我が名を叫べ   作:ざむでいん

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ヘイトマイスター

「では、『やまいこ』という者が死亡している事実は

モモンガ卿には伏せておくのですね」

 

「リアルへと戻る手段もない今の段階でお話ししても

私の創造主を悲しませるだけではありませんか」

 

「モモンガ卿が悲しんだら……

貴方も悲しいのですか」

 

じっと見つめる白い埴輪を、じっと見つめ返す黄色い埴輪

 

 

「―――……きっと、悲しいです」

 

 

断言できずにいるのは、異世界に転移した直後だからか。

自信のない一言を前にそっと笑う気配を漂わせたセラは

ならば、と静かに頷く

 

「ご安心下さい

貴方が悲しむ原因は全て、私が取り除いて差し上げます」

 

「軽々しく言ってしまって

よいのですか」

 

「そうあれかし、と創られておりますもの」

 

「利用しますよ?」

 

「上手く利用して下さいませね」

 

「……〜〜〜〜っもぉ!

何故よりにもよって貴方が私の妻なんですか!」

 

「ご不満ですか」

 

「意地悪ですね

分かっているでしょうに」

 

種族特性によって深くまで絡み合っている互い意識は

ジェスチャーを介さずとも雄弁に本心を語っている

二人にとっての会話はいわば遊びの延長であり

紡ぎ出す声は音楽を楽しむようなものだ

 

「それで、オクトパス卿は関係していると思いますか」

 

「タブラ・スマラグディナ様ですよ」

 

「タブラ卿、ですか」

 

「関係しているかどうかは

判断材料が少なすぎるので今はなんとも。

タイミングが重なっているのは気になりますが」

 

「貴方の脅威にならないのであれば捨て置きます

懸念が出てきたらその時に改めて仰って下さい」

 

アイシテルによって作り出されたセラ・クラヴィスは

ナザリックのメンバーへの興味が薄く名前も把握していない

その所為か、ナザリックの者たちとは異なり

他の創造者を己よりも上の存在であるとは認識しておらず

かといって下であるとも考えてはいなかった

 

敬称として「様」ではなく「卿」を使っているのも

敬意など持ち合わせていない事実に対するパフォーマンスだ

つまり、至高の御方々に対する彼女の本音を一言で表せば

 

『 無関心 』

 

これが一番妥当な表現であろう、とパンドラは思う

 

「セラ、貴方は終焉から生まれた特異な存在です

我々の認識と異なるとはいえ

私の創造主に仇をなすのであれば容赦はしませんよ」

 

「まぁ……(力では敵わないと分かっていながら

それでも主の為に必死に毛を逆立てるなんて)可愛らしい」

 

「真面目に聞いて下さいね?

あとその副音声、私には丸聞こえなので

自重して下さい」

 

「外ならぬ貴方の威嚇なんて

可愛らしいとしか言いようがないではありませんか」

 

「侮辱してます?」

 

「事実を申し上げております」

 

「本っ当に!なんで!

貴方のような存在が私の妻なんですか?!

いや嬉しいですよ?!嬉しいですけども!

有事の際に全く御せないのが不穏すぎて

どうしようもないじゃないですか!」

 

「敵になど回りませんのに」

 

「そんな事は分かってます」

 

「私の特別は貴方だけですが?」

 

「それも、言わずとも理解しています

そうではなく、貴方がナザリックの者に対して

これっぽっちも敬意を持っていないのが問題だ

と、申し上げているのですよ」

 

「必要性を感じませんもの」

 

「私の創造主にさえ

見せた敬意は上っ面でしたよね」

 

「貴方の創造主ですもの

今後も、モモンガ卿にだけは敬意を払いますよ」

 

「”その場”限りのようですが?」

 

「”その場”以外に必要ないでしょう?」

 

「アイシテル様も、そうなのですか?」

 

「ナザリックの者を軽視しているのではないか、と?」

 

神妙に頷くパンドラを前に

ふむ、とあえて考え込む「素振り」を見せたセラは

既に結論など用意してますとばかりに淀みなく回答する

 

「モモンガ卿以外は気に留めていません」

 

「やっぱりですか」

 

「訂正します

モモンガ卿とナザリックと貴方以外は、ですね」

 

「私も含まれてるんですか?」

 

「ええ、でなければ

我が主が自らの血肉を削ってまで

私を創造するはずがありませんもの」

 

「その割に、貴方自身は

アイシテル様の特別に含まれていないようですが」

 

「パンドラズ・アクターのためだけに創り出された私が

我が主の特別であるはずがないではありませんか」

 

「それでよいのですか?

創造主に顧みてもらえないなど、寂しくはありませんか」

 

「貴方がいれば他はいりません」

 

「……」

 

此の親にして此の子あり。

 

モモンガ以外いらない、と断言したアイシテルに対し

何か言いたげにしながらも結局言及せずに終わってしまった己が創造主の様子を思い出したパンドラは、その時の創造主の気持ちが分かったような気がした

 

強大な力の持ち主が己だけを優遇する事に対する優越感

己のためだけに存在する事への面映さ

永遠に寄り添い続けてくれると信じられる安堵感

 

―――……分かっている

 

分かってはいるが

生憎とパンドラは知恵者であれと創造されている。

モモンガから与えられた存在意義によって考えずにはいられない

最悪の事態を想定した予防策を講じずにはいられないのだ

 

「答えを知りながらも尋ねずにはいられない

愚かな私を許してくれますか」

 

「ええ」

 

「貴方の創造主が私の創造主を害せよと望んだならば

どうしますか」

 

「お互いが唯一無二なのですからさっさと仲直りなさい!と

説教致します」

 

「…………えぇ〜〜〜…」

 

「あら、答えを知っていたのでは?

何故ドン引きしているのです」

 

「そこは私に付いて離れないと言って下さるものかと」

 

「勿論離れるつもりはありません

そして我が主を諦めるつもりもありません

モモンガ卿の事も、極力尊重致します」

 

「そうですか」

 

「そも、完全に反目し合った時点で

軒並み我が主にキルされておりますので

争うもなにもありませんよ

復活に関しても、ユグドラシルの仕様が適応されていた場合

資金も潤沢ですし、後顧の憂いなくキルしまくると断言します」

 

「ですよねぇ」

 

頷くパンドラは黄金の海を思い出す

げに怖ろしきは金と力。

プレイヤーアイシテルはその両方を兼ね備えている

 

「NPCの復活とプレイヤーの復活の詳細が分かり次第

積極的に暗殺活動を再開なさるかと。

運営からPKを制限されて相当鬱憤が堪っているご様子でしたから」

 

「アンブッシュに命を賭けていらっしゃる方ですもんね

それについては、ここ数日の独り言を聞き続けて

よく理解しています」

 

「本来なら視界に入ったら即殺が基本な方ですから」

 

「完全に通り魔じゃないですか」

 

「むしろ殺さない日が続いてる今の方が異常なんですよ」

 

「大丈夫なんですか、貴方の創造主」

 

「大丈夫です」

 

「いやにハッキリ断言しますね

何か根拠でも?」

 

「現在の主は非常に満たされている状態なのです

モモンガ卿のお陰ですね、感謝しなくては」

 

「私の創造主がアイシテル様に何をしたと?」

 

「ここに来る前に決定的な何かがあったのでしょう

あとでコッソリ子細を伺ってみますね」

 

「……モモンガ様が説得なさったんでしょうか」

 

「やたらめったらキルするな、と?

我が主に限ってそれだけは有りえません

主は交渉という手段を持たない方ですから」

 

「だから貴方が交渉を担うと?」

 

「モモンガ卿以外が相手でしたら

最低でも20キルしてからお話し合いして差し上げますよ」

 

「交渉に入る以前に拷問になってますが」

 

「と、まぁそのように

与えられた存在意義に囚われ

身動きの取れない可愛らしい貴方に

先人からのありがたーい格言を教えて差し上げましょう」

 

「ほう、是非お聞かせ願えますか」

 

仮にも知恵者に向かって「教えてあげよう」などと

上から目線の言葉に僅かなりとも矜持が反応したパンドラは

挑むようにセラを見据える

 

埴輪顔でありながらニヤリ、と

雰囲気だけで不敵な笑みを浮かべたセラは

満を持したように言ってのけた

 

 

 

「 『 夫婦喧嘩は犬も食わない 』 」

 

 

 

瞬間、パンドラは

天啓を得た!とばかりに

雷に打たれたようなリアクションをする

 

「そういう……事でしたか」

 

「ええ、我が主とモモンガ卿が仲違いをしても

仲裁しようとするだけ無駄です

先ずは静観し、助言を求められればさりげなく仲直りを促し

明確に反目し合ったらどうぞ当人同士でご勝手に

と、放置すればよいのです」

 

「明確に反目、にまでなってしまったら

ナザリックの戦力も投じるべきでは」

 

「そんな事をすれば馬鹿を見るだけです」

 

「……貴方は我々とは異なる

独自の知識をお持ちのようですね」

 

「我が主の意向により、別世界の様々な常識を

大量に持たされているのは自覚しております

図書館に保管されていない、個人的な書物を沢山持っていますが

読んでみますか?」

 

「興味深いです、是非読ませて下さい」

 

深く頷いたパンドラに気を良くしたセラが

ソファーに腰掛けると膝の上をポンポンと叩く

 

「感情を込めて読み上げて差し上げますので

是非楽しんで下さいませね」

 

「いえ、読み聞かせてもらわなくとも自分で読みますから」

 

「さぁさぁ、私の膝を温めて下さい」

 

「……非効率的ですねぇ」

 

と、言いつつもセラの隣で横になり

膝に頭を乗せたパンドラはまんざらでもない様子だ

 

それから数十分立った頃

ユグドラシルではない別ゲームのメインシナリオ本を読み上げるセラによる迫真の演技が披露され、『白い変態』による「いいねぇそのむき出しの敵意!その矛先でこの俺を貫いてくれよ!ハハハハ!!」と、いう

イカれた名台詞が宝物殿内に木霊していた

 

パンドラズ・アクターは思った

 

視界の中で様々な登場人物の姿に切り替わり

声すらも当人を真似るセラの種族特性の操りっぷりは

ものすごく勉強になるなぁ、と。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「素晴らしいぞ守護者たちよ」

 

宝物殿で成りきり劇場が展開している時を同じくして

闘技場に召集した守護者たちの前で

支配者然とした禍々しいオーラを放ったモモンガは

順調に魔王ロールを遂行していた

 

唐突に始まった忠誠の儀を乗り越え

各々からモモンガへの印象も聞き出し

現時点での大まかな通達を終え……

ゆっくりと立ち上がったモモンガは

最後に『アイシテル』を正式に紹介する場を設ける

 

「既に知っているだろうが、この場で改めて紹介しよう

私にとって最も古き戦友であり、最も長く共に在った朋友

あ……アイラ……

 

……

 

……『ラビ』さんだ」

 

「突然の改名!!」

 

今後の呼び方に支障を来すと判断したモモンガの提案により

プレイヤー名を改名することになった『アイシテル』は

改名候補として『アイラビュー』をネイティブに提案し

モモンガはこれを二つ返事で承諾……したのだが

土壇場でなんとなく言うのが恥ずかしくなった所為で

その場の流れで更なる改名が為されてしまい

オッサンは盛大なツッコミを入れてしまった

 

唐突に真後ろから聞こえた声に守護者たちが慌てて振り返るが

声の主の姿は視認できず気配も探し当てることができない

 

レベル100の守護者でも全く感知することの出来ない完璧な隠密隠蔽に戦慄したのはアルベドとデミウルゴスのみで他は狼狽するばかりだ

「ン"ン"ッ」と態とらしく咳払いしたモモンガが壇上に上がるよう促す

 

「テ……ラビ、守護者の皆に姿を見せてあげてくれ」

 

1人分横にずれたモモンガの行動に合わせ

守護者の背後に立っていたオッサンは壇上へと移動し

モモンガの隣に立つと勝手な改名に不満の眼差しを向けつつ

空間から滲み出るようにじわりと姿を現す

 

「今し方紹介に預かった『アイシテル』改め『ラビ』だ

お前達の知っている通り、終焉を司る39番目……

とはいえユグドラシルは既に滅んでいるから

《ワールドエネミー》としての役目は果たされているんだけどな

 

趣味は『かくれんぼ』

好きな色は『無色』

座右の銘は『壁に耳あり障子に目あり』

 

最後に、お前らにひとつだけ言っておこう

モモンガに仇を成せば

例えお前らであろうと問答無用で始末する

日頃の振る舞いにはジューブンに気をつけるよーに」

 

言い方は教師が生徒に諸注意を告げるほどに軽いものだったが

言ってることは「さすれば死」である。

絶望のオーラを放ち威厳を見せ付けたモモンガと違い

目の前に立っているのに微塵の気配も感じさせない静かな様は

逆に守護者たちに言いようのない恐怖と不安感を与えてしまっていた

そして、言うだけ言ってさっさと姿を隠してしまったのもまた恐ろしい

 

アルベドとデミウルゴスはポーカーフェイスの下で

必死に『ラビ』の気配を探るが

五感をどれだけ研ぎ澄ませても見つけ出すことは叶わなかった

質問の(いとま)すら与えられなかった現状に内心で舌を打つアルベド

それを察したデミウルゴスが密かに唾を飲み、意を決する

 

「モモンガ様、ラビ様についてお尋ねしたい事が」

 

「言ってみろ」

 

「ありがとうございます」

 

膝を折ったまま深々と頭を下げたデミウルゴスは

一瞬だけアルベドとアイコンタクトをする

 

「先程、ラビ様が仰った

ユグドラシルが既に滅んでいる、というお話についてですが

詳しくお伺いしても宜しいでしょうか」

 

「分からないのか、デミウルゴス」

 

「はっ 理解及ばず申し訳ありません」

 

「アルベド」

 

「……わたくしも、ラビ様に、詳細をお伺いしたく」

 

「ふむ……先ず守護者たちに伝えておく

ユグドラシルは消滅した

終焉を司るラビの力によって、だ」

 

おお、と守護者全員から驚嘆の声が上がる

アルベドに至っては瞳を輝かせ

僅かだが恍惚とした雰囲気を醸し出し始めていた

 

「アルベド」

 

「はいっモモンガ様」

 

「タブラ・スマラグディナの望みは

叶えられたと理解せよ」

 

「……はいっ!」

 

個人的に声をかけられた事に感極まったのか

体を震わせ、両手を組み神に祈るような仕草をするアルベド

それを見届けたモモンガは「しかし」と言葉を繋げる

 

「ユグドラシルの消滅と同時に

ナザリックとトータル・ジェノサイドの領域を

丸ごと別世界に転移させたのは

我らの感知しない未知の力によるものだ」

 

「なるほど、だからこそ

玉座の間への緊急召集だったのですね?」

 

皆がざわつく中、なにやら得心がいった様子のデミウルゴスが声を上げた

便乗するように訳知り顔のアルベドも頷くが

理解しきれていない様子のシャルティアは眉を顰める

同じく事を把握しきれていないアウラがデミウルゴスに問いかけた

 

「どういう意味?」

 

「今日、我らが一同に介した玉座の間は

例えナザリックに属する者でも

平時であれば無闇に立ち入ってはならない神聖な場所……

それは理解しているね?」

 

「うん

皆が集められて、ただ事じゃないとは思ったけど」

 

答えるアウラに続くように

隣で膝を折っているマーレも頷く

その様子を横目にデミウルゴスは更に続けた

 

「モモンガ様は未知の介入を事前に察知なさっておられたのだよ

だからナザリックの全ての者を玉座の間に集結させ

ユグドラシルの消滅に合わせて領域ごと転移したと同時に

厳戒態勢を敷くようラビ様を通して指示を出されたのだ」

 

「す、すごいですモモンガ様!」

 

マーレがすかさず合いの手を入れ

他の守護者も崇拝の眼差しでモモンガを仰ぎ見た

勝手に推察され勝手に持ち上げられた当人はというと

 

「よく分かったな、デミウルゴス

褒めて遣わそう」

 

守護者たちが巻き起こしたビッグウェーブに盛大に乗っかった。

恐縮しきりのデミウルゴスがゆっくりと顔を伏せる

 

「勿体なき御言葉にございます」

 

褒められたにも関わらず

真摯に己を戒めた様子のデミウルゴスの隣で

シャルティアが身を震わせて感動した

 

「至高の御方がお見えになる前に

デミウルゴスから聞きんしたが

39番目に誓いを立てさせ手中に収めただけではなく

未曾有の危機にも瞬時に対応できるよう

備えていんしたなんて……嗚呼!

どこまでも素晴らしい御方でありんす!」

 

「一ヲ成シテ十ヲ制ス……底シレヌ智謀!」

 

「それでも

お言葉を賜らねば真実まで辿り着けなかったことは

恥ずべきことだわ、分かっているわねデミウルゴス」

 

「ええ、今後はより一層精進せねばなりませんね

お互いに(・・・・・)

 

アルベドとデミウルゴスの両名は

己の理解不足から主人に問うてしまった事を恥じて

今後二度とこういった状況にはならぬようにと猛省するが

今回創造主に問うに至った理由がワールドエネミーという部外者の介入にあるだけに、今後も問わずにいられない事態に直面するであろう事を二人は理解していた

創造主の心を探るなどという失態には至らぬよう

事前に情報収集は怠らぬつもりではあるが

相手が相手である為策を講じなければならない

初っ端から直面した難問に知恵者二人は内心で頭を抱えた

 

 

 

セバスとプレアデスの偵察によりナザリックを中心に

半径20キロ四方に脅威は見つけられなかった。

お陰で目前の危機は遠ざかったが

転移後の世界がどういったものであるか分からない内は

ナザリックを隠蔽して情報収集を優先させる事になる

 

 

ここからは時間との勝負だ

 

 

何しろナザリックはトータル・ジェノサイドの

広大な所有領域に守られる形で転移してしまっている

元々何かが有ったであろう場所に突如として

巨大な山脈と渓谷に囲まれた森が出現したのだ

これほどに大規模な転移となると、この世界の現地民にも

遅かれ早かれ気付かれてしまうだろうと考えていたモモンガは、この時

転移地点に元々あった”トブの大森林”の一部と”アゼルリシア山脈”と呼ばれる山々の一部を飲み込んでしまったナザリックの立地が

巧い具合に隠された自然の要塞になっており

最も近い位置にある『カルネ村』の住民からは

遠目に景色を見ても「なんかちょっと山の範囲と森の範囲が広がったような?」という程度にしか思われていない事実をまだ知らなかった

 

暫くの間はナザリック全体が隠密行動に徹する、という

大まかな方針を定めたことで

束の間ではあるが肩の荷を下ろしたモモンガは

守護者に解散を命じて自室のある第九階層へ転移する

自室に辿り着き、扉を開いた所で後ろをついてきていたオッサンが姿を表し雪崩込むように入室すると後ろ手に扉を閉めて、部屋の主人より先に天蓋付きの大きなベッドへとダイブした

それを見たモモンガが不貞腐れる

 

「俺が先にやろうと思ってたのに」

 

「まだスペースあんでしょ、空いてるトコにダイブしんさい」

 

「それもそーですね……

はぁー疲れたー……お疲れ様ですテルさん」

 

「お前さんもなー」

 

二人して顔面からシーツに埋もれ、くぐもった声で会話し合う

 

「これからどーするー?」

 

「そーですねー……

セバスの話だと外は今真夜中みたいですし

敵影もないみたいですから

ちょっとだけ外を出歩いてみませんか?」

 

「深夜のお散歩?いいねェソレ!

初の異世界!わくわくするじゃなーい」

 

「じゃあ、早速準備します?」

 

もそりとシーツから顔だけ上げたモモンガが

同じく顔だけ上げたオッサンと顔を見合わせる

 

「それはいいんだけどもよ、モモンガちゃんよ」

 

「なんですか」

 

「俺の改名が『ラビ』になった件について」

 

「それは大変に申し訳なく」

 

「弁明なしかい」

 

「いやその、いざアイラビューって言おうとしたら

途端に恥ずかしくなっちゃって」

 

「欧米式言い慣れてない日本人が大半だもんな

わかるよアミーゴ」

 

「すみません、ラビのままでいいですか?」

 

「ああ言った手前、わざわざ訂正すんのも大変だろうし

いいよラビで、ついでにお前さんも改名しときんさい」

 

「俺もですか?」

 

「他のプレイヤーが転移してるかもなんでしょ?

プレイヤー名で対策されんのもデメリットしかないし

俺が決めたるわ」

 

「変なのは止めて下さいね」

 

「誰もムササビとかバンドリとかハヤブサとか言わんて」

 

「ハヤブサは鳥類ですよ」

 

「知っとるがな」

 

「じゃあなんで言ったんですか」

 

「お前さんの事だから

似てるからとかミスリード誘えそうだからとか

安直な理由で候補に入れてるだろうなと思って」

 

「……なんで分かるんですか」

 

「やっぱり入れとったんかい

モモちのネーミングセンスには負けるわぁ……

それ考えると『ラビ』で済んで良かったな俺」

 

「そこまで言います?」

 

モモ()にちなんで次百(つぐもも)なんてどうよ」

 

「せめて横文字でお願いできません?」

 

「ペシェ」

 

「締まらないので却下で」

 

「んもーなんでもええわ、自分で決めろし」

 

「えー決めてくれないんですか?自分で言っといて……」

 

「モモンガ……アインズ・ウール・ゴウン……

モモンガ、アインズ……モモ、アイ……はっそうだ!」

 

「何か良い案、浮かびました?」

 

「モアイとかどうよ」

 

「もしかして埴輪とかけてます?

ハイビスカスの花輪装備とか嫌ですよ、俺」

 

「土偶よりマシでしょ」

 

「古代遺物から離れて下さい」

 

「ヘビ、キツネ、フクロウ」

 

「モモンガの天敵ですね、生物学上の」

 

「スネェ――――――ク!!!

まだ終わってな――――い!!!」

 

「どこのメタルギアですか」

 

「ところでモモンガの語源て知ってる?」

 

「いえ、テルさんは知ってるんですか?」

 

「昔はムササビと区別されてなくて

地域によってはモミって呼ばれてたんだ

それが訛ってモモって呼ばれるようになって

鳴き声が「グワー」だったから

モモングヮーからのモモンガ、になったらしい」

 

「昔の人も案外安直ですよね

……俺も、モモンでいいかなぁ」

 

「お前さんも大概いい加減だわ

いいのかよそんなんで」

 

「いいんですよ、下手に呼ばれ慣れないのも

すぐに反応できなさそうで怖いですし

アンタからもモモって呼ばれてますし」

 

「サトルくんって呼んだろか?」

 

「なんで俺のリアルの名前知ってんですか!?」

 

「初対面の時に教えてくれたでな」

 

「そんな昔のこと覚えてないですよ!

うわー……もしかして、テルさんの名前教えてもらった時に

俺も自分の名前教えちゃってたんでしょうか……」

 

「多分そうじゃね?

お互い自分が教えたことだけ忘れちゃってんの

ウケるわー」

 

「ホント覚えてない……

リアル名は勘弁して下さい

なんか感傷的になってしまうんで」

 

「それなら止めとこか」

 

「……」

 

「……」

 

妙な沈黙が続く

何か言いたげにまごつくモモンガに気づいたオッサンは

覆いで見えなくとも視線だけを向けて「言いたいことを言え」と促した

骸骨と覆面、顔色を伺わずの高度な空気の読み合いだが

二人はしっかりと通じ合っている

結果、オッサンからの無言の圧に背を押され

言い辛そうにボソボソと言葉を紡いだ

 

「時々なら、呼んでもらえると」

 

「魔王ロール大変そうだもんな

『モモンガ』を休憩する時に呼ばせてな」

 

「アリガトウゴザイマス」

 

「うはは!今更なに畏まってんだ

……ところでいいのか?『モモン』で」

 

「はい、馴染みやすいですし

ナザリックの外ではそう呼んで下さい

テルさんはいいんですか?

プレイヤー名ではなくて、リアルの方の名前で」

 

「おう!お前さんに呼んでもらえると

嬉しいものー」

 

「そ、ですか」

 

「真心こもった告白も

してもらえたことだしな」

 

オッサンの(からか)うような言い回しに

ついカッとなったモモンガがガバリと起き上がり

慌てて言い募る

 

「アレは!最後っ……じゃなくて

今と状況違うじゃないですか!

ノーカンっ……にはしませんけど!

他意とかやっつけとかそんなんじゃなくてっ

ちゃんと気持ちは込めたんですからね!」

 

「どうどう、分かっとるから落ち着け

リアルの俺に後がないって分かったから言ってくれたんだろ

悪かった、この件ではもう二度と誂ったりしない

言ってもらえて嬉しかったのも事実だからな」

 

ありがとなサトルくん、と

ベッドに倒れ込み顔だけ上げた状態で手を伸ばし

モモンガの頭をわっしわっしと撫で回すオッサン

 

「アイラビューとは言ってもらえなかったが」

 

「誂わないと言った舌の根も乾かない内にアンタは」

 

「うはは!

じゃ、そろそろ夜のお散歩の準備でもしますかね」

 

「ちょっと待ってて下さい

最低限、装備品の確認をしておかないと」

 

「そのまんまの格好で出やらんの?」

 

「ええ、近くに人はいないって話ですけど

魔法が有効である限り、どこから盗み見られるか分かりませんから

装備である程度のスペックを読まれるのを避けるために

戦士職に見せかけて外に出ようかなと」

 

「慎重やんね」

 

「せっかく名前を変えるんですから

完全に別人に成りすますのも有りですね

なんにせよ、備えあれば憂いなしですよ

テルさんはどうします?」

 

「このまんまでいいでしょ」

 

「えー、テルさんも外行きの変装しましょうよ

守護者たちの前では今の『ラビ』でいいと思いますけど

装備無いなら貸しますから」

 

「で、モモちは『モモン』の変装か

戦士職は決定事項?」

 

「マジックキャスターで不意打ちするなら

戦士と思わせた方が都合いいので」

 

「じゃあ俺も戦士職に偽装したほうがいいかな」

 

「俺が前衛を務めるので

テルさんは中衛をお願いできませんか

弓系も得意でしたよね?」

 

「確かに狙撃スキルも伸ばしてるけど……

最前衛でステルスしてキルしまくった方が早くね?」

 

「そのスタイルはラビの時でお願いします

『テル』さんは『モモン』の俺と外で好き放題遊びまくる用で

俺の『モモンガ』もテルさんの『アイシテル』も

プレイヤー対策にまるっと封印しちゃいましょう

特にテルさんの『アイシテル』は

ユグドラシルでは知らない人は居ないと思うんで、永久封印で」

 

「なるほどそーいう」

 

「あれ、呼び捨てたのにウザ絡みなしですか?」

 

「んー」

 

「そういえば宝物殿に行った時から

呼び捨てしてたのにずっとスルーしてますね」

 

覆いの下で目を泳がせたオッサンは

更に顔を逸らしてポリポリと頬を掻きベッドから起き上がった

その行動につられるようにモモンガもベッドを降りて立ち上がる

 

「さっきも言ったが

お前さんが気持ちを込めて言ってくれたから

名詞と動詞の明分化が出来ちまったと言うか……

そもそも、もうからかわないって言ったろ?」

 

「それはそうですけど」

 

真面目に言葉を返されたモモンガは

てっきり茶化した流れになると思っていただけに

居心地悪さを覚えてソワソワとし始め

それを見たオッサンは微笑した

 

「たった一回で腹いっぱいだぞ?

俺でもビックリだわ

チョロすぎて恥ずかしい話なんだけどな

満足しちまったんだからしょーがねーの」

 

「パンドラズ・アクターには

敬称不要!って言ってましたけど」

 

「アレはあの場のノリ

パンちゃんレスバ強ェのな

王配だのなんだの、面白いこと言ってくれるわ」

 

雑談を挟みつつ部屋の壁に備え付けられている大きな姿見の前に移動する

互いにインベントリーを吟味しつつ

ああでもないこうでもないと装備を変更し合って

『テル』と『モモン』が並んで違和感のない見た目を探した

 

「黒のフルプレートに合わせるってムズいのな」

 

「中身が骨なんで

全身武装しないわけにはいかなくて」

 

「アンデッドじゃ無理もねーわ

俺は上位死霊特性のマテリアライズ(実体化)で問題ないケド」

 

「実体化できる種族だったんですね

その状態だとステルス切ってる扱いになるんですか?」

 

「いいや、あくまで見た目が透けなくなるだけで

隠密はパッシブのままよ

ホレ、髪もふわふわしたままじゃろ?」

 

既に黒のフルプレートで決まったモモンガは

服と装備をとっかえひっかえして忙しないオッサンの背後に回り込み

宙を漂う髪をひとつに束ねると思案し始める

 

「これで金色に輝いてたら超サイヤ人ですね

このままは流石にマズいので、お団子にします?

それか、編み込んじゃいますか」

 

「編み込んで編み込んで〜

ヴァイオレット・エヴァーガーデンみたいな感じで」

 

オッサンのリクエストは、髪を真ん中から2つに分け

サイドから三つ編みで編み込み、おさげ部分を後頭部で

それぞれ渦巻状にしてリボンで固定する、というヘアスタイルだ。

金髪碧眼自動人形美少女だからこそ似合う髪型だが

果たして精悍な顔つきのオッサンにも似合うものなのか

 

「アレのオッサンバージョンか……想像だけだと中々キツいな」

 

「やってみれば案外似合うかもよ?」

 

「横の髪は?」

 

「勿論垂らすぅ〜」

 

「無重力みたいにふわふわするんだから

一房でも垂らしちゃダメです

編み込むなら全部ひっつめますよ」

 

「ああん!せめて前髪だけでもっ」

 

「ふわふわするんだからダメですって!

ひっつめても大丈夫ですよ、テルさん彫り深めだし

髪の色は青白くてちょっと奇抜かもですけど」

 

モモンガの指摘通り、オッサンの髪色はレイス特有に青白い

肌の色も実体化しているとはいえ病人のような白さだ

瞳に至っては空色で……なにかに付けて色素が薄かった

 

「服装とか髪型とかめんどくせ……黒タイに戻したい」

 

「極端なんですよアンタは。

せめて服装と髪飾りで生きてるように見せかけないと」

 

「そんなに死人っぽい?」

 

「確実にお化け扱いされる程度には」

 

「じゃあ普通の狩人スタイルは止めたほうがいいか……

いっそドルイドみたいな司祭服の方がいいか?

司祭服ならフルプレートのお前さんの横に立ってもおかしくなかろ」

 

「まぁ、なんというか、戦士と司祭なら

見た目的にもパーティ的にも鉄板ではありますね

斥候としては変ですけど中距離型としては自然ですし

なにより司祭が同行していると見せかければ

俺がアンデッドだとは絶対に思われなくなるので

戦略的には非常によきです……問題は、」

 

「俺がドルイドのスキルを一切使えないこと」

 

「弓持ってるドルイドなら、無きにしも非ずですけど」

 

「位階魔法なんてものは無かった」

 

「スクロールも有限ですからねぇ」

 

「俺がかけたと見せかけてお前さんがかけるのはどうよ」

 

「この状態だとそもそも魔法が使えませんし

使えた場合もマナの消費量で見抜ける奴には即バレするので

その提案は却下です」

 

「いっそアサシンクリードの

エツィオ・アウディトーレみたいに全身隠しとけば

色白死人顔も問題ないのでは?」

 

インベントリーから白基調の暗殺者装備一式を選び全身に纏う

丁度髪を結い終えたモモンガが手を離すと同時に

オッサンの頭部は白いフードに覆われて見えなくなった

 

「うわっ

その装備殆どアサクリっぽいですね

結局暗殺スタイルにしちゃうんですか?」

 

「そっちのがしっくりくんのよ

俺の装備じゃあんま隠せないけど、どっちも物理なんだし

お前さんの魔法職が不意打ちできるのは変わらんだろ

これじゃダメ?」

 

「黒と白ですか

これはこれで目立ちそうですけど

見た目の釣り合いも取れてますし、いいと思いますよ」

 

「っしゃ!

あ、髪ありがとな」

 

「突っ張ってませんか?」

 

「へーきへーき!

お前さん手先器用やんね

見とらんかったけど、リボン何色?赤?」

 

「紫です

別の色が良ければ、」

 

「ヒュー!モモちゃんやるゥー!」

 

妙なタイミングで褒めそやされたモモンガは

訝しげに首を傾げた

 

「なんの事ですか?」

 

「紫といえば死の色じゃん?

つまり死を司るオーバーロードの色じゃん?

モモンガの装備も差し色紫じゃん?」

 

そこまで説明されて

嫌な予感を覚えたモモンガの声のトーンが一層低くなる

 

「それが、何か?」

 

「”俺色に染まれ”ってか?

くゥーっ こんなオイチャンつかまえて

やってくれるねェ!」

 

「オイ今すぐそこになおれ別の色に変えてやる」

 

「照れるな照れるな、その黒ベースのフルプレートも

普段から全身黒タイツの俺を意識したんでしょ〜?

愛いやつめ〜コノコノォ〜☆」

 

「もう一度言う、そこになおれ」

 

「モモちのリクエストに応えて

アクセサリも紫で統一しよ」

 

「人の話聞けェ!」

 

ベルトや足元の装飾だけでなく

武器防具の色合いも紫系統で統一し

下手なスキップでさっさと部屋を出ていくオッサンは

渾身のイケボを駆使して随分昔にヒットした

米米クラブの曲を口ずさんでいる

 

「なによ〜りっ オ〜レっ い〜ろ にィそ〜ま〜れェ〜〜」

 

「ネタの引き出しが全部昭和だっつってんだろぉぉ!!」

 

追いかけるモモンガの叫びを、わざわざ後ろ向き走りに切り替え

真正面から受け止めるジェスチャーをしたオッサンが

歌詞の内容に合わせるように片腕を仰々しく差し出し、歌い続ける

 

「だれよ〜りっ キ〜ミっ いーろ にィそ〜ま〜ろ〜〜Oh〜〜」

 

「やかましいわ―――っ!!」

 

モモンガはフルフェイスの下で顎を外して叫び

本気の鬼ごっこが勃発したが、道中あえて転移を使わず

第一階層に辿り着くまでの全力疾走5分間

オッサンは魂を込めて一曲を歌いきってしまう

 

「オーマイハァァァアアア〜〜〜〜♪」

 

「チクショ―――ッ!

気持ちよく歌いきりやがってェェエ!」

 

超絶煽りな後ろ向き走りで

歌詞に合わせて身振り手振りを続けたオッサンを

最後の最後まで捕まえられなかったモモンガは

第二階層の階段を登りきった時点で

敗北感からその場で失意体前屈を晒してしまう

その全身は当然のように緑色に発光し、精神沈静化が齎される

 

筋金入りのPKランカーによる

洗練され尽くした一級品の煽りスキルは如何なく発揮された

アイシテルがユグドラシルの全プレイヤーを敵に回す明確な理由が

相も変わらずそこにはあった

 

だがしかし、いくらなんでも後ろ向き走りをするヤツに

追いつけないとは思いもしなかったもので

道中において幾度も精神沈静化に見舞われたが

残念なことに平静を齎す効果はあまり得られず。

 

ガックリと項垂れ、打ちひしがれる敗者の傍に歩み寄り

ダメ押しに「元凶が慰める」という血も涙もない仕打ちを平然とやってのけるオッサンの表情は深い慈しみに溢れている

顔を上げ、それを目の当たりにしたモモンガは

率直な殺意を覚える

 

「そんなだから……っ

フレンドが俺しか、いないんですよォ……!」

 

「お前さん以外はいらんて」

 

と、返される事が分かりきっていたので

捻り出された憎まれ口は敗者の遠吠えに変わる

 

次同じようなことがあったら

絶対に捕まえて、絶対に意表を突く一言を言ってやろう、と

歯ぎしりしながら心に決めるモモンガであった

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