森の肉の怪物   作:ななば

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シア君の力がバレる話


巨人と怪物

 

 

 

 

 

 

一般的に、迷宮の孤王(モンスターレックス)というのは複数のファミリアが結託して倒すべき強敵である。

その強さも、体躯も他のモンスター達とは比べ物にならない。

勿論、名の知れた第一級冒険者であれば単独で討伐することも可能だろう。

 

しかし、格下の冒険者。僅か十一歳の子供が挑むには強大すぎる。

 

正に自殺行為。

正に無謀。

誰もができる訳がないと否定するだろう。

 

だが、もし()()ができたのなら。

成し遂げられたら。それは、誰もが認める()()であろう。

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

ダンジョン十七階層。

十八階層に繋がる広間『嘆きの大壁』、そこに()()は居た。

他のどんな怪物の存在も許さず、当然のように君臨していた。

中層の階層主『ゴライアス』それがこの巨人の名である。

 

 

そんな巨人の瞳の中に、()()が一つ写った。

見間違えるはずも無い、忌々しき神の次に憎たらしい、人間。その子供。

 

 

『グオオオォォォ!!』

瞬間、ゴライアスの身体が動く、丸太を何本もまとめたような、巨大な腕を振るい、その子供を押し潰そうとして────

 

その指が二本ほど、切断された。

そのまま腕を駆け上がって行く人間を残った腕で容赦なく薙ぎ払う。

子供は正しく豆粒のように振り飛ばされ、硬い岩壁に叩きつけられる。

 

「う、ぐぅぅ……」

少年────シアはくぐもった声を漏らしつつもすぐさま体勢を整え、剣を構え直す。大丈夫、まだ()()()。そう自らに言い聞かせながら。

 

『ガアアアアァァ!!』

「──【肉食複製(メーサ・ルヴァ)】ぁ!!」

 

 

目の前の巨人を見据える。

はっきり言ってシア自身の実力はゴライアスには遠く及ばない。

攻めることに注力し過ぎて叩きつけられたのが何よりの証拠だ。

 

(もっと、もっと…注視しろ、相手の一挙一動の隙を見逃すな)

 

実力で劣るなら、相手の隙を突け。予想外の一手を繰り出せ。それこそ、格上殺し(ジャイアントキリング)を成すために必要なことだろう。

 

『グゥアアァァ!!』

 

ゴライアスはシアを潰さんとパンチを繰り出し続ける。繰り出すたびに土煙がまき上がり、その一発一発が致命の一撃と化す。

シアはそれを冷や汗を流しつつも躱わし、()()()()()で怪物の拳を受け止める。シアの腕力では到底受け止められないが何本もの腕なら話は別だ。

 

『ガァ…ギイイィィ!!』

 

「ぐぅ!がぁァァ!!」

 

そのまま突き出した骨でゴライアスの腕を突き刺しめちゃくちゃにする。分厚い皮膚を引き裂き、肉にまで分断する。

 

(…いいぞ!攻め続けろ、ダメージを与え続けろ…)

 

自分は幾ら()()()()()()()()()

ただ目の前の巨人を倒せればいい。

 

(偉業を成して…早くランクアップして神様も、ケインも皆んなを守れるぐらい強くならなきゃ…)

 

そうでなければ、また()()()()()()()()()()

 

 

頑張れ。この程度、超えてみせろ。

強いことだけが、何度でも立ち上がることだけが、()の取り柄だろ。

 

シアはこんなことを考えながら、再びゴライアスの腕を駆け上がる。もはやシアの目の前には倒すべき巨人と、次の一手しか見えていない。それにしか、集中していない。

 

 

それこそ、この戦いをただ見ている者達にも気付かないほどに。

 

 

 

 

 

 

 

♢【ロキ・ファミリア】♢

 

 

 

 

「…ん?あれは…」

 

「わぁー!すごい!!」

 

「なんだァ?あのガキ…」

 

彼らがその戦いを見たのは、正しく偶然だった。

ロキファミリアは今日、数ヶ月に一度の遠征に来ていた。目指すは未到達階層の開拓。

そのために彼らはダンジョンを降っていたのだ。上層を短時間で踏破し、中層、十七階層を超えて十八階層である迷宮の楽園(アンダー・リゾート)で一旦休息をとる予定だった。

 

そして、その戦いを見た。

たった一人の少年が、階層主に挑んでいる姿を。

 

「あれは…【銀の剣撃(シルバー・スパーダ)】、あの子か…!」

 

ロキファミリアの団長であるLv.6の第一級冒険者、【勇者(ブレイバー)】『フィン・ディムナ』が驚嘆し、少年の名を口にする。

 

(Lv.2になったばかりだと聞いていたが…まさかこれほど成長しているとは…)

 

()()()()。フィンは純粋にそう思った。シアがランクアップする前、世界最速(ワールドレコード)であったのは紛れもなくアイズだ。一年という他の冒険者の二、三倍は早いランクアップに、ロキファミリアはおろか、オラリオ中が驚愕した。

 

しかし、フィンの眼に写る少年は、その記録を塗り替えた。一ヶ月と三週間という規格外すぎる速度で。

 

そんな少年が今。たった一人で階層主と戦っている。

避けては斬り裂く、引いては踏み込む。冒険者の駆け引きを行なっている。

階位にしてLv.2、ゴライアスよりも遥かに格下の子供が。

 

 

「凄い子だ…ロキが欲しがったのも頷ける…」

 

 

 

その戦いに誰もが見入っていた。夢中になっていた。

 

 

 

 

「わぁ────!!すごいすごい!!ねぇティオネ、あの子誰!?Lv幾つだろ!ゴライアスと一人で戦ってるよ!!」

 

「ッッ!?──うるっさいわね馬鹿ティオナ!!耳元で叫ぶんじゃないわよ!!……まぁでも確かに凄いわね…」

 

少年よりも一歳歳上の()()()()()()()()

 

「あの子供【銀の剣撃】っすよ!最近Lv.2になったって噂の──」

 

「Lv.2!?しかもなったばかり!?それでゴライアスとあれほど…」

 

これといって特徴のなさそうな人種(ヒューマン)の青年、その隣にいる黒髪の猫人(キャットピープル)

 

「──チッ!付けた傷が浅ぇ…あの雑魚こっからどうすんだ」

 

気性の荒そうな銀髪の狼人(ウェアウルフ)

 

「ガッハッハハ!!大した小僧だ!!」

 

山のように頑強な風貌のドワーフ

 

「少し会ってないうちに……あんなに強く……」

 

剣姫と呼ばれている金髪の少女。

その他大勢のロキファミリアの眷属達。

 

 

 

 

皆んな、劇を見る観衆のように、英雄の戦いを見守る外野のように、この戦いの行末を見ていたのだ。

 

 

「───おいフィン…!助けないのか…あの子を…」

 

九魔姫(ナイン・ヘル)】リヴェリア・リヨス・アールヴの声を聞くまでは。

 

「……ッ!!そうだ」

 

リヴェリアの、どこかか細く。訴えるような声を聞き、ハッと気付く。ある種の()に浮かされていた頭を振り払い、フィンは改めて戦況を見る。

 

ゴライアスが怪我をしているように、シアもまた怪我をしている。服に滲んだ血から見て、かなりの怪我だろう。あまりにも自然に戦うからか気付けなかった。

 

(夢中になっている場合じゃないだろうッ……)

 

その顔は他ならない、他者を助けんとする勇者そのもの。勇者たる小人族(パルゥム)の英雄は、かの少年を怪物から助けようと動こうとして──

 

「──これは…どうしたものかな?」

 

「【勇者】フィン・ディムナだな」

 

直後、自身の何倍もの体躯が行手を阻む。

 

何層にも筋肉がついたような、屈強な肉体。

その腕力を遺憾なく発揮するであろう黒い大剣。

 

「手合わせ、願おう」

 

猛者(おうじゃ)】オッタルが立ち塞がった。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

「何故、ここで手合わせなんだい…?」

 

「都市を代表する二代派閥の団長同士、雌雄を決めようとするのは不思議か…?」

 

「……それは【フレイヤ・ファミリア】の総意かい?」

 

「違う、俺の…俺達の()()だ」

 

譲る気はなさそうだと、フィンは内心辟易する。オッタルの求めるものが、手合わせなどでは無いことなど、当然看破している。要するにロキファミリアをこれ以上近寄らせたくないのだろう。

 

オッタルの背後を見れば、あと二人の人影。おそらくは幹部。仮にここで死力を尽くして争い、オッタルを倒せたとしても、フレイヤファミリアの包囲網は崩せない。

 

「君達も知ってると思うけど、この先に冒険者がいる。一人で戦ってるんだ───助けに行きたい」

 

そうフィンが言うとオッタルは表情を変えず、されどどこか確信しているように言い返す。

 

「心配するな、奴ならば偉業を成し遂げる───我々に許されるのはただ、ここで眺めることだけだ」

 

 

「……」

 

フィンは閉口した。

これは、ダメだ。

取り付く島もない。無理に行こうとしたが最後、ここでフレイヤ・ファミリアとの抗争になる。銀の剣撃(シア)を助けたいのはそうであるが、フレイヤ・ファミリアとの衝突ともなれば、優先順位の天秤はシアよりもオッタル達に傾く。

 

 

「…お前ら…何を考えている!?あんな子供が、一人で戦っているんだぞ!?」

 

リヴェリアが身体を震わせ、怒声をあげる。

 

「あの子は確かに強い!ただのLv.2だとは考えられないほどに……だが、あの子は傷付いている!!あの血の跡からして相当な深傷だ………死ぬかもしれないんだぞ!?」

 

声を荒げて反論するリヴェリア。

その訴えは正しい。大派閥の者として見殺しにする訳にはいかないという強い思いがこもっていた。

 

 

リヴェリアがオッタルに訴えかけている合間に、それは起こった。

 

「───あ」

 

その呟きは、誰が発したか。唖然としたような、不意に出た言葉。その呟きが辺りに溶け込んだその瞬間。

 

 

ぐちゃり

 

 

致命的な音が、戦場から鳴った。

鮮血が勢いよく辺りに飛び散った。

【銀の剣撃】シアは、その頭をゴライアスに叩き潰された。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが……望みだったのかい?有望な冒険者が命を落とすことが……」

 

シアは死んだ。助けに入れなかったから死んだ。フィンの顔に怒りが浮き出る。リヴェリアも同じだ、同胞の冒険者、しかも子供が死んだのだ、その怒りはフィンよりも重い。

 

「──よく見ていろ、あの()の寵愛を受けた冒険者だ、あの程度で終わる訳ないだろう…」

 

今の今まで黙っていたオッタルが、その口を開く。

威厳に満ちた、まさに王者のような声。

その声が響いた途端、シアの身体がむくりと()()()()()()

 

「「!?」」

 

そのまま、潰れたはずの頭が()()する。辺りに飛び散った脳髄、砕け散った頭蓋が肉と皮膚と共に()()()()()

 

「───なんだ、あれは!?」

 

数多の冒険をしてきたフィンですら見たことのない事象。一体なんだあの再生は?

 

「ッッ──まだまだぁ!!」

 

当然のように復活した少年、シアは再び巨人に立ち向かう。あり得ない光景だ、ついさっき死んだ人間が再び剣を握り、戦うなど。

そのままシアは筋繊維が覗く複製の腕を何本も生やし、戦う。明らかに人間からかけ離れた、異様な姿。

それは、まるで────

 

 

 

「────怪物(モンスター)…」

 

 

誰かがふと、そう呟いてしまった。

直後、金髪の少女──アイズが叫ぶ。

 

「違う!!ちがう、ちがう……」

 

その声は、Lv.4の冒険者とは思えない。

年相応の少女が怯えるような、か細い声で。

 

「……ちがう、ちがう……から」

 

自身でも気付かぬうちに、涙を流していた。

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