「ふふふふ」
「……」
「クックックックッ」
「……」
「ハーッハッハッハッハッ!!」
「英雄ロール中に悪役ムーブは控えて下さい
何かあったんですか」
「ちょっとちょっと聞いてよモモすゎん!
今、野営地に置いてきた眷属越しに
兵士たちの会話を盗み聞きしてるのよォ
そしたらね、」
「有益な情報でもありましたか」
「せっかく井戸端調に話してんだからノりなさいよォ」
「何か、有益な情報でもありましたか」
意思表示として台詞を繰り返しつつ物騒な気配を放つと
オッサンは即座に降参を示した
「フザけすぎてメンゴリンゴ☆」
「可愛くもなんともないのでいちいちポーズつけないでください
それで?」
「お前さん、獣相手には負け無しの元奴隷剣闘士とか言われてるぞ」
「失礼極まりないですね
何をどう考えたら人のこと奴隷とか思えるんだか
……テルさんの事は?」
「どっかの国のやんごとない身分のお人、だとさ」
「解せぬ」
「うははははっ
……失礼極まりないってのは同感だ
好き放題言いやがって」
カラッと笑っていた時と打って変わり
不機嫌な声音でレイス特有の冷気を足元から漂わせ始めるテルに
呆れ目を向けるモモンガ
「娯楽が少なそうな世界ですからね
ゴシップで愉しむ事に余念がないんでしょう
いいじゃないですか
俺と違ってテルさんはイイトコの坊っちゃんだと思われてるんですから」
「リアルとの落差が腹立つ」
「それ言うなら俺だって社畜でしたよ
ははっ 社畜もある意味奴隷なんで
彼らの推測もある意味で当たっ」
「言うに事欠いて『奴隷』とはな
あの連中、英雄ロールしてなきゃとっくにキルってる所だ」
「……」
これ以上言わせないといわんばかりに言葉を被せるテルの様子に
モモンガは改めて目を見張た
いつも楽天的でフザけ散らかしていて真面目なんて下手に出るときぐらいしか見せないアイシテルが本気で怒っていると気付いたからだ
(珍しい光景だな)
という感想を抱くと同時に、これほど明確に怒った場面など
見たことがなかった事実にも気が付き更に驚愕する
(物凄いレアケースじゃないか
テルさんでもこれほど怒ることあるんだ
しかも怒ってる理由が俺って……いや待てよ?
戦士長と手合わせした時に飛ばされた野次に
ちょっとだけど怒ってくれたのも
今と同じで俺が原因だったような)
なんだか無性に気恥ずかしさを感じ兜の上から片手で口元を覆う
馴染みのない面映さに戸惑っている相棒の心情などこれっぽっちも察してないアイシテルは、口元を覆ったモモンガのリアクションを見て戸惑った
「えっ、何、気持ち悪い?
とうとう『つわり』が来たか」
的はずれな指摘に、心を擽っていた面映さが消え失せ
モモンガは残念なものを見るような眼差しを相棒へ向ける
「とうとうってなんですか
スケルトンに単為生殖機能なんてないでしょ」
「わからんだろうが」
「何を以てそこまで真剣な眼差しで可能性を示唆できるんだよフザけんな」
「なんか情緒不安定っぽいし」
「アンタの所為だが?」
「今いる場所…カッツェ平野ではアンデッドが発生するらしい」
「ああ、はい
「”あの中”にもお前さんの子供が生まれてる可能性 あいたぁ!!」
「自然発生っつってんだろうが」
あの中、と指し示された先には
地面からぼこりぼこりと生まれ出るアンデッドや
地面からぬるりぬるりと姿を表す半透明レイスの姿が。
二人の周囲に突然モンスターが出現し始めた原因に
直感ではあるが気付いていたモモンガが
指導を入れたばかりの手でそのまま足元を指差し指摘する
「テルさん、足元から出てる物騒な冷気を仕舞ってください
その辺のレイスやアンデッドが呼び寄せられてるように見えるんで……
今起こってるこの現象、多分テルさんが原因じゃないですか?
何かスキル発動してません?アンタの子供たちの可能性は?
認知はするんですか?童貞の分際でワンオペなんかできるんです?
処女生殖成功なら大いに寿ぎ申し上げますけど
片親の過酷さを甘く見ないほうがいいですよ
俺は絶対に手伝いませんからね一人で地獄見て下さい」
「待って待ってもーごめんてそんなポンポン言わんといて!
今確認してるから……うげ!?
このスキルもパッシブになってんのかよもォー
ずっと発動してないからてっきりアクティブかと思ってたわ
オフれねーわ」
「どういう効果なんです?」
指摘を受けて自分の状態を確認したテルが
声音だけでも分かるほどに表情を歪めて苦々しく回答する
「お前さんが持ってる精神沈静化スキルと似たようなモンだ
……共鳴《-ミストロケーション-》
ネガティブな感情に反応して発動するって説明になってる
ユグドラシルでは自分の種族レベルより下位の同系種族を呼び出せて
効果範囲内にいる全ての『生物』を攻撃対象にするんだが
呼び出した連中は勝手に暴れるから使い勝手は最悪だったな」
「隠密主体のテルさんからしたらずっと腐ってたスキルですね
でもこっちで使えば多分、雑魚敵処理にはかなり便利なパッシブで……
……ん?
最上位の種族レベルより下位?」
「せやで」
肯定の意で頷いたアイシテルは
口元に片手をあてカタカタと震えだし明らかに青ざめた雰囲気を醸し出すモモンガを見て首を傾げる
「どぃた?」
「……て、テルさんの種族って、ワールドエネミーの
《トータル・ジェノサイド》しかないですよね?
ワールド・エネミーの下位って
殆ど全部のモンスターの事なんじゃ……」
相棒が危惧する事態に気付いたアイシテルは
HAHAHAと笑って考えすぎだと肩を竦めた
あのクソ運営が急ごしらえのサイレントアプデで
スキルひとつに至るまで細かな調整を行っている筈がない
真実、ワールドアイテム複数所持解禁に伴い
PK禁止を言い渡された点を鑑みても実装されている可能性はゼロであろう
「結構いい加減な実装だったから
細かいスキル系にまで反映はされてないだろ
ホラ、呼び出されてんのも
殆どが下位のレイスやスケルトン……」
と、見渡したテルはある方角でビクリと肩を跳ねさせて身を凍らせる
釣られるように同じ方角に視線を滑らせたモモンガの視界の先には
おどろおどろしい気配を放つ超大型のドラゴンゾンビだとか魔王一歩手前の高位悪魔だとか、レイド級の巨大スカルゴーレムだとかが、それぞれの魔法陣から頭頂部を覗かせつつ、た〜っぷりと時間をかけて、の〜っそりと姿を現そうとしていた
「「うぉぁぁぁあああ!!!!」」
流石の二人も焦りに焦る
ボスキャラのように満を持してお目見えしようとする高位魔族やら魔竜ゾンビやらをモグラ叩きの要領で上から連打で叩きつけ地に還れと念を込める、すると
必死の祈りが天に届いたのか、頭頂部にタンコブをこさえまくった上位モンスターたちは目に涙を浮かべながらも何も言わず魔法陣に沈み、その非道極まる一部始終を見届けた下位のアンデッドもこそこそと地面に潜り、下位のレイスに至っては見てはいけないものを見てしまったというショッキングなリアクションと共に泣きながら空気に溶けて消えた
荒い息を吐きながら静けさを取り戻した周囲を確認したテルが肩を落とす
「なんか……すげぇ申し訳ないことした気分……」
「そりゃそうでしょ……一方的に呼びつけておきながら
召喚者本人から頭タコ殴りにされて還されてんですから」
「アタシってばとんだパワハラ上司じゃないのォ
次に呼んだ時はきっと来てくれないわぁん」
「内股でウネウネするの止めてください」
「失敬な、いつも通りだろうが」
「全身黒タイツとは見た目のインパクトが大違いですよ
格好が見慣れてない所為で気持ち悪さ倍増なんです
そんなんで『ラビ』と演じ分け出来るんですかホントに」
「あぁん、いつになく辛辣ゥ
流石の俺も涙が出ちゃう、だってオトコノコだもん」
「男ならアタックナンバーワンじゃなくて巨人の星にしてください」
「ぼぉくの こ、ころはぁ〜 ひび割〜れたビ・ィ・玉さぁ〜」
「アンタの心にひび割れる情緒なんてないでしょーが」
歌われて思い出したのは、野営地で強制膝枕されて覗き込まれた際
アイシテルの透過した瞳に骸骨の己が映り込んだ光景
レイス自身は実体化しない限り反射物には一切映らないのに
透過状態のレイスの瞳に姿が映るのはなんとも不可思議な現象だ
「ステェ〜イ ウィ〜ズ みぃ〜」
「そろそろ黙れ
賊の根城、あそこが出入口じゃないですか?」
「えーもぅ着いたの?
こっからが聴き応えのあるサビなのに」
「キンキといえば銀狼怪奇ファイルの印象が強いんで
それの主題歌しか思い出せませんね」
「ミッドナイトシャッフルはそもそもキンキの曲じゃないぞ」
「そうでしたっけ?
ドラマの方は主人公の人格が変わる時の演出が印象深かったです」
雑談を続けながら忍ぶでもなく安易に賊の塒の出入口に近づいていく二人
そこへ岩窟から出てきたのは見るからに俗っぽい身なりをした男が三人
「テメェら何モンだ?」
「死にたくなきゃそこを動くな」
「めんどくせェ、とっ捕まえて目的吐かせるぞ」
「人格変わる演出って、背景がチカチカするヤツか
相方のほうが金田一少年の事件簿の主演やってて
ツヨシ派とコーイチ派で競い合ってたっけ」
「ポケビとブラビもそんな感じでしたね」
「昭和平成のバラエティはどれもスゲー面白かったよなぁ」
「百年以上も前なのに
未だにレジェンド扱いで再放送されてたりしますからね」
賊の根城を目の前に緊張感のない会話が繰り広げられる
襲いかかってきた賊の力量はプレイヤー二人には到底及ばず
片手で往なされ派手に回転し、地面に激突して気絶した
相手を無力化すると同時にアイシテルのスキルが賊の身ぐるみを剥ぎ
三人は瞬く間にすっぽんぽんとなって土の上に転がってしまう
パンツ一枚の慈悲すらない
「話戻しますけど
共鳴のパッシブスキルはもう少し検証が必要そうですね」
「おう、さっきは酷い還し方しちまったが
俺の希望通りに還ってくれたのは事実だからな
召喚主の意図に従ってくれるならかなり有用なパッシブだ
焦ったわ〜あれら全部相手せにゃならんかと思った」
「99オフサイドが眷属に効くなら倒すのも楽でしょうけど
細かい指示が通るなら
相当凶悪なスキルに進化してるって事ですからね
しかし問題は、」
そう、問題は。
念を押すように前置きしたモモンガに肩を竦めて応えるオッサン
「俺ってばネガティブになりにくいのよねェ」
「ですよねー……でも有用性は高いので
頑張って怒ったり泣いたりしてみましょう」
「ふむ……
激おこファイナリアティぷんぷんドリーム!!」
「……あのですね、テルさん」
「しょぼんからのぴえん通り越してぱおん」
「詠唱じゃないんですから」
「ぷん!ぷんぷんぷんぷんおこおこぷん!」
「にこにこぷん、みたいな言い方やめましょう」
身振り手振りでやかましくネガティブを表現しようとしているが
やってる事は既に創作ダンス。暫定盗賊のアジトを前に裸の男三人が転がっている中で行われる独特の踊り。
見てくれは怪しさ満載の儀式だが生憎とそれを止める者はいない
よってアイシテルは再現なく叫び続ける
最終的にはピン芸人の一人漫才までやり始めたので
モモンガは少々の距離を取り
見も知らぬ他人であるかのように冷めきった視線を注ぐ。
繰り返される奇声悲鳴雄叫びの所為で
当然と言えば当然だが岩穴の奥から何事かと賊が姿を現わし
パッシブスキル発動を試みる合間に転がされ
ひとり、またひとりと裸一貫にさせられていく。
二人が通った後には気絶した裸賊しか残らない
道すがらの部屋も余すことなく全てを確認し
物資から食料から何もかもが二人のインベントリーへと消えていき……岩穴の最奥へと辿り着いた頃には
ほどよく温まった懐に、ほどよく上機嫌になった二人がいた
「今回の拠点はアタリだったな
結構溜め込んでくれてたお陰で懐ポカポカよ」
「マジックアイテムがあるのはラッキーでしたね
ポーションもあと少しで100本いきますよ」
「そんで、待ちに待った本命は目の前、と」
「一番価値あるものは最奥にってのがセオリーですもんね
最後まで油断せず行きましょう」
楽しげに話し続ける二人の正面には子鹿のように震える賊が十数名
ちなみに背後には裸のオヤジが何十人も白目を剥いて転がっている
挑んだ者全員が裸一貫に剥かれ気絶させられている現実を前に
まだ人としての尊厳を保っている賊の一人が吠えた
「テメェら、一体なんなんだ!!」
悲鳴の如き問いかけに、雑談に興じていた二人が一瞬だけ黙り込み
白い覆面男の方が徐ろに両腕を組んで胸を張り
威張り散らすように仁王立ちをキメる
「なんだかんだと聞かれたらァ?!」
「はぁ……答えてやるのが世の情け」
テルの遊びに渋々付き合う
同じく仁王立ちして腰に両手を添え決め台詞を繋ぐモモン
「世界の破壊を防ぐため!」
「世界の平和を守るため」
「愛と真実の悪を貫く!」
「ラブ・ミー・テンダーな敵役」
「待ってモモちゃん台詞違う
それじゃあ愛嬌ヴィランじゃなくて聖母ヴィランになっちゃうから」
「襲い来る悪を生まれたままの姿にしてあげてるんですから
聖母でもいいじゃないですか」
「育ちきったオッサンをバブらせる気はサラサラねーよ?
見ろよアイツらのきったねェイチモツを、聖母も裸足で逃げ出すわ」
「後ろの地獄絵図はアンタの所為でしょうが
ホワイトホールでしたっけ?白い明日が待ってるといいですね」
「無理くり締め括らんといて?」
またも雑談に興じ始めた二人の侵入者を前に
舐め腐るのも大概にしろ、と叫んだ一人の賊が飛び出すのを合図に
残った賊の殆どが一斉に攻撃を仕掛けたものの瞬く間に制圧され、他の賊同様身につけていたもの全てが一瞬にして消え失せた
そうして無様に転がるすっぽんぽんの男ども。
そんな光景を前に
まだ尊厳を保っている男、ブレイン・アングラウスは
腰に佩いた剣を即座に抜刀できるよう身構えたまま冷や汗を流す
(無理だ、コイツらには勝てない)
二名の襲撃は余りにも唐突だった
武器持ち相手に無手での制圧というだけで実力差は火を見るより明らか。
武の研鑽を積み、名のある大会で上位にまで食い込んだことのあるブレインの力量を以てしても決して敵わない高みに立っていると分かる。
間合いに入るや否や素早い身のこなしで相手を転がし
地面に激突すると同時に気絶して素っ裸になる者たち。
何度目を凝らして見ても何をされているのか分からなかった
そもそも何故素っ裸になるのか、意味がわからない。
得体の知れない力を操る侵入者が殊更不気味で恐怖を煽られる
「さて、あれだけ湧いてた賊も残り一人だな
これが終わったらウキウキ物色タイムだぞ〜」
「パンツは捨てて下さいね
できれば下履きも」
「パンツと靴だけ残してあげるの?
……モモの性癖がニッチでおいちゃんフクザツ」
「変な解釈止めてもらえます?
前回のアイテム整理で懲りただけです
今回の獲得物の整理もどうせ手伝わせるつもりでしょう?
他人の下着を触るの嫌なんですよ……インベントリーも臭くなりそうだし」
「洗濯物を一緒にされたくない年頃の娘みたいな事言っとる」
「年頃どころか、大半が嫌がるでしょ
むしろ抵抗がないアンタの方が異常ですよ」
「……ああ、うん、まぁ……そっか、
何かを思い出すように物思いに耽り一人頷くアイシテルは
汚染物質飛び交う戦場にて限られた物資を用いて散々に医療行為を行っていた軍属時代を思い出していた
使い古された包帯よりも身につけている下着の方がよほど清潔だった世界だ。
その時の価値観が基礎となっているオッサンにとって
モモンガの指摘は青天の霹靂に等しい気付きだった
「よし、じゃあパンツと靴は置いてこ」
「汚れた布全般も省いといて下さいね」
「汚れは洗えば落ちるだろ
村の人たちも衣料品は喜んでたし
また立ち寄った時にでも寄付すれば……」
「前のは兵士の服で比較的質も良かったですけど
今回はそもそもグレードが異なるんですよ、野盗ですよ野盗」
「うっ……でもホラ、比較的綺麗だったし……」
「テルさんって結構な『もったいない星人』ですよね」
「そんな高尚なモンじゃないよ、貧乏気質が板についてるだけだ
前のより粗悪なのは理解してる、だったら
粗悪なりに雑巾にするとかできるだろ?
荷物になるほどでもないから……な?」
もじもじと肩を寄せて低姿勢に様子を伺うテルの態度は真面目モードだ
強奪物資ではあるが、他者に寄付する前提の行動に
誰が困るでもなし、まぁいいかとため息を吐いたモモンガも了承に頷く
「テルさんの気が済むなら、それでいいですよ」
「じゃあパンツと靴も」
「それはばっちぃから駄目です」
ぴしゃりと言い切られ、「うぬぅ」と唸るオッサン。
雑談も一区切りした所で改めて最後の一人へと向き直ったモモンガは
視線の先にあった光景に思案する素振りを見せた
そこには、武器を足元に置き
両手を上げて降参の姿勢を見せる男の姿があった
「……どういうつもりだ?」
「見ての通り争う気はない、見逃してほしい」
「テルさん、どうします?」
「コイツも手配書にない顔だ、捕まえても金にならん
賞金首って意味ではここはハズレだったな」
「じゃ、見逃します?」
「せやね、どーせなら懸賞金かかってからゲットしたい
そこの君!早くビッグになりたまえよ!」
「犯罪からは足を洗う!もう二度と悪さはしない!」
「って言ってますけど」
「むぅ〜」
「むぅって」
いい歳して頬を膨らませた幼子のようなリアクションをとる白覆面に
軽く笑い声を響かせる黒甲冑
僅かなやり取りでも二人の仲の良さは窺えるが、逃げる隙は見当たらない
悟られぬよう武技《能力向上》で身体能力を強化するが
それは戦うためではなく逃走に全力を注ぐためだ、しかし
「ん?君、武技使えるん?」
白服の唐突な指摘が身体強化を行ったタイミングだった事もあり
敵対行動と捉えられかねない状況に怯えたブレインは
両手を上げただけの体制から両膝を突くまでになった
「ちがっ 違う!攻撃の意思はない!
誤解しないでくれ!」
「うん、で?武技使える?」
「つ、使える」
「
「わ からない
持っているのではないか、と 言われたことはあるが」
(なんだ?この白覆面は何が言いたいんだ)
困惑しはじめるブレインをよそに白覆面は喜んだ
「おおっ!アタリやでモモやん!
カタギになるって言ってるし、連れてこっ」
「いやいや、信用しすぎでしょ
もし裏切ったりされたら」
「……されたら?」
「……
なんの心配もいりませんね」
「せやろ?」
「はぁ……折角のデートなのに」
「うはは!言うに事欠いてボヤきがソレかい!」
バシッと甲冑の上から背を叩かれたモモンガは
少しヨロめきつつ不満げにアイシテルを見るが
相手は既に軽い足取りで降伏した男へと歩み寄っている所だった
「俺の名前はテル、んであっちがモモン
君の名は?」
アニメのビッグタイトルをパロるな、と
不満顔のまま呟くはモモンガである。
「俺は、ブレイン……
ブレイン・アングラウスだ」
「ブレインくんだな、よし覚えた!
俺達これから首都に向かうんだけど一緒に来るか?」
「……」
思いがけぬ申し出に目を丸くしたブレインは思考をフル回転させる
当人の前で裏切りがどうのと話している割には危機感がない
それほどの実力差がある事は理解した
根っからの武人であるのが災いしてか、その時のブレインは
正体不明の実力者の力の詳細を知る機会に恵まれたことを理解し
突拍子もない申し出が途端に魅力的に思えてしまった
故に、乗りかかった船とばかりに同乗を申し出ていた
「新しい仕事も見つけなきゃならないし
迷惑でなければ、同行させてくれ」
あわよくばこの道中で二人の強さの秘密を探りたい、と
胸中に身の程知らずな欲望を秘めて。
「じゃあ、今回見逃してやる代わりに
君自身のこととか、この国について
色々話を聞かせてもらおうかな」
「お、俺のこと……?」
「どこで生まれ育ったか、とか
これまでどういう風に生きてきたか、とか」
「傭兵団とはいえ
野盗くずれに身を落とすようなクズの半生なんざ
とりたてて話せるような事は何も」
「えっ ここって傭兵団のアジトだったん?」
「ああ、いや、あくまで表向きだ
最近は実入りが少なくて賊のようなことばかりしてたから
犯罪者も同然ではあったんだが……
なんでこうなっちまったんだか」
「なるほど、それで賞金首が一人もいなかったのか
モモちゃーん、回収終わった?」
あさっての方角に声掛けするテルにつられて
もう一人の侵入者モモンへと目を向けたブレインは我が目を疑った
山程積み上げられていた筈の傭兵団の財産が
一つ残らず姿を消していたからだ
「は、あ?一体何が」
「どした?」
「そこに積んであった物資や食料が……」
「おっと、インベントリーの概念無しか」
「いん、べんと?」
「もう二度とここには戻らないんだから身軽な方がいいだろ?
それとも、ここで親しくしてる奴でもいるのか?
誰か連れていきたいのか?」
「ああ、いや……ここの連中とはただの顔見知りだ
連れていきたい奴もいない」
「そうか、じゃあ着の身着のまま
今から首都に向けて出発しても問題ないな
モモ、隠し通路通ってこっから出るぞ」
分かった、と言って頷く黒のフルプレート。
当たり前のようにアジトの隠し通路に言及したテルに驚愕したブレインは何故知っているのかと問おうとしたが喉で言葉が閊えてしまう
問いかけられない原因にはすぐに気付けた
(ああ、怖いんだ)
二人の得体の知れなさが恐ろしいと感じた
圧倒的強者への畏怖もあるだろうが、それ以上に
今生において見たことも聞いたこともない『何か』が彼らで在ることを本能的に悟ってしまっていたのだ
テルの迷いのない先導で
傭兵団でも一握りしか知り得ない隠し通路が暴かれる
ブレインはただひたすらに二人の後をついて行くことしかできなかった
隠し通路を通る道中で黒のフルプレートに話しかけられる
「改めて自己紹介しておこう
俺はモモン、彼と共にこの世界を放浪している旅人だ
時折賞金首を捕まえて路銀を稼いでいる」
「ブレイン・アングラウス
ここの傭兵団に属していたが、今はしがない浮浪者だ
首都までの道中、よろしく頼む」
「早速だがブレイン
首都までどれぐらいかかるか知っているか」
「順調に行けば五日以内には辿り着けるだろう
その前にいくつか町を通り過ぎると思うが」
「五日か……その間、何か
割の良い日雇いの仕事でオススメはあるか」
「割の良い仕事なんて、そんなモンあったら
俺はここにはいねェよ」
「それもそうか」
「いい装備だな」
「ありがとう」
「相応に実力もあるんだろう
アンタらなら、国お抱えの騎士にもなれるんじゃないのか」
「生憎だが、特定の国に属する気はない」
「だったら、冒険者になればいい
名を売れば指名依頼も入るし、実入りもいいぞ」
「冒険者か……
詳しく教えてくれるか」
想定していなかった部分に質問が飛び、ブレインは目を瞬かせる
冒険者という存在を詳しく知らない放浪者二人。
疑問は湧くばかりだが、己が抱いた不審にはあえて目を背け
問われるままに自分が知っている限りのことを詳しく説明する
話が進む毎に深まるのは二人への疑惑だ。
何しろ冒険者の存在を知らないばかりか
王国での常識すら備わっていない事が判明した
村の子供でも当たり前に知っている有名人すらも知らない
話が終わる頃にはとっくに隠し通路など脱しており
テルの気まぐれなのかなんなのか、道中で散々寄り道した所為で
目の前にエ・ランテルの街の灯りが視認できる頃には周囲はすっかり暗くなっており、ほぼ一日飲まず食わずの歩き詰めで喋り通しだったブレインの足取りは非常に不安定なものだった
唾液で喉を潤すのも限界だ
あと数キロで街に着くが、ブレインの足がもつれる方が早かった
倒れ込んだ際、辛うじて両手を突いて地面への激突は避けたが
そのままゆっくりとその場に横たわる
「も、駄目だ……歩けな……」
それだけ呟いて疲労困憊の思考は眠りについた
意識が落ちる瞬間、おぼろげながら目にした光景は
己を見下ろすテルの覆面の隙間から覗く空色の瞳
宝石のように瞬いたそれは、とても幻想的な光だった
▼ モモンガとアイシテルのQ&Aコーナー ▼
Q:アイシテルが転移後のプレイヤーと異なり
どこにいてもステータスの詳細確認やスキル調整ができる件について。
A:「俺自身がいわゆるナザリックの玉座的存在だからじゃね?」
「ワールドエネミーの規格ってほんとチートですよね」