我が名を叫べ   作:ざむでいん

7 / 16
分からない者同士

「急場は凌げましたね」

 

「全員集めっちまった責任は取ったぞ」

 

「ちょっと強引でしたけどね?」

 

「咄嗟に王様っぽい言い回しなんかできんよ」

 

「王様の言い回しかぁ……

魔王ロールなら出来ないことないですよ

ギルメンとよく成りきりプレイしてましたから」

 

「そらめちゃ心強いな

次からでかい顔すんのはモモンガに任せるわ」

 

「丸投げですか?」

 

「丸投げじゃねーよ、俺には

陰から見守るという大事なお仕事がだなぁ」

 

「やっぱり丸投げじゃないですか

まぁ、できる限りのことはしますけど」

 

「それよりさっきの、アルベドだけはマジやばかった」

 

「何がです?」

 

「胡散臭い態度で含みありまくりだっただろうが」

 

「ああ、作り笑いだなとは思いましたけど……

NPC相手に作り笑いと思えること自体凄い事ですよね」

 

「先に『コレ』見とけ

ホントはあんま見せたくないんだが

情報として必要だろうからな」

 

と言って、インベントリーから取り出され

モモンガに手渡されたのは『データディスク』

タブラがインした時の行動記録だ

 

「良かった、ちゃんと”使える”

現状の変化が大型アップデートだと仮定して

アイテムが正常に使えるかどうか心配だったんですよね」

 

「あの運営をしてウマい話ばっかりとは思えねーが」

 

「他のアイテムの仕様も確認しないとですね

いざって時に使い物にならなかったら困りますし」

 

問題なく再生できることに安堵し、早速読み込み

映像を見たモモンガの顔色がたちまちに悪くなっていく

その変化は白い頭蓋が青ざめて見えるほどに如実だ

 

「……」

 

アルベドに《真なる無》を渡した際、彼女の前で

独り言を呟いていたタブラがあまりにも物騒で

短い映像を見終わったモモンガは暫し黙り込む

ワールドアイテムを持ち出した理由がナザリックを、延いては

ユグドラシルを崩壊させたいという動機が原因だと判明したからだ

発言の何もかもが異常なまでの憎しみで塗りつぶされていた

 

「タブラさん、元から運営嫌いな人でしたけど

ここまで突き抜けては無かったはず……

何があったんだろう

せめて直接話しができていれば」

 

「……」

 

モモンガの言葉に、アイシテルは即座に

「二人が直接会わなくて良かった」と思ってしまった

そんな自分の心境に気付き

落ち着かなくなった気分を誤魔化すように身動(みじろ)ぎする

大事な友人を危ない人間になんて関わらせたくない

ましてや、殺人を匂わせる発言を繰り返す危険人物になど。

 

映像を閉じてデータディスクを仕舞ったモモンガが

傍らに立ったまま居心地悪そうに頭を掻くオッサンを見上げた

 

「どうかしましたか」

 

「あー、いや、何度試しても

ログアウトも問い合わせもできねーなぁって

GMコールも機能してねーわ

ユグドラシルに閉じ込められたと仮定すべきか?

アプデにしても杜撰すぎる」

 

「充当に行けば閉じ込められたって可能性に辿り着きますよね

でもゲームの仕様とこれほどまで異なってると

アプデの不具合では収まらないと思うんです

そもそもユグドラシルはサ終する予定でしたし」

 

「嗅覚や触覚のリアルさも

ここまでくると確実に電脳法に抵触してくる

リアルの体がとっくに死んでるはずの俺が

ログイン状態を維持できてる原因も分からん」

 

「テルさん」

 

「なぁモモンガ、分かってるとは思うが

早急に対応せにゃならんのは

ナザリックに存在する全NPCの意思統一だ

これはアインズ・ウール・ゴウンのギルマスである

お前さんにしか出来ないことだぞ」

 

「はい」

 

「で、今押さえておくべきはアルベドだ

タコさんの目的をまるっと引き継いでるとしたら

こっちが先手を打っておかないと大変なことになる」

 

「それも分かってます、ちゃんと理解しました

タブラさんの映像が見れたのは

判断材料としてはよかったと思っています」

 

「アルベドのステ、まだ見れる状態か?

付帯文の内容がどこまで反映されてるか分からん以上

NPCの行動原理に直結してるなら無視はできん」

 

「やってみます」

 

玉座に座ったまま、傍らのギルド武器を用いてNPC一覧を開き

アルベドの項目の詳細を読み込む。

ズラズラと終わりの見えない付帯文が表示され

その余りの長さに「うわぁ」とげんなりした声音で呟く二人

 

「そういえばタブラさん、設定魔だったなぁ」

 

「シークバーの長さミリ単位かよ

付帯分だけでクリスタルぶち込みすぎだろ

どんだけガチガチに固めてんだ」

 

「これは、全部読み終えて把握して対処するのに

二時間じゃ足りませんね」

 

「目についた危なそうな部分だけでも削除できんのか」

 

「書き込み自体できなくなってます

くそっ……もっと前に気付けてたら

操作できる内にある程度編集できてたのに」

 

「ごめんな、言うのが遅くなった所為だ」

 

「俺を心配しての事だって、ちゃんと分かってます

だから、テルさんの所為じゃありません

なんにしても、ファインプレーでした

ワールドアイテムを取り上げてくれて助かりました」

 

「お前さんより判断材料多かったからな

《真なる無》は俺が責任持って宝物殿に戻しとく」

 

「その時は俺も一緒に行きます

一人で行ったりしないで下さいね」

 

あえて言い含めるような言葉に「おや?」と

疑問を持ったオッサンがコテンと首を傾けながら尋ねる

 

「わざわざ付き添わんでもええんやで」

 

「セラちゃんたちの事も気になってるんですよ、それに……

俺のフォローなしに、アレに会わせたくないので」

 

アレ、とは。

 

「息子っち?

この一週間毎日顔会わせてたのに、今更?」

 

「それはまぁ、その時に説明します」

 

歯切れの悪くなったモモンガの後ろめたそうな仕草に

嫌な予感を覚えたオッサンは『もしや』と思いつつ

そっと核心に触れてみる

 

「お前さん……パンドラズ・アクターの付帯文に

やべー内容とか書き込んだり……?」

 

そういうの(・・・・・)は大丈夫です」

 

そういうの(・・・・・)……?」

 

スッと顔を逸らし、これ以上突っ込んでくれるな

と、言わんばかりに神妙な空気を醸し出すモモンガ

オッサンは戸惑いつつも、とりあえずは分かったと頷いておく

 

「さて、時間も惜しい

俺はステルスでアルベドを見張りに行く

反乱の意思があると判断したら

お前さんには悪いが一旦討伐させてもらうぞ

俺のお墓を守るためにも」

 

「次、不謹慎なこと言ったら

宝物殿にある棺ぶっ壊しますからね

にしても……そうですね

NPCの復活が可能かどうかも確認したいですし

 

分かりました

やむを得ない場合はアルベドの討伐を許可します

でも行動に移す前に必ず一報を入れて下さい

勝手に倒しちゃダメですよ」

 

「オッケー牧場!」

 

「古すぎて元ネタがなんだったか忘れましたよソレ

あ!ちょっと待って下さい」

 

言う間に姿を消したオッサンを見て

慌てて呼び止めると、空間が揺らぎ

そこからひょっこりと姿を現すコナンの犯人

 

「なぁにー?」

 

「あの、テルさん、その」

 

「おうおう、急いでんだから巻きで頼むぜ」

 

「何が起こったのかは兎も角として

どんな形であれ、テルさんが生きててくれて嬉しいです

俺一人だったらきっと凄く心細かった

だから、ありがとうございます」

 

「いいってコトよ

じゃ、スニーキング行ってくるわ」

 

「気を付けて」

 

一部分だけ見えていたオッサンの姿が完全に消え

一人玉座の間に残されたモモンガはユグドラシルが突然現実味を帯びた瞬間からを詳細に思い返し、手元にアイテムを取り出してひとり黙々と検証を始める

十数分が経った頃、突然「モ〜モ〜ン〜ガァ〜!」と

頭の中に聞き慣れたダミ声が響き、座ったまま飛び上がってしまったが

瞬間、全身が緑色に淡く発光

直後、気分が凪いだのが分かった

 

(なるほど、アンデッドの種族特性で

 付帯説明にあった要素がリアルに近づいた所為で

 プレイヤーへの効果が変化してるのか)

 

アンデッドが持つ『精神の沈静化』が

位階魔法に対する任意的な無効化ではなく

常時発動型(パッシブスキル)に変化し、アンデッド本人の感情にも

直接作用するようになってしまっている

今のは、感情が瞬発的に乱高下したことで自動発動したのだと理解した

 

「これってもしかして《メッセージ》ですか?」

 

『 みたいね〜

  声届いて良かったわぁ 』

 

「何かありましたか」

 

『 うん、だから《メッセージ》したんよ 』

 

「そうですか」

 

『 そうですよ 』

 

「……」

 

『 …… 』

 

「はよ本題入れや」

 

『 よしイクゾウ!「また古すぎるネタを」

  アルベドは今の所”無害”って結論出しとく

  お前さんへの忠誠度がバリバリに高くて

  驚きモモの木ユグドラシルだわ 』

 

「言ってること全然ウマくないです

兎に角、無害なら良かった

詳細は直接、詳しく聞かせて下さい

他に気になることはありませんでしたか」

 

『 空腹とか眠気とか便意とか感じないのが

  なんか心もとないというか寂しいというか

  毎日の髭剃りから開放されたのは

  人生最高の喜びかもしれん 』

 

「そういう意味での”気になる”じゃねェよ

……死霊(レイス)にごはんも何もないと思いますよ?」

 

『 お供えものは? 』

 

「成仏しそうな儀式提案すんな

兎に角、煩わしい生理現象がなくなって良かったじゃないですか」

 

『 アルベドとかデミウルゴスはウンコするっしょ

  大丈夫?こっそりお花畑増築しとく?大墳墓だけにだいふ、 』

 

「それ以上言ったら地縛霊にしてやるからな

他に問題がなければ戻ってきて下さい」

 

『 そっち戻る前にいっちょシコってくるわ 』

 

「オイ」

 

『 ユグドラシルで十八禁行為はBAN対象だろ?

  ちょっくら検証がてら抜いてみようかと 』

 

「待てコラオッサン

それやってマジでBANされたらどーすんですか」

 

『 え〜?なに〜?モモちってばこのままメッセージ続ける気ィ〜?

  もしかして声聞きたいのォ〜?やっだぁ

  エッチスケッチワンタッチ〜 』

 

「その朽ち果てたネタの箪笥

早めに新調して下さいね」

 

『 朗報だぜ童貞フレンズ!

  BANは免れた! 』

 

「俺と会話しながらやらかすの

止めてもらっていいですかねぇぇえええ???」

 

『 まぁまぁそう怒らんと……

  九割大丈夫って思ってたからできたんやで 』

 

「なんですか九割って

アルベドにセクハラでもしたんですか」

 

『 する訳ないでしょ 』

 

「じゃあなんですか九割って」

 

『 ついさっき全NPCの前でおいちゃんの尻に骨刺して

  華麗に処女を奪ったろうがよ

  スケルトンTの末裔め、お茶の名前で大連鎖すんぞ 』

 

「大連鎖って、ネタが古すぎるっつってんでしょーが

せめてフィーバーあたりから話題に出してください

アルルとカーバンクルぐらいなら知ってますから」

 

『 シルベスタギムネマ茶!! 』

 

「なんて???」

 

『 なんっでわっかんねーんだよ骨のクセに!

  元祖骨キャラに敬意をはらえ!骨ェ! 』

 

「酷い言われよう

もうなんでもいいんで早く戻って下さい

道草食ってたらもう一度ケツ割りますよ」

 

「残念既に戻ってるんだなこれが」

 

真横で声が聞こえて驚きから両肩が跳ねる

(……今度は発動しなかったな)

よほど大きな感情の揺らぎがないと種族特性は発動しないらしい。

隣を見ると、そこにはしょんぼりした様子のオッサンが

指先をちょんちょんとくっつけたり離したりしながら立っていた

 

「だからもうお尻割らないで、オロナインないから」

 

「フザケながらマジレスすんの止めてもらってもいいですか」

 

「ワセリンもないの」

 

「でしたら塩を刷り込んであげますよ」

 

「やめて別の意味で昇天しちゃう」

 

言ってること全部フザケ散らかしているが

この黒尽くめが殊勝な態度を取っている時は

大抵真面目前提なので少しばかり冷静にオッサンを観察する

 

「もしかしてホントに怪我しちゃってます?

お尻に効くか分かりませんけどポーション飲んどきますか」

 

「うん」

 

インベントリーから取り出したポーションを

素直に受け取ったオッサンが突如、顔面にゴルゴサーティンの画像を貼り付け覚悟を決めたような雰囲気で慎重に瓶の栓を抜き去った

劇画調張りに濃いスナイパーの画像に見据えられ呆気にとられるモモンガ

じっと見つめ合いながら、オッサンは栓を抜いたポーションを

殊更ゆっくりと口元に近づける

 

「これ飲んで……死ねばええんやな?」

 

「え?

……ああああポーション!!待って下さいごめんなさい!

アイテム検証のことばっかり考えてたせいで

うっかり間違えて渡しちゃったんです!」

 

「ええんやで、骨は拾ってくれや

レイスだから骨なんぞ落ちんやろうけど拾ってくれや」

 

「ごめんなさいってば!

わー飲まないで!!」

 

大半のアンデッド種やアストラル種にとって

回復アイテムはモノによっては即死効果を齎す

ワールドエネミーに昇格したオッサンも元がレイスなので

回復アイテムの一切を使用することができなかった

それについてはユグドラシルがサ終する前に検証済みである

ポーションをぶん取ってインベントリーに放り込んだモモンガは

疲れたようにため息を吐く

 

「ホントにもぅ

人をおちょくるのも大概にしてくれませんか」

 

「お前さんの凡ミスは珍しいからな

つい(からか)いたくなったんよ」

 

「で、アルベドが無害だと判断した理由はなんですか」

 

「それがなぁ……」

 

その後のオッサンの説明はモモンガを驚愕させた

 

想定外だったのは、全てのユグドラシルNPCに

ゲームを基盤とする『共通認識』があった事と

ワールドエネミーという存在が大きな意味を持っていること。

《トータル・ジェノサイド》ことプレイヤー『アイシテル』が

ユグドラシルのNPCから『 39番目の終焉を司る世界 』という

ご大層極まるモンスターとして認識、周知されており

あろうことか、いちプレイヤーでしかないモモンガが

その39番目を手中に収め支配したと思われている現状であった。

 

アルベドだけでなく一般メイドたちや他の配下の様子を見に行ったが

ほぼ全員が……特にメイドたちが嬉しそうに騒ぎながら

モモンガのことを称えまくっていた

 

「それと蛇足

俺とお前さんの結婚はどうなるのかって気にしてたな

皆の前で公開プロポーズしちまった所為で」

 

「その件はどうとでも対処できるので

NPCの間で大きな問題になるまで放置で」

 

「イェ〜イ、クール&ドゥラ〜イ☆」

 

「ワールドエネミーの存在がNPCにとってそれほど大きな存在なら

ナザリックの統率は簡単に達成できそうですね

それと、俺の予想が正しければ

タブラさんの望みも叶えてあげられそうです」

 

「ユグドラシルをぶっ壊すっていう?」

 

「セバスの報告を待ってからになりますけど

多分、上手くいきますよ

守護者と話をする時は俺に合わせて下さい」

 

「わぉ、骸骨だけどスッゲェいい笑顔してんの分かるわ

迫真の魔王ロール楽しみにしとるでェ」

 

「ご期待に添えられるよう頑張ります」

 

モモンガのひたむきな言動を前に

アイシテルは黒い覆いの下ではにかんだ

 

(こいつのこーゆートコ、気に入ってんだよなぁ)

 

同じゲームで遊んでいる者の集まりとはいえ

人をまとめ上げ組織を維持するというのは気苦労が絶えない

リーダーの才能が無い者にギルドを維持することは出来ない、だから

常に一匹狼で、一人を好み、身近な相手であっても猜疑心を捨てられない男に無いものを多く持っているモモンガは羨望の対象でもあった

妬みや僻みといったマイナスな感情など一度として感じたことはなく

ただ応援したい、支えたいと素直に思える相手

傍にいても安心できる相手

 

だからこそアイシテルはモモンガのいる場所を選んだ

最後の最後まで、フレンド欄にたった一人

表示され続けてくれたプレイヤーだったから。

 

「何があっても、俺が傍にいて守っちゃる

安心しろな」

 

「『終焉の世界』が守ってくれるなら俺は無敵ですね

でも流石に守護者全員でかかってこられたら危ないんじゃないですか?」

 

「そん時ゃワールドエネミーの技使うわ

魔法じゃあらんけど広範囲の殲滅系超位スキル生えとるし

リキャストないから魔力持つ限り何度でも連発できるんよ

発動条件の体力半分以下ってのも丁度今達成してるし」

 

「え"っ

体力一定値切ったら大技って

ラスボスの定番じゃないですか」

 

「モモンガが三回ほど締め上げハグしてくれたのと

ケツ割ってくれたお陰よ」

 

「あれしきで半分以上削れたんです……?

耐久力がゴミ過ぎるのでは」

 

「ステルスすればどうという事はない」

 

「結局隠密ですか

その立派な逆三角形の体格は飾りだったんですね」

 

「骨だけで動いてる非常識な生き物に言われてもねェ」

 

「アンタだってレイスでしょーが

ケツかち割って泣かしますよ、ホラ抱っこ」

 

両手を広げて迎え入れポーズを取るモモンガに数歩後退るオッサン

 

「それはホントまじで痛いから勘弁して」

 

「想定外の紙装甲……捕まったら終わりってことですよね

ちょっとアンタ想像以上に危ないんで

守護者には絶対に近づかないで下さいね」

 

「僕は死にましぇん!」

 

「出てくるネタがマジで古すぎるんですよ」

 

「貴方が!好きだから!!」

 

「ボケ倒さなくていいです

真面目な話、ホントに守護者に近づきすぎないで下さいね

まだ検証しきれてないのにキルなんかされたら

どうなるか分かったもんじゃありませんから」

 

「一度も経験ないからキルされたらどうなるのか

ちょっと興味あるやで〜」

 

「プレイヤーが復活できるかどうかなんて分からないじゃないですか!

なんでさっきから軽率なことして死のうとするんです?!

そんなに死にたいんですか!?

そんなにっ……俺を!一人にしたいんですか!!」

 

激昂した瞬間、精神沈静化の光がモモンガの身を包んだ

反射的に身を引いてしまったオッサンは

ため息を吐くモモンガを見下ろし気まずそうに両手指をすり合わせる

 

「メンゴリ……蘇生前提のゲーム感覚でモノ言った」

 

しょんぼりと肩を縮めるオッサンを見上げて

再度己を落ち着かせるようにため息を吐いたモモンガも

口元に手を当てて気まずそうにする

 

「そんな事を言うぐらいならユグドラシルが正常運用されてる内に

一度ぐらい弐式さんに倒されておいてほしかったです

 

……兎に角、今はダメです、絶対に駄目です、許しません

これだけリアル化してる中で蘇生を検証するなら

他のプレイヤーで試してからです

ユグドラシルそのものがどうなってるか

まだ分かってないんですから……ん、ようやく来たか

 

―――どうした、セバス」

 

コメカミに指先を当てたモモンガがメッセージで守護者と話し始めた

相手の声は聞こえない

話し込んだモモンガの手がコメカミから離れるのを待って問いかける

 

「セバスちゃん、どうだって?」

 

「あの、言おう言おうと思ってたんですけど

セバスはセバス・チャンという名前であって

愛称じゃありませんからね?」

 

「知ってるけど?」

 

「態とかよ

やっぱり俺が予想した通り、ナザリックは

領域丸ごと別の世界に転移したみたいです」

 

「……今、なんつった?」

 

「信じがたいでしょうけど

別の世界に転移したっぽいです」

 

「別の……世界?」

 

「ええ、別の世界です」

 

「なん で、そんな突拍子もない事

断言できるん?」

 

「ナザリック周辺の景色が変わっているからですよ」

 

「周辺って、グレンデラ沼地じゃないんか?ヘルヘイムの」

 

「それらの痕跡は一切ないと言ってました

深い渓谷と巨大な山脈に囲まれた自然要塞になっていて

山脈の外側がだだっ広い平原になっているそうです

ちなみに、モンスター以外の人間の存在は今のところ確認できていません」

 

「渓谷と、山脈」

 

「セバス曰く、それ全部

ワールドエネミー《トータル・ジェノサイド》の領域らしいです

ナザリックを包むように、テルさんの領域が半径20キロに渡って広がってます

うちに加入した時にナザリックと領域の統合が行われて

ソレが丸ごと全部、別の世界に飛ばされた状態ですね

 

今、俺達がいる世界はユグドラシルじゃありません

どこか別の、リアルの世界です」

 

「別の、リアル……

じゃあ、なんで俺は生きてんだ?」

 

「それは分かりません!

でも俺はテルさんが生きててくれて嬉しいです!」

 

「……」

 

声を張り、勢いよくきっぱりと言いきったモモンガを前に

オッサンはハッとして冷静に立ち返ることが出来た

 

「すまん、俺、自分のことばっかりだったな

お前さんだってリアルがどうなってるか分からんのに」

 

「ええ、ですからお互い分からない同士

少しずつ確認していきましょう

ちなみに、テルさんが死ぬ要素は

見つけ次第徹底排除しますからそのつもりで」

 

ひとつひとつの事実に動揺してしまう頼りないオッサンを前に

モモンガは既に明確な目的意識を持って行動を開始している

年下がしっかりしているのに、と

年上でもある自分が恥ずかしくなったアイシテルは

パン、と己の両頬を掌で張って気を取り直した

 

「……うっし!そんじゃ俺は

お前さんの脅威を排除して回るとするかね」

 

「頼りにしてます、テルさん」

 

「奇襲暗殺諜報なんでも御座れよ

おいちゃんに任しんさい」

 

「はい、なので……

ステルス解いてる時は守護者に近づかないで下さいね?

あと、俺以外の前で覆いを解くのもダメです

紙装甲でもないよりマシなので」

 

「わーったわーった

ぜーんぶモモちゃんの言う通りにしますよって」

 

モモンガの頭をフードの上から優しく撫でつけ微笑む

異業種ゆえ表情は見えないが、互いに笑い合っていることは理解できた

 

「それで、別世界に転移したという事実を利用して

テルさんが終焉を与えた事でユグドラシル全てが崩壊した

という説を推していこうと思っています

これでタブラさんの意思を継いだかも知れないアルベドを納得させて、ユグドラシルの破壊は達成したと判断させようかと」

 

「ナザリックだけ無事だった理由は

どう説明する」

 

「他のプレイヤーも転移してる可能性が高いですから

《トータル・ジェノサイド》の恩恵……

という理由に限定するのは矛盾が生じるのでやめておきます

 

NPCにとってプレイヤーは上位者という位置付けみたいですから

ユグドラシルの崩壊によってプレイヤーたちが世界から弾かれ

その拍子にプレイヤーが管理する領域ごと

異世界に転移した、という体でどうでしょう」

 

「それならいい具合に煙に巻けそうだな

まだ一時間以上余裕あるし、先に宝物殿行っとかねェ?

息子っちだけでも情報のすり合わせしといたほうがいいだろ

NPC側に俺らにとっての絶対的な味方を作っといたほうが良いだろうし」

 

「…… ……ぅう〜ん」

 

「めちゃんこ気が進まない感じね」

 

「何を見ても引かないって約束してもらえます?」

 

「タコさんレベルのあぶねー言動でなければ」

 

「そういった方面での心配じゃないんですけどね……

どの道セラちゃんたちにも会っとかないとですし

引き伸ばしても仕方がない、会いに行きましょうか」

 

「マジで渋々の体だな」

 

互いに転移の指輪を装着し、宝物殿へと飛ぶ

最初の間、ナザリックの金貨を積み上げた部屋を通り過ぎて

次の間、拡張領域と最奥の間に続く談話室に踏み込むと

そこにはパンドラズ・アクターとセラ・クラヴィス、そして

 

迷いのない動きでオッサンに襲いかかるコルとソルの姿があった

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。