「す……すごい……」
「流石、対人戦におけるトップランカーを維持してきた方だわ
至高の御方々すらも幾度もキルされてきたという話だし
ナザリックの敵にだけは回したくないわね」
「アルベドぉ、まだそんなコト言ってるの?
ラビ様はモモンガ様に下ったって結論出た筈でしょ」
「最悪の事態を想定しておくのは
守護者統括として重要なことよ」
談話室にて
宙に浮いた大きな鏡を覗き込むのは階層守護者と執事長セバス
鏡が映し出す光景はモモンガとラビが人の住む村で人助けをしている様子だ
ラビによって襲撃者が尽く制圧される姿に守護者全員が見入る
「ラビ様の攻撃モーション、見えたヤツいる?」
その問いに応えを返す者はいない
皆一様に厳しい表情を見せ、同じ人物の話題が続くさまに
ウンザリした様子のシャルティアが面白くなさそうにぼやいた
「ところで、何故デミウルゴスだけが帯同を?
不公平すぎるでありんす」
「納得デキヌ」
「抜け駆けだよねぇ」
「戻ってきたら、少し話し合いをするべきね」
「えっと、ラビ様の帯同はいいんですか……?」
マーレの指摘に再び黙り込む守護者
シャルティアはまたも話題が戻った事に
とうとう会話への参加を拒否する姿勢を見せ
アルベドが心底悔しそうに言葉を捻り出す
「マーレ、
「ど、どうしてですか?」
「それは……認めたくはないことだけれど
彼の存在は私たちでは手も足も出ないほど圧倒的な強者だから」
「そーそー、多分モモンガ様と同等か
それ以上の『プレイヤー』が束になってかからないと倒せない相手ってコト
そんな事ぐらいアンタだって分かってんでしょ?」
「我々ニ挑ム権利ハナイ
ソノヨウニ出来テイル」
「我らNPCの基盤……今ではそれが非常に息苦しく感じますが
こればかりはどうすることもできませんね」
「基盤、かぁ……無機質な響き
アタシはあんまり好きじゃないなぁ」
「じゃ、じゃあ
デミウルゴスさんが戻ったらみんなで締め上げないと、ですね!」
「あら、ようやく分かりやすい話になりんしたわね
そういう事なら大歓迎でありんす!」
「ああ?!ちょっと見てよ!
ラビ様がモモンガ様の頭を殴った!」
「なんですって?!」
「コレハ許サレナイ……!」
「今すぐにでもモモンガ様の下に!」
「みな待ちなさい
帯同を許されているのはデミウルゴスのみ!
守護者である我らが勝手にナザリックを離れるわけにはいきません」
「でもアルベド!」
「よく見なさい
モモンガ様がデミウルゴスに指示を出しているわ
今この瞬間も至高の御方は施策を巡らせ行動している……
我らがその邪魔をするわけにはいかないのよ」
「そんな事……アタシたちに言ってくれれば
なんだってやるのに」
「そうね……でも、思い出してみるといいわ
デミウルゴスの、ナザリックでの本来の役目を」
「えっと、確か有事の際の防衛指揮官……だったっけ」
「そう、このナザリックにおいて防衛の中核を成し
最も残忍で冷酷な本性を持つ悪魔をあえて帯同させ
わざわざ人間の村を救う状況を実演してみせた……
これがどういう意味か、理解できるかしら」
「まわりくどいでありんす
ハッキリ言いなんし」
「我らNPCに対する可能性の模索、でしょうか」
「その通りよ、セバス
モモンガ様は私たちの進化を望んでいらっしゃるの
39番目を手中に収められたのもおそらくその為」
「尤もらしく言ってるけど、根拠はあるの?」
「まだ分からないの、アウラ
デミウルゴスは本来、慈悲も情も持たない悪魔
その存在に慈悲と情の有用性を説き
我々の選択の幅を広げようとして下さっているのよ」
「基盤カラノ……脱却」
コキュートスの言葉にセバスがゆっくりと目を見開く
「それは、素晴らしいお考えですね」
「我らをただのNPCに留めてはおかないという
創造主モモンガ様の望みに被造物の我々が応えないなど
あってはならない事よ」
「モモンガ様……私達のことを
そんなにも深く考えて下さってるなんて
嗚呼!流石は我らが創造主っ 痺れるでありんす!」
「そういうワケだから物事には順序があるの
焦ってはいけないわ」
守護者たちが平静を取り戻し一息つく間
鏡の中ではカルネ村に向けて進み続ける馬車の行列が映し出されている
ナザリックに帰還したデミウルゴスが待ち受けていた守護者たちによって散々にもみくちゃにされる数十分前のやりとりだった。
その後はデミウルゴスが受けた指示に従い
目利きの利くNPCを召集し持ち帰った襲撃者の物資の確認作業をしつつ
荷馬車から出てきたこの世界の周辺地図の複製を作成し
誰がモモンガの下へ届けるかという主権争いが勃発し
創造主が行っていた多数決に則っることになった訳だが……
話し合いに話し合いを重ね数度の多数決を経て
再度デミウルゴスが権利を勝ち取った頃には
夜中だったはずのナザリック上空は朝と昼を通り越して茜色に染まっていた
*****
「テルさん、どういうつもりですか」
時はガゼフとの手合わせを中断し
折檻と称して”人気のない場所”にオッサンを連れ出したばかり。
その”人気のない場所”とは、カルネ村の外れにある丘の上
村全体を見渡せるそこに立つのはモモンガとテルだけだ
ほどよい風に吹かれ、村を見下ろしてから覆面のまま振り向いたテルの声は
折檻、と称して連れ出されたにしては楽しそうに弾んでいる
「恋人宣言のコト?
いいアイデアじゃな〜い」
「どこがですか」
「故郷の掟でお互いしか顔や肌を見せ合わない
恋人同士だから英雄として有名になっても女関係で煩わされることもない
顔が見たいとシツコク詰め寄られても恋人にしか見せません、で押し通せる
多少怪しいやりとりをしてても恋人だからで済ませられる
……良いこと尽くめだろ?」
「それは俺も思いましたけど」
「もしかして女の子にちやほやされたかったのか〜?
そんだけ立派なガタイしといて女避けすらしなかったら
十中八九『顔が見たい』とか『抱いてほしい』とか言われちまうぞ」
「分かってますけど
顔に関しては幻術魔法をかけてもらえればどうとでもなります」
「……幻術看破できる奴がその場に居たら
アンデッドってバレて
「……それも、分かってますけど」
「……」
「……」
「……はぁ、分ぁかった
お前さんが不満タラタラなのは十分に理解した
悪かったよ、相談なしに勝手なこと言って
恋人だってのは冗談だってちゃんと訂正して回っとく
代わりになりそうな言い訳はお前さんに任せるわ
村の連中と兵士さん方はウマいこと言いくるめといてくれや」
疲れた様子で肩を落としながら言うテルの不貞腐れた態度に
焦燥を覚えたモモンガは、己に背を向けて
村に向かおうとした肩を掴んで無理矢理に振り向かせた
「違います!そうじゃなくて!」
「なに、だから悪かったって」
「こっ……恋人同士っていう提案を不満に思ったんじゃないんです!
俺が不満に思っていた点は
今謝ってもらったのでもう構わないんですけど
今度から、こういう大切なことは事前に話しておいてほしいんです
当事者である俺が戸惑ってたらおかしいでしょう?
だから、俺が狼狽えないように前もって話して下さい
俺のことを考えて提案してくれるなら、尚の事知っておきたいんです」
「あ、そ、そう?」
「さっきだって、最初から分かってたら、こ、こ、
恋人として!もっと気の利いた切り返しができたと思うんです
テルさんのために、俺だって役に立てたかもしれないのに……
こんな、守られてばっかりみたいで、悔しいんですよ!」
「お、おう、さよか」
「俺は役立たずですか?!
頼りになりませんか!!」
「んなワケねーだろ!
めちゃくちゃ頼りにしとるわ!」
「だったら!
俺が関わることならちゃんと事前に打ち合わせしましょう!
テルさんの提案はこれまでの殆どが最適解でしたし不満もありません!
これからはこっ…恋人な間柄として振る舞う事になるんですから
余計に!報連相は大切に!」
「……せ せやな、相談……大事よな?
ほんとにごめんな?勝手に先走って……メンゴリ〜?」
「ちゃんと悪いと思ってんですか?!」
「思ってる!思ってるってば!ごめんて!」
「ならよし!許します!」
「……あ、ありがとやで」
フン、と鼻を鳴らして胸を張るモモンガの勢いに気圧されたオッサンは
唖然としつつも徐々に背を丸め、肩を震わせ、最後には笑い出した
「っは……!うは、うははは!!」
「なにわろとんねん」
「いや、だって、モモン……っ
お前さんホント
「格好いいって言ってもらえます?
モモンの時は英雄然としたクールキャラで行こうと思ってるので」
「
「当たり前じゃないですか
この体になった以上、エターナル童貞フレンズなんですから」
「エタ……違いねェわ!うはははは!」
「というわけで、振り回された仕返しも兼ねて
一発かましておきますね
やられっぱなしは性に合わないんで」
「へ?」
思いがけぬ宣言でオッサンが呆気に取られた瞬間
がしーっ!と勢いよく顔面両サイドを両手で掴まれたかと思えば
黒の甲冑が視界いっぱいに広がっていた
白の覆面と黒の兜ごしに口部分が力の限り押し付けられ
モモンガの背後から「きゃあ!」と黄色い悲鳴が複数上がる
他の村を救った英雄に目通りたい乙女たちが尋ねてきたのだろう
その声に後押しされるように
顔を掴んでいたモモンガの腕がテルの背に回され
絞め殺さんばかりに抱きすくめられたことで両足が浮いてしまった
モモンガのガタイはテルよりやや大きい
年下の可愛い後輩に全身を包まれるように抱き締められ
濃厚なキスシーンを演出させられたオッサンの矜持は
この一瞬でプレス機にかけられたようにペラッペラに押しつぶされた
色々と倍返しされた気分に納得がいかないオッサンだったが
気付かぬ内にモモンガの矜持を傷つけていたのだ、と
気付いたばかりだった事もあり甘んじてその咎を受け入れるべく
観念したように黒い甲冑に覆われた首に両腕を回し、抱擁を返したのだった
場所は村を一望できる丘の上
当然、村からもその丘を仰ぎ見ることは可能。
放浪人二人のやりとりを目撃したのは
モモンガの背後にいる乙女数人だけではなく。
物資選別の作業に従事していた王国兵が眉を顰めて指さした
「うへぇ、見てくださいよ戦士長
ほら、丘の上の」
「どうした?……ああ、彼らは本当に仲が良いのだな」
「あの野郎ども白昼堂々と……
もっと人目を憚ってほしいモンッス」
「見せつけてくれますねェ」
「一線超えなきゃナニしてもって言ってましたけど
絶対一線超えてますよあの二人」
他人のいちゃいちゃ程見ていてげんなりするものはない
幾分かテンションがガタ落ちした兵士に混じって
複数名が興味深そうに観察を続ける
「うわー、めちゃくちゃアツアツですねぇ」
「あの白覆面の人、あっちの知識に詳しそうだったな」
「俺、ちょっと興味あるんだけど」
「襲撃の目撃者として王都まで同道するんですよね?
道中で話聞けるなら聞いときましょうよ」
「うんうん、何事も見聞を広げるのは悪い事じゃないしな」
男所帯の騎士団ではさほど珍しくない男同士の話題。
そんな部下たちの言動は勝手にすればいいとは思うものの
「すんなりと聞き出すのは不可能だろうな」とガゼフは考える
再度見上げた丘の上では強く包容し服越しにも構わず長く唇を貪り合う二人
特に黒のフルプレートの御仁は独占欲や嫉妬心が大きいように見受けられた
お互いしか肌を見せず、お互いだけに素顔を晒す。
それだけでも異常すぎるほど徹底された関係だと言うのに、その上で
ほんの少し猥談に興じただけで即座に止めに入り
腹の底から響くような怒気を纏わせ恋人の隙を咎めた男の目がすぐ近くにあるのに
部下たちの好奇心が無事で済むとは思えない
「話を聞くくらいなら大丈夫だとは思うが
モモンどのの機嫌を損ねないようにな」
「おら野郎ども〜戦士長の忠告は聞いとけよ〜
見ての通り、黒い御仁は相当心が狭いみたいだからな〜
あの大剣で『こんな風に』串刺しにされたくなきゃ
引き際見誤んなよ〜〜」
と、部下の一人が間延びした警告をしながらその手に掲げたのは
大剣に貫かれた跡が生々しく残っている血まみれの胴甲冑
襲撃された村で人助けをした際
モモンガが最初に剣を投擲し貫き殺した、どこぞの兵士が身につけていた防具だ
ソレを見た王国兵たちが背筋を震え上がらせ顔を青くさせて黙り込む
これ以上にない警告を発する部下の有能さに
ガゼフは乾いた笑いを零すしかなかった