森の肉の怪物   作:ななば

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間話三話目です
難産でした。
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間話 正義の眷属

 

 

 

 

 

オラリオという都市は、言わば世界の中心だ。

膨大な数の住民、多種多様な人種、ファミリア。何もかもがこの迷宮都市に溢れている。

この都市が世界の中心と呼ばれるまでに成長できた理由────それはひとえに冒険者達のおかげである。

超越存在(デウスデア)である神々の恩恵を受け、一般人と比べ物にならない力を付けていく冒険者。おあつらえ向きにその恩恵を強化するダンジョンまである。そんな環境だからこそ、優秀な冒険者が生まれ、世界最高峰と言えるまでの武力を有し、今日に至るまで繁栄を続けてきた。その武力は軍事国家であるラキア王国の進軍を幾度となく返り討ちにするほどだ。

 

 

そんな、迷宮都市を世界の中心にまで推し進めたと言って良い存在、冒険者。

では、冒険者は素晴らしい人間だろうか?

都市の繁栄のため日々働き、怪物から人々を守るためにダンジョンに潜り、秩序を乱さないために都市の治安維持に努める────そんな、素晴らしい人間だろうか?

 

 

断言しよう、そんな事はない。

冒険者の本質は、つまるところならず者や荒くれ者、破落戸(ごろつき)や無法者と言っても良い。

現にオラリオ住民からの冒険者に対する評判は極めて悪い。もちろん正義の眷属である【アストレア・ファミリア】や勇者(ブレイバー)九魔姫(ナインヘル)など住民からの人気が高い冒険者が所属する【ロキ・ファミリア】など、一部例外はあるにせよ、殆どの冒険者達に気高い精神や誇り、高い目標など存在しない、ただただ常人離れした身体能力を有した荒くれ者達だ。大体、皆が良い冒険者なのだとしたら闇派閥(イヴィルス)なんて存在せず、はなれのスラムでまだ幼い子供達が餓死していたり、大人の食い物にされていないだろう。

 

 

 

 

────冒険者、ひいては人間。その本質は"()"だ。

悪であるから物を奪い、法を犯し、人を殺め、暴力を肯定する、そして、あれやこれやと理由付けをして正当化しようとする。

そうなのだとしたら、────僕も悪なのだろうか?

 

 

 

「……ぐびゅ、助け…」

「ぎ……がぁ…」

 

「…………」

 

今さっき暴力を振るい、そのために地面で悶えて苦しむ冒険者達(ならず者)を見下ろして、僕はぼんやりと、そう思った。

 

 

 

 

今日の昼下がりの事だった。今日はいつもより早めにダンジョン探索を切り上げて帰路についていた。その日はいつもと違う道からホームに帰ってみようとした。理由らしい理由も無いのだが強いて言えば、刺激が欲しかった、これに尽きる。

 

 

オラリオに来て数ヶ月の間はずっとダンジョンとホームを往復する毎日だったのだ、数ヶ月もずっと同じ景色を見ながらダンジョンへ向かい、夕暮れで赤紫になった、なったとはいえそれほど変わり映えのしない景色をまた見ながら毎日を過ごしていたのだ。

だから違う道から帰ってみることにしたのだ。

もう一つの道は曲がりくねって、建物が多く、暗い雰囲気。いつもの道の活気とは違う、言い表せば太陽と日影、コインの表と裏の様な対比だった。

 

面倒が起こったのはその後のことだ、路地裏から男が二人飛び出して来た。身なりは小汚く、無精髭を生やしていた、身長は1M(メドル)70C(セルチ)ほど、皮でできた装備を身に付け、ひひひと下卑た笑みを浮かべた男だった。

 

 

『なぁ、その剣寄越せよ…俺たち生活に困ってんだぁ、だから寄越せよ!!』

『おめぇ妖精(エルフ)だろ……なぁ、綺麗な顔立ちだぁ、下手な女よりもな……奴隷として売りゃ更に金になるなぁ…』

 

 

 

 

そう言うと男達は襲いかかって、そして地面に倒れ伏す事になった。

シアのレベルは今やレベル2、冒険者の総人口の内、上位三割の上級冒険者にまで登り詰めたのだ。レベルの差というのは想像以上に大きい。レベルが上がれば上がる程、その身体は人間の領域を離れ神の座に近づいていく、レベル1の大人とレベル2の少女が戦った場合、経験や筋肉量なども無視して少女が勝つ。それ程にレベル差は重要で不条理な物なのだ。

倒れ伏した二人の男はレベル1の中間位の実力。

今のシアであれば十人いようと難なく倒せるだろう、そんな存在に彼等が勝てる道理も無く、金を得るという幻想を抱えたまま激痛に呻き声をあげた。

 

 

 

シアは慣れた手つきで男達の服を破き、出来たボロ布でその身柄を縛る。

帰路についている途中ではあったが、出会ってしまった以上、此処で放置する訳にもいかない。

オラリオに来てから、何度もこんな目にあってきた。

財布を盗もうとする者、身包みを剥ごうとする者、奴隷として売り飛ばそうとする者、娼婦代わりに自分を犯そうとする者に出会った時は今まで感じた事の無い寒気がした。

ケインが言っていた、"エルフは男女問わず狙われやすい"という発言はこういうことかと理解した。

 

「よいしょ……と」

 

そのまま男二人を引きずり、来た道を引き返す、都市の憲兵である【ガネーシャ・ファミリア】に突き出すつもりだ。シアは男達のくぐもった呻き声を聞き、その顔を歪ませながら引きずり続けた。

 

 

 

 

 

 

「……あ、」

 

「あっ!シア君!!シア君じゃない───」

 

「アリーゼッ!……と、子供の同胞…」

「まぁまぁ、久しぶりですね、【銀の剣撃(シルバー・スパーダ)】」

 

憲兵に男達を引き渡した後、【アストレア・ファミリア】の眷属と遭遇した。

 

【アストレア・ファミリア】今から二年前、暗黒期と呼ばれる時代を終わらせたファミリアの一つであり、冒険者達の中でも随分と珍しい"正義"を掲げるファミリアだ。

シアはアリーゼ達と面識がある、というのもシアのレベルが上がった事により

ファミリア自体のランクも上がり、ギルド長(ロイマン)から闇派閥の残党対処の依頼を受けている。その際に何度か一緒に共闘したのだ。

 

【アストレア・ファミリア】団長【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】、アリーゼ・ローヴェルが話し掛ける。

「で、どうしたのよシア君、何か思い詰めているみたいだけど───ハッ!?まさか恋の悩み!?このお姉さんに話してみて────」

 

「いつも通りな団長は置いてきまして……そうですねぇ、いつも悩んでいる様なお子様ですが……今日はいつにも増して悩んでいる様に見えます」

大和竜胆(やまとりんどう)】、ゴジョウノ・輝夜もそれにつづく。

 

 

そう言われて、初めて自分が悩んでいる様な顔をしている事に気付く。

自分では案外、どんな顔をしてるか気付けない物だ。

話すべきか、少し悩んで……結局は話す事にした。

 

 

「………今日、冒険者を二人、憲兵に突き出しました…二人とも僕に襲いかかって来た人で…闇派閥とも少し関わりのある人達でした」

 

 

「でも、その人達、片方は子供がいてもう片方は持病を持つ母親がいる人達でした…過去に同業者を亡くしたトラウマか、ダンジョンに潜れなくて稼げなくなったようで……それで…」

「男の子供さん、父親が居なくなって…孤独になったみたいです……だから、思ってたんです、僕が牢獄送りにした闇派閥達も、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……」

「…へぇ」

「ッ!?」

 

話を続ける。

 

「それなら、僕が抵抗しなければ、金が得られてあの人達は幸せになれたんじゃないかって、僕が…僕なんかが犠牲になれば────」

 

 

「ぶぁぁぁぁぁかめ!!!」

「か、輝夜!?」

直後、胸ぐらを掴まれて、レベル4の膂力で持ち上げられる。輝夜の顔を見てみれば、今まで見た事が無いほど、苛立っている。

 

「う、あっ!」

「自分が犠牲になればだとっ!?ふざけるな、お前が幾ら犠牲になったところで奴等はどうせ幸せにはなれん!!再び罪を重ねて投獄されるのがオチだ、それに自分だけが被害にあうと思っているのか!?ハッ、だとすれば底抜けの阿保だ、お前が此処で捕まえなければ別の誰かが被害にあっていたという事に、何故気付けん!?病的に他人を優先するお前がっ!!」

 

輝夜はフーフーと肩で息をしながら、小さな声で呟く。

 

「……阿保だ阿保だと思っていたが、まさか此処までの阿保だとは、自分の価値を全く分かっていない……うちのとはまた違ったポンコツ具合だ…」

 

「なっ!?うちのポンコツとはなんだ!?────取り消しなさい輝夜!?」

 

「あぁ゛!?ポンコツだろうが青二才────」

 

いつの間にかどうでも良くなったのか、ぎゃいぎゃいと同じファミリアの【疾風】リュー・リオンと言い争いを始める輝夜。シアはもう訳が分からなかった。

 

「確かに、どんな人にでも家族はいる、どんな悪人にも、むしろそのために悪人となる人々もいるわ────でも、貴方が悪人のために使い潰されるのを良しとしない人だって沢山いるってことよ!!」

 

「……そうか、そうなんだ」

 

ふと思ってみれば、自分を大切にしてくれる人がずっと居た事に気付いた。

ハルティア様、ケイン、エイナさん……()()の頃とは違う。────そっか、大切にされて良いんだ、して良いんだ。

 

 

 

「要するに……オマエは考え過ぎなんだよ、気楽に行こうぜ、気楽に」

 

狡鼠(スライル)】ライラはぶっきらぼうに、それでいて何処か優しさを感じる様な声で語りかけた。

心が、何処か軽くなった様な、重荷が外れた様な、そんな気がした。

 

 

 

ふと見上げれば、いつの間にか太陽を遮っていた厚い雲が切り分けられ、光が差し込んでいた。

 

 

 

清々しいほど、青く晴れ渡っていた。

 





◼︎シア君
自己肯定感が著しく低い主人公、アストレアファミリアに諭された、空綺麗……

◼︎アストレアファミリア
なんだかんだシア君のことを皆んな気に入っている
ルドラファミリアの行動について不審な情報を会得した為、調査を続けている。
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