森の肉の怪物   作:ななば

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間話二話目です



間話 剣姫の思い、美神の矛盾

 

 

 

 

 

 

 

下層25層。

第一の死戦(ファーストライン)と呼ばれる中層14層すら越え、第二の死戦(セカンドライン)と呼ばれる死地に、その少女は一人で居た。

 

150C(セルチ)ほどの身長に華奢な体格、到底モンスターを殺す事など出来なさそうな姿。

しかしその少女の立っている場所には、大量の血溜まりが出来ていた。

少女の、では無く。モンスターの物である。

 

「……ギィィァ、ガガ……」

 

「…………」

 

薄緑色の鱗に蛇の頭を持つモンスター、大水蛇(アクア・サーペント)

最大10M(メドル)にも及ぶ大蛇のモンスターが小さく鳴く。

 

 

その鳴き声を歯牙にもかけず、その少女は剣で蛇の頭を一息に突いた、その一撃で、大蛇の生命は終わった

 

 

「……まだ、()()()()

 

 

───少女の名はアイズ・ヴァレンシュタイン。

たった一年でランクアップした、ロキファミリアの誇る麒麟児の冒険者である。

 

ダンジョンの下層に一人で降り、モンスターを駆逐する

自殺行為にも見えるソレは、非常に高い戦闘練度で成り立っている。

現にアイズは未だに息を切らしておらず、スキルすら使用していない。アイズと同じレベル4()の冒険者であっても同じことが出来るかと問われば、即座に首を横に振るだろう。オラリオの第二級冒険者という一握りの強者、その中で最上位の力を持つ少女がアイズなのだ。

 

 

────そんな力を有しているアイズは、焦っていた。

 

 

所属するロキファミリア、その頂点である三人の冒険者の背中に追い付けないことに。

レベルが上がれば、追い付けると思っていた。

レベルが上がれば、その背中が、足下が、見えると思っていた。

 

しかし────どうだ?

 

自身はまったく追い付けていない。

フィンの様な崩せない戦いの技術は、無い。

リヴェリアの様な膨大で、強大な魔力出力も無い。

ガレスの様な、全てを叩き斬り、道を作り出す腕力も、無い。

 

自身が強くなればなるほど、技術を学べば学ぶほど、彼等の背中が、どこか、どこか────どこかずっと()()()()に感じてしまうのだ。

 

 

(……わかってた事、そんなに簡単じゃ無いのは……)

 

 

アイズは倒したモンスターの魔石を拾い、バッグにしまいながらその身体を倒す。

とった構えは、前傾姿勢にも似た独特の構え。

少しでも追い付こうと編み出した、スピード特化の構え。

そのまま一陣の風となって、アイズは駆け出す。

その細身の剣身は風を切りながら、まるで滑る様に進み────

 

 

「ッッグギャ────」

 

 

産み落とされたばかりのモンスターの首を、いとも容易く斬り飛ばした。

斬られたモンスターの首は自身が死んだ事にすら気付けず塵となって消えた。

アイズは倒したモンスターに一瞥もくれる事なく、すでに別の事を考えていた。

 

(新しくレベル2になった、冒険者………)

 

 

自身と同じ十一歳、しかしながらランクアップした期間は極めて短く。

自身の世界最速(ワールドレコード)を軽々飛び越えて行った少年。

アイズが焦りを感じる理由、そのもう一つがこの少年の事だった。

 

 

 

 

少年の事を知ったのはつい今朝のこと、ギルドに貼り出されていたランクアップ報告の羊皮紙をフィンと一緒に見た時だった。

 

 

『……!……これは、凄まじいね……』

 

『…嘘……』

 

 

信じられないことが、そこにはあった。

所用期間一ヵ月三週間。ロキファミリアの団長であるフィンですら驚くその偉業、隣にいた私は更に驚いていた事だろう。

今日この日まで世界最速だった自身の記録は、十一ヵ月もの大差を付けられて破られたのだ。

 

 

────どうしてこんなに早い?

 

頭に浮かんだのは、その一言。

アイズ・ヴァレンシュタインは優秀な冒険者だ。ダンジョンでの冒険、遠征を繰り返しこのレベルまで来た、この四年間の間に三回のランクアップを経験してきたのだ。主神であるロキや三人からも褒められてきた、同期の冒険者達からも凄いと持て(はや)されてきた。

 

 

その少年のランクアップは、自身が今まで築いてきた価値観を真正面から打ち砕いてきた。

────それと同時に、熱い()()が身体の内から湧き上がってきた。

そこからはもう居ても立っても居られなくなり、こうして下層まで来た。

悔しい気持ちは勿論あった。

しかしそれ以上に、()()()()()のだ。

少年はそう遠くない未来、私のいる場所まで辿り着くだろうと、アイズ・ヴァレンシュタインは確信している。

 

 

 

(……あの子は、私の知らない()()を持っている……多分…)

 

自身のまだ知らない強さを持つ少年、もしその子と戦えたら、手合わせできたら────得られる物があるかもしれない。

 

 

 

 

「……楽しみ、会えないかな……」

 

 

 

 

 

モンスターを斬り刻みながら、アイズは進む、壁である蒼色の水晶をモンスターの赤黒い血で汚しながら、考えている事は目の前のモンスター達のことでは無く。強くなる方法、まだ見ぬ力。

考えながら、その歩を進める。

 

下層25層を、アイズはあっさりと踏破して下の層へと進んで行く。

その足取りは────いつもより軽く、何処か楽しそうにも見えたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフ……いいわ、凄く良い……あの子、更に強くなったわ……あの輝きも更に……フフフ」

 

 

美神フレイヤはバベルの塔からオラリオを見ていた、正確にはオラリオを見ていたのではなく、見ているのは二人の内、一人のエルフ。ダンジョンから帰っている途中のようだった。フレイヤは近頃、ずっとそうしていた。

大切に、宝物を見るかの様に、宝石を見るかの様にじっとりとその魂を見る。

その外側は傷だらけで、黒く焼き付いていて…しかしその内側は()()()()()()()綺麗なままだった、透き通っていて、純粋な魂の色。

 

 

「…あの子を相応しい英雄にしたいわね……」

 

そう呟いて、一つの考えが頭をよぎる。

その考えは悍ましく、しかし危険な魅力が詰まっている考えでもあった。

 

「あ、だめ……それだけはダメ…」

 

その穢らわしい考えが浮かぶ、頭ではやってはいけないと分かっている。

その考えはあの子に幸せを与えない。しかし、想像せずにはいられない。

 

 

 

 

 

あの子の築いてきた全てを奪い去りたい。

あの子の傷つく姿が見たい。

あの子の剥き出しの感情が見たい。

あの子の心を屈服させたい。

あの子の綺麗な魂を踏み躙りたい。

あの子の忌避する事を目の前でやりたい。

あの子に首輪をかけて支配したい。

あの子を無理矢理組み伏せてやりたい。

 

 

 

 

 

考えれば考えるほど、悍ましい考え。

今までこんな事は無かった、愛する子供達にこんな、こんな所業をしたいと一瞬でも考えてしまうことなんて。

まるで新雪を踏み荒らす様な、子供が作り上げた砂の城を目の前で壊す様な、汚らしく、穢らわしい考え。

しかし、それをすることは出来ない。

愛する子供に、そんな事は出来ない。だからこんな考えは、自身の胸の中だけにしまっておくべきなのだ。

 

 

 

「何なの……私がこんなに乱されるなんて……」

 

 

一つの考えが浮かべば、すぐにそれを否定する言葉が溢れてくる、しかしその黒い想像は頭から離れない。

寵愛を与えたいのに、ぐちゃぐちゃにしたい。

 

 

バベルの頂点に住むその美神は、その矛盾に悩むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

◼︎アイズ
原作五年前なのでまだレベル4、いつかシア君と手合わせしたいと思っている。
◼︎フレイヤ
今まで抱えた事のないほの暗い感情に戸惑う美神。
例えるなら、虐められてる可愛い子を更に虐めてやりたいとか、綺麗なものを汚してやりたいという負の愛情。勿論胸の中だけにしまうつもり。
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