森の肉の怪物   作:ななば

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ランクアップ、その条件

 

 

『フレイヤ・ファミリア』

それは、『ロキ・ファミリア』と"最強"の双璧をなす美神のファミリア。

 

『ロキ・ファミリア』との確たる違いは、()()()()()()()()。協力も連携も、()()()

己が強くなる為にモンスターはおろか、同ファミリアの団員でさえ血肉とする為に争い合う。

そうして手に入れた力の全ては────主神。女神フレイヤに捧げられる。

 

彼らにとってはフレイヤこそが絶対神であり、法であり、生きる意味なのだ。

故に、女神のどんな我儘も、彼らは叶えようとする。

たとえそれが道徳に反する事であっても、世間が罪だと断じる事でも。

 

 

 

 

 

「………む」

 

フレイヤからの任務を受け。自室から出たオッタルは、その姿を見て珍しい組み合わせだなと、声を漏らす。

 

オッタルとはまるで違う、160C(セルチ)程の比較的低い身長。

短い黒髪に、ピンと立った()()

しかしその目は、全てを貫くほど鋭い。ギラギラとした獰猛な印象すら抱く猫人(キャットピープル)

 

一方、もう片方の人影は180Cと比較的高い身長。

だが、その目からは鋭さは伺えず、なんなら隣の猫人に怯えているようにすら見える、褐色の肌を持った黒妖精(ダークエルフ)

 

レベル6()女神の戦車(ヴァナ・フレイヤ)』。『アレン・フローメル』。

 

同じくレベル6 『黒妖の魔剣(ダインスレイヴ)』。『ヘグニ・ラグナール』。

 

フレイヤ・ファミリアの幹部二人が、団長、オッタルの前に居た。

 

「……珍しいな、アレン、ヘグニ…鍛錬以外で俺の前に訪れるのは…」

 

オッタルが、その口を開く。無骨な風貌に違わぬ低く、威厳のある声色。

 

「来ちゃわりぃか、クソ猪」

 

「我が忠義は何人にも負けず……塵芥にも、猪にさえ負けず……その密約を暴いてもらおう……」

 

「黙れ、ヘグニ。テメェはなにが言いたいかわからねぇよ」

 

アレンは鋭く辛辣な言葉を投げかけ、ヘグニはおし黙ってしまう。

このアレンていう猫人。団長であるオッタルだけで無く、フレイヤ以外のほぼ全てに攻撃的である。

 

「本題だ、オッタル。────あの方に何を命じられた?」

 

「……ある冒険者の試練を、手伝うよう命じられた……」

 

「「!!」」

 

瞬間、二人に衝撃が走る。

主神フレイヤが無茶振りをするのは日常茶飯事であるが、ここ数年、別派閥の団員に手を出すことは無かった。せいぜいが『私の伴侶(オーズ)は何処かしら?』と言いながら都市外へ無断で出かける程度であった。それも十分大事ではあるが……。

 

だが、別派閥の冒険者の手伝いを、わざわざオッタルに任せるという事は、つまりはそういう事なのだろう。

 

「で?その冒険者ってのは誰だよ」

 

「【銀の剣撃(シルバー・スパーダ)】……【ハルティア・ファミリア】の団員だ……」

 

「……世界最速(ワールドレコード)のガキか…」

 

「ククク……かの同胞の名声は、我が耳にも入っている……ど、同胞には我と同源の"闇"を感じている……かの深淵は深い……!!」

 

【銀の剣撃】の名を聞いた途端、それまで黙っていたヘグニが饒舌に話始める。話題に上がっている冒険者に何か通じるものがあったのだろうか。

 

「チッ───面倒くせぇ、乳臭いガキ相手に、用意したモンスターをけしかけろってか」

 

「いや」

 

アレンの乱暴な物言いに、オッタルは即座に否定する。

 

「用意は、()()()()()()…それがあの方の意志だ…」

 

「……あぁ?」

 

アレンの顔に疑問が宿る。これまでもフレイヤは気に入った()()()を与える事が何度かあった。その度にオッタル達はモンスターを鍛え、擬似的な試練を作り上げていた。

しかし、今回はそうでは無い────

 

 

 

 

「奴は何もせずとも試練をなす。我々は誰にも────その邪魔をさせなければいい」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

あの日。

ロキ・ファミリアの『剣姫』と戦い、その()を知ったあの日から、ずっと(もが)いている。

英雄になるとは言ったものの、Lv.4相手に手も脚も出なかったのだ。

 

(…伸び悩んでる…)

 

このごろ常に、シアの頭にその言葉が浮かんでいる。

恩恵を更新してから数週間、いつにも増して、それこそケインと潜らないときであっても一人で潜ってモンスターを狩っている。

 

だが、まるでダメだ。

幾らモンスターを狩っても、ステイタスが上がらない。どう頑張っても殻を破れないのだ。

 

「…ランクアップ」

 

唯一、この煮詰まった現状を打破できる方法。

それが、ランクアップ。

恩恵の刻まれた身体をより一段、()()()する。力や耐久のステイタスが上がるのとは訳が違う。文字通り格が上がる、今までとはまったく違う生物となる。

強く、なれる。

 

「だけど……どうすれば……」

 

ランクアップの条件は偉業をなすこと。神々が認め、賞賛する物事を成し遂げる事。しかし、シアにはそれが()()()()()。幾らモンスターを狩ろうと、鍛錬を積もうとランクアップは果たせなかった。だから、どうすれば良いのか悩んでいた。

 

「多分、今日も大した上昇はしてない……」

 

今日のダンジョン探索も、これといった上昇は見込めないだろう。失意のままホームに戻ろうとして────

 

「やぁ、お困りかな────『銀の剣撃(シルバー・スパーダ)』♪」

 

 

「君の悩み、俺なら解決できるかもよ」

 

 

羽根帽子を被った、神に出会った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどねぇ……ランクアップの方法が知りたい、かぁ………」

 

「……はい」

 

結局、シアは悩みをその男神に話した。

いかにも怪しい、何処か胡散臭い男神であったが、この悩みを解決できるならと、誘惑に負けてしまった。

 

「ん〜良くある悩みだぁ…ランクアップねぇ……」

 

男神は顎に指を当て、悩むように空を見上げる。そうして何かに気付いたようにシアに質問を投げかける。

 

「そういえば、君は()()()()()()()()()()()()?」

 

「…ん?」

 

「いやさ、ふと何でかなぁって、それが分かれば何か答えが出るんじゃないかなって、そう思っただけさ……」

 

男神は何処か怪しい笑みを浮かべて、そう問いかける。『答えられなければ、教えない』どこか、そう言っているようにも感じた。

 

「主神の、ハルティア様に恩返ししたいから────それと、大切を守りたいから………です」

 

「………へぇ」

 

男神の笑みが、いっそう深くなる。

 

「僕は、神様に助けてもらって、故郷から連れ出されたおかげで毎日笑って過ごせているんです、そんな神様に、英雄になれるって、そう言われたんです。その言葉に、笑顔に────()()()()()()()()憧れたんです」

 

「…続けて」

 

「それからオラリオに来て、ダンジョンに潜って────()()じゃなくなったんです」

 

矢継ぎ早に言葉が飛び出してくる。

 

「そうして、幸せで幸せで……()()()()()()()

 

「………」

 

話を、続ける。

 

「僕が強くなれないから、弱いままだから、()()奪われたらどうしようって、居なくなったら、どうしようって。────だから強く、英雄になりたいんです、守り続けたいんです」

 

話終わり、シアははっとした様子で男神を見る。

自分自身が思っているよりもずっと話し込んでしまった。自分さえも、こんな大きな感情を持っているなんて知らなかった。

 

「ああ、ありがとう────良く話してくれたね」

 

次に見た男神の顔には、優しい笑みが浮かんでいた。

 

「…え、あ、はい」

 

「よし!!なら俺も話すよ、ランクアップ()()方法!────神々が認め、驚嘆する偉業を!」

 

男神はカッと目を見開き、唐突に声を張り上げる。その内容はシアが最も知りたい情報。

 

「何、ですか……」

 

ゴクリと唾をのみ、その言葉を一言一句聞き逃さぬよう集中する。

 

 

「それは────階層主の単独撃破だ」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

少年────シアが去った後、一人でその場に立ち尽くす男神。その背後から一人の女性が現れる。

水色の癖毛をした、理知的な雰囲気を持つ美女。

 

「で、実際に会ってみてどうでしたか─ヘルメス様」

 

彼女の名はアスフィ。

アスフィ・アル・アンドロメダ。『万能者(ペルセウス)』の二つ名を持つLv.4の、ヘルメス・ファミリアの冒険者。

 

「ああ、アスフィ。()()道端でばったり会ってね、()()()させてもらったよ」

 

男神────ヘルメスは張り付くような笑みを浮かべ、アスフィに笑いかける。その一方でアスフィの反応は冷たい。

 

(白々しい……)

 

そう、アスフィは最初から偶然でないことを知っていた。『銀の剣撃(シルバー・スパーダ)』の帰宅時間、ルートを調べ上げ、偶然を装い接触するのを、すべて知っていたのだ。

 

「どうでしたか?お眼鏡にかないましたか?」

 

ぶっきらぼうに、呆れるようにアスフィは問いかける。

 

「ああ、そりゃ()()────俺はあの子に見出したよ、()()の器をね♪」

 

「……正気、いや…本気ですか?」

 

アスフィは目を伏せつつ、更に問いかける。

間違いであっと欲しいと、そう心の中で思いながら。

 

この男神のやろうとしていることは、()()()だ。

試練と称して傷つけて、まだまだ未熟な子供に、英雄としての重荷を、使命を背負わせる。

そんな、酷いことだ。

 

「勘違いするなよ、アスフィ。これは彼自身も望んでいることだ」

 

「いや、しかし……」

 

()()が敗れて十年。若き英雄達は育っているが──嗚呼、()()()()()()。だからもっと必要なんだ、猫の手でも何でも必要な状況…彼、シア君の言葉を借りるなら…そうだな……」

 

 

 

そう言いヘルメスは、空を仰いで────

 

 

「────世界は()()()()()()()()英雄を欲しているんだ」

 

 

 






▪︎ヘルメス
遂にシアくんと会う→うーんこれは英雄候補!でもこんな子供に試練を与えるのは心苦しいなぁ、うんうん、じゃ(試練)与えるね。
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