森の肉の怪物   作:ななば

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逃げる者、目覚める邪悪

 

 

 

「────その再生能力は、一体何かな?魔道具?それともスキルかい?」

 

(どうしよう……)

 

戦いが見られていた。異端であるあの()も全て見られた。知られてしまった。

それも大派閥のロキ・ファミリアに。

ずっと隠し通すつもりだったのに、こんなところでバレるなんて。

腕の傷からぐちゅぐちゅと、傷を修復する音が響く。普段なら気にならない音が、いやに気になる。

 

「……あ」

「──あっ…!!」

 

前に手合わせした少女、アイズ・ヴァレンシュタインと目が合った。以前の楽しそうに戦っていた彼女の表情とは違う。

泣いているような、怯えているような表情。アイズだけでは無い。後方のロキファミリアの集団の中には一部、怯えの感情。恐怖の感情を感じた。

 

それを見た瞬間。もう()()()()()()()()()

 

「…… すいません、言えない、です…本当に、言えません…」

「……!…そうか。────すまないね【銀の剣撃(シルバー・スパーダ)】変なことを聞いてしまった」

 

団長であるフィンは、それ以上問い詰めなかった、何も言わなかった。シアは何も聞いてこないことを少しありがたいと感じつつ、彼らに背を向けて走り出した───いや、()()()()()

 

 

「待って!!違う、ちがうの!!まって───お願い!!」

 

 

少女の悲痛な声にすら、背を向けて。

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

♢【ロキ・ファミリア】♢

 

「どういうつもりだったんだ!?フィン!」

 

ダンジョン十八階層。迷宮の楽園(アンダーリゾート)と呼ばれる安全地帯(セーフティポイント)にて、妖精の姫は怒った。怒りの矛先は自らのファミリアの団長───フィンに対してだ。

 

 

「あの子のスキルを聞き出そうとするなんて、何を考えているんだ!?」

「すまない、リヴェリア────返す言葉も無い」

 

 

神々が神血(イコル)を与え刻む恩恵。一般的にステイタスと呼ばれるそれは、冒険者であれば誰でも持っている物であり、同時に守秘義務を持っている。

開錠薬(ステイタス・シーフ)更新薬(ステイタス・スニッチ)を使わない限り、本人や同ファミリアの団員、主神しか知らない。守られた情報だ。

 

そんなステイタスを聞き出そうとすることは違反行為。不正や不義をきらうリヴェリアからしてみれば唾棄すべき行いだろう。

 

故に彼女は怒る。

オラリオを代表する二大派閥の団長が、唾棄すべき行動をしたのだ、副団長として咎めるのは当然のこと。

 

 

「本当に申し訳ない──ただ、微かな()()を感じてね……」

「───っ!!」

 

フィンが感じた、()()()()()。幾度と無く窮地を救ってきた未来予知とも思えるそれが、シアを見た瞬間、疼いたのだ。

普段感じる疼きよりも遥かに弱い。微細な疼きだが、それでも確かに感じた。

 

猛省するフィンの頭に浮かぶのは、少年の死闘と異様な()()。それは古参の冒険者であるフィンであっても、初めて見る事象であった。

スキルは神の恩恵の中でもっとも制限のない自由な能力。その効果は十人十色、千差万別。単純な能力もあれば、神々も驚く能力もある。

 

ロキ・ファミリアで言えば、怪物種に対して攻撃力高域強化の効果を持つアイズの『復讐姫(アヴェンジャー)』。

魔法円(マジックサークル)の中にいる同胞(エルフ)の魔法効果の増幅、周囲に拡散する魔素を回収して精神力(マインド)を回復するリヴェリアの『妖精王印(アールヴ・レギナ)』。

 

 

(どれも唯一無二のスキルであり、規格外の強さを持つスキルだ……だが……)

 

銀の剣撃(シルバー・スパーダ)】の能力は、何か違う気がする。

フィン自身もはっきりとしない。シアが見せた能力がスキルなのか魔法なのか、はたまた魔道具による効果なのかも分からない。

既存のスキルであるそれらとは()()()()()

 

『復讐姫』や『妖精王印』が劣っている。という訳では無く。

自分達の知るスキルとは()()()()()()()()()

 

 

そう思えて仕方が無いのだ。

ゴライアスに頭を潰されたあの時、シアは確かに即死していた。目玉どころか頭蓋の骨と脳髄が飛び散って生きている人間など居ない。

だが、シアは何事も無かったかのように起き上がり、飛び散った頭を即座に再生してみせた。

 

 

まさしく『復活』、『死者蘇生』

たった一人のスキルだけで、そのようなことが可能だろうか?

魔法だけでそのようなことが可能だろうか?

 

少なくともフィンには、可能だとは思えない。

都市最高の治療師(ヒーラー)、【戦場の聖女(デア・セイント)】『アミッド・テアサナーレ』と並び評される【女神の黄金(ヴァナ・マルデル)】、『ヘイズ・ベルベット』でさえ、死の淵から蘇らせるだけだ。

死んだ者はどう足掻いても生き返らない。

 

───だが、彼はやってのけた。不可能だと考えられていた死からの復活を、自らして見せた。レベル2の少年一人が、だ。

 

 

 

異様な能力に、親指の疼き。二つの要素につき動かされ"勇者"らしからぬ行動に出てしまった。

 

 

『……すいません、言えない、です…本当に、言えません…』

 

あの時追い詰められた少年──シアはそう断ると、足早に地上へと戻って行った。まるで何かから逃げるようにして。

 

(なにをしているんだろうな…僕は……)

 

シアを怖がらせてしまった。

都市を代表する二大派閥。そのうちの一つがたった一人しか団員の居ない、新興のファミリアを脅したような物だ。

団長として示しが付かない。

 

「ハルティア・ファミリア……謝罪に行かないとね…」

 

ロキ・ファミリアの団長。フィン・ディムナはそう呟いた。

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

♢【?????】♢

 

 

 

かつての()()すら完全攻略に至らなかった。

どこまでも続くように思える迷宮の、底の底。

暗い岩壁に囲まれていたそのフロアは、今では緑色の肉に覆われていた。

緑肉は忙しなく蠢いている。この世の物とは思えない、悍ましい光景。

 

そのフロアの中心に、()()は居た。

ソレは、もう少し眠っているはずだった。力を蓄えているつもりだった。

求めてやまない風の精霊(アリア)の存在も、暫くは我慢するつもりだった。だが……

 

 

 

『アハハハハハハハハハハハハハハハハ!!アハハハハハハハハハハハ!!アリア、アリアァァ!!アア、感ジル!!アリアヲ感ジル!!』

 

目覚めた。精霊と呼ぶにはいささか冒涜的過ぎるソレが、目覚めてしまった。

 

 

『ソレニ……()()()?ヘカトヘカトヘカトヘカト!!アハハハハハハハハハハハハハ!!アハハハハハハハハハ!!居ル、居ル!ヘカトモ居ル!!』

 

 

きっかけは、異端の少年が階層主を倒すために使った、魔力暴発を起こした魔法。流れ出た魔力とそこに少し混じる精霊の力を、僅かながらでも感じ取った。

アリアだけでも辛抱堪らなかったのに、そこに加えて新たな()()の気配。

もう我慢できなかった。

何がなんでも、いち早く仲間を取り込みたい。()()()()()()()

 

故に彼女は出てきた。

自身の手となり、足となる者達を従えて。

神々のいうところの、()()にあたる存在を用意して。

 

 

「ふん……相変わらず五月蝿い笑い声だ…」

 

赤い髪をした女が呆れるように、辟易するようにそう呟く。

何十年も何百年も、同じことの繰り返し。ただただこの存在に従うだけの怪人(クリーチャー)に成り下がった女は、いい加減うんざりしていた。

 

(暫く眠っているはずだったが、予定が狂ったか…)

()()()も強くなったとはいえ、まだ足らない。

オラリオの第一級冒険者を殺すには力不足だ。

だからこそ、奴は仲間を増やしたのだろうが……

 

 

「ふははは!!力が溢れる!!失ったはずの脚が、ある!これが()()の奇跡!!嗚呼────素晴らしいッッ!!」

 

病的なまでに白い肌と、白い髪。

顔は痩せ気味でさながら幽鬼のような男が、狂喜乱舞する。奇跡を祝う────あるいは神に祈りを捧げるかのように。その姿は幸せに満ちている。

 

「………」

赤髪の女が見つめる男の名は【白髪鬼(ヴァンデッタ)】『オリヴァス・アクト』。

 

彼女が新しく用意した眷属の一人。

レベルは3程度ではあるが、食人花(ヴィオラス)の指揮権を与えられている。怪人の打たれ強さと相まって、そこそこの働きはしてくれるだろう。

 

そしてもう()()

 

「あはは!もうこの子動かなくなっちゃった!」

「うふふ!もう声も上げてくれないわ!」

 

もの言わぬ肉塊となった死体を、グサグサと剣で刺し続ける二人。しかもただ刺すだけでは無くグリグリと、傷口をぐちゃぐちゃにするように刺している。

恐らくは哀れな獲物を、より一層苦しめるためだろう。

 

「なら、次の遊び相手を探しにいきましょう!──()()()♪」

「そうしましょう!────お姉様(ディナ)♪」

 

白と黒の妖精が、楽しそうに話をする。まるでそこにある死体は見えないように──いや、彼女達にとってはその死体こそが自らを楽しませる一番の玩具なのだろう。

ディース姉妹。この狂気的なエルフの双子も、彼女の用意した眷属の一人だ。

度々こうした()()を仕事の合間に行う。

これでも第一級冒険者ほどの力はあるため、活躍してくれるだろう。

 

 

『ウフフ、サア───始メマショウ…オ仲間集メヲ……』

 

 

 

英雄の都市、オラリオ。

数多の英雄が居るこの都市であっても、迷宮の底は照らせない。全てを飲み込むような闇は、どんな英雄も照らせない。

故に底で何が起こっているか、誰も知らない、分からない。

神々も、人も、誰も彼も。

何も知らないまま、分からないまま。

迷宮の底にて、闇派閥(イヴィルス)に変わる新たな邪悪が、動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 





▪︎原作より五年早く穢れた精霊が活動
ディース姉妹のクリーチャー化

まさか初めて原作死亡キャラ生存のタグを使うのがディース姉妹になるとは……
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