我が名を叫べ   作:ざむでいん

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心の整理

翌日、仕事が終わって帰宅し

流れ作業で夕食を終わらせユグドラシルにインしたモモンガは

第一声から不満の声を上げた

 

「アイシテルさん!「敬称不要!」

結局あれから一度も落ちてないじゃないですか!」

「やだ、分かるん?キモぉ」

「キモい言うな!

ギルマス権限でギルメンのログイン履歴を見ることができるんですよ

ちゃんと落ちて休んでくださいって言いましたよね?」

「ちゃんと寝てるよ……

 

お前の隣でな」

 

「インしたまま寝るのは健康に良くないって知ってるでしょう

今日は絶対に落ちてから寝て下さい」

「渾身のイケメン台詞をスルーせんといて?

じゃ、早速コルとソル作成の為にエクレアペンギン見に行こっ

頭から豪快にかぶりついて口の周りをカスタード塗れにしてやんよ」

「そのペンギン、デザートじゃないですから

俺の話ちゃんと聞いて下さいアイシテルさん」

「敬称不要!聞いてる聞いてる

今日はちゃんと落ちて寝る、だからはよ行こ」

「はぁ……全く」

 

黒い手がモモンガの手を掴み引っ張る

向かう先はナザリックの回廊、エクレアが配置されている場所だ

わざわざ歩いて向かうのは案内も兼ねているからだ。

道中ああだこうだと思い出話に花を咲かせていると

ほどなくしてショッカーのような見た目をした人型複数名と共に

通路に佇むエクレアの姿が見えてきた

オッサンが下手なスキップで駆け寄り、まじまじと眺める

 

「へぇ〜!これがエクレア!

……チョココーティングがないのだが

どこにかぶりつけばよいのだ」

「ペンギンだっつってんだろ捕食しようとすんな

折角ですから犬型も見ときます?

ペストーニャっていう回復職のNPCも居るんですよ」

「回復?ああ、だから病名のペスト、ー……ニャ?

犬なのに、ニャア」

 

エクレアを観察すべくしゃがみ込んだまま

首を傾げて低い声で鳴き真似するオッサンを見下ろしたモモンガが笑う

 

「その辺のネーミングも遊び心が詰まってるんですよ」

「そっちのショッカーたちも妙に特撮ヒーローみを感じるね」

「ふふふ、それはですね

実はたっち・みーっていうギルメンが、」

 

言っている間に「ぽこん」とポップアップ通知が入り

他のギルメンがインした事に気づいたモモンガは

エクレアを触っていた黒尽くめの腕を捕まえて

指輪の装着を急かし共に円卓の間に向かって転移する

飛び込むように入室したモモンガを迎えたのは

声に疲れを滲ませたヘロヘロだった

スライム種故のつぶらな目がモモンガへと向けられる

 

「こんにちは、モモンガさん」

「ヘロヘロさん

今はこんばんわ、ですよ

また時間の感覚なくなってるじゃないですか」

「今日は少し休憩取れたので顔出しに来たんです

……見慣れない方がいらっしゃいますけど、招待客ですか?」

「はっそうでした!

新メンバーの紹介と超ビッグニュースがあるんですよ」

「新メンバー?」

 

声色から戸惑いが見て取れる。

サ終目前に新メンバーなど、確かに驚きの変化だろう

苦笑いしたモモンガは更なる追求を受けることを承知の上で

真っ黒な人型を前面へと押し出した

 

「はい、『アイシテル』さん「敬称不要!」です

つい昨日加入しました」

 

「……はい?」

 

「どーもォ、只今ご紹介に預かりました全ユグドラシルプレイヤーが出会って5秒で愛を囁かずにはいられないほど愛されまくってるPKランク上位独走型奇行種でぃーす!この度ワールドエネミーに大昇格しましたァ、キラァッ☆」

 

と、わざわざ指二本使ってまでウインクを強調し

腰に片手を当て尻を突き出すポーズを披露するコナンの犯人。

 

「ダミ声早口で古美門検事やってないで真面目に名乗ってください」

「あっ……あ、あ、」

「……え、ヘロヘロさん?大丈夫ですか?」

 

「『アイシテル』ぅーーーーーっ??!!」

 

「あらやだアタイもてもてェ!!

でもスライムはタイプじゃないんで

プロポーズはお受けできませェん!」

「アンタはちょっと黙ってもらえます?」

 

オッサンは喜色ばんで挙手し、ぶりっ子ポーズで断りの返事を叫び

モモンガの鉄拳制裁で床に沈められたが即座に立ち上がった。

テンションの高低差が著しい二人の眼の前で動揺の悲鳴を上げたヘロヘロは、目に見えて全身をブルブルと震わせ始める

 

「アイシテル って」

「さ〜いきんっ?言わ〜なく?な〜ぁったぁのぉはぁ〜?

本当に?アタ〜シを?あ〜いし?は〜じめ〜たっ

からぁ〜〜〜?↑」

 

声色だけでニヤついてるのが分かる

フレンド歴の長かったモモンガだけは

こういうウザ絡みに発展すると分かっているからこそ

徹底してオッサンの事を敬称付きで呼んでいる。

ヘロヘロの頬あたりをツンツンしながらぶりっ子ポーズで尻を振る新メンバーを見て、先程までの動揺が一瞬で消え失せたヘロヘロは冷たい声で言葉を吐き捨てた

 

「やべぇ、想定以上にウゼェ」

「ヘロヘロさんの敬語が剥がれるレベルって相当だな……

話が進まないんでアイシテルさんは「敬称不要!」

マジで黙ってて下さい」

「モモンガさん、とんでもない人を加入させちゃいましたね

とりあえず5キルくらいしていいですか」

「すみません

ギルメンになっちゃってるんで同士討ち不可です

あと、お伝えするのはそれだけじゃなくて」

「ちょっと待って下さい、主要メンバーにメールするんで」

「え?」

「とりあえずメインアタッカー全員には

彼が加入した事伝えておきますね

もしかしたら積年の恨みと憎しみを思い出して

速攻でインしにくるかもしれませんから

数揃ったら彼に脱退処理をお願いします」

「インしてくれるのは嬉しいですけど

そういう理由で招集されるのは困ります」

「リンチの為に確保したのでは?」

「違います、もうすぐサ終だからって

遊びに来てくれたんですよ」

「それだけの理由で出禁対象の加入を許したんですか?

本当に思い切ったことをしましたね

弐式炎雷さんが知ったら発狂……

いえ、大半のメンバーが憤怒の修羅と化しますよ絶対に」

「その光景、目に浮かびます」

「モモンガさんが未だに彼とフレンドだった事にも驚きました

とっくの昔に切ったと思ってましたから」

 

と、吐き捨てるヘロヘロは

モモンガの後ろでジョジョ立ち待機している

ウザい生き物を見て更に声の温度を下げる

 

「ナザリックの執事たちに混ざっても違和感なさそうですね」

「言われてみれば」

「ビッグニュースと言ってましたけど

彼の加入以上に驚くような事があるんですか?」

「はい、実はですね……」

 

 

 

*****

 

 

 

「……」

 

眩しいばかりの黄金の海原を前に、ヘロヘロは暫し呆然としていた

いちプレイヤーにワールドエネミーの規格が割り当てられた事実に加え

ソレが加入したことに対するギルドへの恩恵も規格外であった為だ。

プルプルと小刻みに震えながらモモンガたちの待つ談話室へと戻り

放心した様子で向かいの長椅子に座ると、はぁ〜……と長いため息を吐く

 

「あんな絶景を目にする日が来ようとは」

 

ようやく吐き出された言葉には感慨深さが滲み出ている

うんうんと深く頷き同意するモモンガ

 

「ついでに都市型ギルドの規格まで追加されて

ギルドの維持費がタダになって、更に領域の拡張まで自動で……

さっきの宝の海の中には課金アイテムまで混ざってましたし

これは、お釣りがきますね」

「でしょう?

今回のことでこれまでのマイナスが全部プラスに転じた気分です」

「だからといって彼に対する積年の恨みが

消えるわけではありませんが」

「ですよね」

 

複雑な胸中を理解したモモンガは乾いた笑みを浮かべるに留めた

近接ガチビルドのヘロヘロもアイシテルにキルされた過去がある

愛用していた課金武器を奪われ、それが敵対ギルドのプレイヤーの手に渡っていた事もあり怒りを煮えたぎらせた事があった

しかし今となっては遠い過去の事。

リアルの仕事に追われる日々を送るヘロヘロには

昔の怒りを持続させるだけの気力など残ってはいない

 

「それでも今の絶景を見て溜飲を下げる事ができました

彼の加入を許可したモモンガさんのお手柄ですね」

「そんな事無いです

本人も知らなかった仕様でしたし

運が良かっただけですよ」

「それで、パンドラズ・アクターの

恋人の制作まで許しちゃったんですか?」

「あれは……まぁ、その、その場の流れといいますか

悪くない話でしたから」

 

ヘロヘロが目線を向ける先には

どちらも埴輪顔で、黄色い軍服姿のNPCと

傍らにそっと寄り添う純白ミニスカナースの姿がある

新たにナース帽を被り白と銀糸の白衣を羽織っている姿は

ひと目見ただけで二人の関係性を察せられるほどにあからさまだ。

それとなく見つめ合う素振りを見せている仕様なのも

モモンガがあえて設定したのだろう、とヘロヘロは推察する

どこか見透かされた気分に駆られたモモンガは

コメカミをポリポリと掻く動作を交えて居住まいを正す

 

「狙いすぎ、ですかね」

「いいえ、なんだか微笑ましくていいと思いますよ

あれはもう全部組み終わってるんですか?

パンドラのスキンを使いまわしてるみたいですけど」

「はい、次は追加のペット型NPCを二体作る予定で」

「へぇ、ペット型

餡ころさんが作ってたエクレアのような感じですか」

「犬と猫って言ってたんで多分そうなりますね

ペット以外の要素はないと思います

完全に愛玩動物扱いみたいなこと言ってましたから」

「ふむ……」

 

スライムの躯体をよりソファーに沈めたヘロヘロは

考え込むように顎部分に手を当てて

間も置かずぱっと顔を上げる仕草をする

 

「かなりのハイリターンを頂きましたし

私も少し協力しましょう」

「協力?」

「ペット二体、外装だけですけど

ソレぐらいならすぐ出来ますからちょっと待って下さいね

種族は、異形種のライカンとケットシーでいいかな

あのNPCに合う雰囲気で、黄、白とくれば……赤と黒ですかね」

「わぁ、ありがとうございます!彼も喜びますよ」

「ふふふ……」

 

含みのある笑い声を聞いたモモンガはある程度を察し

それでもやっぱりヘロヘロの複雑な気持ちも理解できるので

あえて何も言わずに、不穏な笑い声も聞かなかった事にした

 

「ただいマンモス―☆」

 

暗闇の通路から小走りに駆け寄ってきた新メンバー

談話区画に入った所でくるりとターンして

下手なスキップでモモンガの元へ

そのどれもが無駄に煩い行動で、二人は内心でウゼェと呟く

 

「おかえりなさいアイシテルさん」

「敬称不要!うお!?なんかペットっぽいのできてる!」

「ヘロヘロさんが作ってくれたんですよ

良かったですね」

「マジでか、サンキュー社畜!」

 

全身黒尽くめが腰に肘をくっつけたまま

前傾姿勢で腰を振り前進してくる様は真に気色悪い

ギルメンにサラッと暴言を吐くオッサンに向けて

連続で怒ったスタンプを表示し、すかさず睨みを利かせるモモンガ

 

「それが感謝する態度ですか

言い直して下さい」

「モモちおこ?おこなの?」

「 言 い 直 し て 下 さ い 」

「……」

「フレンド切りますよ、マジで」

「……」

 

声にドスを利かせるモモンガに促されるように

ヘロヘロの傍に移動したオッサンが頭を下げる

角度90度。

ビジネス的意味合いで深く反省する姿勢を取ったオッサンの態度に

搾取されることに慣れきっていたヘロヘロは

まるで普段の自分を見ている気分になり

途端に居心地悪くなって狼狽える素振りを見せる

 

「あ、あの

そこまでして頂かなくても」

 

すると、オッサンは腰を折ったまま勢いよく顔だけ上げた

 

「ゴメーンネゴメンネ?めんごりゴリごりィ〜☆」

 

両手は前で添えられ、態度だけは真摯に謝罪していたが

その声色と台詞には真面目さなど微塵もない。

己とはかけ離れたソレに一種の安堵を覚え

落ち着かない気持ちが一瞬にして凪いだヘロヘロは

悟ったような眼差しでオッサンを見つめた

 

「……」

 

悟りの境地に達したような雰囲気を醸し出すギルメンに

焦ったモモンガが手頃なロッドを取り出しオッサンの頭部を叩き

ヘロヘロの目の前で黒い頭部が絶えず上下し続ける

その度にピコピコと明滅する0ポイントダメージ表示。

 

「すみませんヘロヘロさん

このオッサンほんと懲りないというか

社会人として終わってると言うか」

「いえ、逆に落ち着きました

突然真面目になられても困りますし」

「そうですか?

ヘロヘロさんがそう仰るなら」

 

モモンガが殴るのを止めても上下し続けるオッサンの頭部に

そっと手を添えて上下運動を止めてあげるヘロヘロは聖人である

その後、さして間もおかず出来上がったのは

ライカン種の犬型『ソル』と、ケットシーの猫型『コル』。

喜んだオッサンは調子よくビルド構成を始め、二匹を躊躇なくレベル100にした上、己のステータスからドラッグ&ドロップで種族名をワールドエネミーのものに変更し、僅か数十秒の間に数十万が吹っ飛んだ

 

その様を見て絶句するモモンガとヘロヘロ

 

「……え?あ、あれ?今……モモンガさん?」

「あー…はい、ええ、なんでしょう」

「えっと……サ終、ですよね?ユグドラシル、あと数日で」

「そうですね」

「今、彼、あの……見間違いでしょうか、今、数十万……」

「飛びましたね、確実に」

「何やってるんです?あの人……」

「全財産ぶち込みかねないので

もうNPC作成はしないほうが良さそうです

そもそもペット二匹はレベル1のままにする予定だったのに

マジでなにやってんだあの人」

「……まさか、あのナースも同様の」

「はい」

「えええぇぇぇぇ」

 

湯水のように課金しまくるオッサンを見て

ドン引きしまくったヘロヘロは名残惜し気にしながら

リアルの仕事へと戻っていく。

時間が出来たらまたインすると言っていたが

モモンガはその言葉を社交辞令と受け取り

無理はしないようにと言って手を振った

 

その日のギルメンのインは結局ヘロヘロのみ。

オッサンに向けてしっかりと睡眠を取るよう言い含めてログアウトしたモモンガが翌日の夜ログインして履歴を確認し再びオッサンを説教する構図は結局サ終当日まで続いてしまった

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「それでは、おやすみなさいモモンガさん

またどこかでお会いしましょう」

 

「お愛しましょう?!

ゴメンなさいねタイプじゃないのアタシ!」

 

「最後の最後までくっそウゼェな」

「この人が居ると高確率で敬語剥がれますよね

……ヘロヘロさんも、どうかお元気で」

「ええ、次はこの人が居ないゲームで…

この人がいないゲームで、遊びましょう」

「そうですね」

 

念を押すように大事なことを二度言うヘロヘロに苦笑いするモモンガ

今日はユグドラシルのサービス終了当日だ。

 

 

 

 

 

最後と称して顔を見せてくれたのはたった数人だけだったが

それまでの5日間の間に十数名が顔を出してくれた事もあり

モモンガは想像以上の人数がインしてくれた事実を心から喜んでいた

 

まぁ、その大半のイン理由が

これまで散々煮え湯を飲まされてきたプレイヤー『アイシテル』に一矢報いてやりたい、とか一言文句言ってやりたいというリベンジ精神からだったのだが。

ともあれヘロヘロの招集メール様々である

アイシテルへのヘイトがあり過ぎたお陰、とも言うべきか。

何しろ、殆どのギルメンのインして挨拶してその次が

 

『 例の全身黒タイツはどこだ 』

 

だったのだから。

次点のイン理由が「黄金の大海原を見に来ました!」である。

どっちにしろ素直に感謝できない事情なので

モモンガの胸中は複雑怪奇を極めた

 

弐式炎雷はヘロヘロからメールを受け取って3日後にインして

久方ぶりに顔を合わせたモモンガと辛うじて挨拶だけは交わし、しかしその後は話も聞かずガチ武装して同士討ち無効を要求した上でアイシテルに真剣勝負を挑んだくらいだ

一撃暗殺ビルドを組んでいる弐式炎雷は

ナザリックで最もオッサンにキルされまくった過去を持つ男

殺意のレベルが違う。

PVPを運営から禁じられていたコナンの犯人は

互いに合意の上で行えるレベルダウンのない仮想PVP

通称『峰打ち』を提案し、モモンガはそれを採用した。

 

勝敗はというと、当然のようにオッサンの圧勝だった

 

ワールドエネミー相手なのでプレイヤー単体で叶うはずもなくサクッとキルされ、それが数十回に及んだ辺りで本気で悔し泣きした弐式炎雷がその後黄金の大海原を見て謎のテンションを炸裂させ、暫く正気に戻らないまま黄金の海に埋もれていたが。

散々に暴れ散らした去り際の捨て台詞は

 

「別ゲーで見かけたら速攻で殺しに行ってやる

アイシテル……!」

 

という怨嗟に塗れたものだった

敬称なしで呼ばれたオッサンがどう返したかは火に油でお察し。

サ終の空気など微塵も感じられない酷い有り様であった

できれば思い返したくないナザリックの歴史である。

 

次にペロロンチーノとぶくぶく茶釜

姉弟二人揃っての久々のイン。

休日の昼間だった事もあり、対応したのはオッサンだけ。

当たり前のようにPVPを挑まれ、弐式炎雷の時に許諾を取っていた『峰打ち』システムを再度利用しオッサンが返り討ちにし、他のギルメンと同じように黄金の大海原を前に賢者モードに入るのを見届け

パンドラとセラを散々に冷やかしてログアウトしたという。

話だけ聞いたモモンガは自分も会って話したかったと落ち込んだが

機転を利かせたオッサンが昼間の出来事を全て録画していただけでなく、モモンガに向けたメッセージが込められたビデオレターまで用意していたのだ

 

思いがけぬ心遣いにうっかり涙目になったモモンガは

感動で声が震えるのを我慢して……いる間に

さっさとブツを渡すだけ渡したオッサンは

ナザリック内のどこかへ駆けて行ってしまった

 

ありがとうを言い損ねたが、ビデオレターを見やすいようあえて一人にしてくれたのだと理解し円卓の間で再生ボタンを押して……結局嬉し泣きする羽目に陥った

 

続いて、ウルベルトも深夜帯にインして来た

モモンガと久しぶりの会話を楽しみ、ナザリックの維持に感謝し

黄金の海原に呆けて帰っていった

モモンガの傍らでジョジョポーズを披露し続けるオッサンは

最後の最後まで徹底的に無視され続けた。

別れ際、何か言いたげな様子であったウルベルトは

結局話を切り出すことはなかった

 

他にも幾人かインしたが

殆どの者がヘロヘロのメールを読んで知った黄金の絶景を一目見るのが目的で、モモンガに会えなかった者はビデオレターを残すといった茶釜たちと同じ経緯を辿り

直接会えた者は改めて挨拶を交わしログアウトしていった

 

あと、なんのブームか知らないが

黄金の海を訪れた全員がその場でわざわざ金貨1枚分を課金して

宝物殿拡張領域の隅っこに、他の黄金と混ざらない形で

チャリンと積み重ねて帰っていった

 

それを見たモモンガは咄嗟に

『三途の川の渡し賃』のように思えて縁起が悪く思えたが

まぁ最後なのだし、とギルメンたちの行動を見届ける

 

拡張領域の隅っこに積み上がったただの金貨は

それだけでモモンガにとって特別な存在(モノ)になった

 

何人ものギルメンと別れの挨拶を続ける内

積み重なるようにモモンガの胸に湧き上がってきたのは

本当にユグドラシルが終わりを迎えることの実感と

二度とこの場所に来ることは出来ないという悲しみ

ナザリックで積み上げてきた何もかもが消えてしまう虚無感

 

……ただ、一週間前まで胸を焦がし続けていた焦燥だけは

綺麗さっぱりどこかへと消えてしまっていることに気がついた

改めて顔を合わせ、ビデオレターを見て、雑談の合間に当たり前みたいにするりと出てくる思い出話を聞いて理解した

皆はナザリックを捨てたわけでもなく忘れたわけでもない

 

(だって、みんな

 まるで示し合わせたみたいに

 同じことを言ってたから)

 

”また会おう”

 

”次も楽しもう”

 

”何年経っても絶対に話のネタに上がる”

 

その言葉だけでナザリックが皆の心に

今も色褪せず在り続けていることが分かったから。

その言葉に、声に、嬉しいや楽しいといった

温かい感情ばかりが溢れていたから。

 

「……」

 

円卓の椅子にもたれ掛かり、両肩の力を抜く

モモンガは久しぶりに深く深呼吸できた気がした

心残りがあるとすれば、と考えながら

データフォルダに収まっている

直接会えなかったギルメンたちのビデオレターを見つめる

 

「やっぱり、ちゃんと会って話したかったなぁ」

 

ユグドラシルで、ナザリックで、自分たちのアバターで。

そう想う度に、ビデオレターを用意してくれた黒尽くめのオッサンに感謝した

動画がなければきっと、もっと未練タラタラでイジケまくっていただろう

ちなみに、直接会えたギルメンたちとのやり取りも

ステルスモードに徹したオッサンの接写込みの隠し撮りによって

一部始終が動画化されて思い出の一片として

モモンガのデータフォルダに保管されている

 

こうして、鈴木悟はしっかりと段階を踏むことで

大切な思い出の場所が終わりを告げることの現実を受け止め

受け入れるだけの心の準備をする事ができた

一週間前にオッサンが訪れていなければ、きっと

これほどまでに気持ちの整理は出来なかっただろう

 

「心から感謝します

アイシテルさん「敬称不要!」うわぁビックリした!!」

「何黄昏れてんのモモンガ」

「あのですね!!

いい加減ステルスムーブからのブラクラやめてくれませんか!

ホラー耐性なかったら心臓止まってますよ!」

 

何の変哲もない円卓の間の風景が

一瞬にして貞子3D映像になればそりゃ誰だって驚く

コナンの犯人はこうして時々目の前に突然現れて

様々なブラクラ現象を引き起こす、という悪戯を仕掛けてくるのだ

その度に叱っているのだが態度を改める気配はない

黒尽くめのオッサンは手をヒラヒラさせておチャラけてみせた

 

「またまたぁ、異業種ギルドつかまえといて

ホラー耐性ないヤツなんかおらんでしょ」

「ホラーとキモグロは全くの別物なんですー

人型の恐怖は別格扱いなんですー

事実ギルメンでもスプラッターは平気でも

ホラーは苦手って人、結構居たんですからね」

「そうなん?集団ゴキブリは平気なのに?

幽霊とかよりよっぽど現実味あって怖いでしょ」

「いえ、恐怖公は、うん……女性陣だけでなく

男性陣でも軒並み拒否対象だったんで」

「あの部屋、慣れると結構楽しいよ?

わさわさ感がクセになってくるっていうか」

「全身黒タイツでよく入れますね」

「服着てたら隙間から入られた時に肌に押し付けられるから

余計に存在感あって逆に嫌じゃない?

つまり、隙間なしピッタリタイツの俺は勝ち組!」

「全く羨ましくない勝ち組ですね」

「数えられる程度の数だと不潔だなやだなって思うけど

あれだけ量多いと逆に現実味なくて賢者感増すというか」

「意識放棄してるじゃないですか」

「精神統一に最適」

「魂抜けてますってソレ」

「ところで……

黄金の海よりゴキブリの海の方が蠢いてる分海感強ない?」

「想像しやすい事言って精神攻撃してこようとすんな」

 

後に、黄金の大海原の存在がギルメンの誰かから漏洩し

ユグドラシルに関するスレッドでちょっとした騒ぎになったが

幸いなことに界隈でも有名なゴキブリの海まで持ち出す輩は一人もおらず

結局どこのギルドの話であるかは最後まで明かされることはなかった




▼ モモンガとアイシテルのQ&Aコーナー ▼

Q:弐式炎雷をどう思う?
A:「モモンガの知り合いの中で
  唯一何度も俺に挑みかかってきた同系統のビルドプレイヤーな!
  あいつ可愛いよなー、あんまり挑んでくるモンだから
  途中からレベルダウンのペナルティ無しで復活できるように
  課金アイテム使ってキルするようになったんだけどな?
  それが余計に癪に障ったみたいでめちゃ怒らせちゃったんよ
  最終日の顔合わせん時にモモンガの目ェ盗んで
  こっそり別ゲーに誘われたわ

  ほんでさー、ちょっと話し逸れるんだけど
  俺が弐式くんの相手ばっかしてると
  モモンガの奴毎回不貞腐れちゃって!
  そういう日は絶対ムスーって無言になって
  決まってフレンドリストの削除ボタンと
  にらめっこしてんの、しかも小一時間!

  それが面白すぎるモンで、弐式くんの事聞かれたら
  毎回覚えてないフリしてやってんだ、そうすれば
  リストとにらめっこせずに済んでるみたいだからな
  これ弐式くんも気づいてたっぽいな
  当のモモンガが無意識ってのが面白すぎんだわ」
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