景の違いなどに由来する科学技術の方向性の違いと理解するのが普通だろう。
ウーサ人が『地球人類に類似した姿』を持つという前情報があることも、一種の目くらましになっている。
しばらく前に、三船が言っていたことを思い出す。
地球人類とウーサ人は、姿かたちが
そのうえで、ウーサ人だけが魔法を使えるというのは、地球人類が種族としてウーサ人に劣るということにならないか、と彼女は語っていた。
そして、その思想が広まることを、
僕はそのとき、人類が宇宙の中で特に優れた存在である、という考え方がそもそも幻想だろう、と反論した。深宇宙探査を始めた時点で、人類よりも優れた種と遭遇することは、想定していて然るべきだ、と。
その考え自体は変わっていないが、こうしてDJ号に戻ってきて、益体もないニュースの羅列を眺めていると、魔法の存在を知った社会がどんな反応を起こすのか、不安になるのも確かだった。
地球人類は周囲からの影響を受けやすい種族だ。ネットワークに流れるニュースに一喜一憂して、コメントスペースで元気に殴り合う
衝撃的な情報は、その内容以上に、伝え方ひとつで毒にも薬にもなる。魔法の実在という火薬は、お祭りのクラッカーになるかもしれないし、戦禍を引き起こす爆弾になるかもしれない。
僕としては前者であって欲しいが、逆の考えを持つ勢力もやはり存在するのだろう。魔法の実在の公開に踏み切れないのは、その辺りの駆け引きも関わっているのかもしれない。
「クァニャンが来れなかったのも、時期尚早ってことなのかな」
しかし、だからといって、いつまでも秘匿し続けることはできない。
だから、問題は、公開するタイミングということになる。そのために、今はまだ世論を形成する段階にあるのかも……。
ふと思いついて、接続したネットワークで、
オススメとして目立つ位置に掲げられているのは、宇宙人vs怪獣の特撮映画。
そこに紐づけられて、700年前の地球時代のクラシックな映画が関連作品としていくつかピックアップされている。
そのトップに置かれていたのが、魔法使いの少年が主人公のファンタジィ映画だった。
明らかに他よりも目立つ配置で、非常に熱の入った解説文が添付されている。
露骨すぎて、僕は思わず笑ってしまった。