森の肉の怪物   作:ななば

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今回はグロ描写注意です


過去と今 予想外のデアイ

 

 

 

 

 

 

 

「あ゛……う゛ぐぅ…」

 

身体中に走る痛みに、呻き声をあげながらその身体は地面に倒れ、身体中が土に汚れた。

 

地面に倒れた少年を見下すのは、耳の長い人種────妖精(エルフ)だ。その少年に痛みを与え、地面に倒したのはこのエルフの男であった。

少年を見る瞳は暗く、蔑むような強い悪感情。その顔は怒気を宿しているようにも見え、同時に何かを忌避しているような顔にも見えた。

男は、そうだ。自分に唯一優しくしてくれて話し掛けてくれた女の子。あの子の兄だった。

そうか、()()()か。王森にモンスターを逃した自分に復讐しに来たのだ。

 

「呻くな、() 貴様の声は耳が腐る」

 

「──いぎぃ゛ぃぁあ゛っ!?」

 

傷だらけの体に、蹴りで更に追撃を加える男。少年の貧相な体は痣や切り傷が、執拗なまでに刻まれていた。しかし、驚くべき事にその傷は徐々に塞がっていく。自然治癒などというスピードでは無く、まるで回復の効果を持つ魔法がかけられているかのようだ。

 

「フン、つくづく不快だ…貴様が生やす腕も足も、すぐに再生する力も…とても我々と同じ種族とは思えん……」

 

そう言った瞬間、更に男の顔に怒りが宿る、その怒りの矛先は無論──シアだ。

 

「あ…?う゛ぇ───ッ!?」

全身の痛みに悶えながら、薄く開いた瞳で、シアは()()を見た。

男の持つ鋼の剣が───赤い。()()()()()。なにかしらの魔法を施したのだろうか、剣が燃えている。鋼の剣先はどんどん赤く染まっていき。その熱気がシアの頬にまとわりつく。咄嗟の事に唖然とするシア。炎の熱気で熱いはずなのに、額には冷汗が流れていた。

 

 

赤い剣先はそのまま顔に近づいて。

 

「やだッ゛いやああ゛あ゛あ゛あ゛っ!!?」

 

無情にもシアの顔に突き刺さった。丁度眼球を貫いた。シアの顔の肉を、眼球を焼き焦がして、熱気はより一層、その勢いを増していた。

 

「なぜだ!!何故お前が死なずに、父と母が死んだんだ──!!何故お前は()()()()()()!?お前がッ、お前がぁぁ!!」

 

男は剣を深く差し込み、グリグリと抉っていく、飛び散る血とピンク色の何かは直ぐに蒸発して霧散する。シアの思考は一瞬で圧倒的な苦痛と、狂おしいほどの熱さで埋め尽くされた。

 

「いだいあづい゛いだぁ゛あ゛い゛!!──どっでぇ゛とってよお゛!!」

 

熱い痛い苦しい辛い気持ち悪い痛い熱い痛い痛い。

 

直後、シアの肉がうねうねと蠢きはじめ、大急ぎで眼球と傷を修復し始めた。

剣は更に深く、肉を焼きながら進もうとするが蠢く筋繊維に阻まれ、進めない。何度か抜き差しをしたがこれ以上先には進めない。それどころか、肉が剣を絡め取り、その剣身をぱきりと、へし折った。

男はその余りの異様さに思わず後退りし、シアを罵った。

 

 

「ッッ!!不快だ、あまりにも不快過ぎる、こんな怪物が、こんな薄汚い肉が────同胞だというだけでも気に入らんというのに!!貴様の存在が、気高き王族(ハイエルフ)様に認められているという事が、────何よりも我慢ならん!!」

 

 

薄れゆく意識の中で、シアはその男の言葉を聞いた。

妖精(エルフ)に慕われる存在、ハイエルフ。その姿はエルフよりも一層凛々しく、一層美しく。その魔力は追随を許さないほど。その髪は────何よりも美しい翡翠色(ひすいいろ)だと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、お前という奴は…他ファミリアの、しかも自身よりレベルの低い冒険者に対して、無理矢理戦いを挑み、魔法を行使しようとした、だと!!」

 

「…ごめん、なさい…どうしても戦ってみたくて、──皆んな(上位層)に追いつきたくて…」

 

「言い訳するな。それに謝るなら彼──【銀の剣撃(シルバー・スパーダ)】に謝るべきだ。」

 

 

 

王森の頃。自身を痛め付けた男が言っていた、王族(ハイエルフ)。世界の中心オラリオにて【勇者(ブレイバー)】、【重傑(エルガルム)】と並び評される英雄。【九魔姫(ナインヘル)】───『リヴェリア・リヨス・アールヴ』がそこにいた。

 

シアは王族(ハイエルフ)という存在を今日この日まで見た事が無かった。見た事が無い、と言っても特徴を知らなかった訳では無い。幾ら人と関わり合いが無かったとはいえそれくらいの事は知っていた。

何より、彼女の翡翠色の髪や身に纏う雰囲気などで直ぐに分かった。

 

「…ごめんなさい、私、君の事をぜんぜん考えて、無かった….」

 

「───私からも謝罪する、【銀の剣撃(シルバー・スパーダ)】迷惑をかけたな」

 

リヴェリアが頭を下げた。シアに向かって、()()に、向かって。隣を見ればケインは顔を青白くさせ、どうにか謝罪を辞めさせようと四苦八苦している。

 

なぜだろう、さっきから、()()()()()()()()()()()

分かってる、リヴェリア様が悪い訳じゃ無い。自分を傷つけたのは、違う。まったく違う人だ。でも、どうしようも無く震えてしまう。吐気すら込み上がって来た、怖い。怖い。やだ、たすけて。

 

「なぁシア、リヴェリア様の謝罪をどうにか辞めさせ──シア?」

 

「──う゛おぇ」

 

その場に蹲って、吐いてしまう。苦しくて、悲しくて、痛かったから。なんとか吐き出そうとした。でも吐き出せない。頭に焼きついた痛みが、胸にへばりついた苦しみが、どうやっても消えてくれないのだ。

 

「──っ!?どうしたシア!?顔が真っ白だぞ!?」

 

ケインが見たシアの顔は真っ青を通り過ぎて、真っ白。その目は塗りつぶした様に真っ黒で何も映してない様に見える。息も絶え絶えだ。

尋常じゃないシアの様子を見て。リヴェリアは息を呑む。そうして少し考えこんで、口を開いた。

 

「──ッ…彼、どこか具合が悪く見える、早く地上に戻った方が良い…そうだな、私達が地上まで送ろう」

 

「え!?あ、はいッ!!ありがとうございます、リヴェリア様!!」

 

そうしてシア達とアイズ達は地上へと帰還した。ダンジョンを上へ上へと進んで行く道中、シアは一言も喋らなかった。まるで死んでいるかの様だった。シアと同じ様にリヴェリアも一言も喋らなかった。その顔は暗く、気分も沈んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シア達を地上へ送り、夜。

ロキファミリアの本拠地(ホーム)、黄昏の館。リヴェリアは自室で物思いに更けていた。思い悩むのは今日の事────【銀の剣撃(シルバー・スパーダ)】、シアの事だった。あの時。十八階層で出会った少年。

蹲り嘔吐していた姿を心配に思い、一緒に地上に帰還したのだ。その時見た彼の顔。顔は真っ白で、目は全てを飲み込む様な黒色をしていた。あらゆる感情が、表情が抜け落ちていた。

あの顔は見た事がある。心を、魂を深く傷つけられた者の顔だ。モンスターに襲われ、大切な仲間を失った冒険者(同業者)。故郷を焼かれ、生き場所を失った同胞(エルフ)。皆等しく傷つき、トラウマを抱えた者だった。

 

 

 

「──ッ……彼の身に、何があったんだ…」

 

 

 

彼の顔は、それらを何十倍にも煮詰めた様な、暗い感情だった。

歳はアイズと同等、十一歳程であろう。そんな子供が、苦しみを抱えていた。自分では想像もつかないほどの苦痛が、そこにはあったのだ。

 

 

 

 

 








▪︎シア君
リヴェリア様を見て目玉グリグリのトラウマが再発した、もちろんリヴェリア様は何も悪くないです。
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