星の息吹と宇宙猫   作:子守家守

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星の息吹は宇宙猫の夢を見るか(7)

 ノックの音で目が覚めた。

 ベッドの上で身体を起こす。瞼を持ち上げても、医務室は真っ暗だった。

 眼球に表示された時刻は深夜。窓のカーテンはしっかりと閉められているが、その向こうに真夜中の暗闇の気配が漂っている。

 DJ号の医務室とは違い、起き上がった僕の動きを感知して室内の照明が自動で点灯するということはなかった。ウーサ人であれば簡単な魔力の操作で照明のスイッチを入れることができるそうなのだが、地球人である僕にはそれも不可能だ。

 

 仕方なく、手探りでサイドテーブルに置かれたメガネを拾って顔に掛ける。

 黒い災獣との戦闘で一時的にダウンした眼球の調整もすでに済んでいる。眼球の暗視機能とメガネによる補正の合わせ技で、暗闇に包まれているはずの医務室の景色があっという間に鮮明なものに変換された。

 

 こんな夜更けにいったい誰だろうか。寝起きの頭だったが、担当の軍医でもなければ普通の見舞客でもないことはわかる。

 ベッドの上で身体の向きを変えて、足を床に下ろした。ベッドの縁に腰掛けた姿勢で、持ち込んでおいた拳銃を掛け布団の下に隠して握る。

 

 再び響いたノックの音に「どうぞ」と返事をした。

 

 外部と通信を繋ごうとしたが、接続先が検出できなかった。何らかの方法でネットワークから遮断されている。しかし、常駐のセキュリティは攻撃を感知していない。

 未確認の脆弱性? 警戒の度合いが上昇するとともに、おそらく来客はウーサ側ではなく、DJ号側の勢力だろうと当たりをつける。

 

「邪魔するぜ」

 

 廊下からの(いら)えは聞き覚えのない低い声。深山幽谷に煙る霧の如く、重々しくも掴みどころのない響きを帯びている。

 音もなくドアが開き、大柄な男が部屋に入ってきた。2mを超える非常な長身が、背を屈めて鴨居を潜ってくる。特徴的な服装で、仰々しい虎柄のズボンと目が痛くなりそうな真っ赤なシャツを身に着けて、その上にいかにも上等そうな黒いジャケットを羽織っていた。一応、地球文化に属するファッションだと思うが、かなり独特なスタイルで、一度見たら二度と忘れないだろうという迫力があった。

 

「よぉ、夜遅くに悪いな、京奈院」

 

 暗闇の中で確かに男と目が合った。お互いに暗視の機能は眼球に備わっているようだ。

 エラの張った厳つい顔は40代から50代といったところ。眉毛が太く、唇の上に硬そうな髭を生やしている。厚くて太い耳には大振りなピアスが光っている。頭の上には、解読不能になるまで崩された漢字がプリントされたスポーツキャップ。その下から縮れてチリついたパンチパーマが覗いていた。

 

「どちら様でしょうか?」

 

 立っているだけでも威圧的な風貌の男に問いかける。拳銃は布団の下で当然握ったまま。

 知り合いではない。パイロットという仕事柄、強面の知人も少なくないが、ここまで仰々しい雰囲気を纏った男には会ったことがないし、もし会っていたとしら絶対に忘れることはないはずだ。

 

 しかしその一方で、記憶のどこかになにか引っ掛かるものがあった。

 直接会ったことがなくても、この顔を何かの機会に見かけたことがある……?

 

「俺は大道寺だ」

 

 男は短くそう答えると、大股でベッドに歩み寄り、備え付けの丸椅子にどっかりと腰掛けた。ユミツ国らしい木製の椅子がぎしりと軋んだ音を立てる。

 

「大道寺……。財閥の関係者ですか?」

「そのとおり」

 

 にんまりと口角を吊り上げた男が近距離通信で個人識別を提示してきた。

 DJ号の共通規格となっている識別情報である。確かに所属の欄には『大道寺財閥相談役』と記されていた。添付されているポートレイトも目の前の男と一致している。

 

 提示された情報を信じるなら、やって来た男が大道寺財閥――、つまり、DJ号の事実上の最上位層に位置するコミュニティの関係者であることは間違いない。もちろん、偽造や改竄の為された情報を見せられているという可能性は残ってはいるが……。

 ひょっとして、彼の顔に見覚えがあるのは、財閥に関するニュースかなにかで見かけたことがあるからなのだろうか。

 

 提示された識別情報の他の項目は、秘匿事項としてマスキング処理がされていた。

 私人間における個人識別の情報開示は、開示する側が許可を出した項目にのみ適用されるので、こういった一部の情報のみを開示するという方法も珍しくはないのだが、これでは男が財閥に所属しているという以外の情報はゼロのままだ。

 

 例外として、名字の欄には『大道寺』とはっきり表示されていた。

 一方で、下の名前の欄は他の項目と同様に秘匿された状態となっている。

 

 家族の概念が失われているDJ号では、名字にファミリィネームとしての意義はなく、乗組員(クルー)を管理するためのタグとして出生時に設定されるものとなっている。

 同じ名字を持つ乗組員(クルー)が同時期に存在することはなく、世代の切り替わりに際して名字の再利用が行われる形となっているため、事実上、名字がそのまま個人名としても通用するというのが現代における常識である。

 

 だが、大道寺というDJ号にとって象徴的な名が、ただの符号として誰かに冠せられることなど果たしてあるのだろうか。

 

「……名字まで大道寺って」

「最初に言っただろう。俺は大道寺だ、ってな」

「それはひょっとして、大道寺重蔵の血縁ということですか?」

「血縁? 面白いことを言うじゃねえか」

 

 自称・大道寺はニヤニヤと愉快そうに口を斜めにしている。

 前提として、大道寺財閥とは地球時代に大道寺重蔵が所有していた企業による共同体であり、最初期から深宇宙探査計画の中核を担ったそれらの企業共同体がそのままDJ号の運営母体に収まったという経緯がある。

 そして財閥の各企業のトップには、DJ号における通常の社会規範に違わず、各世代でもっとも適性と能力を持つ乗組員(クルー)が任命されてきた。

 

 つまり、歴史的な流れで現在も『大道寺』財閥と呼ばれているものの、財閥やそこに連なる企業を大道寺重蔵の血筋が牛耳っているというわけではないのだ。

 ……少なくとも表向きは、そういうことになっている。

 

「大道寺重蔵の遺伝子が『保存庫』に存在するなら、その()()を誕生させることは可能なはずですよね」

「俺がその子孫とやらだと?」

「そうでもなければ、大道寺なんて名字が個人に設定されることはないのでは?」

「で、こっそり『生産』された大道寺重蔵の子孫が、秘密裏に財閥を支配している、ってわけか」

 

 真顔で見つめ合うこと数秒。

 ふは、と男は堪えきれないとばかりに噴き出した。

 木製の丸椅子に腰掛けたまま、面白そうに膝を叩いている。

 

「笑えるな。まるでサスペンス仕立てのフィクションだ」

「そんなに面白いですか?」

「ああ、その手の陰謀論は久しぶりに耳にしたよ。……ま、当然正解じゃねえんだが」

 

 大道寺を名乗る男は、肩を震わせて笑いながら、あっさりと否定の言葉を口にする。

 彼の緊張感の欠けた態度に、僕は少なからず困惑していた。布団の下の拳銃には相手も気づいているはず。至近距離で銃口を向けられているというのに、大道寺はまるで気にした様子もなく、あからさまに無警戒だ。小口径の銃には頓着しない程度に強固なボディを持っているということなのだろうか。

 

「だったらなぜ、大道寺なんて仰々しい名字を?」

「まぁ待て。俺のことは置いておこう。そんな話をするために、わざわざこんな時間にお前さんの病室を訪れたわけじゃないんだ。俺の名前が大道寺で、財閥の関係者である、ってことだけひとまず押さえておいてくれればいい。オーケィ?」

 

 疑問形で結んでいるが、それでも彼の声には有無を言わせない迫力があった。問い詰めてもはぐらかされるか無視されるだけだな、と理解させられる。

 実際、彼の出自が本当に大道寺重蔵に関わるものだったとしても、だからなんだという話ではあるわけで、執拗に追及する意味もそれほどなさそうなのも確かである。

 

「では、どうしてこの場所に? こんな夜更けにこそこそやって来て、僕にいったい何の用があるんですか」

「そう怖い目で見るな。なに、これからしばらくユミツ国を観光して回ろうと思っていてな。せっかく(フネ)から地上に下りてきたことだし、お前さんの顔を一度直接見ておきたいと思ったんだよ」

「……妙に馴れ馴れしい言い方ですけど、初対面ですよね?」

 

 僕は額に皺を寄せた。それだけのために、DJ号側のネットワークを遮断するような仕掛けを施して、ユミツの軍人が警備する基地の医務室にまでやって来たというのか。

 

 大道寺が本当に財閥の関係者だったとしても、当然ながらユミツ国の軍事施設にまでフリーパスで入り込めるわけがない。三船隊長や安藤からDJ号の要人が基地を訪れるといった予定も聞いていなかった。

 となると、目の前のこの男は、真夜中の暗闇に紛れてこっそり東部基地に侵入してきた可能性が高い。軍事施設への無断侵入……、当然だけど違法行為だ。

 

 そうまでした目的が、僕の顔を見るためだけだって? そんなはずはないだろう。

 

「疑ってるな」と大道寺は余裕の表情を崩さない。

「当たり前でしょう」僕は長身の男の顔を見上げて睨みつける。

 

「ふぅむ、噂の災獣殺しの顔を見に来たっていうのは嘘じゃねえんだが……。まぁ、付け加えるなら、お前さんにいくつか伝えたいことがあるっていうのも、ここに来た理由のひとつになるか」

「財閥から伝達事項がある、ということですか」

「いいや、そんなに堅い話じゃねえ。ちょっとした情報共有ってだけだ。そうさな、言うなれば、怪物退治の英雄に対するご褒美のようなものさ」

 

「さては揶揄ってますね?」

「まさか。いつの時代にも試練(クエスト)には報酬(リワード)が必要なんだ。それが昔ながらの伝統ってもんだろう」

 

 伝統とは、これまた胡散臭い言葉が出たものだ。DJ号の記録(アーカイヴ)に保存されている過去の伝統なんて、どれもこれも化石みたいに地球の大地に置き去りにされたものばかりだというのに。

 

「まぁ聞け。俺がこれから伝えるのは、今まさにお前さんが気にしている『謎』の答え合わせだ」

 

 大道寺は丸椅子に座りながら足を組み、不敵に笑った。

 

「なんのことだかわかるか?」

 

 男の試すような視線が、こちらの眉間に突き刺さる。

 僕は眉をしかめ、ほんの一瞬だけ考えてから、脳裏に浮かんだ答えを即答した。

 

「イブキのことですか」

「いいね。それでこそだ」

 

 白々しい拍手が暗闇に響いた。大道寺は愉快そうに破顔しているが、その態度が大げさすぎて、僕はむしろ白けた気分になりそうなくらい。

 別に難しいことを考えたわけではない。悩んでいることや迷っていることはひとつではないけれど、僕の中で明確に『謎』と呼べるようなものはそう多くない。その中でも、DJ号側の人間が『答え』を持っているものがあるとすれば、それはイブキに関する『謎』を置いてほかにないだろう。

 

 すなわち、北部地域における黒い災獣との交戦において『何故、イブキが勝手に動いたのか』という謎である。

 

 あのとき、災獣の『電撃』を受けた僕は、間違いなく操縦系統から切り離された状態にあった。

 だというのに、イブキは災獣のカタナを回避して、魔法の『斧』を敵に叩きつけた。

 結果として僕もクァニャンもその挙動に救われたわけだけれど、何故イブキにその挙動が発生したのか、安藤たち専門家による調査が行われた今でもなお、その原因は解明できていなかった。

 

 自動操縦(オートパイロット)というわけではない。切り替えの操作は行っていないし、そもそもイブキに搭載されているのは長距離移動のための巡航補助プログラムだけだ。戦闘行為の自動化を想定したプログラムは搭載されていない。

 また、水無が以前語っていた、パイロットと機体間のショートカットが機能したわけでもないだろう。あれはあくまでもパイロットの神経活動を機体の動作に紐づけて、より高速な反応を実現するための機構(システム)だ。今回のような連続的なアクションを成立させるようなものではない。回避から続けざまに反撃へと転じたあの生物的な挙動は、明らかにシステムの範疇を超えている。

 

「自分の機体のことですから。気になるのは当然でしょう」

「実にパイロットらしい考え方じゃないか。いやはや、大いに結構」

 

 どういうわけか大道寺は妙に嬉しそうな表情を浮かべている。

 やはりよくわからない男だ。身分を偽ることで財閥の権力を行使しようというわけでもなさそうだから、大道寺財閥の関係者であるというのもあながち嘘ではなさそうだけれど……。

 

「それで『答え合わせ』とやらは?」訝しい気持ちを抱えながら彼に話を促す。

「おう、それじゃ順を追って説明するぞ」と、大道寺が丸太みたいな右手の人差し指を立てた。

 

「そもそもだが、なぜステラ・コネクタは人型の兵器としてデザインされたのか。京奈院、お前さんはそこのところの事情を正確に理解しているか?」

「あー……、『宇宙の隣人と出会うとき、我々地球人類は、自らの人の形を以って彼らの前に姿を現すのが礼儀であろう』とか、そんな感じでしたっけ」

 

 700年前の開発チームの言葉として伝わっているフレーズを(そら)んじてみる。

 だいぶ昔に習った言葉だけど、口にしてみると意外と覚えているものだ。

 

「つまり、異星人とのファーストコンタクトの際に、機体の造形から地球人の姿を連想させるために人型というデザインが採用された、と……。教材にはそんな話が載ってたと思いますけれど」

「表向きの理由としては間違っちゃいねえな。だが、それがすべてってわけでもない」

「その言い方だと、なにか裏の理由があるみたいな表現ですね」

 

「だとしたら、その理由ってのはなんだと思う?」

 

「人体に近い形にすることで姿勢制御のイメージを取りやすくする――、みたいな機能面でのアドバンテージではないのですね?」

「当然だな」

「パッとは思い浮かびませんよ。表向きにされていないということは、知られたらマズい事情があるってわけでしょう? イブキを含めてステラ・コネクタにはそれなりに搭乗していますけれど、今のところそういった事情の片鱗さえ感じ取ったことがありませんし……」

「難しく考える必要はねえぞ。公表されてないってだけで、理由そのものは至ってシンプルだ」

 

 僕は黙って肩を竦める。生憎とクイズ大会には興味がない。

 それを見て大道寺が腕を組んで詰まらなそうに鼻を鳴らした。いちいち所作が威圧的だ。敵意こそ感じないものの、根っこの部分に暴力的な気質があるように感じられる。もしかすると、彼もパイロットのように武力を生業としているタイプなのかもしれない。

 

「だったら、もう言っちまうが」と大道寺は僕の顔を見据えながら言う。

 巌のように硬く静かな彼の口調は、まるで決まり切った真理を説くかのようだった。

 

「なぜステラ・コネクタのデザインは人間を模しているのか。答えは簡単。あいつらを()()()()()()()()()()()だ」

 

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 

 大道寺は語る――。

 

 700年前に始動した深宇宙探査のプロジェクト。

 人類未踏の領域に挑むその旅路において、当初から懸念されていたことがあった。

 

 果たして地球人類は宇宙の環境に適応できるのか、ということだ。

 

 もちろん、ユーリイ・ガガーリンから始まる有人宇宙飛行の歴史において、適切な装備と設備があれば人類が宇宙で生存できることはすでに実証されている。

 宇宙船による大気圏の突破や近傍惑星への着陸、あるいは宇宙ステーションによる中長期的な宇宙滞在……。地球を出発して宇宙に飛び出した人間たちは、それぞれに課せられた宇宙での目標を達成して(あるいは達成できず)、最終的には地球に帰還することに成功してきた。

 

 そう、出発と帰還だ。

 歴史上、それこそが宇宙開拓に関わるミッションの成否を判定するひとつの基準だった。

 

 だが、深宇宙探査のプロジェクトには、それがない。

 出発するのは最初の世代だけで、帰還するのは最後の世代だけ。

 それ以外のすべての世代は、地球の土を踏むことなく、一生を宇宙で過ごすことになる。

 それどころか、『最後』となる世代が永遠に訪れない可能性だってある。

 

 地球人類なのに、地球の空気を吸うことさえできない人間たち。

 彼らが本当にその環境に適応して生きることができるのか、当時はまだ未知数だったのである。

 

「だから、保険が必要だった」

 

 地球との繋がりを完全に断たれ(フネ)の中で完結する社会、そして誰も到達したことのない宇宙の果ての深淵が、人類にとって生存不可能な環境であったときに備えるための保険が――。

 

安全策(セーフティ)は複数のものが講じられた。ステラ・コネクタの製造もそのひとつだ」

 

 スタート地点として、人間の生存の条件に、肉体と精神という2つの要素が設定された。

 肉体的な生存不能と精神的な生存不能。この2つが保険の対象として想定されたのである。

 

 肉体が生存できないのであれば、器を失うことでいずれは精神も生存できなくなる。

 精神が生存できないのであれば、中身を失うことでいずれは肉体も生存できなくなる。

 肉体と精神は密接に繋がっていて、どちらを失っても人間には死が訪れる。

 

 逆に言えば、どちらか片方が失われても、失われた側を肩代わりするシステムが存在すれば、人間は生存し続けることができるのではないか。

 

 その発想こそがステラ・コネクタ計画の出発点だった。

 といっても、それ自体は当時としてもそれほど目新しい考え方ではなかった。

 欠損した肉体を機械によって代替することや、精神活動のささやかな補助を電子的に行うことは、700年前の地球でもごく普通に行われていたことである。

 

 その手法を以って人間の生命そのものにまで踏み込むことを、地球時代の潔癖な倫理が躊躇していたというだけのことだ。

 

「結論から言えば、肉体の代わりを準備するのは簡単だった」

 

 肉体の代替物が必要になるのは、肉体が生存不能で、精神のみが生存可能な状況である。

 精神とは、脳の活動だ。つまり、想定するべきは、肉体が死んでも脳だけが生存しているような状況(シチュエーション)だった。

 

 たとえば、深宇宙の特定の領域で、人間の肉体を死に至らしめる未知の物質や現象に遭遇したケースがこれに当たる。

 この場合、人間の脳を(必要であれば損傷を負ったり汚染されてしまった肉体から切り離して)強固な防護措置を備えたポッドに保管することで、精神の生存を担保することになる。

 肉体から切り離された脳髄を生き永らえさせる手法は地球時代に確立されていたし、肉体の生理的な活動を無視すれば外界に対して通常よりも強力な防御を構築できることも知られていたので、この結論に行き着くのは当然のことではあった。

 

 要するに、肉体の生存性を無視して、ガチガチに脳の活動を守ることで、精神だけでも生存させるという考え方である。

 

 しかし、前述のとおり、精神と肉体の生存は原則として地続きのものである。

 精神が生きていても、肉体が存在しなければ、人間として生きているとはいえないだろう。

 より正確に言うのなら、肉体とは外界へアプローチするための端末のことだ。

 人間が精神感応能力(テレパシィ)を持っていない以上、いかに脳の内的な活動が持続していようとも、外の世界との繋がりが存在しなければ、誰からも『生きている』とは認識されないというわけである。

 

「で、そういうケースではどんな肉体を準備するべきなのかって話になるわけだな」

 

 前提として、外部の環境は人間の肉体にとって生存不能なものとなっている。

 運動機能の調整や体内機器(インプラント)による補助は当時も行われていたのだから、生半可な『肉体』を準備しても周囲の過酷な環境に耐えられない可能性が高い。

 

「だったらもう、物理的にひたすら頑丈で、大抵のことじゃビクともしないデカさを持った、人型の(うつわ)を作っちまうしかないだろう?」

 

 斯くして、『巨大ロボット』という()()()()が肉体の代替物として選択された。

 ステラ・コネクタと呼ばれるフォーマットの始まりである。

 

「だから、現行機を含めて、すべてのステラ・コネクタには脳髄を保管するためのポッドが備えられている。まぁ、独立したモジュールとして隔離されているし、大したスペースは必要としねえから、パイロットでもそうそう気づかないだろうがな」

 

 この仕様は安藤のような現場の技術屋にも周知はされていないという。

 ブラックボックスに似た厳重な封印が施されているため、通常の整備では手出しできないようになっているそうだ。その存在を把握しているのは、機体の製造会社でもごく一部の人間に限られているらしい。

 

 もちろん、今のところポッドは空っぽのままだ。人類の肉体が生存不能な環境に遭遇した場合に限り、このポッドに乗組員(クルー)の脳を()()することになっている。

 そうして保護した脳を機体に接続することで、ステラ・コネクタのボディを新たな肉体とした人類が活動を継続していくという手筈であった。

 

 つまりステラ・コネクタには、脳神経と接続して機体を動かすシステムが必ず存在している。

 たとえ生身の肉体が機能停止していても、脳と神経の活動だけで稼働する操縦システムだ。

 

 大道寺曰く、パイロットの神経活動と機体の挙動との間にショートカットを形成する機構(システム)は、この仕様の一部が表に出てきたものなのだという。

 広く知られている機体の反応速度を速めるために搭載された機能という説明は、実のところただの方便だったらしい。

 以前、水無がこの機構はすべてのステラ・コネクタに搭載されているものだと語っていたが、大道寺の解説は確かにそれと矛盾しないものだった。

 

「さて、それじゃあ今度は逆のパターンだ。精神が生存できず、肉体だけが生存するような環境で、地球人類が生き残るために必要な『保険』とはなんだ?」

 

 そもそも、精神が死んで肉体だけが生きているという状況はどういったものなのか。

 

 おそらくそれは、物理的な脅威によるものではない。

 備えるべきは、人間の精神活動そのものに対する脅威だ。

 

 終着点の見えない宇宙の旅は、容易に人間の精神を蝕むだろう。

 無限の暗闇をさまよう孤独。

 壁一枚を隔てて死の世界と隣り合って生きるストレス。

 地球という故郷を知らないが故のアイデンティティの喪失。

 あるいは、外宇宙の恐怖(コズミックホラー)正気(sanity)を奪うことさえあるかもしれない。

 

 宇宙には人間の精神をかき乱す要因は数えきれないほど存在していて、肉体よりも先に精神が死を迎えることも決して珍しい事象ではないのである。

 その危険性は、深宇宙探査のプロジェクトが本格的に始動する以前から、すでに多くの科学者や精神学者によって警鐘を鳴らされていた。

 

「考え方は肉体のときと同じだ。精神の生存不能が避けられない状況に対して『保険』を打つなら、()()()()()()を用意しておくしかねえだろう、ってな」

 

 最初に検討されたのは、人工知能の活用だった。

 精神を喪失した人間の肉体を、人工知能がコントロールすることで社会を維持するという発想である。

 

 しかし、これは上手くいかなかった。

 人間のサポートを前提として構築された人工知能は、自分が人間になるという状況に対して論理的な衝突を起こしやすい傾向にあることが判明したからだ。

 そうでなくても、人間と人工知能の思考形態には明確な隔たりがあると(少なくとも当時は)信じられていたから、単純に人間の脳に人工知能を移植しただけでは、人間の精神の代替物とはとても認められないだろうというのが、当時の考え方としては主流だった。それもあって、精神の『保険』は別のアプローチから設計されていくことになる。

 

「結局のところ、人間の精神のスペアを作るのには、人間の精神を材料にしなくちゃいけねえってことだな。そこさえわかっちまえば、何をするべきかなんて自然とハッキリするもんさ」

 

 過酷な宇宙の旅においては、機械による補助が人類の活動の前提となっている。

 乗組員(クルー)体内機器(インプラント)を埋め込み、日常的にネットワークと接続された状態で、あらゆる行動の記録(ログ)をコンピュータに残しながら生きていくことになる。

 

『保険』として採用されたのは、そうやって延々と蓄積されていくデータをベースとして、精神と人格のコピーを作成するという手法だった。

 

 もちろん、ただ個人のデータを蓄積するだけで人格の模倣が可能になるというわけではない。精度の高い『保険』を作成するためには、収集したデータに対して適切な手法で調整を施すことが必要となる。

 地球時代の当時、こういった『人間』の複製を作成することは、倫理的に許容されない領域であり、大っぴらには研究されていない分野だったのだという。肉体のクローンを作成することと並んで違法行為として国際的に規制されていたのだとか。

 

「それでも世の中には禁止されている研究に敢えて手を付けているヤツもいるもんでな。ステラ・コネクタの開発チームもソイツと接触することで、精神の『保険』を作成するシステムを構築することに成功したわけよ」

 

 協力者の名に(ちな)み、開発されたシステムは『Dのプロトコル』と呼称されることになった。

 そしてそれは、現在もDJ号で運用が継続されている。乗組員(クルー)の精神活動を日夜モニタリングすることで、有事に備えて『精神の代替物』を更新し続けているのである。

 

「もう察してるだろうが、ステラ・コネクタのシステムにはそいつが搭載されている。地球人類が精神的に生存不能となったとき機能する代替物だ」

 

 では、その『保険』は何を材料にして作成されたものなのか。

 

「もうわかってんだろ? コピーの元となったのは、お前さんたちパイロットのデータだよ」

 

 パイロットとして機体に搭乗しているときだけではない。日常生活を含めたあらゆる瞬間の記録(ログ)が収集され、データとして蓄積されている。

 行動、発言、表情、バイタルの変動と神経の反応……。科学的に観測可能な情報は余さずシステムに捕捉され、そのすべてが『Dのプロトコル』に処理されているのである。

 

「ただし、作成された精神は、個人の人格の完全なコピーというわけじゃねえ。なにせオリジナルの精神がぶっ壊れるような環境に遭遇したときに『保険』の出番が来るわけだからな。まったく同じものを作っちまったら、オリジナルと同じようにぶっ壊れるだけだろ?」

 

 だからこそ求められたのは、人間の精神の代替物でありながら、人間の精神よりも強固な模造品だった。生身の肉体の代替物として、機械のロボットが採用されたのと同じ理屈である。

 

 問題は、その『強固な精神』とやらをどうやって製造するのかということである。

 人間の精神のコピーを『保険』のベースにするにしても、そこにどういった手を加えるのか。

 

 その問いに対して、ステラ・コネクタの開発チームが採用したのは、複数の人間の精神を用いてそれぞれが相互補完的な関係性を持つフォーマットを構築することだった。

 

「つまり、お前さんのイブキの中に()()のは、お前さんのコピーというわけじゃねえ。お前さんの情報も組み込まれているが、究極的には別の『なにか』なんだ」

 

 順番で言えば、まず最初に『巨大ロボットを肉体の代替物とする』という設計があった。

 そこに追加される形で『精神の代替物も作成する』ことを考えたとき、開発チームは機体に乗り込むパイロットの存在に着目したのである。

 すなわち、同型機や同系統の機体のパイロットに選ばれる人間であれば、別人であってもその精神活動に親和性があるのではないか、と。

 

 幸いと言うべきか、DJ号においてパイロットの定員は常に一定の数字となっていて、誰かが死ねば次のパイロットが空いたところに補充される形式となっている。

 であれば、パイロットの数だけ『保険』の基盤を作成しておいて、世代が変わろうとも継続的にデータの蓄積を行うようにシステムを調整しておけば、パイロットが生死を繰り返して世代を重ねていくごとに、より複合的で相互補完的な精神を生み出すことができるのではないか……。開発チームはそう考えたのである。

 

 つまり、イブキの中に存在しているのは、僕自身と、僕から順に遡っていった先代のパイロットたちが蓄積してきたデータから生み出された『保険』なのである。

 パイロットという職業の定員ごとに設定された『(わく)』を基準として、乗り手と機体の更新が行われるたびにシステムの引継ぎを行いながら、地球時代から今に至るまで、一本の線を繋ぐようにひたすらデータを蓄積してきた果てに生み出された精神が、イブキのシステムの中で眠っているのだ。

 

 当然それは、他のステラ・コネクタにおいても同様のものとなっている。

 三船と安藤のイブキにも、九十九のアケソラにも、それぞれ別のパイロットの系譜をベースとした『保険』が搭載されているのである。

 

 もし、DJ号の地球人類の精神が全滅するような事態に陥れば、システムの中で眠っていた『保険』が目を覚ます。

 ()()が抜け殻となった人間の肉体の体内機器(インプラント)にアクセスして、僕らの代わりに人類の社会を維持していくのである。

 

 それこそがステラ・コネクタの開発チームが準備した『保険』の形だった。

 

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 

「といっても、本当の意味で人類の『保険』になっているのは、遺伝子の『保存庫』なんだがな」

 

 ひと通りの解説を終えた大道寺は、最後にそう言って肩を竦めた。

 

「ぶっちゃけ、生きている人類が絶滅しようが、『保存庫』さえ無事なら、危機的な状況を脱した後でいくらでも人類を再生することができる。ステラ・コネクタを使った『保険』は、肉体的なものにせよ精神的なものにせよ、一時しのぎに使えれば御の字って程度のものなんだよ」

 

 身も蓋もないことを言いながら、大道寺は口を斜めにした。

 皮肉げな言い方だが、馬鹿にしているような雰囲気ではない。むしろ、斜に構えたような口振りに反してどこか賞賛しているような響きさえ感じられた。

 

「まあ、そういう大雑把なところがあったからこそ、今に至るまで700年前の機構(システム)が機能しているのかもしれねえな。完璧を求めていなかったがゆえに、『精神のフランケンシュタイン』なんて怪しい存在でも許容されてきたわけだ」

 

 不思議だった。先ほどまでの大道寺の語り口からは、単なる事情通とは違った雰囲気が漂っていた。大道寺財閥の関係者として過去の記録を知識として知っていたと言われれば確かに道理は通るのだが……。気のせいでなければ、当時の出来事になにかしらの思い入れがあるような響きが、彼の口調には微かに籠っていたように思える。

 

「さて、ここまで話せばあとは簡単だ。ステラ・コネクタには2つの『保険』が搭載されている。肉体の代替物となる機体そのものと、精神の代替物となる歴代パイロットのデータの集合体だ。本来であればこの2つの『保険』は排他的な設定となっていて、同時に起動することはない。というかそもそも、どちらか片方だけでも起動したって実績すらないのが現状だ」

 

 膝の上で太い指を組んだ大道寺が、不敵な笑みを浮かべる。

 

「だが、機能していないというだけで、確かにそれは今も存在している」

 

 もうわかるよな、と彼の目が語り掛けてきていた。

 僕はベッドの上で頷きを返す。

 

「あのとき、イブキを動かしたのはその『保険』ということですか……」

「そうだ。実のところ、機体の製造元の調査ではすでに確認は取れている。お前さんのところの技術者たちが調べても原因が分からなかったのは、機体を動かしたシステム自体がもともと秘匿されたものだったからだ」

 

「理屈はわかりますけど……。そもそもなぜ、その『保険』とやらは秘匿されているんですか?」

 

 頭に浮かんだ純粋な疑問を大道寺にぶつけてみた。

 問いかけられた男はスポーツキャップの上からがしがしと頭を掻いて「なんつーかな……」と言葉を探している。

 

「昔はな、『自分』だとか『人間』だとかが今よりも大事なものだったんだよな。だからまぁ、『人間の代わり』を作りましょう、っていうのは、割とタブーだったんだ。で、スタート地点からコソコソすることになっちまって、その流れで今も秘密のままになってる、って感じか」

 

「あとはそう、個人のデータを無断で収集して利用するのはプライバシーの侵害だろ?」などと冗談なのか本気なのかわからない言葉を付け加えて、大道寺は曖昧な笑みを作っていた。

 やはり、なんとなく違和感がある。まるで彼自身が当時のことをその場で見聞きしていたかのような態度のように思える。もちろん確証があるわけではないけれど……。

 

「……では、イブキの『保険』が起動した理由は」

「十中八九、『魔法』の影響だろうな」

「黒い災獣の『雷撃』ですね。あれがシステムに干渉した、と」

「『魔法』の正体はまだ解明されていねえが、ウーサ人の精神的な活動がベースになっているようにも見受けられる。つまり魔法っていうのは、精神と物質とを何らかの方法で橋渡しするような技術なんじゃないか、っていうのがひとつの推測だな」

 

「肉体の代替物と精神の代替物の双方が魔法によって結びつけられることで、精神(システム)肉体(マシン)を動かすことに成功した、といったところでしょうか」

「よりにもよって食らった魔法が『電撃』だったのも影響しているかもな。電気ってやつは俺たちの科学技術においても実になじみ深いエネルギィ源だろう?」

 

 真偽はともかく、説得力はあった。

 少なくとも、まったくの偶然によってイブキが災獣に反撃を仕掛けたというよりはよほど信じられる。クァニャンがたびたび語っていた『魔法を使えるのは人間だけ』であり『イブキ自身が魔法を使っている』という条件にも合致している。

 目の前の男の態度を見ていると、どうにも嘘をついているようには思えない。大道寺の発言がすべて真実であるとは限らないが、彼の言葉をまったくの出鱈目と断じることはできなかった。

 

「というわけで、これがイブキの謎に対する俺からの『答え合わせ』だ。納得できたか?」

「まぁ……、それなりには。可能性は高そうに思えますね」

「それなり、ね。初対面のオッサンの話を聞いただけじゃ完全に信じることはできねえか」

「それはそうでしょう。なにせ相手は約束もなく深夜に不法侵入してくるような人なんですから」

「ハハッ、手厳しいねえ」

 

 くしゃりと皺を作った壮年の表情をじっと見つめる。

 強面で威圧感を振り撒く風貌だし、根源的な暴力性を感じさせる男だが、こうして話をしていると意外にも態度はそれほど荒っぽくない。むしろ老獪ながらも好々爺然とした雰囲気さえ感じられる。財閥の関係者、つまり上層部(ウエ)のお偉方に抱きがちな一般的なイメージとは、どこか一線を画した印象だった。

 

「『答え合わせ』は僕への報酬って言ってましたけど、どこまで本気なんです?」

「徹頭徹尾本気だが? お前さんだって、自分の機体に不可解な謎が残っていたら、気になって夜も眠れねえだろう。悩める若者のためのちょっとした親切心ってやつだよ」

「別に眠れないほど悩んではいませんけど……」

「ほぅ……。そりゃあ、ちょっと意外だな。パイロットって人種は基本的に、自分のマシンに不具合があれば病的なくらいに原因を追究するもんだと思ってたんだが」

 

 その見解は理解できる。

 自分の意思を離れて機体が勝手に動くだなんて、戦場では致命的な隙を晒しかねない危険な現象だ。僕だって通常であれば、自分の機体に不具合があるかもと感じたなら、それこそ徹底的に原因の洗い出して次の出撃までに確実な解決を図るだろう。

 

 けれど今回の件に限っていえば、僕は不思議とそこまでの焦燥感を覚えていなかった。

 イブキの挙動は確かに『謎』ではあるけれど、どうしてか『不具合』だとは思えないのだ。

 安藤たちの調査では原因が不明だったというのに、『そういうもの』と自分の中で消化して呑み込むことができてしまうのである。

 

 もしかしたら……。

 大道寺の話を聞く前から、僕はイブキに『人間らしさ』を見い出していたのかもしれない。

 おそらくだけど、ステラ・コネクタのパイロットとして、長い年月をイブキと共に生きてきたことで、いつの間にかそんな幻想を抱くようになったのだろう。

 そして、僕がその幻想を現実のものとしてすんなりと受け止めるようになったのには、この惑星(ホシ)でクァニャンたちウーサ人と出会ったことに原因があることは間違いない。

 

 異星人も魔法も存在したのだから、ステラ・コネクタに意識が宿っていることだって、あり得ないとは言い切れないだろう、と……。

 

「……まぁ、お前さんが悩んでねえっていうなら、それはそれで構わねえがな。ハッ、俺の親切心はただのお節介だったか。ったく、年寄りになると若い連中と話せる機会があるってだけでどうにも勇み足になっちまうもんだな」

「いや、そこまで悩んでいないってだけで、イブキのことを気にしていたのは事実ですから。聞かせてもらった話も面白かったですし」

「そうかい? それならいいんだがな」

 

 拗ねたようにため息を吐いた大道寺の様子に、僕は思わず苦笑してしまった。

 わざとらしい子供っぽさに、彼の茶目っ気が現れているようだった。

 

「それじゃ、話も済んだしそろそろお(いとま)するか」と彼が椅子から立ち上がる。

 何の躊躇もなく向けられた彼のがら空きの背中に、銃口を向ける気にはなれなかった。

 さっぱりとした足取りで医務室の出口に近づいた大道寺は、ドアに手を掛けたところで、ふと肩越しにこちらを振り返る。

 

「もうひとつだけ、理由があった。願掛けだ」

「願掛け?」

 

 馴染みのない言葉に首を傾げる。

 僅かに遅れて、それが神や仏に願い事をするという意味であると思い出した。700年前の地球に神も仏も置いてきた僕たちDJ号の乗組員(クルー)にとっては、かなり遠い言葉である。

 

「異星人を最初に発見したお前さんにこの話をしておけば、俺たちは『新しい知的生命体』とも遭遇できるんじゃないか、ってな」

 

 ひらひらと手を振りながら去っていく大道寺の声が、こだまのように反響する。

 

「ま、こんなもの、無駄に長生きしてるくせに、去っていった連中をいつまでも忘れられないオッサンのしょうもない戯言さ」

 

 

 

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