我が名を叫べ   作:ざむでいん

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ナザリックが飛んだ日

ユグドラシルサービス終了まで残り数十分

 

終わる寸前でまでゴキブリの話などしたくなかったモモンガは

態とらしく咳払いをして早々に話題を切り替えた

 

「貴方のお陰で

もう一度会いたいと思っていたメンバーと話ができたし

最後の最後までユグドラシルを楽しむことができました

ありがとうございます、アイシテルさん」

「敬称不要!こっちこそありがとやで〜

フレンドと表立って行動すんの、めちゃくちゃ楽しかった」

「俺から言わせれば、よくこれまで一人きりで

モチベ維持して遊び続けられたなって感じなんですけど」

「そらまぁ基本的にステルス大好きだし?

俺ってば前世は絶対忍者だわ〜

 

……あー、言おうかどうしようか迷ってたんだけど

今日の昼間に白いタコみたいな見た目のプレイヤーがインしてたよ」

「タブラさんが?

そんな大事なこと、なんで今言うんですか」

「そのタコさん、言う事なす事不穏過ぎたモンで……

一応、行動全部ストーキング録画しといたよ

嫌な予感がしたモンだから咄嗟にステルスしちゃったんだわ」

「嫌な予感?」

「マジモンの身の危険っつーの?

目撃者が問答無用で消される感じのアレね」

「なんですかそのサスペンスの導入部みたいな言い方は

「火サスの定番音楽編集で付けとくわ」せんでいい」

「インしてからずーっと一人で運営への不満呟いてんの

姿見せて話しかけられる雰囲気じゃなかったんよ

宝物殿に移動したかと思えば黄金の海を見るでもなく

ササーッと奥の部屋行って

ワールドアイテム持ち出したかと思ったら

 

玉座の間に居る『白い変態』こと『ロリペドヤンホモ』こと

『U.R.T.V.』のアルベドに」

 

「それ別ゲーのアルベドですから

一緒にしないで下さい色々と」

「可愛いペシェ(モモ)がここに居るのに?」

ペシェ(モモ)言うな

うちのアルベドもルベドもニグレドもそれが元ネタじゃないんで」

「ルベドにドラゴンモードないの?」

「……似たようなのはありますね

で、アルベドになんですか」

 

「宝物殿から持ち出したワールドアイテム渡してた

んで、暫く呪詛吐きまくってアウトしてった

宝物殿の拡張領域に全然気づいてなかったから

新しくメンバーになった俺のコト知らないんじゃないかな」

「……確かに、これまで全員見に来てた黄金の海に

一切関心を示さなかったのは不可解ですね

アルベドに何を渡したのか見に行きましょうか」

「なんで?」

「独断でのワールドアイテム持ち出しはうちではルール違反なんですよ

タブラさんが、久しぶりのインとはいえそれを忘れて

俺に一言もなしに勝手に持ち出すのは、ちょっと考え辛くて」

「ヘロっちとたぶらって人、仲悪いん?」

「悪いってことは、多分無かったと思います

どうしてそう思ったんですか?」

「俺のこと知らされてないっぽかったから

これまでインしてきたメンバー皆知ってたっしょ?

ヘロっちがメールしなかったんじゃないかなって」

 

話しつつ、円卓の間を出たモモンガはアイシテルと共に玉座の間へと向かう

 

「それに、パンドラの隣りにいたセラを見て

最初スゲー怒ってたんだよなぁ」

「怒ってた?」

「おん、『折角アルベドを作ったのになんで』って

チョー怒ってそうな悔しそうな言い方してた

つってもパンドラ見てすぐになんか納得した素振りだったけど……

ひょっとしてモモち、たぶらって人とも童貞なフレンズを」

「不名誉なレッテル止めてもらえます?」

 

「童貞したのか……?俺以外のヤツと……」

 

「誰がアンタ以外とそんなフレンズするかァ!!」

 

バァン!と玉座への扉をけたたましく開きズカズカと荒い足取りで進む

高すぎる天井と広すぎる空間の中で

唯一スポットライトを浴びている玉座に向かうモモンガと

小走りに並走しつつ

 

「今夜は、帰したくない」

 

と、顔面に某CMのイケメンキャラ画像を貼り付け

雑コラ甚だしく決めゼリフを吐くオッサン

上半身はバッチリ決め顔だが下半身は高速カニ歩きである

横目にそれを見たモモンガは心底ドン引きしていた

 

「言われんでもサ終で弾かれるまで居座りますよ

決め顔してるトコ悪いですけど足の動き超キモいです」

 

ピッタリとランデブーするオッサンの腕を振い落し

台座を登りきってドカッと玉座に腰掛け

そのままの勢いでアルベドのステータス画面を開く

楽しげな様子のオッサンはモモンガの隣にサンバステップしながら移動し

肘掛けに軽く腰掛け、肩当てを腕置きにして

フードの上に顎を預けてモモンガの手元を覗き込んだ

 

傍から見たら配下をベタベタに侍らせる支配者な構図だが

あいにくと中身はいい年した社会人野郎二人だ。

他にプレイヤーも居ないので、当人同士はその姿が

第三者視点でどう見えているのかなど気にも留めていない

 

玉座に座り広間の設定をいじったことで、天井に垂れ幕のように設置されているギルメンそれぞれの旗がライトアップされる

それに伴い室内全体が煌々と照らし出され……

ここにきて初めて、玉座の間に沢山のNPCの姿が有ることに気付いたモモンガはナザリックの者たちが一同に介したその光景の壮観ぶりに暫し無言になった

 

「……」

 

玉座の傍らに数歩離れて控えているアルベド、最前列に居並ぶ各階層守護者、そして戦闘メイドと執事たちの後ろには全階層に散らばって配置されているはずのNPCが整然と並んでいる

そのNPCの誰もが『ひれ伏せ』というコマンドに従い

跪き、頭を垂れてじっとしていた

 

「驚きました

ナザリックの全NPC集めたのアンタですか

ご丁寧に階層守護者まで連れ出して」

「壮観だよねぇ

三日前からコマンドいじりまくってたら

楽しくなっちゃって!今日ぐらいはいいかなって」

「また味なことを……

パンドラとセラと、コルソルがいませんけど」

「特別枠〜、俺も後でそっち行くの

終わりは《黄金棺》って、ココ来た時に決めたから」

 

暗に、宝物殿の拡張領域……黄金の海原の中心に

新たに設置した棺桶に入ってサ終を迎える事を示唆され

モモンガは途端に心細くなる

 

「ここに、いてくれないんですか」

「う〜ん、棺あっちにあるし」

「最後ぐらい一緒にいて下さいよ」

「やだ、おいどん、棺、入りたい」

 

互いにワガママを言い合う二人に遠慮はない

何しろあと数十分でユグドラシルが終りを迎えるのだ

ここまで来て一人ぼっちで終わるのは絶対に嫌なモモンガと

棺に入り弔われながら終わりを迎えたいオッサンの攻防が始まる

 

「本当は棺を作ること自体反対だったんですよ

制作を許可しただけで満足してくれませんか」

「道具は使わないと意味ないでしょ

モモンガが寂しくないようにわざわざここに

ゴウンだよ!全員集合!させたんだから

駄々捏ねてないでババン・バ・バンバンしなさいよ」

「さよなーらーす〜〜るのは、つぅらぁいぃ〜けど

って、ウマいこと言ったつもりですか?!

ナザリックをマジモンの墓標にはさせないとも言いましたよね」

「じ〜かん〜だ〜よっ♪」

「し〜かた〜がぁないっ♪ って喧しいわ!

絶っっっ対逃しませんよ?!」

 

肘掛けにあったオッサンの腰を捕らえ

抱きしめるように力任せに拘束する

 

暗殺特化『アイシテル』のステルスを無効化する唯一の方法が直接の接触による『拘束』である事実を知っているのはフレンドのモモンガだけだ

それに伴い、モモンガの膝の上で

じたばたと無様にもがき始めるオッサン

 

「ぐあー!卑怯者め!離さんかっ」

「お断りだ!薄情者!」

「こっちでぐらい、ちゃんと

見送ってもらいたいのにぃぃいい!」

 

どこまでもフザけた口調ではあるが

それが自殺しようと決めているアイシテルの

切実な願いであると察したモモンガは

胸に込み上げてくるものを覚え一層拘束する腕の力を強める

 

(いやだ……

 もう、誰も見送りたくない)

 

オッサンは分かっていないのだ

 

見送る側の苦痛を、悲しみを。

 

(みんな勝手だ)

 

結局、ここには誰も残らなかったのに、と

呻くように言葉が零れ出る

 

アイシテルにだけ聞こえた、モモンガの慟哭だ

 

残される者のことなんか考えちゃいない

生き続けることが死ぬよりも苦しい事だと気づいていない

ぎゅうぎゅうと力加減などせず必死に繋ぎ止めている内に

いつの間にか相手の抵抗は止んでおり

視界が闇に覆われていることに気がつく

 

あれ、と疑問に思う間に闇がそっと離れてくれたことで

視界を塞いでいた黒がオッサンの胸元であることに気付いた

抱きしめ返されていた事実に狼狽えかけた時

場の空気を打ち消すようにオッサンの指摘が飛ぶ

 

「モモンガ、これ

ワールドアイテムじゃね?」

「え?あ、本当だ

タブラさん、どういうつもりでこんなモノを」

 

開きっぱなしだったアルベドのステータス画面には

ワールドアイテムのひとつが表示されている

物騒な効果を持つソレをなんのために所持させたのか

理解できなかったモモンガは小首を傾げ、考え込む前に

オッサンが《スティール》を発動させ

アルベドの所持アイテム欄からワールドアイテムが消えた

 

「……アイシテルさん?」

「敬称不要!《真なる無》なんて物騒過ぎンだろ

没収没収、こんなモン許可なく持ち出すなんざ言語道断」

「いや、その……盗難防止の加護は?」

「ああ、例の加入特典?それってプレイヤーだけの話だろ

それか身内同士はノーカンちゃう?

まともなデバッグもされてないみたいだし

多分だけど、穴だらけよ俺の実装

だからPK禁止のお達しが出たんだろうし」

「……種族特性が優先されてる可能性は」

「それは大いにありそうだな

じゃあこれは今から宝物殿に」

「させませんよ

そのまま戻ってこないの丸わかりじゃないですか」

「そんな事ねーよ

チョッパヤで行って帰って来るから」

「信用できません」

「アラアラ可愛いペシェ(モモ)ねェ〜

そんなにアタシから離れたくないのォ〜?」

 

膝の上に腰を落としたまま頭を抱きしめ、猫ッ可愛がりするようにかいぐりするオッサンをモモンガは止めようとはしない

先ず何よりもアイシテルを拘束することに重きをおいている状態。

仕方がないなと言いたげにため息を吐いたオッサンは

不貞腐れたように黙り込んでいるモモンガの目の前で

ショッキングピンクのハートスタンプを乱舞させた

 

「だー!鬱陶しい!前が見えないでしょーが!」

 

「わぁったよ」

 

了承の言葉を聞いたモモンガは一瞬、空耳だろうかと己の聴覚を疑った

時間経過で順番に消えていくスタンプの向こう側に

普段は真っ黒な筈の頭部が薄い布のように剥がれ

中身の顔を露わにしたオッサンが居て

初めて見るフレンドの、まともな顔を前に呆気にとられる

 

アストラル種本来の、レイス特有の死者を模した半透明な青白い顔

しかし不思議と死を感じさせない、彫りが深く精悍な顔立ち

微笑む目尻には優しげなシワが微かに刻まれており

振り乱した長い髪は、その部分だけが水の中を漂っている様相を呈し

剥がれた状態の黒い布状の覆いと共に宙を泳いでいる

向こう側の景色がぼんやりと伺える透き通った瞳が

本来であれば反射するはずのない骸骨のアバターを映し

真っ直ぐにモモンガを見つめている

黒い両手が、幼子に言い聞かせるようにモモンガの両頬に添えられた

 

アイシテルの唇が、紡ぎ出される言葉と一緒に細かく動く

 

「お前さんを見送るまで……ずぅーっと、傍に居ちゃる」

 

「……」

 

「だから、安心しんさい」

 

「……、アイ シテルさん

ちゃんとした顔、あったんですね」

 

「本邦初公開

お前さんだけに、特別な」

 

「とくべつ……」

 

「ちなみにコレ、マジなリアル顔」

 

「えっ めちゃくちゃ男らしいじゃないですか」

 

即答直球で褒めたモモンガに、目をぱちくりさせたオッサンが

一瞬、苦いものでも食べたような顔をして

剥がれた覆いを逆再生するように、頭部をいつもの黒で覆ってしまう

モモンガの「あー」と残念そうな声が響いた

 

「もっと見せて下さいよ

レイス種の表情変化がここまで細かいなんて初めて知ったんですから

……いや、待って下さい、さっきのホントに凄くないですか?

まるで生きてるみたいな動きだったんですけど」

 

「だめだめもーおしまい」

 

「じゃ、この後メールで住所送って下さい

迎えに行きますんで」

 

「だが断る」

 

「ここに匿う条件だったでしょうが

外飲みが嫌なら宅飲みでもいいです」

 

「俺の主張捻じ曲げてお前さんの我が儘を聞いてあげるんだから

それでWin-Winにしんさい」

 

「今更年上ぶった言い回ししても無意味ですよ

これまでの蛮行でマイナス振り切ってんですから

アンタにはこの先もずっと折れ続けてもらいます」

 

「なんだその堂々とした甘え倒します宣言は?

パッパに甘えるな、お兄ちゃんでしょ」

 

兄弟なんかいない、父親だって最初からいなかった

 

そんなリアル事情を知らないアイシテルの言葉がモモンガの胸に刺さる

何を言ってもオフ会を承諾しないオッサンに

言葉で説得する事を諦め、改めて力を込め

腕の中にある胴を思いっきり締め上げた

 

「うぐっ?!ぐは!ちょっ

モモッち苦しい苦しい!!

マジで苦しいから腕力弱めてェ!」

 

プレイヤーでありながら唯一ワールドエネミーに昇格したアイシテルは

種族が変化しても基本的にはフィジカルが弱いレイスの特徴を受け継いでいる

純粋な力押しでは大抵の種族に勝つことは出来ない

しかも今は拘束によって一番の強みであるステルスを封じている状態。

ワールドエネミーの能力を使いでもしない限り

現状から逃れることはできないだろう、だが

モモンガは確信していた

 

長年フレンドで居続けた己にだけは対応が甘く

なんだかんだと要望を受け入れてくれる事を。

 

「傍に居てくれるって言ったじゃないですか」

 

「そっそれは、ユグドラシルだけの事でっ」

 

「俺は、見送るのも見送られるのも嫌です」

 

締め上げる腕の力を緩め、胸元から顔を上げると

宣言通り甘え倒すつもりでアイシテルの黒塗りな顔を見上げる

妥協したように両肩を落としたアイシテルが小首を傾げ

モモンガを覗き込んだ

 

「……ほんじゃ、どーすんの」

 

「一緒に行きます

だから、ずっと傍に居て下さい」

 

「あらやだ熱烈ぅ

死が二人を分かつまでってか〜?」

 

明らかに茶化す言葉だったが

モモンガは容赦なくそれを無視した

 

「探し続けますよ」

 

「何を」

 

「教えてくれないなら、探し続けます

アンタを見つけるまで探し続けて

何度も外に出て、苦しみ続けて

終わることも出来ずに足掻き続けます」

 

「おやめ、外って

そんな事したらひとたまりもないでしょ」

 

「アンタに会うまで諦めません

肺を腐らせたってやめません

両目が溶けたって手探りで探し続けます

肌が焼けても、激痛に苛まれても、どんなに腹が減っても

アンタを見つけるまで生き続けて苦しんでやります」

 

「……モモンガ、あのな」

 

「大事なんです

俺にとってここはそれほどに大事な場所なんです

本当の墓場になんかされたくないし

アンタを見送ること自体、絶対にご免だ」

 

「……」

 

「だから、どうかお願いします

俺と会って下さい……会って、話がしたい」

 

必死の、心からの懇願だった

これで伝わってくれるだろう

自殺を思いとどまってくれるだろう

そう思っていたのに

 

 

 

 

「ごめんなぁ」

 

 

 

 

妙に間延びした、謝罪の言葉

 

その一言で鈴木悟の懇願は届かなかったのだと理解できる

真っ黒な胸元に顎を付けたまま、震える声で「どうして」と尋ねた

しかし、返ってきた答えは想定すらしていなかったもので、

 

「もうどうしようもなくてなぁ

手の施しようがない(・・・・・・・・・)んだわ」

 

「、え……?」

 

「お前さんのギルドに対する気持ちはよぉく分かった

今すぐ『追放』処理をしてくれ

脱退だとここに居座ったままだ

追放なら自動的に領域外にはじき出されるだろ?

そうすれば俺はナザリックになんの関係もない存在になれる

ここを穢すこともない」

 

「ま、待って下さい

嘘、そんな……嘘ですよね?」

 

手の施しようがない、それはつまり

今捕らえている人物は既に死期が定められているという意味で。

オッサンの参ったと言いたげな声色が響く

 

「お前さんが探すなんて言うからだぞ

見送るのは嫌なんだろう?それでいい

お前さんは十分頑張った

ユグドラシルのモモンガは俺がしっかり見届けてやる

ホレ、時間ももう無いんだからさっさと追放しんさい」

 

「そんな……俺、おれ

知らなくて」

 

「ホントのこと言わなきゃ絶対探すだろうと思ってな

てな訳で、俺を探す必要はありませんっ

……なぁ、辛い思いさせてごめんな、早く忘れてくれなぁ」

 

「……いやです」

 

「いや言うても……

じゃあ覚えまくっててええからホレ、はよ追放」

 

「いやです」

 

「あのねモモちゃん、サ終と同時に延命切れるんだわ

御臨終です言われるんだわ

お医者さん枕元でスタンバってるんだわ

今、追放してもらえんかったら

問答無用でここが俺のお墓になっちまうんだわ」

 

「いやです」

 

「どれもこれも嫌て、俺どーすりゃええのん」

 

「なんとかして生きろ」

 

「無茶言いよるわこの子」

 

「最後まで楽しめたと言った俺を

最後の最後で絶望に突き落とした責任を取れ」

 

「どこぞの暴君じゃおのれは

……しょーがないのー、いっそ誓いでも立てるか?ん?」

 

「立てろ、今すぐ立てろ」

 

「キレすぎか

あー、じゃあ、『宣誓』」

 

病める時も健やかなる時も、喜びの時も悲しき時も

貴方を愛し、貴方を敬い、貴方を慰め貴方を助け

この存在がある限り共にあり続ける事を

 

「誓いますよって」

 

「……ゆるします」

 

「そこは自分も誓いますって言うトコやろがい」

 

「アイシテルさんの名前って

何が由来なんですか」

 

「え、今その話しする?」

 

「誰かに愛してるって言われたかったんですか」

 

「ふふふ、お陰様でプレイヤーからは日々言われ放題!

世界中から愛されまくって超満足よ!」

 

全プレイヤーからヘイトを稼ぎまくっているのに

その”アイシテル”にどれほどの価値があるというのか。

込められた感情は決して良いものではないのに

それでもアイシテルと言われたがったフレンドの試みが

やるせなくて、いじらしくて

少しでも報われてほしいと考えてしまう

 

腰をガッチリ拘束されているのにマッスルポーズで胸を張るオッサン

その仕草が全部虚勢に見えて、本当に言ってほしい言葉は

やはり誰からも言ってもらえなかったのだろうと理解して……

 

最後なのだし、と

 

名前を呼ぶのではなく、心を込めて言ってみる

 

「愛してます」

 

「……へ?」

 

「愛してます、テルさん」

 

「……は、は?……はぁぁぁぁぁあああ?!

おまっ 俺の名前!なんで!」

 

「なんでって、最初に遭った時に

テルは名前だって教えてくれたじゃないですか」

 

「言ったっけェ?!」

 

「言いましたねぇ」

 

「ウッソー……うわ、マジ覚えてね…っ

っかー!恥ずかし――っ!!」

 

「喜んでもらえましたか」

 

尋ねるモモンガは妙な違和感を覚えていた

締め上げているアイシテルの胴体が、体が

熱を持ったように暖かく感じられるのだ

それだけではない、先程から感触に妙なリアル感がある

質量が感じられる、ある筈のない存在感が在る

 

「いやーマジ不意打ちだった

ありがとな、めちゃんこ嬉し……あー思い残すコトねェ―――!

これまでで一番嬉しいプレゼントやん!

絶っ対天国行けるわぁ―――!!」

 

「それ言われるとこっちは複雑なんですけど」

 

「しゃーなし、どーにもならんのじゃし

ところでモモンガ

さっきから気になってる事があるんよね」

 

「奇遇ですね、俺も気になってる事があるんです」

 

「お前さん、時間見れる?

とっくにサ終過ぎた筈だと思うんだけど

俺の画面、初めて顔晒した所為かバグでも起きたんか

いつの間にかデータ表示消えちゃってんの、体力とかも全部

お陰で今までで一番視界良好

実際にモノ見るのと変わらんレベル」

 

「そういえば俺も表示消えて視界スッキリしてます

ちょっと待ってください、今コンソールを……」

 

骨の尖った指先で空中をコツコツとノックしてみるが

通常は開くはずのデータ画面がいつまで経っても開かない

困惑の色が濃くなるより先にオッサンの声が上がる

 

「あとな……言っちゃっていい?」

 

「あ、はい、どうぞ」

 

「感触が超〜リアルになってんの

現実と大差ないレベル、マジヤバイ

なにがヤバいって、お前のアバターの骨が

俺の尻にみっちり食い込んでるレベルのヤバさ

めっちゃ痛い、痛覚あんのもヤバい、電脳法違反まったなし

死霊の筈なのに内臓の存在を密に感じてる」

 

「……そこまで?」

 

「骨のお前さんはどーよ」

 

「俺は、なんか意識してみると違和感凄いですけど

肉体の感覚はあんまり変化ないです」

 

「ゲームに近い?」

 

「自分のアバターに関しては……はい」

 

「俺は物凄く現実になってる

遜色がない、パネェ」

 

「パネェって……」

 

一度は呆れたモモンガだが

触れている部分からオッサンの震えを感じ取って

それが怯えからくるものであることを理解した

 

「……離した瞬間にステルスしたら

地の果てまで追いかけますからね」

 

「この状況で逃げるほうがヤベーわ」

 

片目部分だけの覆いを剥がし

ユグドラシルでは再現できなかったはずの細やかな目配せで

背後を指し示すオッサンに促され、モモンガはそれとなく

オッサンの体で遮られていた向こう側の景色を盗み見……

そして、心のなかで盛大に恐れ慄いた

 

先程まで一切動きを見せなかったはずのNPC全員が

存在感を持って僅かに身動ぎしている

二人のやり取りを一体どこから聞いていたのか

半数が全身を震わせてモモンガたちを凝視しており

こっそり頭を上げてこちらの様子を必死に伺う者まで存在している

 

 

こいつら、生きてる

 

 

本能的な理解からぶるりと身を震わせた

一寸の間を置き、現状の緊急性までも理解したモモンガは

そのまま視線だけを横に滑らせ、恐る恐るアルベドの様子を伺った

視界に入ったアルベドは、何かに祈るように前で両手を組み

潤んだ瞳でじっとこちらの様子を伺っている

 

こいつも明らかに存在感を増している

 

拘束を解こうとした腕に、反射的に力が籠もる

 

「いった?!痛いってマジでモモンガ!

尻に骨食い込んでる!

入っちゃいけないものが入って来ちゃう!」

 

「逃げたらマジで監禁しますからね

ホント逃げたら絶対一生許さない」

 

「はいはいわーったわーった!

兎に角!なんかスゲーヤベーこと起こってるから

現状把握優先な!」

 

「つまり?」

 

「つまり!そう!

グノーシス襲撃時のヴォークリンデの如く!」

 

「はい?」

 

またも別ゲームの話を持ち出したオッサンに呆気に取られたモモンガ

それを無視してNPCたちに向かって振り向いたオッサンは

大げさな動きでモモンガの膝の上から飛び降りると

勢いよくその場に立ち、大ぶりに手を振って号令を飛ばす

 

「これよりナザリックは厳戒態勢に移行する!

各階層守護者は配下を連れて持ち場に戻り侵入者の襲撃に備えよ!

非戦闘員は四名一組で行動!

セバスちゃんはプレアデスを率いてナザリック周辺地域の偵察に向かえ!

偵察範囲はナザリック領域外から十キロ四方!

不審を捕らえ次第即時報告を行え!

 

各員、直ちに行動開始!!」

 

言い終えると同時に場の全員から空気を震わせる一音が返ってきた

「はっ」と短く返されただけなのに熱量を伴って襲いかかる風

白目を剥いて失神しそうになりながら

真正面からその熱風を受け止めるモモンガとオッサン。

ものすごい速さで行動を開始する面々が玉座の間を出ていき

最後に一人アルベドが残った状態になって

二人同じタイミングでアルベドへと視線を向けた

 

「……皆は出てったけど

なんでここに残ってんのかねキミは」

 

アイシテルの質問を一瞬だけ一瞥したアルベドは

モモンガに体の向きを固定し、話し始めた

 

「わたくしはセバスの報告を待って

情報をまとめてからモモンガ様にご報告致します

今のご指示以外に御用はおありですか?

モモンガ様」

 

にっこりと淑女の笑みを浮かべるアルベドだが

その笑顔を前に、一方のモモンガは薄ら寒い何かを覚えた

もう一方のオッサンは、腹の中に山ほどドス黒い何かを抱えてるヤバい女と同種のものを感じ取りアルベドからさりげな〜く距離を取り

己にとって最も都合の良い間合いで足を止める

 

「い……いや、ないぞアルベド

セバスからの報告は私が直接聞く」

 

「では、わたくしは何を致しましょう」

 

アルベドがモモンガに向かって小さく一歩踏み出した

直後、オッサンが気取られない速度で後ろ手に武器を取り出し

アルベドを警戒して戦闘態勢に入ったが

それに気付かず現状の把握でいっぱいいっぱいだったモモンガの意識は目の前のアルベドだけに集中しており、必死に思考を回転させていた

 

「……お前は、各階層守護者に

二時間後に集合するよう伝えに行け

集合場所は……第六階層の闘技場だ」

 

「かしこまりました」

 

一層笑みを深くしたアルベドがそっと頭を下げて座から降りると

深く礼をし、そうして漸く背を向けて遅すぎない速さで歩き出す

彼女の背が扉に閉ざされ、足音も聞こえなくなった時点で

二人は深々と息を吐きだした




▼ モモンガとアイシテルのQ&Aコーナー ▼

Q:リアルのアイシテルの現状について
A:「”寝たきり”な
  俺ね、アーコロジーの外で軍人やってたんだわ
  ほんで長い戦闘の末、派手に吹っ飛んで再起不能ンなって
  そん時の怪我が原因で徐々に状態悪くなって
  サ終前には機械で生きてたようなモンだったんよ」
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