体前屈するモモンガの肩に手を置き
「慰め」という体で煽り散らしていたオッサンは
何かに気づいたように僅かに顎を上げるとぱちりと目を瞬かせ
首元の布を鼻までたくし上げて顔の大半を覆い隠す
フードも目深に被っているので、見た目はフルフェイスと変わりなく
遮られているだろう視界は種族スキルの透過により非常に明瞭だった
数秒後にやや遠くから二人に向けて声がかけられる
「モモンガ様、ラビ様
このような真夜中に上層までいらっしゃるとは
どうなさったのですか」
第一階層の出入り口を背に声をかけてきたのは
配下の悪魔たちを従えたデミウルゴスだ
咄嗟に顔を隠したオッサンの行動を疑問に思ったモモンガは
それよりも魔王ロールをしていた手前
現状の情けない状況を見られてしまった事実に冷や汗を流す
デミウルゴスの後ろに控えていた配下は両膝を突き
創造主に対する最敬礼の姿勢を取った
デミウルゴスだけはすぐに動き出せるよう片膝のみ突くに留まり
深く頭を下げモモンガの言葉を待つ
想定外の場所で予想だにしない守護者と遭遇した事で
狼狽したモモンガだったがシモベ達の目が伏せられた事に安堵し
今の内にといそいそ立ち上がって軽く咳払いすると
魔王ロールに切り替え堂々たる立ち振る舞いで守護者の前に歩み出た
「ラビと共に少しばかり夜の散歩にでも、と思ってな」
「そうで御座いましたか」
伏せていた顔を上げ、ニヒルな笑みで口元を飾り
納得したように頷くデミウルゴス
その時、唐突に「あ」と思い出したようにオッサンが声を上げ
一歩
距離を詰めると同時にシモベ達全員の体に力が入った
姿が見えるだけで依然気配のないワールドエネミーを前に
本能的な畏怖を感じているからだ
デミウルゴスに至ってはユグドラシルを消滅させたと聞かされたばかり
余計に皮膚の下が緊張で張り詰めてしまう……が、
「デミえもん」
と、いう一言の所為で
一瞬にしてデミウルゴスの思考回路が焼き切れた
「……」
不覚にも理解に時間がかかり、冷や汗を一筋流しながら
取り繕うように
オッサンの背後ではモモンガが焦りを見せていた
「そ れは
私の、ことでしょうか」
「ちょ、テルさんっ」
「俺等がこの格好の時は、モモンガは『モモン』
俺は『テル』っていう人間として振る舞うから
ナザリックの外とかナザリック以外の関係者がいる場所では
見かけたとしても名前も知らない、他人のフリをするんだぞ」
「な る ほど、承知致しました
ラビ様、参考までにお聞きしてもよろしいでしょうか」
丁寧な前置きに、オッサンは大きく胸を張り
両手で立てた親指をビシッと大胸筋に向ける
「バッチコーイ☆」
「ラビ様は今後、我々守護者のことを
どうお呼びになられるのですか」
「ん?ソコ気になる?
パンちゃんでしょ〜?デミえもんでしょ〜?
ベドアルに、キューちゃんに、ティアシャル
セバッちゃん、ガルたん、ティムやん
マーレとアウラは……
まだ子供だから普通に呼ばねば」
何故か特別枠扱いのアウラとマーレ
呆れ目のモモンガが渋々の体で問う
「なんの線引ですかソレ」
「こんなオッサンが子供に対して
ちゃん付けなんかしたら事案だろうがよ
あ、守護者ではないけどセラとコルとソルはまんまで。
流石に自分が作ったモンに愛称つける趣味はねーわ」
「女性陣の呼び方が
シースーとかチャンネーと同レベルなんですが」
「呼び方も愛情表現のひとつなのよォ?」
「キモいんで声のトーン戻して下さい」
「手厳しいー!……と、いうワケよ
ご理解いただけたかの、デミえもん」
「本人嫌がったら呼ぶの止めてあげて下さいね」
「ウルベルトくんだって喜んでくれるって!
『えもん』という万能存在の名を冠することができるのは
この子しかおらんと思うのよ!
えもんはデーモンという語源の祖!理に適ってるゥ〜」
「また適当なことを……
デミウルゴス、嫌なら嫌と言っていいんだぞ」
独り勝手に納得しているオッサンを他所に
ため息を吐きながら守護者を見たモモンガは
肩を震わせるほど感動している様子のデミウルゴスに気づいてたじろぐ
「どうした、デミウルゴス」
「申し訳ありませんモモンガ様
感極まってしまい、」
「んん??」
「万能存在を冠する名を、デーモンの祖となる言葉を
私に組み込んで下さるとは、なんたる光栄……!
我が創造主ウルベルト様が喜んで下さるのならば、是非!
その名を賜った暁には、万能という名に恥じぬ働きをすると誓います!」
感激するデミウルゴスを前に
「やらかした」と理解し硬直するオッサン
額を押さえたモモンガはそろりとオッサンの背後に近づき
こそりと耳打ちした
「厳密に言えば、守護者もその配下も
情緒面においては生まれたばかりみたいなものなんですよ
パンドラも言ってたでしょう、戸惑ってるって」
「いやまさかそんな、思わんやん……」
量子AIを基礎としたデータの集合体が。
そう心の中で付け加えるアイシテルに
モモンガはしれっと言ってのける
「想像力の欠如ですね」
「ぴえん」
「声低っ」
目の前でこそこそと耳打ちする二人を前に
眉を下げたデミウルゴスは悲しげに視線を落とす
「……やはり、今の私ではその名に相応しくはないのでしょう
分かっております」
「えっ」
「ラビ様の御心を図ることが出来ず
意図を探ろうとさえしたのですから」
「その件は、モモンガも褒めてたでしょ」
「モモンガ様は慈悲深き御方
失態を晒した私の立場に配慮下さったのです
モモンガ様のお手を煩わせるなど我が身を恥じ入るばかり」
「さっき、俺がちょっと近づいただけで身構えただろ?
ユグドラシル全てを滅ぼした俺に面と向かって
分からないことを素直に質問できるデミウルゴスは
凄いと思うの!誰にも真似できないと思うの!
その豪胆な心意気を称賛したんよ!喜びなさい!素直に!
創造主の褒め言葉を曲げて受け取るんじゃないわよ!」
「テルさん、オネェ言葉になってますよ」
「オカマの説教は心に響く
という学術的研究結果が出ておってだな」
「台無しです色々と」
至高の御方の褒め言葉を曲げて受け取るな、という言葉に
目の前が啓けたような感覚を覚えたデミウルゴスは
改めてモモンガを仰ぎ見て、深々と頭を下げた
「ありがとうございます、モモンガ様」
しみじみと感謝の言葉を口にするデミウルゴスの前に
勢いよくしゃがみ込んだオッサンは、両肩をがしっと掴むと
至近距離からマシンガントークを始めた
「よし!丸く収まった!
それとゴメンゴ!ウルベルトくんが喜ぶって言ったのはウソ!
俺が個人的に親しみ込めてデミえもんって呼びたかっただけ!
『えもん』の名前が万能存在ってのはホント!
今度からちゃんとデミウルゴスって呼ぶからね!
あとモモンガの事は信じていいけど俺に関しては
真面目な時の言動以外は本気に受け取らないこと!
その場のノリと勢いで巻き込みキルしたりするから!
ホントに悪かった!メンゴリゴリゴリアイムソーリー!!」
「は、はい」
目を白黒させながら勢いに押されて頷くデミウルゴス
「欧米か」と反射的にツッコミを呟いたモモンガは
ジト目でオッサンの背を睨み下ろす
「巻き込みキルって初期の俺に対してもやった事ですよね
弐式さんも数え切れないほど巻き込まれてましたけど」
「ニシキって誰よ」
「いやいやサ終前に顔合わせて峰打ちPKしたじゃないですか
なんで弐式さんだけ覚えないんですか
ちゃんと挨拶してたでしょ俺の目の前で」
「龍が如くに出てくる錦なら知ってる」
「唐突なヤクザ要素」
「居そうじゃない?忍者みたいなキャラ」
「強いて言えば
サブイベントで神出鬼没すぎる真島吾郎……って
どうでもいいんですよその話は」
「ゴロ美でぇ〜っす☆」
「止めてくださいデミウルゴスが混乱しますから」
戸惑う内に話題が移り、跪いたままのデミウルゴスは
眼鏡を通して楽しそうにモモンガと会話するアイシテルを見つめる
つまりは”からかわれた”のだと理解し、苛立ちを覚えたが
それ以上に「親しみを込めて愛称で呼びたかった」という
飾りっ気のない真っ直ぐな言葉に戸惑ってしまった
ナザリックNPCの大半は、39番目を前にすると
萎縮してロクに動けないものばかりだろう
それほどに圧倒的強者に対する畏怖の念は強い
力だけならば至高の御方であるモモンガすらをも
超える境地に到達している存在なのだから。
先の会話から、セラ、コル、ソルと呼ばれる存在が
39番目に生み出されたという事実に愕然とさせられたが
一番最初に出てきたパンちゃん、という人物が
事の子細を知っているに違いないと検討をつける
(パンちゃん……)
十中八九、モモンガのNPC『パンドラズ・アクター』の事だ
特殊なアクセサリーを用いなければ立ち入ることすら出来ない
ナザリックの心臓部、宝物殿にそれは居る
39番目に生み出された三つの存在と共に。
(やらねばならないことが山積みだ)
頭の中でやるべき事リストを組み上げ直そうとした所で
二人は地表へ向けて歩き始める
その様子を見て急いで立ち上がり後を追いかけつつ
後ろに控えていた配下たちには
任務に戻るよう指示を飛ばしておいた
「モモンガ様、外出されるのでしたら護衛を」
追い縋るデミウルゴスに気づき振り返るモモンガ
「伴はラビだけで十分だ」
「モモンガ様はナザリックの主
護衛無しという訳には参りません」
「終焉の39番目が側にいるのだから
護衛と言うのなら彼だけで十分だ」
「ですが、ラビ様は……っ
せめて私の同行だけでも、どうか
伏してお願い申し上げます」
二人の前に回り込み
頭を下げて懇願するデミウルゴスの声には
分かりやすい程に必死さが滲み出ている
胸元に添え置かれた手が微かに震えている事から
なにかに怯えているようにも伺えて
顔を見合わせたモモンガとオッサンは
お互いに小さく頷き合い、デミウルゴスへと向き直った
「ついて来い、デミウルゴスよ」
「ありがとうございます!」
許可が下りると同時にぱっと笑顔を浮かべ
安堵に肩の力を抜くデミウルゴスを引き連れ地表へと出る
夜の散歩メンバーに守護者が加わったことに
若干の息苦しさを覚えたモモンガは
外へと一歩踏み出した次の瞬間
夜空に輝く満天の星々に目を奪われた
「……」
言葉を失った様子のモモンガに倣って
目元にかかるフードを僅かにめくりながら空を見上げたオッサンも
マスクの下で大口を開けたまま固まってしまい
布端をつまんでいた手の力が緩み、白いフードが背面に落ちる
と、同時に結い上げた髪を留めている紫色のリボンが揺れた
夜空を見上げ続ける二人の後ろに控えていたデミウルゴスは
薄暗い中で美しく輝く紫色に気づき、改めて二人の見た目をまじまじと観察し……互いが装備を変える前の色を纏っていることに「なるほど」と頷く
ナザリックの出入り口は、一見すると小さな遺跡だ
周囲の地面だけが不毛であるかのように草木が一本も生えておらず
そのお陰か、高い山脈と深い渓谷に囲まれた中心にあって
墓所の上空だけがぽっかりと空を覗かせており
周囲を囲む真っ暗な森の枝葉が
夜空を見上げるモモンガたちの視界を邪魔することはなかった
丸く切り取られた、満天の星空
「モモ、飛べるモモン持ってる?」
「あ、待って下さい
確かインベントリーに浮遊アクセサリーがあったはず
っていうか人の名前で遊ぶな」
「はよモモはよモモ」
「待って下さいってば」
先に行って下さい、とは言いたくなかった。
上空から見渡せば絶対に美しいであろう景色を
モモンガはなんとしてもアイシテルと共に堪能したかった。
その場で小さく飛び跳ねながら急かすオッサンにつられて気が逸り
インベントリー内を探る手が
早く空を見渡したい
「んもーじれったい!」
「あ?!ちょっ」
ほんの少しの時間も待ちきれなかったオッサンによって
インベントリーに突っ込んでない方の腕を取られ
空に向けて真っ直ぐに引き上げられてしまう
元の種族がレイスであったオッサンは
種族特性により常時浮遊状態と言っても差し支えなく
スキップが下手な理由も後ろ走りで失速しない理由も
そこに起因していた。
デミウルゴスは少し遅れて蝙蝠に似た羽を背に生やし二人の後を追う
ぐんぐん上昇し、ナザリックの墓所が
親指だけで隠せるほど上空まで来た所で
浮遊効果のあるネックレスを装着したモモンガも自浮して体勢を整え
周囲を見渡して即座に兜を脱ぎ去ると感嘆のため息を吐いた
見渡す限りの星の海
澄んだ空気に、足元には広大な自然
「……」
心地良い夜風を全身に受け、暫しの無言が続く
そうして壮大な自然の光景を十分に堪能し
感動しきった震えた声で呟くオッサン
「スターオーシャン、セカンドストーリー」
「異世界は異世界でもエクスペルではないと思います
まぁ、未開惑星に越したことないですけど」
「第二ミルチア」
「科学技術で駆逐される未来しかないじゃないですか
なんにせよ宇宙開発がされてない世界であってほしいですね」
「高文明の可能性も考えて
早急にこの世界の技術レベルを確認せんといかんね」
「頭が痛くなる話だな……
今くらいはこの大自然を堪能させてくださいよ、もぅ」
そこから更に数分、二人は
飽きる様子を微塵も感じさせず星の海を堪能し続け
一応の満足を覚えたモモンガはようやくオッサンへと視線を転じ
呆れた口調で尋ねる
「で、フェイズガンでも持って
神護の森でも探しに行くんですか?
……独りで」
目を向けたことでようやく脱げたままのフードに気づき
伸ばした手でフードを被し直して
外出するなら俺も連れてけ、と暗に訴える視線
おっかない威圧に肩を竦めたオッサンは「
「帰らんかったら鯖折りされそう」
「で、行くんですか?
俺を置いて、独りで」
責めるような口調の問いに
後ろに控えていたデミウルゴスがオッサンに向かって密かに身構える
そんな守護者の異様な変化に、会話に夢中の二人は気付かない
オッサンは冗談だろと言いたげにからからと笑った
「提督の息子じゃないからやめとくわ」
「提督の息子だったら行ってたんかい」
「そもそもこの星
どう見てもエクスペルじゃなさそうだし」
「見分けつくんですか?」
「地形が当てはまらん」
「判別基準がヲタク通り越してマニア」
「序盤でワールドマップに出て
方向キーとRボタンを押しっぱなしで固定して
グルグル回りながらエンカウントして
自動でレベル上げしてたからめっちゃ覚えてる
それとレベルアップの数値が仕様上ランダムアップで
レベルアップの度にリセマラして一番多い数値の時にセーブして
ステータスカンストキャラ育ててラスボスワンパンとかやってた」
「マニアな上にディープでコアだった」
「ユグドラシルに沼る前は
昭和と平成のレトロ三昧だったからねぇ」
「テルさんのゲーム知識ってSF系RPGに偏ってません?」
「言われてみればそうかも
でもSFのロボ要素は守備範囲外なんよ」
「オッサンなのにロボに興味がない、だと……?!」
「ヲタクすぎる先入観だなオイ」
「テルさんの場合は、機械よりも
血湧き肉躍る系の方が好きそうですもんね」
「そうじゃなきゃPKランカーにはならんし
対人推奨のユグドラシルにはハマらんかったよ」
「ロボが範囲外ってことは、もしかしてゴーレム系も?」
「プレイヤーじゃないゴーレムは興味ないよ」
「関心無いだけで、嫌いではなかったんですか」
「嫌いかもって思わせるようなことしたっけ」
「一時期、親の仇かってぐらい
るし☆ふぁーさんの作品をボロ雑巾のように
破壊しまくったことあったじゃないですか
他の階層の破壊行為も相当酷かったですけど
特に十階層のレメゲトンで、希少素材で作ってた
るし☆ふぁーさんのソロモンシリーズの最高傑作を
五体も破壊して」
「覚えとらんの」
「うそでしょ
あの事件の所為で皆がどれだけ阿鼻叫喚したと」
「ナザリックRTAにハマってた時に「ナザリックRTA」進行の邪魔だったギミックを
壁抜きの要領で対物突貫した記憶は何度かあるけど……
もしかしてソレかね?」
「るし☆ふぁーさんに会うことがあったら
その時にちゃんと謝ってあげて下さいね
当時は本当にガチギレしちゃってたんで
あと、その『ナザリックRTA』に関しては
後で詳しくお話伺いたいんで覚悟しておいて下さい」
「俺の過去の行いなんか掘り返したらキリないと思うぞ」
「ホント、よくフレンド切らなかったよなぁ俺」
「褒めて遣わす」
「やかましいわ」
「なぁモモち、このままちょっとだけ遠出しない?
せっかくだからウロチョロしたい」
「いいですね、行きましょう
……デミウルゴス、不可視化でついて来い」
「はっ」
短く張りのある声で返事をしたデミウルゴスは姿を消して追随する
「どこに向かいます?」
「ちと遠いけど
こっちやで〜」
オッサンは迷いのない動きで北西の方角に進み始める
「遠いって、どれぐらいですか」
「ざっくりだけど30キロ圏内
こんな夜中なのに結構な数がえらい活発に動きよる場所があるんよ
めっちゃ目立つわぁ」
「すごい感知能力ですね、それもエネミースキルですか」
「いんや、これは上位レイスの隠しクラス特性」
その言葉を受けて、反射的に背後に視線を向けてしまう
デミウルゴスはモモンガの視線の意図を察し
即座に二人の会話が聞こえない位置まで後退した
守護者が気を利かせ距離を取ったのを確認してから
改めて隣へと視線を転じる
「……不用意ですよ、そんな重要な情報」
「構わんよ、知った所で突破する手段なんぞ無いし……
《何者も死の目より逃れること
この世に存在する全てが俺にとっての抹殺対象よ」
「アンデッドもですか?」
「バッチリ補足☆
死して屍拾う者無しであろうと
『存在』はしとるからね」
「存在……というと、
「やっぱソコ気づいちゃう?
モモち察し良すぎでしょ、実は致命的な欠陥があってね
なんの武装もしてない素っ裸の
それでもマーキングさえしちゃえば種族関係なく
距離無制限で捕捉できちゃうんだけど」
「……
捕捉対象枠は?」
「100やね」
「多い……いや、少ない……?
完全にギルド規模を想定してますねソレ
キル後に自動解除されるタイプです?」
「希少種レイスの希少クラスが
そんなヤワなわけないじゃなーい☆
垢BANかデリ垢されるまで追跡可能よ」
「うわ、極悪……」
「ユーザー減ったら運営に弱体化されると思って
そこまでシツコイ使い方はしたことないんだけどね
実はこれ駆使して
100人ギルド壊滅達成した事あるんだよねぇ」
「知ってます
掲示板でも騒がれてましたから
一部対象外ありきでも強過ぎるスキルですね
サ終前に見かけた能力で《完全逃亡不可》っていう
凶悪スキルがあったのはボス特性じゃなくて
クラス特性に由来するものでしたか
……って、言っちゃっていいんですか
そんな大事な事まで」
逃走、ではなく逃亡。
どれだけ離れても隠れても標的になった獲物は
任意で解除されるかユーザーデータそのものが消えるまで
捕捉され続けるという事だ
「そこまで強力だと捕捉後のデメリット凄そうですね」
「お前さんどんだけ鋭いのよ
はいもう止めー、オッサンを丸裸にしようとするの止めー
これ以上は流石に喋らんぞ?
どうせならベドアルとかティアシャルをひん剥きんさい」
「止めてくださいよそういう事言うの
ナザリックのNPCは俺の大事な思い出なんですから」
「ンン……ギルメンの子供みたいなモンか?
じゃ、ナザリックはお前さんの家で、NPCは家族みたいなモンか」
「ええ、まぁそうですね
その表現が一番近いと思います」
「って事は、いずれは守護者もナザリックを巣立っていくんか
全部で80人くらいだっけ?送り出すの大変そうやねぇ……
モモンガ?」
唐突についてこなくなったモモンガの行動に気づき
後ろを振り返ると、そこには
胸を押さえて悶絶するモモンガが居た
オッサンは呆れたため息を吐く
「頑張って子離れしろよぃ」
「止めてくださいその話題は俺にキく……」
「先が思いやられるわこりゃ」
痛恨の一撃を叩き込まれ動けない様子のモモンガの腕を掴み
強制的に引き連れていくオッサン
引っ張られる間に、完全にいじけモードに入ったらしく
ブツブツと文句を呟き始めた
「今度はアイツらを見送らなきゃならないのか?
やだ……絶対やだ……ずっと見守ってやりたい……
万年先も傍に居てほしい……でも好きな子とか出来たら
結婚もするだろうし、ナザリック出ていくとか言われたら
……ああ、死ねる、気持ち悪い、吐きそう、もう無理死ぬ」
「想像だけで死のうとすんな
完全に娘を嫁に出すパパやんけ、乗り越えろ
避けては通れんぞ」
「そんな事言うテルさんは嫌いです」
「現実はいつだって厳しいのよモモちゃん
いーじゃない、万年先でも
おいちゃんがずーっと傍にいるんだから」
「いやだー!昭和ネタばっかり連発する
煽りスキルMAXのオッサンなんかいやだー!」
「ンまぁー!聞き分けのない子ね!
そんな事言う子には目の前で
二十四時間耐久サンバして分からせちゃうわよ!」
「それをされて何を分かれと」
「すごい事が分かるぞ」
「なんですかすごい事って」
「聞いて驚け
男の雄っぱいは、揺れる」
「……」
「……よく見るとケツも揺れる」
「……」
「……腹も揺れる」
「……」
「え?まだ揺れる部位がほしいん?
じゃあえーっと、顎の肉」
「……」
「まだいる?ほしがり過ぎん?
よし!唇でどうだ!
左右の激しい動きに後からついてくるくちび」
「死にたいんですね?」
「僕は死にましぇん!」
「ホント碌な事言わねェオッサンだよ!」
「あ、みてみてモモちゃん
目的地着いたで」
「あとで覚えてろよ
……なんか、とても騒がしいですね」
見下ろした先には小規模な村があり、殆どの家屋が炎に包まれ
村人であろう人々が逃げ惑っている
丸腰の村人を追いかけ、武器で襲い殺しているのは
全身武装したどこかの兵士たち。
襲う側は皆同じ格好をしているのでどこかの組織に属しているのだろう
女も子供も全て殺して回っている様子から
村人全員を皆殺しにするつもりのようだ。
「虐殺が行われているのか」
「人間がいるとどの世界もやることは変わらんのォ」
「そうですね……」
見下ろす先で沢山の人が殺されているのになんの感慨も浮かばない
まるでゴミか石ころでも見ているような自分に気づいたモモンガは
アンデッドという種族特性も影響しているのかもしれない、と
冷静に己の心理状態を分析した
隣で同じく見下ろしていたオッサンの言葉にも一切の動揺はない
「良かったな」
「うん?」
「村人があの生活水準なら
世界規模で見ても技術的に宇宙までは進出してない」
「ああ……そうですね、その点はホント良かったです
波動砲のある世界だったら
俺達に勝ち目はありませんでしたから」
「アムロ、いっきまぁーす!」
「は?!」
「さらば〜地球よ〜〜 旅だ〜つ船は〜〜〜
宇宙〜〜せ・ん・か・ン〜〜〜〜〜」
「ちょっ、待っ」
「ヤァ〜〜マァ〜〜トォ〜〜〜〜〜〜」
「いくら興味ないとしても
ロボ知識ガバガバ過ぎだろ!」
アムロはガンダムで戦艦ヤマトは古代進だよ!!と
叫ぶモモンガの制止を振り切り
燃え盛る村に向かって弾丸のように急降下を開始したオッサン
その後を急いで追いかけると
降下先が村のど真ん中な所為で更に焦った。
全身白基調の服装で目立ちまくって
着地直前にふわりと勢いを殺して降り立ったオッサンに
全てを諦めて虚無の心持ちで隣に降り立つ
背後で悲鳴を上げるデミウルゴスの声が聞こえたが
気の所為ということにしておこう
「うろ覚えですか
作品の混同がひどいです」
「宇宙でドンパチすんだから
同じようなモンでしょ」
「全然違うわ
ガンダムヲタクナメたら痛い目見ますよ
で、どーすんです?
考えなしにこんな所に降り立ったりして」
「とりま人助け、からの双方から基礎的な情報収集」
「情報収集ねぇ」
「極力善人ムーブしようや
『テル』と『モモン』は
人に紛れて遊びまくる予定なんだからよ」
「ユグドラシルでは徹底して悪役ロールしてましたから
これを期に英雄ロールしてみるのも悪くないですね
精々正義の味方を気取るとしましょうか」
デミウルゴスは上空で待機している
指示でもなければ決して手を出すことはないと思うが
無数の兵士たちに取り囲まれ始めていることだし
極力素早く事を終えるべきだろう
背に装備していた二本の大剣を引き抜きズッシリと構える
対するオッサンはというと
未だに悠長に両手をブラブラさせており構える素振りもない
「これ始めたのテルさんですからね?
ちゃんと最後まで責任持ってくださいよ」
「だいじょーぶ☆
いざって時は目撃者全員レベルゼロになるまで
キルし続ければいいだけなんだから」
「現地民に復活の概念があるかどうかすら分からない段階なのに……
もしかして、この場の全員捕捉枠に入れてます?」
「モチのロン!
情報を制すは世界を制す、即ち国士無双」
キリッとしたポーズで麻雀とかけて言い切るオッサン
炎に照らされながらシャッターチャンスを作ってくれているが
生憎とモモンガの両手は大剣で塞がっているので
キャプチャーは不可能だ
「言いたいだけでしょソレ」
「知識ゼロから成り上がるんだから
口封じは基本中の基本やで」
「英雄目指すならせめて情報操作って言いましょうね?
やだなぁ
人様から散々貴重品持ち出しといて
犯人自分ですってバラす人の言う『口封じ』とか
全然信用できない」
「人生楽しんだモン勝ちよ」
「軽く言ってくれますね、ホントにもう」
この会話の間、何度も兵士の側から遠巻きに囲まれた状態で
何者だの身元を明かせだのと怒号を浴びせられているが
総スルーしているので相手のフラストレーションは大いに高まっている
それでも踏み込んで来ようとしないのは
最低限、相手の力量を推し量れるだけの実力を有しているからか
若しくは、
姿が見えていながら全く気配を漂わせていないアイシテルが
ワールドクラスの化物であることを本能的に理解しているからなのだろう