シリーズの型番によってそれぞれ性能は異なるが、その中でもイブキは主に航路啓開と惑星への先行調査を目的として製造された量産モデルだ。
では、そもそもなぜステラコネクタは人型ロボットというフォーマットを取っているのか。
その疑問に答えるものとして、初期の開発チームの言葉が残っている。
曰く、宇宙の隣人と出会うとき、我々地球人類は、自らの人の形を以って彼らの前に姿を現すのが礼儀であろう、と。
それがどこまで本気の言葉だったのかはわからない。しかし、異星人にお披露目する機会もないまま数百年が経っているというのに、いまだ人型ロボットとしてステラコネクタの開発と製造が続いているあたり、地球人類という生物種の見た目に対する
「斯くして、スタラコネクタ・イブキは惑星ウーサに降り立ち、ついに人型ロボットとして製造された本懐を果たしたわけである、と」
イブキに注がれる異星人たちの視線を感じながら、僕はコックピットで呟いた。
惜しむらくは、その場に集まった十数人の異星人たちが、揃いも揃って細長い木の棒の先端をイブキに向けていることか。彼らが握っているのはクァニャンが光の斧として使っていたものと似たような形状の棒で、その目には明らかに警戒や敵意の色が浮かんでいる。
イブキを取り囲むようなフォーメーションだった。異星人の三分の一は地上に立っているが、残りの三分の二は空中に浮かんでいた。どうやら飛行能力はクァニャン特有のものではなく、ウーサ人の基本技能だったらしい。
「人型の是非はともかく、サイズの差が悪かったね、これは」
頭部の一本角に掴まっていたクァニャンが空中にジャンプするのをカメラ越しに見ながら、僕は小さくため息を吐いた。彼女が上手いこと異星人たちに取りなしてくれることを願うとしよう。
もし、出会った相手がイブキと同じ15mの巨人種族だったら、もうちょっと優しいムードになったのかな、なんて考えがふっと浮かんですぐに消えていった。
………
……
…
森林地帯を北に抜けた先、クァニャンに案内されたポイントには、少数の建造物が固まって建てられていた。比較的大きな二階建ての建物を中心として、それよりも小さな建物が三つ建っている。いずれも建材はコンクリートに類似した複合素材で、外観はシンプルな直方体。窓の嵌められた壁面は滑らかで、明らかに人工的な加工が施されていた。
町や村、集落という雰囲気ではなかった。三船が言っていたように軍事的な拠点なのかもしれない。付近の地面は平らに整地されていて、アスファルトのような物質で均一に舗装されている。
もしかしたら、飛行場なのかも。地球時代の映像資料で見た航空戦力の拠点がこんな感じだった。ガレージのような建物は見当たらないけれど、ウーサ人は自分たち自身が飛行機になれるのだから、大仰な機械を保管するようなスペースは必要なくてもおかしくはない。
興味深いのは、人工的な建造物と絡み合うように巨大な植物が生えている点だ。建物のそこかしこから茶色の樹皮と緑の葉とが覗いているうえ、屋上には大振りな枝葉が広がっている。人工物に対する自然の侵食、あるいは両者の融合といった様相だった。
構造的に脆弱になりそうなものだが、不思議とバランスは保たれている様子である。鉄骨の代わりに植物を骨組みにしているのだろうか。なんとも奇妙な設計思想だと思う。あるいは、物理的な建材としてではなく、ウーサ人の『魔法』のための設計ということなのか……。
「しかし、いよいよもってファンタジィって感じだなぁ」
クァニャンが僕を招き入れたのは、建ち並ぶ建物の一棟、拠点の中心らしき建物の二階にある部屋だった。テーブルとイスとが整然と並ぶ会議室風の部屋なのだが、その壁からも植物の巨大なコブが突き出していて、ご丁寧なことに腰の高さにはクッションまで置かれていた。日常的に椅子として利用されているのだろうか。やっぱり不思議な文化だと感じてしまう。
部屋の窓からは建物正面の舗装された地面が見えた。膝をついて待機するイブキを数人のウーサ人が取り囲んでいる。それぞれ数メートルの距離を置いて監視している状態だ。コックピットハッチはロックしてあるから、内部までは覗かれていないと思いたい。もっとも、彼らの魔法に対して、物理的な障壁がどれほど意味があるのか、正確なところはわからないのだけれど。
会議室の出入り口は二つあって、そのどちらにもウーサ人の兵士(と思われる者)が二人ずつ配置されていた。やはり細長い木の棒を持っていて、山高帽を被っている。コートの色は赤と青。クァニャンとは異なり、厚底ではない普通の軍靴を履いていた。
兵士たちの態度は、敵意よりも困惑が大きいように見えた。山高帽の下の表情も緊張しているように見える。彼らがひそひそと言葉を交わすのも微かに聞こえていた。
「相変わらずなにを言ってるのかさっぱりだけど」
「会話パターンのサンプルは収集できている。悪くない傾向だ」
独り言に返事があった。三船の声だ。森林地点の待機地点から通信してきている。耳の骨を振動させる方式だから、部屋の見張りには聞こえていないはず。
イブキを降りた僕はメガネを掛けていた。自前の眼球はステラコネクタの操縦用に調整されたものだから、他言語の解析や翻訳の機能は外部のデバイスに頼らなくてはならない。今もメガネの片隅には、ウーサ人の囁きの暫定的な翻訳が滝のように流れている。搔い摘んだ内容をざっくりと目で追ってはいるが、今はまだ精度もそれほどよろしくない様子であった。
「ケィナイン」
会議室の扉が開いて、クァニャンが入ってきた。ひとりではなく、男(のように見えるウーサ人)二人と連れ立っている。それぞれ壮年と老年といった風貌で、どうやらクァニャンの上役のような雰囲気だった。
「やぁ、クァニャン。さっきぶりだね」
「ケィナイン。『時間/期間』『過ぎる/待つ』『健康/安全』?」
「大丈夫。問題ないよ」
メガネに表示される単語の候補を見ながら、聞き取り困難な彼女の声に日本語で返事をした。当然、彼女がこちらの言葉を理解できるとは限らないけれど、お互いの感情表現に共通項があるのはわかっているから、僕が怒ったり気分を害しているわけではないとは伝わったはずだ。
僕の喋った言語を耳にして、彼女と共に現れた男性型の異星人が表情を変えていた。壮年の方はやや大袈裟に目を見開いて、老年の方は思慮深く目を細めている。
老年のウーサ人がなにごとか短い言葉を呟いて、壮年の方に目配せをした。短く髪を刈りこんだ壮年のウーサ人は頷くと、懐から手帳を取り出して、なにごとかメモを取り始めた。
どうやら僕の言語を記録するつもりのようだ。こちらとしても願ったりである。異なる言語の研究は双方向で進めた方が効率的だし、一方的な誤解や誤訳が生まれる可能性も低くなるだろう。
この壮年の男が言語学者だったりするのだろうか、とも思ったけれど、灰色のコートの下の筋骨隆々とした体躯を見るに、どうもそういうわけではないらしい。キビキビとした動作や時折クァニャンに向ける鋭い視線の感じから、やはり軍事組織の上官というイメージが浮かんでくる。
一方、老年の男の方は腰まで届きそうな白髭を蓄えていて、年季の入った真っ白なコートは裾が床に届きそうなほどに長い。手にした木の棒も節くれ立った年代物だ。皺だらけの顔と相まって、古い物語の魔法使いそのままの印象である。
見たところ、白髭の老年が短髪の壮年より上の地位にあるようだ。クァニャンは壮年の男よりもさらに下の地位といった様子。どうやら上下関係が明確に定められた組織構成らしい。
壮年の男が先ほどの会話をメモし終えたのを確認して、老年のウーサ人が口を開いた。
「あなたは、ケィナイン、『言う/名乗る/定める』?」
「はい。僕は、ケィナイン、です」
です、は余計だったかもしれない。
「『はい』? ……『肯定/直線/同意』?」
白髭の男がちらりとクァニャンに視線を向ける。僕らの会話に耳をそばだてていた彼女は、少し考えてから白髭の問いかけに首肯した。男は興味深そうに自身の長い髭を撫ぜる。
同時に、僕のメガネにも語彙が増えた。肯定を意味するウーサ語の発音は録音されて、三船や安藤にも即座に共有されることになる。
「あなたは、ケィナイン。私は、ヅィヅィザ、『です』」
白髪の男がゆっくりとそう言った。『です』は日本語の発音だった。
「あなたは、ヅィヅィザ」拙い発音だけど、僕もウーサ語を真似てそう返した。
「ケィナイン、
次の質問は、すでに一度聞いたことがあるものだった。森林地帯の湖畔でクァニャンにも尋ねられたことだ。もちろん、答えは変わらない。僕は頭上を指差した。
「僕は、宇宙から来た」
答えた瞬間、異星人たちがざわめいた。言葉そのものより、天を指した指先に反応したようだ。
拾い切れない囁きが扉近くの歩哨たちで交わされる。クァニャンと壮年の男も複雑な表情をしていた。白髭のヅィヅィザはいっそう目を細めて、なにか短い感嘆語を呟いた。
「あなたは【翻訳不能】の『仲間/家族/友達』か?」
ウーサの言葉で問いかけてきたのは、ヅィヅィザの後ろに控える短髪の男だった。思わず声に出してしまったという感じだ。早口で焦った様子。メガネの補助がなければ聞き取りもできなかったことだろう。
「【
壮年の男の言葉を真似ると、彼は面食らった表情になった。先ほどとは別のざわめきが室内にこだまする。反応を見るに、ウーサでは知っていて当たり前の単語なのだろう。
けれど、僕らにとっては未知の言語の未知の単語だ。たぶん、固有名詞なのだと思う。なにかしらの取っ掛かりがないと推測するのも難しい。
クァニャンに視線を向ける。彼女もなにか言おうとしたけれど、それより早くヅィヅィザが口を開いた。老人の枯れ木のような指が、真っ直ぐ上を指していた。
「【翻訳不能】は、『天井/空/宇宙』から来た」
苦い思いを噛み締めるような口調だった。
咄嗟に言葉を返せず、顎に指を当ててしまう。翻訳の揺らぎという可能性ももちろんある。けれどそうでないなら、この星にはすでに僕らとは別の来訪者が?
「ケィナイン、見る、【翻訳不能】」
クァニャンが小さな白い紙を差し出してくる。壮年の男の手帳を一枚ちぎったもののようだ。
描かれていたのは、ホースのような筒状の物体が、波のマークの合間から首を出している光景。
お世辞にも上手な絵とは言えなかったけれど、それが示しているものは明らかだった。
………
……
…
その後、ウーサ人との情報交換は二時間ほど続いた。
お互いの言葉を理解し合うところからだから、それほど突っ込んだ話ができたわけではない。しかしそれでも、この星の情勢について、ぼんやりとした輪郭は知ることができたように思う。
シウジェア(災いの獣、という意味らしい)と呼称される巨大生物は、この星にもともと生息していたものではなく、三十年ほど前に空の彼方から落ちてきたものなのだという。
正体は不明。ウーサ人とシウジェアの間でコミュニケーションが成立したという事例はなく、あちらがなんらかのメッセージを発したというケースも存在しない。あの巨大な生き物がなぜこの星に現れたのか、知るものは誰一人としていなかった。
惑星ウーサは、分断と孤立の時代にある。
東と西の二つの大陸には、かつて十数の国家が存在し、国際的な交流も盛んに行われていた。
しかし、シウジェアの飛来がその伝統的な国際関係を崩壊へと導いた。三十年前、突如として現れた彼ら(そう、あの巨大生物は一体だけではなく、複数の個体が存在するらしい)は、惑星ウーサに散らばり、それぞれの
その行動にどんな目的があるのかは、今も謎に包まれている。わかっているのは、シウジェアは一度自身の領土をそこと定めると、そのエリアへの侵入者に対して強い攻撃性を見せるということである。
宇宙からの来訪者は、侵略的な外来種だった。
ウーサ人の『魔法』をもってしても、巨大生物の完全な駆除は不可能だった。
彼らの縄張りに巻き込まれ、いくつもの国家が滅亡を余儀なくされた。残された国々も国家間の繋がりを遮断され、孤立したままそれぞれで生存の道を歩んでいる。
「ゆっくり、削られている」
白髭のヅィヅィザは自国の情勢をそう評した。縄張りにさえ入らなければ、シウジェアが積極的に攻撃を仕掛けてくることはそれほどないらしい。しかし一方で、彼らの縄張りが日を追うごとに少しずつ拡大していることも観測されていた。
ウーサの人類の生存域はじわじわと減り続けている。交通の要衝を縄張りとするシウジェアの存在により、他国の状況を知ることさえ難しい状況であるという。
そんな情勢のさなか、謎のロボットに乗った未知の言語を操る生物が、「宇宙から来た」なんて言ったものだから、そりゃあ騒ぎになるのも当然だろう。
「今の話、どう思います?」
話し合いが休憩になったタイミングで、僕は虚空に問いかけた。言うまでもなく、森林地帯で聞き耳を立てている三船たちを意識してのことだ。
「嘘や偽りの話ではないだろう」三船の声が耳の奥に届く。「芝居にしては出来過ぎだ。突然現れた我々に対して、基地のウーサ人が全員で話を合わせているとも思えん」
「一応、こっちとあっちで翻訳が食い違っている可能性はまだあるっすよね?」
おずおずと安藤が口を挟む。自機の応急処置を終わらせて、今は通信設備の立ち上げをしながら通信に参加しているようだ。
「京奈院、どう思う? 安藤の懸念について、直に彼らと会話をしているお前の肌感は」
「うーん、それほど的外れな会話になっているとは思いませんね。僕らの翻訳プログラムがしっかり仕事をしてるのもそうですけど、相手の方もこっちの言葉を学習してるみたいですし……」
先ほどまでの会合で、情報交換の主な相手となっていたのは白髭の老人、ヅィヅィザだった。
互いの言葉をひとつ交わすたび、システムの補助を受けている僕とほとんど同じ速度で、彼は地球の言葉に習熟していった。非常に頭の回転が速く、柔軟な思考の持ち主だった。クァニャンや壮年の男は、時折会話についていけない様子だったから、ウーサ人全体の特性というより、ヅィヅィザ個人の能力によるものなのだろう。
「当面の間、君を監視しなくてはならない」
会合が休憩になる直前、ヅィヅィザはウーサ語でそう言った。
彼らからすれば当然の判断だ。僕は軽く微笑んで、素直に頷いた。拒否したところで撤回してもらえるとは思えなかったし、無駄な反論はこちらの立場を悪くするだけだろう。
もちろん、状況次第では逃げ出すつもりではある。相手を油断させるという意味でも、そのときまでは従順な態度を取っておいたほうが良さそうだった。
今、ヅィヅィザとクァニャン、それから壮年の男(マハナという名前らしい)は席を外している。休憩時間ということになっているが、こちらの目が届かないところでウーサ人同士の話し合いでもしているのかもしれない。
会議室の扉には歩哨が残っているが、彼らはヅィヅィザほど地球の言語を理解できてはいないようだった。そのおかげで、僕もこうして三船たちと作戦会議をすることができるわけだ。
「それで、ずばり、シウジェアの正体ってなんだと思います?」
窓の外を眺めながら呟いた。太陽はすでに傾いている。屋根よりも高いイブキの巨体がオレンジ色に染まっていた。機体を監視するウーサの軍人は二時間前から数を減らしているように見える。
「宇宙怪獣……?」安藤がぼそりと言った。
「あるいは、別の異星人の送り込んだ生物兵器か」と、こちらは三船の声。
「前者なら生存競争で、後者なら侵略戦争ってコトになるのかな……」
極論、まだ僕らとウーサ人との間には利害関係は存在していない。シウジェアとの争いに首を突っ込むのは、リスクばかりのお節介と評することもできる。そもそも、僕らの保有する戦力が謎の巨大生物相手に有効なのかどうかさえ未知数だ。艦と乗組員の安全に重きを置くのであれば、深く立ち入らず傍観に徹するのも選択肢の一つではある。
ただ、身も蓋もないことではあるけれど、暗黒の宇宙を数百年さまよった末にようやく出会えた異星文明に対して、「じゃあ、そういうことで」と誰も彼もがあっさり背を向けられるのかと問われれば、その点についてはノーと言わざるを得ない。指導層がどれほどリスクを計算したとしても、民意を抑えることは難しいだろう。
コミュニケーション可能な異星人と出会った時点で、文明との交流はもはや既定路線なのだ。おそらく、よほどの重大リスクが露見しない限り、誰にも止めることはできない。
まるで星の引力だ、と思った。
惑星に近づきすぎて、重力に捕らわれたようなものだ。一度捕まってしまえば、抜け出すことはもはや容易ではない。
あるいは、僕らは宇宙をさまよう小さな虫で、文明の火を見ると本能的に惹かれずにはいられないということなのかも。
夕日の眩しさが目に沁みた。
人工角膜は自動で採光を調整するはずなのに。
「……うん?」
にわかに窓の外が騒がしくなった。イブキを見張っていたウーサ人たちが慌ただしく動き回っているのが見える。振り返ると、会議室の歩哨たちも顔を寄せ合ってひそひそ話。
勢いよくドアが開いた。三人のウーサ人が部屋に入ってくる。壮年のマハナは見るからに険しい顔。深い皺の刻まれたヅィヅィザの表情は、感情を読み取らせないポーカーフェイス。
クァニャンと視線が絡んだ。
揺れる瞳には不安の影と高揚の輝き、そして猫のような好奇心。
「ケィナイン、我々は君を信じたい」
流暢ではないけれど、確かな日本語でヅィヅィザが言った。
「君は、我々の味方か?」
「これを見ろ」マハナのウーサ語をメガネが翻訳する。「見えるか? 異星人の目で」
彼は会議室のテーブルに紙を広げた。白地に細い線で精緻な図が描かれている。周辺の地図であることはすぐにわかった。イブキが飛行中に測量したデータとも一致している。
地図の一点をマハナが指差す。人差し指の先端に白い光が宿った。魔法の光だ。この基地の座標をポイントしている。
彼の指が地図上を動くと、それを追って白光が軌跡を残す。南の森林地帯には向かわず、東の沿岸部へとラインが伸びていく。かなりの距離の陸地を越えて、なだらかな海岸線の向こうの海上へ。
「ここだ」
マハナが指を組み替える。両手の親指と人差し指で四角い窓を作る形だった。写真家が仮想のカメラを構える仕草を連想する。指先と指先を光が繋いで、空間に魔法のフレームを現出させる。
フレームの内側に、一瞬のノイズ。
次に見えたのは、記憶にも新しい巨大ホースの怪物。
「海岸の監視所から報告があった。つい先ほどのことだ」
「さっきの、あいつ」とたどたどしいクァニャンの声。
「行動が活発化している。縄張りを広げようとしているようだ」
マハナの視線は険しかった。言葉にされずともわかる。お前たちの存在が影響しているんじゃないか、と。そういう疑念だろう。僕らにもその可能性を否定することはできない。
「君が我々の敵ではなく、良き友人となるのであれば……」
ヅィヅィザの声は落ち着いていて、穏やかですらあった。
彼は杖でシウジェアの映像を指す。皺の奥の目だけが油断なく鋭い。
「自らの行動をもって、それを示して欲しい」
老年の司令官が小さく首を傾げた。山高帽が微かに揺れる。
試されている、ということなのだろう。なんとも性急で強引な話じゃないか。だけど、それがこのウーサ人の文化なのかもしれない。言葉よりも行動で示せ、と。わからない理屈ではない。
あるいは、敵味方の判断を急ぐのは、謎の勢力との戦争状態という特異な状況によるものか。
無論、敵になるつもりはない。通信が繋がれば
しかし、今この場で、地球人類がウーサ人類の味方になると即答できるのかといえば……。
さすがにそれは独断が過ぎる。
僕個人が、
「……始末書で済めばいいけどなぁ」
小さく息をこぼして、クァニャンの表情に目を向けた。
真っ直ぐな視線がぶつかった。頬が上気している。身体の横に置いた手が黒コートを固く握っている。姿勢はちょっと前のめり。
彼女の感情が伝わってくる。これも魔法なのだろうか。
それとも、その感情が僕にも身に覚えのあるものだからか。変化への好奇心。なにかが変わるかもしれないという、未知への期待感。
「イブキの周りの人たちに、離れるように伝えてもらえますか」
オレンジ色に染まる窓の外のロボットに視線を向けて、僕はヅィヅィザたちにそう頼んだ。
僕には、艦の行動に対する権限はない。
けれど、僕個人がどう行動するかは、また別の話。
艦の方針が食い違って、偵察部隊員の暴走と切り捨てられるなら、まぁそれもいいだろう。
もとより部隊員の損耗を勘定に入れた偵察任務なのだから。組織に捨てられるかどうかなんて、今さらだ。